第402話 魔王城



王都に到着して、まず最初に行くところがあるのでついて来て欲しいとナレアさんに言われて来たのだが......これは......。


「あの......ナレアさん。魔道国に来てなんだか驚かされてばかりなのですが......。」


「ほほ、実に良い事じゃ。ここまで色々と魔道国について詳しく教えなかった甲斐があったというものじゃ。」


ナレアさんが非常に楽しそうに笑っているけど......今俺はその様子を見ても心安らぐことは無い。


「......。」


「ほほ、久しぶりに......いや、そこまで余裕のない顔は初めてかもしれぬのう。ケイのそんな表情が見られて嬉しい限りじゃ。」


「その言葉はどうかと思いますが......。」


俺は馬車の窓からこれから向かう建物を見上げる。

何処からどう見てもお城だ。

石造りの、重厚な、こちらに向かって伸し掛かってくるような威圧感を放っている、まごう事無きお城である。

魔道国の王都にあるお城......即ち魔王さんのお城......魔王城だ。

一昔前のゲームならラストダンジョンであってもおかしくない場所......いや、その考え方はどうかと思うけど。

今からそこに行くという......いや、ナレアさんのお知り合いの方が魔王さんと聞いていたので、このお城にその内ナレアさんは行くのだろうなぁと、遠目に見ていた時は思っていたのだ。

しかし、馬車に揺られ......向かった先はお城の門である。


「ナレアさん......先ほども確認しましたが......僕は一言も喋らなくて大丈夫ですよね?」


「そうじゃなぁ。」


微妙に気の抜けた返事をされる。

あ、やばい......これ中でも大変な目に遭いそう......助けてレギさん!


「ほほ、冗談じゃ。とりあえず、全て妾に任せてくれて大丈夫じゃ。しばしの間一人にするかもしれぬが......。」


「え!?」


「ほほ、そんな縋りつく様な目で見られるのも中々悪く......ではなく、客間に通された後、妾だけで事情説明に行くことになると思うのじゃ。」


何やら不穏な台詞が聞こえたような気がするけど、今はそれ所じゃない。


「その間ケイは一人になるが......まぁ、誰かがその場に来たりはしないから安心するのじゃ。大人しくしておれば問題は無かろう。」


「......分かりました。これ以上ないくらい不安ですが、大人しくしておきます。」


「うむ。それと、城の中に入ったら妾の三歩程斜め後ろを歩くと良いのじゃ、横にはとりあえず並ばぬほうが良い。」


ふむ?

よく分からないけどそう言う作法があるのかな?

大人しく言うことを聞いておこう。


「分かりました。」


「うむ。他は大丈夫かの?」


「色々と大丈夫ではありませんが......っていうか、その、約束も無しにいきなりお城に押しかけて大丈夫なのですか?」


いや、自分で聞いておいてなんだけど......絶対大丈夫じゃないと思う。

地元だからだろうか......?

龍王国の時はしっかりとヘネイさんの所に訪問する前に連絡を入れていたというのに、ここでは即突撃だ。

普通に門番の方に止められて終わるのではないだろうか......?

下手したら牢屋送りって可能性も......。


「ほほ、怯えずとも良いのじゃ。では行くとするかの。」


俺の心の準備は全く出来ていないが、ナレアさんは気安い様子で馬車の扉を開けて出て行ってしまう。

このまま扉を閉めて御者さんに別の場所に向かう様にお願いしたい。

いや、そんなことをすればナレアさんは間違いなく大激怒だろう。

未だかつてない程怒られるのは間違いないし、合流したリィリさんからも怒られる。

レギさんはお小言が全部終わった後で多少慰めてくれるだろうが、何も助からない。

更に、魔王さんへの報告を全部俺にやれって言うだろう。

考えるだけでも恐ろしい......。

幸い、今意を決してナレアさんに着いて行けば、一言も喋ることなくこのイベントを終わらせることが出来る。

ならば行くしかない!

気合と共に馬車の扉から出た俺は、いつもと全く変わらぬ様子のナレアさんと一緒に門の脇にいる門番の所へと近づいていく。

大丈夫、俺はナレアさんに着いて行くだけ、少し後ろを着いて行くだけだ。

あ、ナイフ腰に差しているけどいいのだろうか?

ナレアさんは武器らしい武器を持っていないけど......これ大丈夫......?

っていうか、シャルとマナスを肩に乗せているけどいいの?

いいの?

これ大丈夫?

今更ながら色々な事に気付いた俺が狼狽えていると、門番が俺達に近づいてくる。

俺は今物凄い勢いで不審者だよね......?

大丈夫?

牢屋送りにならない?


「今日は一般開放日ではないので城には入ることが出来ませんよ。申し訳ありませんが、観光でしたら他所を回ってもらえますか?」


明らかに不審者であろう俺に対しても丁寧な対応をしてくれる門番さん。


「ほほ、妾達は観光客ではないのじゃ。すまぬが、取次を頼めるかのう?」


そう言って懐から取り出した何かを門番さんに渡すナレアさん。

良く見えなかったけど、それを手にした門番さんが怪訝そうに手の中の物に視線を向けて......。


「これ......はっ!?し、失礼いたしました!」


一体何を見せたのか、見ていた何かを両手で抑え込むようにして持つと踵を合わせ直立不動になる門番さん。


「ほほ、構わぬのじゃ。」


そう言ってナレアさんは渡した何かを返してもらっている。


「はっ!ありがとうございます!御前、失礼いたします!」


こちらに近づいて来た時とは打って変わって、門の横に走り込んだ門番さんが伝声管のようなものに何やら伝えていた。

程なく巨大な門が音を立てて開けられていく。

アポ無しで入れるのか......。

更にナレアさんは門が完全に開くのを待った後、そのまますたすたと門の中へと入っていく。

えぇ......いいの?

こういうのって案内の人とか来るものじゃないの?

何か門番さんも両手をわたわたさせながら物凄くおろおろしているし......もしかしたら門番さんも俺と同じくらい辛い状況なのかもしれない。

そんな門番さんに心の中で謝ると、俺はナレアさんに続いて歩き出す。

胃の中身どころか、内臓が全部口から出そうだ......。




俺はもう駄目かもしれません......レギさん。

暫くナレアさんの後ろについてお城の中を歩いていた俺は、正面から近づいて来た非常に厳めしい表情をしたナイスミドルな感じの方の前に立っていた。

物凄いプレッシャーを放っているのだが......勿論、俺はただのおまけで、相対しているのはナレアさんだ。


「うむ、久しいのう。」


そんな厳しい視線を受けているにも拘らず、普段通りの気楽な感じでそのおじさんに声を掛けるナレアさん。

声を掛けられたおじさんは直立不動でナレアさんを見下ろしていたが、やがてため息をつくとナレアさんに向かい頭を下げる。


「......どうぞこちらへ。」


そう言っておじさんは俺達を先導するように前を歩き始める。

一瞬ナレアさんが俺の方をちらりと見たが、何も言わずにその人に着いて行く。

俺も置いて行かれてはかなわないので、先程までと同じように距離を保ちながらナレアさんに追従するが......なんか先程よりもナレアさんがご機嫌で鼻歌交じりに歩いているのが非常に気になる。

なんとなく、俺の狼狽っぷりを見て楽しんでいる気がする......。


「お連れの方はこちらでお待ちください。」


「ふむ、とりあえずはいいかの。ところで、こやつには護衛も監視も必要ないのじゃ。人畜無害を絵にかいたような奴じゃからな、何かしでかしても妾が責任を持つのじゃ。」


部屋を確認したナレアさんが中々無茶なことを言いだす。

そんなこと許されるはずが......。


「......承知いたしました。」


......承知しちゃうの?


「では、ケイ。しばしここで待っておいて欲しいのじゃ。何、そう時間はかからんじゃろ。」


「わ、わかりました。」


「ほほ、硬いのう。では、行ってくるのじゃ。」


そう言ってナレアさんは、ここまで案内してくれた人と一緒に部屋から出て行ってしまう。

魔王さんはもう準備出来ているの?

早すぎない?

このスピード感が魔道国を発展させた要因の一つなのだろうか?

いや、まぁ、話が早いのは、これからナレアさんが話す内容を考えれば喜ばしいことだ。

ただ、俺が色々と状況についていけていないだけ......いや、お城に来ただけなんだけどさ......なんか滅茶苦茶緊張する。


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