第401話 王都って凄い



魔道国。

この大陸において最も発展しているその国は、魔族と呼ばれる種族が主だって建国した国である。

その発展は魔族という種族の特性でもある長寿、そして保有魔力の多さによって支えられたと言われているが......魔族を知り合いに持つものならこう言うだろう。

彼らの偏執的なまでの知識欲、探求心の強さが国を発展させたのだと。

大陸で最大の版図を有し、大陸の最先端を行く技術、更には種族的な長寿と膨大な魔力。

魔族と言う種族がそう望めば、大陸の覇権は間違いなく魔道国、そして魔族の手に握られていただろう。

しかし、魔道国は......いや、その元首である魔王はそれを望まなかった。

他を制するどころか、自分たちの強みである様々な技術を他国へと提供していったのだ。

技術提供を始めた当初は他国は相当に警戒をした。

だが、技術提供に加え、学生の受け入れ、技術者の派遣......経済、食料支援。

至れり尽くせりと言える支援の数々、当然ながら胡散臭さはどんどん増していきそれらを受け入れる国は無いように思われた。

しかし、意外にもそれを受け入れた国が現れる。

大陸中央に位置している国、龍王国だ。

龍王国は治水技術を学ぶ為の留学、そして技術者を国に受け入れる。

それにより龍王国の生活水準は向上し、多くの民を抱えてなお養っていくことが出来る大国へと成長した。

残念ながら治水技術の習得を主として学習した龍王国は、自国内での魔術の発達が少し遅れてしまうのだが、魔道国から便利な魔道具を輸入することで自国内は安定していった。

輸入に頼ることでより一層自国内の魔道技術の発達が遅れてしまうのだが、その辺は仕方ないと言えるだろう。

魔道国と歩みを共にし、発展していった龍王国を見て......他国も考えを改めていくことになる。

勿論、無条件にすべてを受け入れていったわけでは無いが、徐々に魔道国の支援は各国へと広がっていった。

しかし、それでもやはり魔道国の発展に追いつける国は無く......魔道国は大陸の最先端を未だに駆け抜けている。




「これが魔道国の王都......レギさんに聞いて色々と想像はしていましたが......これは予想以上でした。」


「ほほ、驚いてくれたようで何よりじゃ。」


俺はナレアさん、シャル、マナスと一緒に魔道国の王都に到着した。

予定通りレギさん達から分かれて三日目にここまでたどり着いたのだが、遠目から見ても王都の異質さは際立っていた。

水門の町周辺も街道はかなり整備されていていたけど、王都に近づくにつれて街道のレベルが格段に上がっていったのだ。

舗装されているのは当然として......街の外であっても街灯まで建てられているのだ。

街の外でも街灯っていうのだろうか......?

まぁ、それはさておき......街道は二車線のようになっていて、左側通行になっている。

そしてさらに、脇には歩道があった

いや、それだけであれば交通ルールがかなりしっかりしているんだなくらいで済んだのだけど......そこを走っている馬車が、馬車では無かったのだ。

いや、何を言っているのだろうかって感じではあるけど......そうとしか言いようが無かったのだ。

幌馬車ではなく箱馬車なのだが、馬が引いていない......というか箱馬車だけで自走している。


「あの......なんか箱馬車が馬無しで走っているのですが?」


「走っておるのう。」


「御者もいないみたいですが。」


「おらんのう。」


「どうやって走っているのですか?」


「不思議じゃのう。」


そう言ったナレアさんはニヤニヤしながら俺を見ている。

確実に驚いている俺を見て楽しんでいるね、これは。


「あれは......自動車ということですか?」


「ふむ、妾達はそう呼んではおらぬが、ケイ達の世界で言う所のそれと似たようなものじゃろうな。まぁ、勿論......ケイの話にあった鋼鉄製で馬よりも遥かに早いとかいう、ふざけた乗り物ではないが。」


俺達の横を早歩きくらいの速度で追い越していく車を見ながらナレアさんが言う。


「アレは魔道馬車と言う。うむ、馬がいないと突っ込むでないぞ?発明した者がそう名付けたのじゃからそういう物だと受け入れるのじゃ。」


「はぁ、わかりました。」


「アレの操作は馬車の中でしておる。じゃから御者が外におらぬのじゃ。まぁ、操作は非常に難しく、走らせておる間は一瞬たりとも気が抜けぬ。しかも走らせるには国の管理する試験を突破して資格を得る必要がある。正直馬車の方が楽じゃな。」


普通自動車免許が必要なのか......。


「それに車内に大型の魔道具を設置せねばならぬから車内は狭く、多くても二人しか乗れぬ。操作しておるものを含めて二人じゃ。操作しておるものは必死じゃから会話も出来ぬし......まぁ殆ど趣味道楽の乗り物じゃな。」


「馬を飼うより楽って感じですか......?」


「まぁ、その辺は確かに楽かもしれぬが......費用対効果という点で言えば微妙じゃな。あれに使われておる魔晶石はケイの魔晶石と違って消耗品じゃぞ?しかも一つや二つではない、一体どのくらいの距離を走ることが出来るのかは知らぬが......維持費は馬のそれとは比べ物にならぬはずじゃ。」


「なるほど......後は、定員が二人って言うのはかなりきついですよね。もう少し大きくは出来ないのですか?」


「流通しているような魔晶石ではこれ以上大きくすることは難しいようじゃな。」


「なるほど......でも、ナレアさんが欠点をあげつらった割には結構見かけますよね?」


欠点しかないと言わんばかりのナレアさんの説明だったが、王都を行きかう馬車の中には五台に一台くらいの割合で魔道馬車が混ざっているように思う。

流石に王都の外の道を走っているのは見かけなかったが。


「新しい物、珍しい物が大好物じゃからな、魔族と言うのは。」


「まぁ、技術の発展に好奇心はとても大事な要素ですから。」


そう言って俺はナレアさんを見る。

ナレアさんやデリータさんが特別好奇心旺盛なのかと思っていたけど、魔族の方々は得てして似たような感じなのかな?


「寿命が長いせいか、己のやりたいことを追求しがちな奴等じゃ。その癖新しい刺激を常に求めておる。矛盾を感じないでもないのじゃが......まぁ、妾も人の事は言えぬがのう。」


ほほほといつものようにナレアさんは笑った後、街並みへと目を向ける。

釣られて俺も視線を移す。

通りに面した建物はどうやらお店みたいだけど、窓には大きなガラスが嵌め込まれていてお店の中を覗くことが出来るようになっている。

ガラス自体は龍王国でも見た事はあったけど、ここのガラスはサイズが違う。

全部が全部とは言わないけど、所々ショーウィンドウの様な展示がされていて前面には俺の身長よりも大きなガラスが設置されている。

透明度もばっちりで元の世界で見ていたガラスと大差なく感じる。

魔術を使って作ったものかもしれないけど......街に入ってまだ少ししか経っていないにも拘らず驚きの連続だ。


「ん?それが欲しいのかの?何と言うか......ケイには必要ないと思うのじゃが......。」


「え?」


ナレアさんの声に俺は意識をガラスからその奥に展示されている商品へと向ける。

なるほど、これは確かに......。


「それとも、もしや......危うい感じなのかの?」


「いえ、その心配は全く必要ありません!」


俺はナレアさんの言葉を力強く否定させてもらう。


「ふむ......それは良かったが......あぁ、もしやレギ殿の為に?」


「い、いや、ガラスが凄いなぁと思ってい見ていただけで、他意は無いです。いや、本当に。」


ディスプレイされていたのは、新発売の強力毛生え薬とカツラだった。

それ、並べて売るのおかしくない?


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