第424話 日和見
『ケイ様、よろしかったのでしょうか?』
俺の横を着いて来ているファラが声を掛けてくる。
「うん。元々グルフのお手入れをしてあげようと思っていたからね。随分頑張ってくれていたみたいだし。勿論グルフだけじゃなくってシャルやマナス、ファラの事もね。」
結局、レギさんに付いて冒険者ギルドに行くのも、ナレアさん達について街巡りをするのも辞退しておいた。
元々グルフを労ってあげたいと思っていたし、これからファラが遠出をするのなら今のうちに労っておきたかったのだ。
けしてどちらに行っても大変な目に遭いそうだからと逃げたわけでは無い。
「とりあえず、シャンプーとブラシ......後は爪を整えて、他にやって欲しい事とかある?」
『ありがとうございます。運動もするのですよね?』
「そうだね。そのつもりだよ。」
俺はファラに応えながら街道を歩いていく。
王都の周りは畑が広がっていて、そこそこ離れないとグルフが隠れられそうな場所がない。
幻惑魔法を使ってシャルに乗るって手もあるけど......。
「えっと......シャル?」
俺は肩に掴まっているシャルに話しかける。
『なんでしょうか?』
「もう王都の外に出たし、幻惑魔法を使えば元の大きさに戻っても大丈夫じゃないかな?」
『......そうでしょうか?』
......。
シャルが肩から降りる気配は全くない。
......うん、もう少し歩こう。
「グルフはどのへんにいるかな?」
『この辺りは隠れる場所が殆どありませんし、恐らく南の方にある森に隠れているのだと思います......。』
俺の問いにファラが答えてくれる。
「南の方に森があるんだ?北側から来たから気づかなかったな。っていうか、何も考えずに東側に出ちゃったけど、南側に出るべきだったかな?」
『いえ、どちらに出ても似たようなものです。この辺りは街道が張り巡らされているので東南に向かって進めばたどり着けます。』
「なるほど......それにしても街の周りもかなり開発が進んでいるんだね。想像していたよりもグルフと合流するのに時間がかかりそうだ。」
俺はそう言いながら肩に掴まっているシャルをちらっと見る。
しかし......なんというか、シャルは......すーんって感じだ。
......これは絶対おかしいよね?
いや、最近シャルが冷たい気がするなぁとは思っていたけど......これは絶対気のせいじゃないよね?
「えっと......シャル?」
『なんでしょうか?』
「グルフのいる森は結構遠いみたいだね?」
『そうでしょうか?』
「......。」
うん......肩にシャルが捕まっているはずなのに肩が物凄く冷たい気がする......。
全く同じ台詞をほんの数分前にも聞いた気がするし。
俺は反対側の肩に乗っているマナスの方を見る。
俺が見ていることに気付いたマナスがすり寄ってきて俺の頬に体を押し付けてきた。
ぷにぷにしてひんやりしているが......シャルが乗っている側よりも暖かい気がする......。
そう考えた次の瞬間、シャルの方からとんでもない威圧感を感じた!
慌ててそちらを向くと、無言でこちらを凝視していたシャルと目が合う。
「えっと......どうかした?」
『何がでしょうか?』
「......何か怒ってる?」
『気のせいではないでしょうか?』
いや......それはないでしょ......。
「......本当に?俺何か怒らせるようなことしてない?」
『何か心当たりがあるのですか?』
「......いや、ちょっと思い当たらないけど......。」
『では、やはり気のせいでしょう。』
「......。」
『......。』
ゼッタイ、キノセイ、チガウ。
俺はシャルから視線を外し、横を歩いていたファラに目を向ける。
しかしファラは......偶然俺とは反対の方に顔を向けながら歩いていた。
仕方なく俺はマナスの方に顔を向ける。
先程まで俺の頬に体を摺り寄せていたのに、今は俺の腕に抱き着くぬいぐるみみたいなポジションまで移動してしまっている。
......二人にあからさまに避けられている!?
何とも言えない気分を感じながら俺は街道をとぼとぼと歩いて行った。
グルフと合流した後、俺はたっぷりと時間をかけて皆のお手入れをしていった。
特にグルフとファラは野外での活動が多いので念入りに手入れをして、我が仕事ながらかなり綺麗に出来たと自慢したい。
特にグルフのもふもふ具合は秀逸で、抱き着くと非常にいい匂いがする。
今日はシャワーではなくぬるま湯でお風呂を作って皆に入ってもらったのだが、グルフが非常に気持ちよさそうに入っていたのが印象的だった。
天地魔法で上手い事ドライヤー風の温風を作り出せるようになったのも、いい仕上がりになった要因の一つだと思う。
因みにシャルも中々のふわふわもふもふ具合になったのだが......シャル自身が刺々しくてあまり堪能できていない......。
因みにグルフは俺を発見した時、いつものように走って飛びつこうとしたのだが......直前で急ブレーキをかけて止まってしまった。
......まぁ、なんというか......流石に原因は俺にも分かる。
グルフが怯えた原因さんも、ブラッシングとかをしていた時はちょっと尻尾を軽く振ってご機嫌な様子が見られたのだが......話しかけても会話が一刀両断されてしまう。
一体何が原因なのだろうか......シャルは何も話してくれないしな。
でもお手入れて自体はしっかりと受け入れてくれたから良かったと思う。
......まぁ、それはともかく、今日は天気も良く気温も心地良い感じなので、このままのんびりと皆で日向ぼっこでもいいのだけど......グルフがとても遊びたそうにしているので、久しぶりに鬼ごっこをすることにした。
「さて、鬼ごっこをするのは久しぶりだけど......鬼は俺からでいいかな?」
俺が問いかけると皆が頷く。
鬼ごっこをする時の鬼役はローテーションなのだが、大体俺、グルフ、ファラ、マナス、シャルの順番だ。
因みに後半の鬼程強い。
俺とグルフは似たような物だけどね......俺はグルフしか捕まえることが出来ないのだが、グルフはごく稀にマナスを捕まえることがあるのでその差だ。
さて......ゆっくりと十数えた俺は辺りを見渡して誰をターゲットにするか探る。
グルフだけは絶対に捕まえてみせるけど......最初のターゲットは......油断しているのか挑発しているのか......俺のすぐ傍でプルプルしているマナスだ!
強化魔法を強めに掛けて一気にマナスへと近づく。
しかし、マナスは体を変形させてその場から素早く離脱する。
当然その動きは知っているので俺は細かくステップを刻みマナスに追いすがるが......フェイントを含めた方向転換に徐々に対応出来なくなって、ついに振り切られてしまう。
「くっそー、やっぱりマナスの動きには着いて行けないな......。」
鬼ごっこ開始時と同じくらいの距離を開けてマナスがぷるぷると震える。
挑発しているわけではなく......マナスにとってこの距離が安全圏なのだろう。
因みにファラはマナスよりも少し離れた位置で警戒、シャルは俺の死角へと移動しつづけ、グルフは一番離れた位置で油断している。
相変わらず、グルフは油断するよね......まぁ、以前はもっと近い距離で油断していたからそれに比べればマシかもしれないけど......。
俺は再びマナスを狙う......と見せかけてその次に近くにいるファラへと襲い掛かる。
ファラはマナスの様なトリッキーな、立体的な動きはしないけど......とにかく素早いのでマナスを相手するよりも捕まえられそうな気がしない。
俺がファラに追いつき手を伸ばそうとした瞬間に、一気に加速したファラに安全圏まで逃げられる。
しかし、負けじと俺もそこから足に力を込めて大きく踏み出し......背後から駆け抜けてきた黒い何かにその足を掬い上げられた。
「なっ!?」
そのまま派手に仰向けに転んだ俺は、何が起きたのか確認しようと起き上がろうとして動きを止める。
俺の胸の上に子犬サイズのシャルが座っていたからだ。
「......今のはシャルが?」
『いえ、気のせいです。』
いや、この状況で気のせいも何もないよね......?
しかし何も言い返さずにこちらを睥睨するように見下ろしてくるシャルと視線を合わせる。
「鬼ごっこは鬼に触れたら負けなんだよ?」
『そうでしたね。忘れていました。』
そう言ってゆっくりと俺の顔の方に近づいて来たシャルが、ぺろりと俺の鼻の頭を舐める。
......これは機嫌が直ったってことでいいのだろうか?
俺はそんなシャルの頭をぽふぽふと撫でる。
『......捕まってしまいました。』
シャルが嬉しそうに言った。
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