第427話 ダンジョンについても平常運転
王都を発って数日、俺達はダンジョン最寄りの街で補給を済ませダンジョンとなっている森の近くに野営地を設置していた。
馬車の旅は本当に辛く、体中が痛い気がするのだが......回復魔法は効いているはずなので気のせいかもしれない。
いくら魔道国とは言え、王都から離れていくと舗装されていない道に変わっていき、地面のでこぼこ具合がダイレクトに体を直撃するのだから辛くもなろうというもの。
毎度不思議なのは、同じように衝撃に身をゆだねている他の皆が俺程辛そうではないことだ。
何故だろう......育ってきた環境だろうか?
車とアスファルトという非常に快適な交通手段が当然だと思っていたせいなのか......?
先人の知恵に対する経緯が足りなかったことに対する罰なのだろうか......?
「またケイがアホなこと考えておるのじゃ。」
「何を考えているかは分からねぇが、少なくともこれからダンジョンに行こうとしている奴が考える内容じゃない事だけは確かだな。」
「......ダンジョン化した森って面白い果物とか生ってないないかな?」
「他にも似たような奴がいたのじゃ。」
「......。」
俺とリィリさんがなんとも言えない視線を受けながら野営の準備を進めていると、マルコスさんが近づいて来た。
「お?どうした?問題でも起きたか?」
「これから死地に赴くというのに、暢気な奴らだと呆れておったのじゃよ。」
「ほう。流石、二人でダンジョンを攻略するような奴は肝が太いな。向こうの連中は少し肩に力が入り過ぎだが。」
レギさんが心外だと言わんばかりの表情でマルコスさんを見るが、マルコスさんは他の冒険者が野営の準備をしている方を見ていて気付いていない。
まぁ、暢気と言われていたのはレギさんじゃないからね。
マルコスさんに合わせて俺も他の冒険者の方々に目を向けるけど......確かに緊張しているのが俺から見ても分かる。
ここに来るまでは俺に厳しい視線を向けていた人達も、こっちを気にする素振りも見せない。
「確かに、少々緊張しすぎのきらいがありますね。」
「ダンジョン自体は初めてじゃないが......攻略は初めてって連中だからな。油断も良くないが、緊張しすぎもな......とりあえず、あの連中を慣れさせるために初日は手前の方でやるつもりだが......お前たちはどうする?」
マルコスさんがレギさんに向かって問いかける。
ナレアさんではなくレギさんに聞いているのは、レギさんがダンジョン攻略で名を上げた冒険者だからだろう。
これが遺跡探索だったらナレアさんの方に行くのだろうね。
「私達は少し先行しようと思います。ボスがいると思われる場所までの地図は既にあるので......レストポイントから先を中心に魔物の処理をする予定です。」
「そのままボスを討伐したりしないよな?」
疑わし気な視線をレギさんに送るマルコスさん。
陣頭指揮って言っていたけど......前線で指示を出すって意味じゃなくっ、て直接戦いながら指示出す気だね......。
恐らくマルコスさんはボスとも戦う気なのだろう、レギさんに抜け駆けはするなよって釘を刺している感じだ。
「えぇ、十分距離を取って戦うつもりです。」
「わざと絡まれてなし崩し的に......みたいなこと狙ってないよな?」
「いえ、安全な距離を保ちますし、異変を感じたらすぐに下がります。」
「そんなことを言っておいて、事故が起こったとか誤魔化して戦ったりするんじゃないか?」
「いえ、そのつもりはありません。」
レギさんが渋い顔になり始めた。
面倒くさくなってきているみたいだけど......気持ちは分かる。
マルコスさん......自分がボスと戦いたいって空気を隠す気が全くないな......。
恐らく俺達の様子を見に来たのではなく、釘を刺すことが本命なのだろう。
二人の会話を聞いていたナレアさんがため息をつくと口を挟む。
「マルコス。レギ殿は初日にボスと戦う気はないと言っておるじゃろ?素直に聞き入れんと、妾がうっかり事故を起こすかものう?」
「......では、レギ殿。明日は先行しての掃除を頼む。頼りにしているぞ。」
「承知しました。」
「もし、報告に上がっていない魔物を発見したら報告を頼む。」
「はい、その時は日中であっても連絡を入れに一度戻ります。」
「すまんな。それじゃぁ、また明日、軽く出立式をやるからレギ殿も上級冒険者として一言頼む。ナレアは......好きにしてくれ。」
「うむ。妾は何もせぬ。」
「分かった。じゃぁまた明日な。」
長居は危険と判断したらしいマルコスさんは、そそくさと離れていく。
「......俺が何か喋らないといけないのか?」
「まぁ、上級冒険者の務めとして頑張るのじゃ。」
「ナレアはあっさり断っていたようだが?」
「妾は遺跡専門の冒険者として知られておるからのう。ダンジョンで名を馳せて上級冒険者となったレギ殿の方が適任じゃろ?」
「いや......士気を上げるのが目的ならナレアさんの方が適任なのでは?」
今は睨まれていないけど、ここに来るまでの視線の厳しさと言ったら相当なものだったしね。
そんなナレアさんに応援なのか訓示なのか分からないけどされたら......皆テンション跳ねあ上がると思うけど......。
「......まぁ、何と言うか......妾が前に出て話をして......張り切り過ぎると逆に危険じゃろ......?」
......確かに、物凄く暴走しそうだな。
軽い怪我ならともかく、無理にダンジョンの奥の方に行って大怪我をしたりすれば......取り返しがつかない。
やる気を上げさせるのにも限度があるっていうことか......。
「ここに来ておるのは、中級になりたての者や下級の者が殆どとマルコスから聞いておる。経験が少ない故の暴走が無いとは言い切れぬじゃろ?」
「確かにそうですね......ギルドであったことを考えると......ナレアさんに良い所を見せようとしてって可能性は否定できませんね。」
殴り掛かって来た三人は来ていないみたいだけど......恐らく周りで睨んでいた人とかは何人か来ていてもおかしくない。
「それに妾達の目的はダンジョン攻略ではなく、檻がちょっかいを出してこないかの監視じゃ。ネズミ達はもう監視を始めておるのじゃろ?」
「えぇ、道中も馬車に潜んでいたのでばっちりです。流石にダンジョンの中に普通のネズミ君達が入るのは危険なので、ダンジョンの中で監視するのは魔物のネズミ君だけですね。それでも十分な数がいるらしいので問題ないと思います。」
「頼もしい事じゃな。今回攻略に参加する冒険者は三十二人。一人だけ現地で合流とのことじゃったが......道中の様子はどうじゃった?」
『今の所怪しい動きをしている者は見受けられませんでした。ですが......。』
いつも通り肩に掴まっているシャルが報告してくれたのだが......途中で雰囲気を一変させる。
「......えっと、何かあった?」
シャルの様子が変わったことが皆にも伝わったのか真剣な面持ちで皆がシャルに注目する。
『......ケイ様を悪し様に言う物が数名おりまして。許可さえいただければ処分したいと考え得ているのですが......。』
「許可は出さないよ!?」
ダンジョンに突入する前に大変なことになってしまう......って言うか処分って言う表現が怖すぎる!
俺の台詞からシャルがどんなことを言ったのかなんとなく伝わったのだろう。
レギさんとリィリさんが半眼になりながらナレアさんを見ている。
見られているナレアさんは、何故かこのタイミングでダンジョンの方に目を向けているけど。
肩に掴まっていたシャルを胸に抱き直して撫でながら、皆に今のところは問題ないと伝えた。
とは言え、本番はダンジョン攻略が開始されてからだろうしな。
それに現地合流の人が一人いるみたいだし......ネズミ君達には頑張ってもらわないとな。
「とりあえず、攻略が始まったら打ち合わせ通りでいいですよね?」
「そうだな。ネズミ達が調べて、怪しい奴がいれば......。」
「いやー遅くなって申し訳ないっス!今到着したっス!」
レギさんの台詞の途中で、少し離れた位置から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます