第354話 噂をすれば



ナレアさんと再会した街出た翌日、俺達は西寄りに進路を変えて龍王国の国境近くまで来ていた。

あのまま南下すれば龍王国に来た時に襲われていた村の方に辿り着いただろうけど、特に用事は無いので別のルートから都市国家の方に移動することにした。

まぁ、ルートと言ってもただの山越えで、しかもかなり峻険な山らしいので通常はルートとは呼ばないみたいだけど。

それに国境といっても砦や塀が設置されているわけでは無く、山より東側を漠然と国境と呼んでいるらしい。

そんな国境付近に辿り着いたところ野営をしている集団がいるのを発見した。

まぁ、普段であれば近づかずにそのままスルーするのだけど......。


「あれは、第五騎士団じゃな。」


「第五騎士団っていうと、ワイアードさんのいる騎士団ですよね?」


「うむ。龍王国内を巡回するのが主な任務の騎士団じゃな。まぁ部隊単位で動くからハヌエラがあそこにおるとは限らぬがの。」


それはそうか、第五騎士団っていっても部隊数はいくつもあるのだろうしね。

確かヘネイさんのお兄さんであるワイアードさんは第五騎士団の部隊長って言っていたっけ?

龍王国を出る前に一度くらい挨拶をしておきたかった気もするけど......そこまで親しいってわけじゃないからな。

探してまではって感じだけど......もしあそこにいるなら一言くらいは言いたいね。


「ワイアードさんがいるようでしたら少し挨拶したかったですが。」


「難しいのう。仮にハヌエラが居ったとしても向こうは軍事行動中じゃろうし......知り合いとは言え、一般人が挨拶に行ったからと言って指揮官と簡単には合わせぬと思うしのう。」


「それもそうですね。無茶を言いました。」


「まぁ、機会はその内あるじゃろ。あれもヘネイが絡まなければ気のいい奴じゃからな......ん?ケイ、向こうに三騎程、野営地に向かって移動している騎士が居るじゃろ?あれはハヌエラではないかの?」


ナレアさんの指差す方に視線を向けると、確かに馬に乗った騎士が三人程野営地から少し離れた位置にいるのが見えた。


「えっと......あー、確かにワイアードさんですね。副官の......ヘイズモットさんも一緒みたいです。」


「ふむ......部隊から離れておるようじゃし、あれなら声を掛けてもよさそうじゃな。どうする?」


「折角なので挨拶しようと思いますが、レギさんどうでしょう?」


「仕事の邪魔にならない程度ならいいんじゃねぇか?行軍中ってわけでもなさそうだしな。」


レギさんの了承も取れた事だし、俺達は早速少し離れた位置を移動しているワイアードさんの方に向かうことにした。

グルフは幻惑魔法で姿を消し、シャルはいつものように子犬姿になってもらっているので驚かすことにはならないだろう。

少し距離があったので十分程の時間をかけてワイアードさんに近づいていく。

向こうからもこちらを確認することが出来たのか、俺の知っている二人では無い人が前に出てきた。

誰何の為か、それとも警戒だろうか?

槍を持ち直したところを見ると警戒かな......先程まで穂先を上に向けていたのに、今は下に下げている。

ワイアードさん達も腰にある剣に手を掛けているけど......馬上で剣って使いにくくないかな?

警戒を露にするワイアードさん達に対してこちらは全員がゆったりと、警戒するような様子も見せずに近づいていく。

やがて後ろに控えていた二人が俺達の事に気付いたようで、前に出ていた騎士に声を掛けて後ろに下がらせた。

こちらは皆、視覚強化があるからかなり遠くからでも相手の顔が見えていたけど、ワイアードさん達はそうはいかないからね。

お互いの距離が縮まり、声を張らなくても会話が出来るくらいになった時、ワイアードさんが下馬して爽やかな笑みを浮かべながら声を掛けて来た。


「ナレア様、それにレギ殿とケイ殿、リィリ殿。御無沙汰しております。珍しい場所でお会いしましたね。お仕事か何かですか?」


「久しいのう、ハヌエラ。」


「御無沙汰しております。ワイアード様、ヘイズモット様。」


ナレアさんとレギさんが代表してワイアードさんに挨拶をして、俺とリィリさんは合わせて軽く頭を下げる。


「今日は仕事ではないのじゃ。龍王国での用事も済んだのでな、都市国家の方に移動しておる最中なのじゃ。」


「都市国家方面ですか?この辺りの山々はかなり険しく、都市国家方面へ抜けるのは容易ならざると言いますか、踏破は不可能に近いと思います。一般の旅人がこの山越えを強行しようとしていたら絶対に止めるところですが......ナレア様達が無謀なことをするとは思えませんし、恐らく問題ないのでしょう。」


「ほほ、ハヌエラの言う様に無謀なことはしないのじゃ。妾達は魔道具を色々と使えるからのう。対応力と言う点で右に出る物はおらぬと自負しておる。」


「流石魔術師として高名なナレア様ですね。まぁ、そんなナレア様の作られた魔道具を使いこなす皆さんだからこそなのでしょうが......私達はもっと精進が必要ですね。」


ナレアさんと共に、俺達の事まで持ち上げてくれるワイアードさん。


「ほほ、道具はあくまで道具じゃからな。魔道具であってもそれは変わらぬのじゃ。前回の事件の際、お主ら騎士団が魔道具を使い素早く動いたからこそ、被害を拡大させずに収束させることが出来たのじゃ。魔道具と使い手、それぞれが十全に役割を果たせてこその結果じゃ。」


「あの時は本当にお世話になりました。」


「ヘネイより受けた依頼じゃからな、気にする必要はないのじゃ。それにお主等が魔物を生きたまま捕獲したからこそ解決に至ったのじゃ。前にも言った気はするが、最大の功労者はハヌエラ、お主の部隊の者達じゃよ。」


ワイアードさんが無言でナレアさんに深く頭を下げる。

後ろに控えていた二人も同様に頭を下げている。


「ほほ、相変わらず大げさな奴じゃな。ところでハヌエラがここにおるのはいつもの巡回任務かの?」


「はい。実は巡回任務中に魔物の目撃情報があり、討伐を試みているのですが......。」


「上手くいっておらぬのか?」


ナレアさんがそう聞くとワイアードさんの端正な顔が苦み走ったものになる。


「はい......今も近くにある村で猟師を生業としている方に話を聞いて来た所なのですが。」


「ふむ......何か分かったのかの?」


「それが......その方も初めて見る魔物という事で、見た目以上の情報は......。」


「妾達に話してみるかの?もしかしたら知っておる魔物かも知れぬが......。」


「いえ、ナレア様達のお手を煩わせるわけには......。」


ナレアさんの申し出を断ろうとしたワイアードさんを、ナレアさんが手で制する。


「ハヌエラ、冷静になるのじゃ。今お主が部隊長として取るべき行動はなんじゃ?」


「......失礼いたしました、ナレア様。確かにこの場にいたのが、ただの冒険者であったのなら協力を求めていたと思います。」


確かに、ワイアードさんに初めて会った時は、レギさんから色々と情報を貰おうとしていたっけ。


「ほほ、妾達はただの冒険者じゃよ。」


「......ナレア様、魔物について話をさせて頂きたいのですが、野営地までご足労お願いできますでしょうか?」


「ふむ、妾は勿論構わぬが......。」


そう言ってナレアさんがこちらを見る。

勿論俺達もワイアードさんに手を貸すのに異論はない。

俺達が軽く頷いたのを見てワイアードさんが深く頭を下げる。


「ありがとうございます。ナレア様、レギ殿、ケイ殿、リィリ殿。此度も我らが不甲斐ないばかりに......。」


「いえ、魔物に関しては冒険者の方が一家言ありますからね。お力になれるかは分かりませんが全力を尽くします。」


「頼りにしております。客人を連れて行くので先に戻って準備をしておいてくれ。」


「はっ!」


ワイアードさんの命令を受けて、後ろに控えていた騎士が馬を走らせて野営地に先行する。


「では妾達はゆっくり行くとするかのう。」


「はい、案内させていただきます。」


俺達はワイアードさんに付いて野営地に向かうことになった。

魔物か......ついこの前もグラニダで正体不明の魔物の調査をやったけど......またダンジョンじゃないよね?


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