第492話 こちらはこちらで動きましょう



「ふむ......クルストがのう。まぁ、人手は多いに越した事は無いからのう。」


クルストさんが会いに来た日の夜、俺達は今後の動きを決める為に部屋に集まっていた。

ナレアさんとリィリさんにクルストさんから聞いた話を伝えたところ、微妙に気の無い返事をナレアさんがする。


「王城の方でも群れから散らされた魔物の対処は話に上がっておったが、基本的には現地の戦力、それと先だって送り出した軍で対処可能じゃろう。送り出した軍の方は既に部隊を細かく分けて各地の掃討を始めておるようじゃ。」


「なるほど......冒険者もかなり向かっているようですし、比較的早めに終息が宣言されるかもしれませんね。」


「そうじゃな。じゃが......。」


そこで言葉を切ったナレアさんが俺達の顔を見渡す。


「僕は勿論構いませんよ。」


「あぁ、俺は元々そのつもりだったしな。」


ナレアさんが何を言いたいか察した俺達は話を最後まで聞かずに承諾する。


「そう言って貰えると助かるのじゃ。では、ケイよ。」


「はい。」


「明日は正装して王城じゃな。」


「......はい?」


あれ?

何やら不思議な台詞が聞こえた様な?


「えっと......南に行って魔物と戦うのですよね?」


「ん?いつの間にそんな話になったのじゃ?まぁ、ケイが行きたいというのであれば勿論妾に異存はないがの?」


......そんな馬鹿な!?

少なくともレギさんは俺と同じことを考えて同意していましたよね!?

俺はレギさんの方を慌てて見るが......何故かスッと目を逸らされた。

リィリさん......はニヤニヤしていて完全に敵勢力なのが分かる。

いや......まぁ、ルーシエルさんとはちゃんと話をしないといけないのだろうけど......。

娘さんを下さいなら兎も角......お母さんを下さいって......ちょっと予想していなかったな......。

しかし、筋は通すべきか。


「まぁ、色々と覚悟をしてくれている様じゃが、冗談じゃ。」


ほほほと笑うナレアさんに思わず脱力してしまったけど......いや、いずれはやらないといけない事なのだから尻込みしている場合じゃないとは思うけど。


「ルルはまだ色々と忙しいじゃろうしな、その内折を見て話しに行けばよかろう。それに、そう堅苦しく考える必要は無いのじゃよ?」


「いや、それは中々難しいですよ。」


家族への挨拶で緊張しない人っているのだろうか?

相当肝が太い人なら......しないのかなぁ?

とりあえず、俺はそう言う人ではないので全力で緊張する。


「所詮、ただの偉そうな髭じゃよ。」


「まぁ、ナレアさんからしたらそうかもしれませんが......恐らく今魔道国にいる人でルーシエルさんの前に行って緊張しない人の方が少数派ですよ?」


「大したことない奴じゃがのぅ。娘に無視されてちょっと涙目になりながら妾の所に相談に来る様な奴じゃぞ?」


その辺は魔王様の威厳とかもあるので、少し手加減をしてあげて欲しいと思う。


「とりあえず、ルルはどうでもいいのじゃ。妾達も南に行って魔物退治をする話じゃな。」


表情を真面目なものに変えたナレアさんが言う。

明後日の方向を向いていたレギさんもこちらを向き、ニヤニヤしていたリィリさんも表情を引き締めた。


「まぁ、基本的には軍がしっかりと対応しておるが......妾達が行かぬというのも、気持ちが悪いじゃろ?」


「......うん、ごめんね?」


「リィリのせいではないのじゃ。じゃが、何もしないというのもなにやら嫌な感じがするじゃろうし......暫く南に行くのがいいと思うのじゃ。」


「そうだな。俺もその方が良いと思う。」


ナレアさんの言葉に頷いたレギさんがそのまま言葉を続ける。


「ギルドに話を通すか?」


「ふむ......一応情報自体はルルから渡されておるし、こちらがどう動いて欲しいかは聞いておる。皆が承諾してくれるのであれば、それに従うと城の方に伝えることでギルドの方も情報を共有するじゃろうし、妾としてはどちらでも良いのじゃ。」


「そうだな......今回の件で報酬を貰うのも違う感じがするし、ギルドを通したら報酬を貰わない訳にはいかなくなるからな。情報共有がされるのであれば、今回はギルドを通さずに行くか。」


「僕もそれで構いません。確かに報酬を渡されても微妙ですし。」


「そうだねー。報酬は受け取りたくないし、私もそれがいいな。」


レギさんに俺とリィリさんが同意するとナレアさんが頷く。


「では、明日にでも出発する旨をルルに伝えて、そのまま南に向かうとするかのう?」


「了解です。」


「期間はどのくらいで考えているんだ?」


「とりあえず一月程かのう?妾達の移動能力やシャル達の探査能力があれば相当な範囲を調べられるじゃろうし、下手したら群れからはぐれた魔物を妾達で殲滅してしまうかもしれぬのう。」


「確かにそれはあるな。」


ナレアさんの言葉にレギさんが笑うけど......確かに俺達が一月集中して魔物を狩って行ったら......下手したら一帯の魔物が絶滅するかもしれないよね。


「森の中や、人里から離れていくような相手は放置してもいいんじゃないかな?倒した方が良い?」


「いや、その辺は放置しても問題ないじゃろう。完全に魔物がいなくなるのも後々問題があるかもしれぬからのう。」


生態系には問題がありそうですね......どんな影響が出るかはちょっと分からないけど。


「やりすぎ注意ってところだな。とりあえず、明日以降はそんな感じだな。長旅ってわけじゃないが、明日はナレアが王城に行っている間に準備を整えておくか。」


「よろしく頼むのじゃ。」


これで打ち合わせは終わりかな?


「ところで、レギ殿。」


レギさんも俺と同じように考えたらしく、椅子から立ち上がろうとしたところをナレアさんに止められる。


「ん?なんだ?」


「いや、レギ殿はリィリに話しておくことがあるのではないかの?」


「む......。」


「......。」


ナレアさんの言葉にレギさんは表情を硬くして、リィリさんは......なんとなく分かっていたのだろうか、落ち着いた感じだ。


「まぁ、レギ殿自身のことじゃからな。いつ伝えるのかはレギ殿が決めることじゃろうが......昨日から何か伝えようとして挙動不審になっておるようでの?」


「む......ぐ。」


「リィリはリィリで何やら悩んでおるようじゃし......。」


「あ、あれ......?私も?」


「レギ殿は......まぁ、ヘタレておるだけじゃからいいとして、リィリの方は......レギ殿から話を聞けば恐らく大丈夫じゃろ。」


若干辛辣だけど......ナレアさんは二人の事をしっかりと理解しているようだ。

レギさんの様子がちょっとおかしいのは何となく俺も分かっていたけど、リィリさんは普段通りにみえていた......やっぱり、いくらリィリさんでも昨日の今日で普段通りとはいかないか。


「......そう、だな。いや、なんて言ったらいいか......よく分からなくてな。」


「レギ殿の言葉であれば何と言おうとも良いと思うのじゃ。さて、ケイ。妾達が居ってはレギ殿も色々と話しにくかろう。部屋を出るとするのじゃ。」


俺の部屋なのに!?

とは流石に言えるわけがないよね?


「分かりました......えっと......レギさん、頑張ってください?」


いや、まぁ......何を頑張るのか分かんないけどさ。

多分レギさんが伝えようとしているのって俺の眷属になったってことだよね?


「それでは、ケイ......っと、その前に、リィリ。」


「なにかな?」


「レギ殿の話が終わったら......この魔道具を使うといいのじゃ、もしくは......。」


そう言った後ナレアさんはリィリさんの耳元で何やらごにょごにょと伝え、リィリさんはふんふんと頷いている。

先程までの優し気な表情とは異なり......あれは絶対悪だくみをしている顔だ。

しかしレギさんはどう話そうかと悩んでいるのか、ナレアさんのそんな様子には気づいていない様だけど......大丈夫かなぁ......。


「よし、では妾達はこの辺で失礼するのじゃ。」


「あー、もし話が長くなるようでしたら、僕はレギさんの部屋を借りますね?」


「あぁ、すまねぇな。」


そう言って部屋の鍵を俺に渡してくれたレギさんは......物凄く緊張しているようだ。

あんなに緊張しているレギさんは珍しいな。

俺はナレアさんと一緒に部屋を出ながら若干の心配が拭い去れなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る