第355話 不思議な行動
野営地に到着した俺達は、大きめの......恐らく会議とかに行うテントに通された。
テントの中には俺達以外にワイアードさん、ヘイズモットさん、そして初めて見る騎士が一人ワイアードさんの隣の席に座った。
先程先行して野営地に戻った騎士とは別の人だね。
「突然このようにご協力を願い出て申し訳ありませんでした。」
「ほほ、気にする必要は無いのじゃ。まだあの事件から日も浅い、極力魔物関係の問題は素早く解決しておいた方が良いじゃろう。」
ワイアードさんが恐縮するように言うと、ナレアさんが軽い様子で返事をする。
確かに......魔物による被害が頻発するようだと龍王国がまた商人に避けられかねない。
前回はまだ噂が本格化する前に解決出来たけど、また同じように魔物被害が出たとなった場合、例え龍王国が歴史ある大国であったとしても致命的な問題になりかねない。
誰しも危険は避けたいものだからね......商機と見て危険に飛び込もうとする人もいるだろうけど、大抵の人は命の方を大事にするだろう。
「おっしゃる通り、この問題は事が大きくなる前に解決する必要があります。どうか知恵をお貸しください。」
「うむ。任せるのじゃ。まずはそちらの話を聞かせてくれるかの?」
「はい。事の始まりは近くにある村からの訴えです。夜中に農作物が荒らされることが続いていると。」
「それは、村からすれば死活問題じゃの......。」
「はい。ですが詳しく話を聞くと、どうも様子がおかしく......荒らされてはいるのですが......畑にある野菜がその場で食われているわけでは無く、収穫されている様なのです。それもごく少量。二、三日に一度、数種類の野菜が被害に遭うそうです。」
「それは......魔物ではなく人間の仕業ではないのかの?」
旅人......というには定期的に持って行くみたいだから、村の誰かがこそっと盗っているとかありそうだな。
「村人もそう思い、鳴子の仕掛けと夜中に見張りを置いていたのですが......一晩中見張っていたにも拘らずその姿を捉えることが出来ず、しかし野菜は盗まれていたとのことでした。」
「ふむ......偶々見落としたわけでは無いのかの?」
「はい。と言いますのも......野菜が盗まれるだけではなく、山菜やキノコ、薬草......偶に動物の毛皮などがお礼と言わんばかりに置かれているそうです。誰も気づかぬうちに。」
「......なんじゃそれは?それこそ魔物ではない証拠ではないのかの?」
一方的な物々交換と言ったところだろうか?
そんな習性をもつ魔物がいるって話は聞いたことが無いけど......。
「私もそう思いました。ですが、先程私達が会いに行っていた猟師が、茶色い体に成人男性の腰くらいまでの大きさで赤い瞳の魔物を見ているのです。誰何したところ、叫び声を上げながら逃げ出したと。そしてその魔物が立っていた場所に毛皮や山菜が落ちていたと言うのです。」
「......偶々、その魔物が荷物の置かれた場所を漁っていたとは考えられぬかのう?」
「絶対にないとは言い切れませんが......。」
「まぁ、無関係とする方が無理があるかのう。」
「はい......少なくとも我々はその魔物の仕業と見て調査をしておりますが......ナレア様、レギ殿、心当たりはありますでしょうか?」
「質問があるのですが、よろしいでしょうか?」
「何なりと。」
レギさんが許可を求めるとイケメンスマイルでワイアードさんが答える。
ワイアードさんといいカザン君といい......イケメンさんの笑顔にはこの世の理不尽さを感じるね。
なんか色々と、ずるいって言いたくなると言うか......。
「その魔物ですが、茶色い毛が生えている感じではなく肌が茶色という事でしょうか?
「はい、肌の色が茶色だったと聞いています。」
「ありがとうございます。それともう一つ、その魔物は二足歩行だったと考えてよろしいでしょうか?」
「はい、二本の足で走り去ったそうです。」
「ありがとうございます。お聞きした外見の情報から思い当たるのは......ゴブリンですね。」
「ゴブリンですか......。」
レギさんが魔物の名前を上げるとワイアードさんは左右に座る二人に視線を向けるが、二人とも首を横に振る。
「レギ殿、どのような魔物なのか教えて頂けますか?」
「はい。ゴブリンは都市国家群の中でも北の方に生息する魔物でして。森の浅い部分に生息しています。体は小さく、力も弱いので総じて十体前後の群れを作って生活しているのですが、生存競争的にはかなり下位に位置する存在です。特徴としては繁殖力が強い事ですが、群れが一定以上の数になると別の群れを作るらしく、大規模な群れになることは無い様ですね。」
「なるほど......猟師の声に驚き逃げたという所も弱い魔物としては当然の行動と言った感じでしょうか。」
「そうですね。話を聞く限り一体だけだったようなので、逃げる事を優先するのは当然だと思います。」
「それで、その......ゴブリンは物々交換をするような習性があるのでしょうか?」
かなり自信なさげと言うか自分で言っておきながら懐疑的というか......そんな雰囲気でワイアードさんが尋ねてくる。
「いえ、寡聞にしてそのような習性があるとは聞いたことがありません。」
「まぁ、妾もゴブリンに限らず物々交換をする魔物と言うのは聞いたことがないのう。」
「やはり、そうですか......。」
レギさんとナレアさんの言葉にワイアードさんが難しい表情で固まる。
「ところで今野営しておる場所は村から少し離れておるようじゃが、そのゴブリンと思しき魔物はこの辺りに生息しておるのかの?」
「確証があるわけではありませんが、村に置いて行かれる薬草等からこの辺りの森を拠点にしているのではないかと言う話でして。我々がここに来たのが三日前、魔物自体を発見するに至ってはおりませんが、植物が採取された痕跡を発見しているので恐らく魔物自体は付近にいると考えております。」
「なるほどのう。ところでその猟師は足跡を追えなかったのかの?」
「それが、靴を履いているかのような足跡だったらしく街道までは追えたのですがそこで紛れてしまったらしく......。」
「く、靴をですか?」
「は、はい......あ、いえ、正確には靴を履いているかのような足跡という事ですが。」
流石に眷属の方々でも靴は履いているのを見た事は無いな......。
「それは興味深いのう......妾も理知を備え、意思の疎通が可能な魔物は知っておるが、流石に靴を履く魔物は見たことが......あーあまりないのう。」
何やら途中で口籠るようにしながらナレアさんが言う。
「意思の疎通が可能な魔物ですか?」
しかしワイアードさんはそんなナレアさんの様子に気付かなかったのか、驚いたようにナレアさんを見る。
意思の疎通が取れる魔物ってそんなに珍しいのだろうか?
マナスは最初から......あ、あの時点で既に眷属になっていたのだっけ。
ファラは......眷属になる前から意思の疎通が出来ていたけど、見つけたのはシャルだからな......。
グルフは最初から賢かった......。
純粋な魔物でちゃんと会話が出来ていたのは、黒土の森にいた蛇の魔物とグルフくらいだろうか?
勿論念話で仲介してくれたシャルやファラが居てくれたからだけど。
......あ、すっかり人として接していたから忘れていたけど、後一人、よく笑うスケルトンがいたな。
ナレアさんがさっき口籠ったのはアースさんの事を思い出したからか。
「街の下水にいるスライム辺りは、ある程度こちらのいう事を聞いたりするじゃろ?それに犬型の魔物を番犬替わりにしておる家もあったりするしのう。」
「あぁ、なるほど、そういう事ですか。そういえば、他国の騎士と交流した際に魔物を戦力として調教していると言う話も聞いたことがあります。」
ナレアさんの言葉にワイアードさんが納得したように相槌を打つ。
「まぁ理知を備えておるというと少し違うかもしれぬがのう。とは言え、今回の魔物が本当に野菜の代わりに薬草等を置いていき、靴を履いて行動しておるとなると知能は相当高いじゃろうな。しかも極力人目に付かない様に行動している事と言い、人という種の危険性も理解しておるように思う。しかしその上で人に関わろうともしておるようじゃな。」
危険だと分かっていながらも関わろうとする......野菜が好きだから、それとも必要だからやむなくなのか......若しくは、人と関わりたいからちょっかいを出してくるのか......見つけてみない事には何とも言えないね。
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