第423話 どちらを選ぶか



「まぁ、そういう訳じゃ。」


「......そうでしたか。」


ナレアさんが自分の事をちゃんと説明した所、レギさんが神妙な面持ちになり......敬語になった。


「レギ殿......今まで通りでいいのじゃ。」


「しかし......。」


「妾は今まで通りじゃ。何も変わっておらぬ......それにケイもリィリも妾の事を仲間として何ら変わらぬ対応をしているというのに、レギ殿だけ態度を変えるのかの?」


「......すまん、かえって礼を逸していた。改めてよろしく頼む。」


「うむ。まぁ、レギ殿の反応が普通で、リィリとケイがおかしいのじゃろうがのう。」


なんか突然失礼なことを言われ始めた。


「......確かに、レギさんみたいな事は全く考えませんでしたが......。」


「えー、ナレアちゃん酷いなぁ、ケイ君と一緒なんて......。」


何故かリィリさんからも失礼な事を言われ始めた。


「いや、酷いのはどっちですか......。」


「......むぅ、すまぬ、リィリ。言い過ぎたのじゃ」


......もういいかなぁ。

これ以上何を言っても無駄だと思った俺はファラへと向き直る。


「ごめんね、ファラ。報告の途中だったのに。」


『いえ。問題ありませんが......報告を続けても大丈夫でしょうか?』


ファラがナレアさん達の方を見た後聞いてくる。

俺が二人を見ると、二人とも笑いながら頷いて来たので問題はないだろう。


「お願い、ファラ。」


『承知いたしました。ナレア様が先代魔王ということもあり、王城や国が管理する組織に関して表向きの情報は入手可能だと思いますが、先程ケイ様がおっしゃられていた重点的に調べる場所と言うのは何処でしょうか?』


「詳しく調べて貰いたいのは魔術研究所。もしかしたら、研究所の職員が檻と関係しているかもしれない。」


「......王城も頼むのじゃ。」


俺がファラに頼んでいるとナレアさんが王城もと言ってくる。


『承知いたしました。その二カ所を優先的に調べます。』


「うむ、助かるのじゃ。」


「......ナレアさん。王城もですか?」


「ほほ、そこまで疑っているわけではないがの。念の為じゃ。グラニダの事を考えると入り込んでいる可能性は否定出来まい?」


「あ、なるほど......確かにそうですね。」


グラニダではダンジョン攻略の英雄、そして兵士長という立場でアザルは上層部に潜り込んでいた。

その事を考えれば、王城も良く調べておいた方が良いかもしれない。


「......知らなければ良かった、みたいな情報とか出てきませんよね?」


「ほほ、それは出てくるじゃろうな。気になるのであれば......王城を調べた際の報告は妾が聞くとするかの?」


「そうして貰えると助かります。」


「あぁ、俺もそれが良いと思う。」


「私は別に気にしないけどー。」


俺とレギさんはあっさりとナレアさんの提案に乗ったけど......リィリさんは心臓が強すぎるな。


「頼むから気にしてくれ......。」


レギさんが顔を覆う様に抑えながら言うけど、リィリさんには全く響いていない感じだ。


「では、王城に関する話は妾とリィリで聞くのじゃ。何、問題があれば妾がどうにでもしてやるのじゃ。外で権力を振るうつもりはないのじゃが、城の中では全力で振りかざしてやるのじゃ。」


......まぁ、ナレアさんに任せておけば大丈夫だろう。

最悪、ルーシエルさんの胃に穴を開けてもらう方向で。


『では、王城に関する情報はナレア様とリィリ様、それ以外の情報は皆様で共有されるという事で。』


「うん。それでお願い。」


『畏まりました。それとケイ様、少しご相談があるのですが。』


「ん?何?」


ファラから相談って珍しいな?

何か困りごとだろうか?


『王都の情報網を構築した後、単独で行動させていただきたいのです。』


「単独っていうと......どこか遠出をするってことかな?」


『はい。妖猫様の神域を探させていただけないでしょうか?勿論、情報収集に関しては抜かりなくさせて頂きます。』


「情報収集に関しては心配していないけど......ファラが一人で行くの?」


『はい。お預かりしている魔道具は部下には渡せませんし、グルフはこちらに残しておいた方が良いと思われます。』


「なるほど......。」


魔道具自体はブローチくらいのサイズだからファラでも持てるだろうけど......相当邪魔じゃないだろうか?


『お任せいただけないでしょうか?私の所在や予定については、部下を使って逐次連絡をいたしますので......。』


「うーん。」


ファラが行きたいって言っているし、俺としても助かるから行ってもらいたい気もするけど......王都で何かあった時、ファラが居てくれた方が臨機応変に行動をとれる......。

そう考えるとこちらを片付けてから一緒にと思わないでもないけど......問題は、こちらが片付くのかどうかって話だ。

魔道国で檻が暗躍しているというのは、あくまでも俺達の予想に過ぎない。

問題ないことの証明は非常に困難だし......いつまで時間をかけるって問題もある。

それならファラには神域を探してもらい、その間こちらはこちらで警戒しておくというのもありだろう。


『それと、王都の外の情報網を構築しておきたいのです。王都より南側は難しいですが、せめて北側だけでも。』


「なるほど......。」


それは確かにやってもらえれば助かる。

ファラにはいつもの事ながらかなり負担をかけることになるけど......。


「ファラの提案ですが、どうでしょうか?」


俺は皆の方に向き直り尋ねる。


「それが良いのではないかの?情報自体はシャルが妾達に教えてくれるのじゃろ?」


ナレアさんの問いにシャルが頷く。


「だったらいいんじゃねぇか?王都で問題が起こるまで待機を続けるって訳にもいかねぇしな。」


「そうだねー。神域探しも大事だから手分けしてもいいんじゃないかな?」


皆も俺と同じようなことを考えていたみたいで賛成してくれる。


「じゃぁ、ファラ。大変だろうけどお願いしていいかな?」


『承知いたしました。』


「王都での情報網の構築はどのくらいかかる?」


『私が王都を離れる分、しっかりとした物にしておきたいので三日程お時間を頂ければ。』


三日で出来るのか......部下になるネズミ君達も異様にスペック高いよね......。

普通に、素人から諜報員に育てようと思ったらどれだけ時間がかかるのか。

まぁ、人目に付かない様に行動するのは元々得意だろうし......ネズミが情報収集してるとは誰も思わないだろうから敷居は低いのかもしれないけど。


「了解。そっちはファラに任せるから構築が終わったら教えてくれるかな?皆さんは明日からどうします?」


「私は色々回ってみたいかなー。」


「ふむ?案内するかの?」


「え?でも......いいの?」


リィリさんが俺の方をちらちら見ながらナレアさんに言う。


「......ケイ。」


「えぇ、勿論構いませんよ。僕は......レギさん、どこか行きたい所って......。」


「そうだな。とりあえず冒険者ギルドだな。」


「......あー。」


聞くまでも無い事だった気がする......そして冒険者ギルドは恐らくこの街で一番の危険地帯だ。


「どうかしたのか?」


俺が微妙な表情をしているのに気付いたレギさんが訝しげに聞いてくる


「いえ、ギルドか......どうしようかな。」


「ギルドに何かあるのか?」


「何かあるというか......あったというか......。」


俺が返答に困ってナレアさんの方を見ると視線を逸らされた。

レギさんとリィリさんはキョトンとした感じだけど......説明はしづらいよな......。

一応マルコスさんが注意を促してくれるとは言っていたけど......わざわざ行くのもな......。


「んーだったら私達と一緒に王都を回る?なんかギルドに行きたく無さそうだし......二人の話もゆっくり聞きたいしねぇ。」


「......。」


どちらを選んでもかなりキツそうだ......いや、物理的なキツさと精神的なキツさでかなり違うけど......。

どちらを選ぶのがいいのだろうか......?

熟慮した俺はゆっくりと口を開く。


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