第149話 絶対にやりません
遺跡の探索を始めてから三週間程が経過した。
地下四階までの探索を終えた俺たちは地下五階の探索を始めようとしているのだが、この階は今までと勝手が違う。
ファラとマナスが事前調査を出来ていないのだ。
と言うのも階段を降りてすぐの扉が魔道具によって封鎖されていて、ファラ達が中に入ることが出来なかったのである。
扉を壊すことは可能だったみたいだけど、流石にナレアさんが確認する前に破壊して入るのはってことで強行突破するのはやめてもらった。
「ふむ......取っ手がどこにもないのう。魔道具は......これか。あぁ、この魔術式は見たことがあるのじゃ。」
「どんな効果なんですか?」
「うむ、魔力を流すとその魔力がどこかに流れていくのじゃ。」
「......それだけですか?」
「うむ。以前は殆ど壊れた遺跡で見かけたから意味が分からなかったのじゃが、恐らくこれはこういう風に使うものだったのじゃな。」
そういってナレアさんは魔道具に魔力を流す。
次の瞬間自動ドアのように扉が開いた。
「なるほど、魔力で開く扉ですか。」
「今のうちに皆通るのじゃ。どうやらすぐに閉まる様になっておる様じゃぞ。」
ナレアさんの言葉を聞きレギさん達が慌てて扉を潜る。
最後にナレアさんが通過した後、俺は何となく気になったので閉まる扉にナイフを差し出してみる。
俺の予想に反してナイフを挟んだ扉はそのまま強引に閉まり、がっちりつかんで離さない。
軽くナイフを引いてみるが抜ける気配はない、相当な力で挟まれているらしい......あんたっちゃぶる!
少し力を込めてナイフを引くとすぽっと抜けたのだが危険すぎる扉だな......。
「何をやっておるのじゃ?」
「いえ、扉が閉まりそうだったので間に物を挟んだらどうなるかなと思って。」
「......?そりゃ挟まれるに決まっておるじゃろ?」
「まぁ......そうなんですけどね。」
「何がしたかったのじゃ?」
ナレアさんが首を傾げながら聞いてくる。
レギさんと同じ仕草だが......あっちはアレだったけど、こちらは非常に可愛らしく見える。
いや、それは今はどうでもいい......奇行に対する説明をしないと......。
「いえ......僕のいた世界にも自動で開閉する扉ってあったんですよ。それで挟まれないようにする仕掛けがあるのか気になりまして。」
「ふむ?どういう意味じゃ?」
「うっかり挟まれたりとかの事故を防ぐ為に、閉まる時に何かが挟まったりすると閉まるのを止めたりするんですよ。これだとうっかり手を挟んだりしたら大惨事ですよね?」
「なるほど......事故防止のためにはありかもしれないが、こういう研究施設ではどうじゃろうな?侵入者等の対応として咄嗟に閉めないといけない時に、相手が挟まったからと止まってしまっては意味がないからのう。」
「あぁ、なるほど......それは確かにそうですね。一般人が使うような施設なら安全は必要ですが、こういった場所では足を引っ張る可能性もあるのですね。」
常に安全第一が一番いいとは限らないのか......用途に応じ最適なものが変わる......考えてみれば当たり前の話だ。
「うむ。それはそうと、これだけ重そうな扉の奥じゃ。何か面白いものが待っているかもしれぬのう。」
遺跡の奥に目を向けるナレアさん。
このフロアはマナスによって魔道具が無効化されていないから照明が生きている。
入ってすぐ左右に道が分かれているが、今までのパターンからしてこの通路には巡回のゴーレムが複数配置されていると思うけど......通路の幅はそこまで広くない、というか狭い。
纏めて相手することは出来ない......というよりもここで戦闘が出来るほど広さはない。
少なくとも上の階にいたゴーレムが自由に動けるとは思えない。
『ケイ様。この階を調べて来てもいいでしょうか?』
通路を見ながら考えているとファラが許可を求めてくる。
「ナレアさん、この階もファラ達に調べてもらいますか?」
「折角じゃから同時に調べるのじゃ。妾達は通路を左に、ファラ達には右を頼むのじゃ。一度くらいは普通の遺跡探索をケイ達も経験しておくといいのじゃ。」
普通の遺跡探索か......今まではイージーモードどころかってレベルだったからな。
罠はここまですべて解除してもらっていたし、地図には警備の全てが記載済み。
唯一その警備をしているゴーレムだけは自分たちで排除しているが......ナレアさんの魔道具知識と強化魔法によりそこまで脅威を感じる相手でもなかった......。
「分かりました。」
「そうだな、経験しておくのは悪くない。」
「ナレアちゃんの指示に従うよ。」
「うむ。では、妾の前に出るでないぞ?後、魔力視は切らさないでくれ。何か異変を見つけたら声をかけて欲しいのじゃ。」
そういってナレアさんは慎重な足取りで歩を進めていく。
上層でも警戒はしていたが、ここからはより一層警戒しないと危険そうだ。
辺りの雰囲気も変わった......気がするしね。
ナレアさんを先頭に遺跡を調べていっているのだが、緊張感が物凄い。
ダンジョンの時は罠の警戒ってしていなかったし魔物の位置はシャルが把握していた。
しかし遺跡のゴーレムはシャルでは感知できず、大昔に人が仕掛けた罠が今も絶賛稼働中だ。
今の所何も起きていないのだが、精神的な疲労を感じる。
「ケイよ、緊張しすぎじゃ。もう少し肩の力を抜いても良い。それでは咄嗟の時に反応が鈍るのじゃ。」
「......すみません。」
俺の緊張が前を歩くナレアさんにも伝わったのか声をかけてくれる。
「何かしらの研究施設ではあると思うが、いきなり問答無用で殺しにかかってくるような罠を何もない通路に仕掛けたりは......多分しないじゃろ。少なくとも上層階にはそのような、意図の読めない罠はなかったのじゃ。相手を殺すものよりも無力化するような物が多く見受けられた。よほど捕まえて尋問したいことがあったんじゃろうな。」
そこまで話したところでナレアさんが俺達に止まるように手を上げる。
「そこの扉の前に監視用の魔道具があるのじゃ。上の階にもかなり多く......あったが全部マナスに無力化されておったな。全く同じ魔術式じゃし、問題ないじゃろう。マナスよ、処理してもらえるかの?」
ナレアさんの肩に乗っていたマナスが指示を受けて魔道具の無力化に向かう。
現在マナスは三体に分かれている。
俺の側にいるのが一人、ファラの所に一人、そしてナレアさんの所に一人だ。
八面六臂の大活躍って感じだね。
いや、分裂しちゃっているのだから八面六臂とは違うか......?
まぁそれはどうでもいい。
マナスは魔道具の無力化を終えてナレアさんの肩に戻る。
ナレアさんは暫く周りを調べていたがやがてドアに近づき開く。
「ここは......前にケイが言っておった指令室かのう。」
部屋の中を見ながらナレアさんが呟くが中に入ろうとはしない。
恐らく魔道具があるから迂闊に部屋の中には入れないのだろう。
「この部屋は魔道具が相当多いのじゃ。壁際にあるのは同じ魔道具じゃと思うが......いくつか違う種類の物もあるのう。」
そう言ってナレアさんは懐から魔道具を取り出す。
「マナスに処理をしてもらってもいいのじゃが、ここは普段妾がやっている方法でやらせてもらうのじゃ。さっきは既に見たことのある魔道具じゃったからマナスに処理してもらったが、今回は本来の遺跡探索に近いやり方をやってみせるのじゃ。」
魔道具を起動したナレアさんは部屋の中に目を向ける。
「魔道具の種類は三種類......数は三十近くあるのう。」
暫く部屋の中には入らずに離れた位置から部屋の中や魔道具を調べていたナレアさんだったが扉を閉めた。
「とりあえずこの部屋はここまでじゃな。」
「魔道具の詳しい効果は調べないのですか?」
「ほほ。詳しく調べたいのはやまやまじゃが、まだ安全確認が終わってないじゃろ?数や種類だけ把握したら次に向かうのじゃ。調べるのは後程辺りの安全を確保してからじゃな。」
......確かにそれはそうだ。
さっきまでびくびくしていたくせに目の前に餌がぶら下がった瞬間、そんなことすっかり飛んでいた。
俺は遺跡探索には向いてないみたいだね。
良く思考が明後日の方に行くことも多いし......注意力が足りないのかな?
「そうですね......すみません。」
「ほほ、今までファラ達のお蔭で色々と手順を飛ばしてきておるからのう。これから慣れていけばいいのじゃ。」
そういったナレアさんは嬉しそうにニコニコしている。
遺跡探索そのものが楽しいと言った感じだ。
今回の遺跡探索は危険が多いということもあり、より安全に探索が出来るようにファラ達に先立って調べてもらっているけど......こうやって自分で未知を解き明かして行くのが楽しいのだろうな。
そう考えるとナレアさんに申し訳なく思うけど......。
「......また余計な事を考えておるのう。変に気を回しすぎじゃ。」
......心を読まれた上に考えをフォローされるって恥ずかしく思えばいいのか安心すればいいのか微妙なのですが。
「そう思うなら、もう少し表に出さないようにすればいいと思うよ?」
リィリさん......俺、実は声に出して考え事してますかね?
とりあえず、俺はこの人達とは絶対賭け事をしないと心に決めた。
「ほほ、それは楽しそうじゃな。」
「今日の探索終わったら早速何かやろうか。」
「息抜きは大事だな。」
......やりませんよ?
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