第422話 脅威



『遅くなって申し訳ございません。』


「お疲れ様、ファラ。長旅でつかれているだろうに、ありがとうね?」


『いえ、これが私の役目ですから。お話し中の様ですし、報告は後程させて頂ければと思います。』


ファラの言葉を聞いて皆の方を見ようとした瞬間、横にいたナレアさんが声を上げる。


「ファラよ、問題ないのじゃ。お主に頼みたいこともあるし、報告を先にしてくれるかの?」


皆......特にリィリさんを遮るようにナレアさんがファラに先を促したが......俺は別に異論はない。

まぁ、先程の件はナレアさんに聞いてみたかったって気持ちはあるけど......仕方ないだろう。

リィリさんは恨みがましい目をしながらナレアさんを見ているけど......ナレアさんは徹底的に無視する方針のようだ。

ナレアさんの言葉を受け、ファラが俺に確認を取るように視線を向けてきたので、俺は軽く頷いて許可を出す。


『では、最初に......レギ様達と合流する前に大河に沿ってグルフと二人で調査を進めてきましたが、現時点で魔道具の反応は確認できませんでした。』


一応レギさんからも聞いていたけど、ファラからもちゃんと聞いておく。


「そう簡単には見つからないみたいだね。」


『はい。もう暫くお時間を頂ければと思います。』


「うん、妖猫様の神域探しは急いで無いから、ゆっくりやって行こう。」


『はい。』


俺がのんびりした雰囲気で伝えるとファラが軽く頷く。

そんなに慌てる必要は無いし、ファラも出来るだけ肩の力を抜いてやってもらえればと思う。


『次に、本日合流するのが遅れてしまった件についてですが、王都内の情報網の構築を優先させていただいておりました。』


やっぱり部下を集めていたってことか。


「どのくらいで構築完了しそう?それが終わったら優先して調べて貰いたい場所があるのだけど。」


『畏まりました。そちらにはすぐに配下を配置させていただきます。まず進捗ですが、現時点で王都にいるネズミのおよそ七割から八割程度の掌握が済んでおります。今夜中には王都のネズミを完全に支配下に置ける予定です。また配下となった者達の配置変更を進めておりまして、優先的に王城、各ギルド、大手商会等に部下を配置済みです。』


「「......。」」


「情報に関してはまだ収集開始したばかりという事もあって大した情報はありませんが、一両日もあれば表面的な情報は全て揃えられます。」


「「......。」」


王都にどのくらいのネズミ君がいるかは分からないけど......百や二百ってことはないだろう。

千......あるいは万であってもおかしくない数のネズミ君の八割を掌握?

レギさん達と別れてから......三時間程度で?


「......なんか......到着から四半日も経たずに王都が陥落しそうなんじゃが......。」


ナレアさんが遠い目をしながらしみじみと呟いている。


「い、いや、ナレアさん。仕方ないですよ!だって普通は......防諜って言ったら人間相手にすることじゃないですか!普通ネズミが情報収集するなんて考えませんよ!」


「......。」


俺のフォローは何の意味も成さず、ナレアさんが黄昏てしまっている......!


「そ、それにほら!ファラがネズミ君達を統率することで、ネズミによる被害が殆どなくなりますよ!子供がかじられたりとか、倉庫が荒らされたりとか......ネズミが媒介する疫病が減ったりとか!」


「......代わりに国家機密も駄々洩れじゃがな......。」


......物凄く罪悪感が......いや、今まで色々な場所でネズミネットワークは広げてもらっていて、あまり気にしていなかったけど......改めて言われると、とんでもないことをしているような気がしてきた......。

龍王国のヘネイさんは......ファラの事は知らないから兎も角......グラニダのカザン君達なんか知っていても何も言わなかったけど......内心凄い気にしていたんじゃ......。

いや、バレなかったら何してもいいってわけじゃないのだけど......。

顔を青褪めさせているいる俺を見ていたナレアさんが、生気をとりもどして笑いだす。


「ほほ、冗談じゃ。」


「......ナレアさん。」


ナレアさんの様子をみて俺も生気を取り戻して......。


「まぁ、ヘネイやルルは冗談じゃないと言うじゃろうが。」


「......ナレアさん。」


直後に落とされたのでまたへこむ。


「まぁ、今更の話じゃし、情報を得たといってもケイが何かするわけでもあるまい。まぁ、その気になれば国を落とせるじゃろうが......情報があろうと無かろうと、ケイ達なら国くらい落とせるじゃろうし、気にしなくてもいいじゃろ。」


そういう問題ですかね......?

いや、悪用するつもりも国を落とすつもりもありませんけど......絶対そういう問題じゃないですよね......?


「あー、情報については本当に今更だし、俺達も口外するつもりは無いがケイも慎重にな。それと、口を挟んですまないが、ルルって言うのは誰だ?」


横で聞いていたレギさんが......恐らく助け舟を出してくれる。

やはりレギさんが居てくれるととても助かります。

俺がレギさんに感謝の念を送っていると、ナレアさんがレギさんに返事をする。


「ルーシエルと言ってな。妾の息子で今代の魔王じゃ。」


「へぇ、今代の......ま......え?今代の魔王?今代の魔王って魔王!?」


一瞬にしてパニックになったレギさんが声を上げる。

因みに俺は生暖かい目でレギさんを見て、ナレアさんとリィリさんはニヤニヤしながら見ている。

あぁ......やっぱりリィリさんは知っていたのか。


「いや......え?息子......?息子ってなんだ!?お前らいつの間に!?」


とんでもないことを言いながら俺とナレアさんを見るレギさん......ってちょっと!?


「そんなわけないでしょ!?何言っているんですか!?今までずっと一緒に居たのにどうやって子供が出来たと!」


「お、おおぅ、すまねぇ。そりゃそうだな......。お、落ち着け?」


俺の剣幕に押されたのか、レギさんが冷静になって俺に落ち着くように言ってくる。

む......確かに取り乱したかもしれない。

俺は一度深呼吸をするとニヤニヤしていた二人の方を見る。

リィリさんは変わらわずニヤニヤしているけど、ナレアさんはまた俯いてしまっているな。


「......リィリさんは知っていたのですね?」


「うん、知ってたよー。」


「いつ頃からですか?」


「え?結構最初の頃だったと思うけど......いつ頃だっけ?」


俯いてしまっているナレアさんにリィリさんが声を掛ける。

顔を上げたナレアさんは......もういつも通りの雰囲気だね。


「いつじゃったかの?かなり前じゃからのう......初めて龍王国の王都に行った時じゃったか?確かケイ達の秘密を教えてもらった時に......。」


「あー、そうかも。何か今日みたいに部屋で話してた時だよね?確かケイ君が色々ナレアちゃんを虐めて......それで私だけ教えてもらったんだったっけ。」


「......ナレアさんを虐めた記憶は全然ないのですが......。」


寧ろ虐められた記憶ばかりなのですが......。


「......そういえば、最初の頃勝負で何でも言うこと聞くって......二回ほど。」


偶に思い出すけど、結局そのまま放置して......かなり時間が経っているな。


「余計な事を思い出さなくていいのじゃ。」


ナレアさんが俺から顔を逸らす。


「あ、ケイ君まだお願いしてなかったんだ。てっきり何か厭らしい事お願いしたりしてたのかと思ってたよー。」


「そんなことする訳ないでしょ!?」


リィリさんがとんでもないことを言いだした。

勝負に勝った程度でそんな要求してたら全力で嫌われますよ!


「へぇ......でももう恋人なんだし......色々お願いしちゃうんじゃないの?」


ものすっごいゲスい笑みを浮かべながらリィリさんが言ってくる。

とてもじゃないけど可愛いとは思えない笑い方だ。

ナレアさんも若干引いてる気がする。


「そんな嫌われそうなことしませんよ。」


「嫌われそうなこと考えたんだ......。」


「......ケイ。」


しまった!

これ誘導尋問だった!?


「いやいや!違いますよ!」


「でもーもう何かしてるよねぇ?」


リィリさんがニヤニヤしながら俺とナレアさんを見ながら言ってくる。

思わず二人して視線をそらしてしまった。


「あー!やっぱり!!何したのー!」


ずっと高めだったリィリさんのテンションが跳ね上がる。


「......結局息子ってなんなんだよ......。」


レギさんの呟きは俺達に届かない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る