第84話 驚くのじゃ



グルフと合流するために街道から離れた広場へとやってきた。

山も緑も多い龍王国は街道から逸れると簡単に隠れられる場所が多い。

その分街道の安全も確保しにくいんじゃないかな?

魔物とかよからぬことを考える人とかがいるみたいだしね。


「何もおらん様じゃがここでよいのか?」


ナレアさんがきょろきょろと辺りを見回しながら声をかけてくる。


「えぇ、僕たちがここに来たのは分かっていると思うのでしばらくしたら向こうからこっちに来ます。」


「ほう、随分と賢いのじゃな。」


「多分ここにいることは既に把握していると思うのでそんなに待たせないと思いますよ。」


「ふむ、では先に妾の移動手段をお見せするのじゃ。」


そういうとナレアさんは胸元に手を入れる。

財布......じゃないよな?

暫くして胸元から手を引き抜いたナレアさんの手には......。


「「「は!?」」」


ナレアさんの胸元から板のようなものがにゅにゅっと出てくる。

思わず出た俺たちの声が重なるのも無理はないだろう。


「どうしたのじゃ?斯様に驚いた顔を並べて。」


物凄くにやにやした顔でこちらを見ながら胸元から板を取り出すナレアさん。

してやったり感が半端ない。

でもこれにはびっくりだ。

胸元から取り出したのはサーフボードみたいな形でナレアさんの身長よりも大きい。

こんなものが一体どこから......。


「ほほ、こちらばかり驚かされておったからのう。実にいい気味じゃ。」


物凄く上機嫌なナレアさんは地面に板を置くと胸を張っている。

この板も気になるけどまずは......。


「これ......何処から出したんですか?」


「おなごの胸は不思議な魅力でいっぱいなのじゃ。このくらいのものは簡単に収納できるようになっておる!」


確かにそこには不思議な魅力が沢山あるのは否定しませんが......自分の身長よりも大きなものを収容できるような不思議はいくらなんでも兼ね備えていないと思いますが......。


「いくらなんでも無理だと思いますけど。」


「そんなにまじまじと胸を見つめるとは、いやらしいやつなのじゃ。」


ナレアさんが胸を隠すように両手を胸に当てる。


「そういう目線では一欠けらも見ていませんが......。」


しかし胸を見ていたのは事実なので視線をナレアさんの顔にあげる。


「まぁこっちについては後程教えてやろう。それより妾の移動手段のほうじゃな。」


そう言うとナレアさんはしゃがんで地面に置いた板をぽんぽんと叩く。

地面に置いた笹方のそれは先程も思ったがサーフボードのようにも見える......。

これはもしかしてあれか?

某タイムトラベル系映画に出てた......。


「もしかして......これ浮くんですか?」


俺がそう言うとナレアさんはびっくりしたように目を丸くしながらこちらを見つめる。


「なんじゃ?知っておったのか?」


「いえ、もしかしたらと思っただけです。なんとなく滑って移動しそうな形ですし。」


「ふむ、中々鋭いのう。これは妾が遺跡で発見した魔道具でな。原理はまだすべてが分かっているわけではないのだが......空中を滑るように移動することが出来るのじゃ。」


やはり、宙に浮くスケボー、いやサーフボードのようだ......。


「空を飛べるのか?」


レギさんが興味深そうに板に顔を近づける。


「いや、空を飛ぶと言う程ではないのう。拳二つ分程浮かび上がるといった感じじゃ。速度は中々のものでな、馬より速いのじゃ。」


そう言いながら板をひっくり返すナレアさん。


「ここにある魔晶石に魔力を流し込んで操作するのじゃが、見ての通り数が多い上に繊細な魔力操作が必要でのう。さらに必要な魔力もかなりのものでな、人族はおろか魔族であっても動かせるものはほとんどおらんじゃろうな。」


確かに魔晶石の数が多い......十個くらいか?

しかし魔力量か......ってことはもしかして......。


「ナレアさんは魔族なのですか?」


「うむ。まぁ妾の魔力量は魔族の中でも一番多いといっても過言ではないからのう。魔力量で妾に勝てるものなど......滅多にいないのじゃ。」


そう言いながらこちらをちらっと見るナレアさん。

これは煽てろってことかな......?


「へぇ、ナレアさんはそんなに凄い方だったんですね。」


「う、うむ......まぁ何事にも上には上がいるからのう。妾以上の魔力を持っているものも何人かは知っておる。」


反応が微妙......違ったみたいだ。


「なるほど、魔族の方以上に魔力を持っている人もいるんですね.....あ、こちらも来たみたいです。話の途中ですみませんが先に紹介してもいいですか?」


「うむ、これの動くところはまた後で見せてやろう。先に其方の騎獣を見せてもらうとするかの。」


そう言ってナレアさんは板を胸元にしまう。

本当に不思議な光景だ......。


「む?何か辺りの空気が変わったような......なんじゃ?妙に静かに......っ!?」


ナレアさんが何かを呟いていたが丁度その時近くの森からグルフが姿を現した。


「な、なんじゃと!?これは......いや、まさか......これがお主らの......?」


「えぇ、そうです。彼はグルフ。僕たちの仲間です。少し体が大きいので街中に連れていけなくて別行動が多いのですが、とても賢い子です。」


「戯け!少し所ではないわ!お主ら正気か!?このような強大な魔獣を使役するなど......!」


「気持ちはよく分かるぜ......俺も最初は決死の覚悟をしたもんだ。」


「あはは、グルフちゃんは見た目が怖いからねぇ。でも大人しくていい子だよ。」


そう言ってリィリさんはグルフに近づき手を伸ばす。

グルフは頭を下げてリィリさんに耳の付け根を撫でられると気持ちよさそうにしてリィリさんにすり寄っていく。


「ほら、こんなに甘えん坊なんだよ。」


そういえばリィリさんは初めてグルフと会った時も取り乱すことはなかったな。

ナレアさんもグルフの甘える姿を見て少し落ち着いたようだ。

ゆっくりとグルフに近づいていくナレアさん。


「確かにこの様子をみるに危険は感じられないが......妾も触って大丈夫かのう?」


「うん、いいよね?グルフちゃん。」


グルフは頷くとナレアさんに向かって頭を下げる。

ナレアさんはゆっくりと手を伸ばしそっとグルフに触れた。


「とても柔らかい毛並みじゃ。よく手入れされておる様じゃの。」


「ケイ君がいつも丁寧にブラシ掛けたり洗ったりしてるからねぇ。」


「ほぅ、ケイがやっておるのか。」


ナレアさんがグルフを撫でながらこっちを見る。


「しかしこやつに三人で乗ってさらに荷物も載せるのはいくら何でも狭くないか?」


「いえ、グルフにはレギさんとリィリさんの二人で乗ってもらっています。僕はシャルに......。」


「シャルと言うと......確かその子犬の名ではなかったか?」


「えぇ、僕はこの子に運んでもらっています。」


「それはいくら何でも無理じゃろ......。」


「えっと、シャル。戻ってもらっていいかな?」


『承知いたしました。』


シャルが返事をして元の姿に戻る。


「......。」


見上げる程の大きさに一瞬で変化したシャルをナレアさんが目を真ん丸に剥いて凝視している。


「これがシャルの本当の姿です。街中では目立つので小さくなってもらっているんですよ。」


「......もはや訳が分からぬ......妾、朝ちゃんと顔を洗って起きたつもりじゃったが......実はまだ夢の中なのでは......。」


「ナレアさん、大丈夫です。全て現実の出来事ですよ......。」


「......夢と言われた方が安心できたのじゃ......このようなことが出来るとは......ただの子犬ではないと思っていたのじゃが......これほどとは......。」


ナレアさんが考え込むように唸っている。

俺からしたらシャルは神域を出る時から一緒にいるし、グルフは神域の外で初めて会った魔獣だ。

シャルはともかくグルフくらいの魔獣は結構ごろごろいるのかと思っていたけど......やっぱりそうでもないみたいだね。

レギさんは灰王にやられたことがあったから大袈裟に言っているのかと思ってたよ......リィリさんは最初から普通に接してたしね......。


「とんでもない早さでここまでたどり着いていたからある程度は覚悟していたのじゃが、予想をはるかに上回るものが出て来たのう......正直ドヤ顔で懐からフロートボードを取り出したのが恥ずかしくなるレベルじゃ。」


あれフロートボードって言うのか。


「いえ、まだフロートボードの性能は見せてもらってないですけど、あれを懐から取り出した時点で物凄くびっくりしましたからお相子ですよ。」


「絶対にお相子ではないと思うのじゃが......まぁよいわ。フロートボードは手合わせの後でゆっくり見せてやるのじゃ。そろそろ手合わせを始めようではないか。今は思いっきり体を動かしたい、というかお主に一発かましてやりたいのじゃ!」


そういうとナレアさんはシャドーボクシングの真似事のような動きをする。

あれぇ?

なんか驚かされた仕返し的な雰囲気があるんだけど......。

俺悪く無くない......?


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