第400話 珍しい二人



View of リィリ


レギにぃのダメなところを再確認した翌日、私は船首から風景を眺めていた。

今日の夜には港に着くみたいだけど、その姿は一向に見えてこない。

他の人よりも遥かに遠くまで見えるとは言っても、流石にまだ遠すぎるみたいだね。

ナレアちゃん達は王都に着くまで三日くらいはかかるって言ってたし、まだ着いていないとは思うけど......うーん、着いて行きたかったなぁ。

今のナレアちゃんとケイ君から目を離すなんて、もったいなさすぎるよね!

まぁ、レギにぃは相変わらずの朴念仁で......あんなに分かりやすい二人の事に全く気付いていなかったけど。

でもなんであんなに気付けないのだろう?

レギにぃはケイ君の事もヘイルにぃの事も気づけなかったけど......二人の事を本当に大事に思っていると思う。

いや、二人だけじゃなくってエリアねぇやナレアちゃんの事もだ。

特にケイ君の事を見る時なんか、お父さんを通り越しておじいちゃん?って感じの目で見ている時がある。

それだけ見ておきながらどうして気づけないのだろうか?

なんか......病気とかじゃないだろうかと心配になる。

まぁ......他人のそういった事に敏感であって欲しいとはそこまで思わないけど、自分に向けられている者に対しても同じ雰囲気なのは、少し腹立たしい。

まぁ、今更だとは思うけどね。

そんなことを考えながら背伸びをしていると後ろから声を掛けられる。


「おや、リィリさん。今日もお美しいっス!」


後ろから声を掛けておいて美しいも何もないと思うけど......まぁ、後ろからでも分かるくらい美しかったのかな?


「クルスト君、昨日からずっと見て無かったけど......今まで寝込んでいたの?」


「いやーお恥ずかしいっス。自分でもよく分からない感情に弄ばれていたっス。」


私が振り返ると、クルスト君が頭を掻きながら近くに立っていた。

目の下には物凄い隈が出来ていて......やっぱり気を失うのと睡眠は違うってことかな?


「ご心配おかけしたっスけど、もう大丈夫っス!」


特に心配はしていなかったけど、クルスト君に微笑むと凄く嬉しそうに小鼻を膨らませた。


「ところで、リィリさんはこんなところで何をしていたっスか?」


「んー、特に何をしていたわけじゃないけど......港はまだ見えてこないかなーってね。」


「あーなるほどっス。でも流石にまだ見えないと思うっスよ。港に到着するのは夜になるらしいっス。見晴らしはいいっスけど......夕方くらいにならないと見えないんじゃないっスかね?」


そう言いながらクルスト君は私の横に並び、手を翳して遠くを見る様に目を細める。

当然視線の先にはまだ港の影も見えないし、特に気になる様なものも見えない。


「うん、やっぱ見えないっス。でもやっぱりこの河は凄いっスねー、雄大な自然の力強さを感じるっス。どこまで行っても水だけっス、ここに居ると水が足りない土地があるなんて信じられ無くなるっス。」


「そうだねぇ。」


クルスト君の言う通り、目の前に広がる光景と東の地で見た光景はとても相反するものだと思う。

この尽きることが無いように見える水を東方の各地に分け与えられたら、少しは向こうも平和になるのかな?

でもそんなことは私達には絶対に出来ないと思う。

いや、水をあげるだけだったらケイ君やナレアちゃん、それに応龍様の眷属の子たちなら出来るかもしれない。

でも限られた人たちによって保たれた均衡は、その人たちがいなくなればあっさり崩れると思う。

特に魔法なんて普通の人達には使えない力だ。

ケイ君達を巡り間違いなく争いになって、今以上に悲惨なことになるのは間違いない。

そういう懸念もあってケイ君達は力を隠しているのだけど......ふふ、この前の魔物の襲撃の時、ケイ君物凄く戸惑っていたよね。

ケイ君が普段持っている武器はナイフだけだし、他の方法で戦うのは多分難しかったんだろうね。

まぁ、別にナイフを伸ばす奴くらい使っても大丈夫だと思ったけど......幻惑魔法で普通の剣に見せるとか、今なら私でも思いつくけど......あの時に咄嗟にって言うのは難しいかな?


「なんか面白い物でもあったっスか?」


うっかり、横にいるクルスト君の事を忘れて、あの時のケイ君の狼狽振りを思い出して笑っていたみたいだ。


「いや、何でもないよ。ちょっと、ケイ君は大変だなぁと思ってね。」


「ケイっスか?そう言えばナレアさんも今日見かけていないっスけど......もしかしてまだ船室に篭っているっスか?」


「あー、うん。そうだよ。昨日からずっとだね。」


「......ば、化け物っス。」


戦慄した表情でクルスト君が呟いているけど......同じ船室を私やレギにぃも使うんだから、クルスト君が考えるようなことが起こるはずないって気づきそうなものだけど。

私はガクガクと震えているクルスト君を見ながら軽くため息をつく。

まぁ、二人がそう言う関係になるのは私も嬉しいし、楽しみではあるけど......流石にそういった場面を見たいわけじゃない。

そんなことを考えていると、若干青ざめながらもクルスト君が再起動した。

昨日みたいに倒れられたら私が運ばないといけなかっただろうし、持ちこたえてくれてよかったと思う。


「ところで、話は全然変わるっスけど......。」


まだまだ顔色の悪いクルスト君が話を続ける。

強引にでも話を変えたかったんだろうな......そこまで心に傷を負うようなことでもないと思うけど......。


「リィリさんはレギさんの昔馴染みっスよね?」


「そうだよ?」


本当に話題が随分変わったなぁ。


「リィリさんは劇に出ていなかったっスか?」


いつか誰かに聞かれるかもと思っていた質問だ。

ちゃんと答えは用意してあるから大丈夫。


「うん、私は出て無かったね。存在事、無かったことにされてたよー。」


「あら、そうなんスか?こんなにお美しいのに残念っスね。」


「あはは、私がレギにぃと一緒に居たのは、かなり小さい頃だったしねぇ。幼馴染って言うには歳が離れすぎてるから......それにレギにぃがダンジョンを攻略した後に再会したからね。しょうがないよ。」


「あー、確かに......レギさんとは結構歳が離れているっスよね。レギさんが冒険者になってからの知り合いって感じっスか?」


「うん、そうだよ。昔依頼でお世話になってね、それで懐いて色々遊んでもらったりしたんだ。」


「それは......想像すると犯罪者っぽいっス。小さい女の子と遊ぶレギさん......よく捕まらなかったっスね。」


「あはは、それは酷いんじゃないかなー?レギにぃが面倒見がいいのは知ってるでしょー?」


「そ、そうっスよね。レギさんは面倒見が良くてとても良い人っス。間違いないっス。」


私が笑いながら言うと、クルスト君が何故か肩をビクッと振るわせた後答えた。

......何に怯えているんだろ?


「ま、まぁ、でも長年連れ添ったみたいに息がぴったりっス。」


「あはは、私にとっては小さい頃から知ってるお兄ちゃんだからねー。」


「一緒に居るのが自然って感じで羨ましいっス。」


「そ、そっかー。」


まぁ、確かに傍にいる事が当たり前って感覚はあるけど......人に言われると微妙に恥ずかしいな。


「ケイもレギさんも俺と組んだ時は全く女っ気が無かったのに、ずるいっス!理不尽っス!」


どうしてクルスト君は最終的にそうなるのかな......こう言っちゃうとアレだけど、ちょっとめんどくさいなぁ。

私が若干白けた表情をしていると、持ち直したクルスト君がまた話題を変えてくる。

心が強いのか弱いのかよく分からない子だね。


「ところでリィリさん達も王都に行くんスよね?観光でしたっけ?」


「うん、そうなんだけど......ちょっと用事が出来ちゃってね。次の港で降りるんだ。」


「あら、そうだったっスか。王都に行くのもやめるっスか?」


「いや、王都には行くよ。」


「じゃぁ、会えるかもしれないっスね。俺もどのくらい王都にいるかは分からないっスけど、もし会えたらこの前の勝負の負け分を払うっスよ。」


「あー、皆でご飯だね。うん、楽しみにしてるよ!」


私が笑うとクルスト君が物凄く嬉しそうな顔になる。

負けたから私とナレアちゃんの二人とお酒を呑みに行くってのは勝ち取れなかったけど、結局こちらの要求はクルスト君のおごりでご飯だから、そこまで違いは無い気がするよね。

クルスト君的にはレギにぃ達がいるといないでかなり違うかもしれないけど、でも多分、いざ出かけたら楽しそうにしていると思うんだよね。


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