第33話 当然、まだ終わっていないダンジョン
「まって!まだリノが奥にいるんだ!」
レギさんを回復魔法で癒した後一息ついた俺に一人だけ奥にいた男の子が告げてくる。
「......リノ?」
......しまった!ここにいるのは四人、あと一人いるはずじゃないか!?
「奥にいっちゃったの!?」
「......俺たちがここに着いたときに横の道からさっきの奴らが部屋に入ってきたんだ!驚いて逃げようとしたんだけど......リノが慌てて反対側に走っていっちゃって、急いで追いかけたんだけどさっきの奴に邪魔されて......!」
男の子が経緯を教えてくれる。
まずい、早く追いかけないと......!
考えている暇はない......体は治っているはずだが、まだレギさんは動けそうにない......仕方ない......。
「レギさん、聞こえますか?僕は奥に行ってしまった子を追いかけます!マナスを置いていくので動けるようになったら子供たちを連れてダンジョンを出てください!マナスに周囲は警戒させますが、なるべく早く出てください!マナス、ここでみんなを守ってあげて!」
マナスが分裂して片方が俺の肩に乗る、いつもは体の大きい方が俺の方に残ってくれるんだが今回は俺の意図を組んで小さな方が俺の元に残る。
「......ま、まて、にーちゃん、一人で行くのは......危険すぎる......。」
「すみません!この子達の事お願いします!」
レギさんが制止してくるが今は止まるわけにはいかない。
俺はダンジョンの奥へと駆け出した。
「シャル、感知範囲に子供、えっとリノ?その子はいるかな?」
ダンジョン内を走りながら併走しているシャルに話しかける。
『申し訳ありません、感知範囲内にはいないようです。ただダンジョン内は魔力が濃くあまり感知範囲を広げられないのでそんなに離れていない可能性もあります。』
「そうなんだ、やっぱり外とはかなり違うんだね。」
『そうですね......恐らくダンジョン発生の原因となった者に要因があるのだと思います。』
「ダンジョン発生の原因って母さんが言ってた大戦の......?」
『はい、当時の事は私も詳しく聞いていませんが......っ!すみません、ケイ様、子供の反応を確認しました!魔物に囲まれているようです!』
「っ!先導お願い!」
『承知いたしました、途中に他の魔物はいません!駆け抜けます!』
シャルが前に飛び出し後を追う、状況は分からないけど一秒でも早くたどり着かなければならない!
スピードを上げて通路を駆け抜けるとすぐに広間が見えてきた。
「あの広間!?」
『はい、あそこです!子供はまだ無事です。どうやらくぼみの様な部分に入り込んでいるため魔物も手が出せないようです。』
「それは良かった!じゃぁ魔物を退治すればいいだけだね!」
どうやらリノって子は大丈夫そうだ。
怖がっているだろうから急いで魔物を処理して他の子達の所へ連れて行ってあげよう。
近づくと広間の中の様子がはっきり見えてくる。
魔物の数は四体、先ほどの広間にいた二足歩行する狼だが一匹が明らかに大きい。
『コボルトとコボルトリーダーですね。どちらも爪で攻撃を仕掛けてきますがあまり頭は良くなく、攻撃も単調なので特に脅威ではありません。』
「シャル小さいほう三匹いける?大きいほうは俺がやりたいんだけど。」
『承知いたしました。少し通路の奥へ引き離します。ケイ様は手前の方で戦われてください。』
「了解、じゃぁシャルから仕掛けてもらった方がいいかな?俺はリーダーに攻撃を仕掛けて手前に引っ張るよ。マナスは子供がくぼみから出てこないように見張ってて。」
走りながら全員の動きを決める。
コボルトリーダーというくらいだから先ほどの個体よりは強いだろう。
ナイフに魔力を通して予め伸ばし、身体強化も先ほどより強めにかけておく。
もちろん、イノシシの時の様な失敗はしないように慎重に魔力は込めている......。
シャルが広場に飛び込み、続けて俺も広間へと入る。
既にシャルはコボルトを3匹、奥へと誘導している。
間を駆け抜けて注意を引いたようだ、まぁ見た目は子犬だから良い獲物に見えたんだろうね。
コボルトリーダーもシャルに一瞬気を取られたようだが続いて接近した俺に狙いを変える。
「リノ!助けにきたよ!まだ魔物がいるからそこで動かないでね!」
姿は見えないけれどリノに声をかける、ここでパニックになってまた奥に逃げられたら非常に厄介だ。
「シャル!三匹倒したらリノの方に!ただし姿は見せなくていい!もしくぼみから出そうだったらマナスと協力して止めてくれ!」
シャルに指示を飛ばしてコボルトリーダーの方へ意識を集中させる。
体の大きさは大体二メートル強ってところか?
先程倒したコボルトは百五十センチ程だったからかなりサイズが違う、それに体が全体的に肉厚で威圧感は桁違いと言える。
「グルルルルル......。」
唸りながら俺を見据えてくるそれは、普通のコボルトよりも慎重で、俺の行動をつぶさに観察しているようだ。
うかつに仕掛けたらそれに対応した行動をとられそうだが、このままこうしてお見合いをしていても仕方がない。
相手は巨体に加えて爪がかなり長い、リーチは向こうの方に分があるかな......。
俺は気を入れなおすとコボルトリーダーの間合いへと足を踏み出す。
しかし、間合いに入ってもコボルトリーダーは攻撃を仕掛けてこない。
思った以上に慎重な奴だ......。
恐らく俺に先に行動をさせてからそれに合わせる様にカウンターを狙っているといったところか......。
本当に魔力で作られた精神ってのがあるのか知れないね......コボルトリーダーの動きを見ているとそんな風に思えてくる。
いいだろう......その誘いに乗りましょう!
俺は一気に踏み込むと相手の胴めがけてナイフを振るう。
それに合わせるように俺の顔をめがけて左爪を突き出してくるコボルトリーダー。
うん、予想通りだね!
胴を狙った攻撃を止め、左腕を掻い潜るように相手の左側をすり抜けて背後に回る!
攻撃を掻い潜られ目標を失ったコボルトリーダーはすぐに追いかけるように体を回し右手を振り回してくる。
最初の予定がうまくいかなかったからって慌てすぎじゃないですかね?
大振りになって無防備に振り回される右手を間合いの内側から斬り飛ばす!
斬り飛ばされた右腕は魔力となって霧散したが本体の方はよろめく。
痛覚はあるのかな......?
歯をむき出しにして威嚇しているように見えるがアレは痛みに耐えているようにも見える。
「悪いけど、容赦は出来ないんだ!」
右手という武器を失ったコボルトリーダーは間合いを開けようとしたのか、後ろに下がろうとしたので相手の側面に回り込み右足を斬りつける。
足を斬り飛ばすまではいかなかったがダメージは十分!
痛みに悲鳴を上げ体勢を崩したコボルトリーダーのお腹を全力で蹴りを入れる。
蹴り飛ばされ地面を転がるコボルトリーダーを追いかけ首を落とし止めを刺す。
デカいのは首が狙いにくいね、このナイフが意思に沿って長く伸びてくれるなら助かるんだけど長さは決まっているからなぁ......。
「ふぅ......怪我はないな......よし。シャルの方は......。」
怪我の確認をしてから視線を上げると......まぁ、シャルは当然と言ったところか......。
あっさりと三匹のコボルトを蹴散らしたらしいシャルはくぼみの横で待機していた。
コボルトリーダーとの戦いを傍で見ていなかったってことはある程度信頼してくれてるってことかな?
是非ともシャルに心配させないようにしたいものだ。
精進あるのみだね......まぁ、危険なことは極力避けたいんだけど......うまくいかないなぁ。
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