第26話 まだ、まだ終わりじゃない!



「全部で十人っスか。ケイが言っていた通りっスね。なんでわかったっス?」


「シャルが教えてくれたので。」


「そのちびっこは優秀っスねー。やっぱ野生の勘ってやつっスかねー?」


「いや、気になるのはそこか......?なんでそこまで正確に意思疎通できるんだ......とか、そっちじゃねぇか?」


後方待機していた襲撃者の一味を回収した後クルストさんと話していたんだけど、何故かレギさんが不満気だった。


「レギさん何か問題がありましたか?」


「......いや、特に問題はないな。」


「そうですか?えっとこれからどうしますか?」


「こいつら衛兵に突き出せばいいんじゃないっスか?」


「いや、最終的にはそうするが、先に依頼人に報告だな。厄介ごとに巻き込まれていたりして、背後関係を洗いたいって可能性もあるからな。」


「でもこの時間に起きてるっスかねー?」


夜明けまで後4時間程だろうか?

流石に依頼人は起きてないだろうなぁ。


「流石に起きちゃいないだろうが、連絡をしたって事実は残しておきたいな。クルスト、店に行ってもらっていいか?誰かいれば状況を説明してきてくれ。交代要員がくる夜明けまではここに拘束しておくが、連絡が無ければ衛兵に引き渡す。詳細は明日報告する、って感じで頼むわ。」


「了解っス。向こうにも警備がいると思うっスから、うまくいけば連絡が早めにつくっスね。んじゃ行ってくるっス!」


そう言うとクルストさんは駆け出して行った。


「とりあえず、こいつらは端に寄せておくか。馬車が通らないとも限らないからな。」


「わかりました。」


後ろ手に縛られた襲撃者たちを端に寄せていく。

なんかレギさん片手で二人くらい運んでたような......。


「にーちゃんはこの襲撃者についてどう思う?」


「どう、とは?」


「さっきクルストに依頼人に関係がある可能性があるとか話したろ?」


「あぁ、なるほど。そうですね。僕は彼らと依頼人は全く関係ないと思います。」


「ふむ、根拠を聞いてもいいか?」


「まず最初にレギさんの受けたこの依頼です。普段働いている警備員の代わり、ということでこの依頼は出されていました。もしここが襲われることが分かっているのならもっと警備を厚くする為に依頼の出し方を変えると思います。しかも依頼主は部下に依頼を出させた後、ちゃんと内容も把握していませんでした。」


「日常警備以上の意図が見られない、と。」


「はい、この時点で依頼人は襲撃の可能性を認識していなかったと考えられます。」


「なるほどな......。」


「次にこの襲撃者の動きから考えると、あまり計画性があるとは言えません。襲撃をするなら下調べくらいは普通すると思います。ですが僕たちが警備について三日間、誰かがここに近づいたことは一度もありません。相当離れた位置でも感知できるシャルがいますし、その監視を彼らが潜り抜けてこれたとは思えませんしね。それに下調べをしていたなら僕たちが三人で警備していたことは知っていたでしょうし、そうであれば僕が奇襲を仕掛けた時の反応も少し違ったと思います。恐らく昼の間に、この倉庫にはまだ商品があることを確認したんじゃないですかね?警備をみれば中に何かあるのはすぐわかりますしね。」


「......ふむ、それでにーちゃんは......。」


「彼らはただの窃盗、いや、強盗犯ですかね。特に依頼人だから狙われたってわけじゃないと考えました。」


「他の可能性は考えられないか?」


「まぁ、依頼人が知らないところで恨みを買っていたとか、本当の狙いはレギさんだったとか考えていけばキリがないですけど......。」


「ま、そりゃそうだな。だが柔軟に考えるのは悪くない......しかし、にーちゃんは結構考えるタイプなんだな......もっとこう、襲われたからやっつけました的な感じだと......。」


「まぁ、否定しづらい部分はありますけど......もう少し考えていると思いたいですね......。」


「いや、すまん。にーちゃんは常識に疎いだけで覚えも理解も悪くなかったな。どうも抜けてるイメージが強くていかんな。」


「まぁそれはうかつな行動を取っていた僕の責任なのでなんとも言えませんね......。」


最近はお金の件は注意しているし魔晶石に関しても大丈夫だ。

それ以外に爆弾になるようなことなんてないよね?

うかつな行動はとってない、はず。

まぁ最近はレギさんと一緒に行動しているし、特に呆れられている様子もない。

偶に納得いってなさそうな表情はたまに見る気がするけど......あれは俺のせいじゃないはず。


「ところでレギさんは彼らについてどう考えているんですか?」


「にーちゃんみたいに考えたわけじゃないが......俺もこいつらは依頼人を狙ったわけじゃないと思うな。」


「それは何故ですか?」


「依頼人を狙ってって話にしては襲撃がお粗末だしな。数はそれなりだったが、戦いなれている感じでも無し連携もないに等しい。大方スラムで食い詰めたやつらが徒党を組んで襲撃してきたとかそんなとこだろ。」


「スラムですか......。」


「ここの倉庫街が使われなくなったのもスラムが原因よ。そりゃ、治安の悪い地域の近くに大事な商品は置きたくないわな。あの依頼人が今でもここの倉庫を使ってるのは疑問に思うところではあるが、それに関しては新しい倉庫に高額商品は移動させているってのがあってるんじゃねぇか?」


「なるほど、ってことは、彼らを衛兵に引き渡してこの件は終わり......。」


「その可能性が高いだろうな。」


そう言ってレギさんが締めくくる。

確定したわけじゃないけどややこしい背後関係がなさそうでよかった。

初依頼で謎の組織やら利権争いとかに巻き込まれたらたまったもんじゃない。

下級冒険者になるまでのんびりと依頼をこなしたいものだ。

そういえば下級冒険者と言えば、レギさんに聞こうと思っていたことがあったっけ。


「レギさん、今回の依頼ですけどランクアップに必要な件数に含まれるって話でしたよね?」


「おぉ、そうだぜ?俺の手伝いって形だがちゃんと勤め上げれば達成依頼数に加算される。」


「初級から下級になるには10件達成でしたよね?下級から中級に上がる場合の条件って何なんですか?」


「中級に上がるには、下級になってから達成した依頼が20件......それと試験だな。」


「試験ですか......何をするんですか?」


「あぁ、中級に上がる時に受ける試験は......ダンジョン攻略の実習試験だ。」


「ダンジョン攻略の試験ですか?」


「攻略と言っても試験だからな、危険度の低いダンジョンを利用して行われるやつだ。目標もダンジョンのボスじゃない......基本的に危険はあまりないな。」


「そうなのですか。」


「とはいえダンジョンはダンジョンだ......危険は少なくないしイレギュラーも発生しやすい。しっかりと経験を積んだチームじゃなければ合格は厳しいだろうな......。一人で行くようなものじゃないぞ。」


「わかりました。ありがとうございます。」


なるほど、冒険者の仕事として話を聞いていたダンジョン攻略の試験があるのか......。

今の所中級を目指すつもりはないけどね。

ただ、この条件だったらレギさんは簡単にクリアして中級冒険者になれそうなものだけれど......レギさんは下級冒険者のままだ......。

気にはなるけど、多分何かしらの理由があるのだろうし雑談がてら聞くようなものじゃない気がする。

この話はここまでにしておこう。

それから俺とレギさんは他愛のない話をしながら時間を潰した。




『ケイ様、先ほど依頼主の所に行った者が戻って来たようです。一人ではないですね、馬車もついてきているようです。』


シャルからクルストさんが戻ってきたことが告げられるが、複数人か。


「レギさん、クルストさんが戻ってきたみたいですけど、クルストさん以外にも誰か来たみたいです。馬車も来ているそうですよ。」


「戻ってくるのに少し時間がかかっていたからな。依頼人の店の奴か衛兵を連れて来たんじゃないか?」


「なるほど......引き渡して終わりだといいですね。」


「そう願いたいもんだな。」


それから少ししてクルストさんが衛兵を連れて戻ってきた。


「ただ今戻ったっス!依頼人には話を通して衛兵に引き渡して欲しいとのことだったのでついでに連れてきたっスよ。」


クルストさんの後ろには鎧を着こんだ人が四人、馬車には鉄格子の檻のようなものが乗っていた。

彼等が衛兵か。

一人が檻に襲撃者を入れるように指示を出し三人が檻へと気絶した襲撃者を運び込む。

レギさんと指示を出した人が話している間に手早く襲撃者は檻に詰められていく。

鎧を着ながら軽々と人を運ぶ衛兵の方々はやはり相当鍛えているんだろうなぁ。

ものの数分程度で収容を終えた衛兵の方々は俺たちに挨拶をすると引き返していった。


「いやぁ、終わったっスねー。」


「特に問題なく引き渡しが終わってよかったです。レギさんと変なことに巻き込まれないといいなぁって話していたんですよ。」


「あぁ襲撃に裏があるかもってことっスか。依頼人と話した感じだとそれはなさそうっスよ。きっと野良襲撃者っス。」


「是非とも生息地から出てきてほしくないタイプの野良ですね。」


「生息地は世界全域にわたるっスから、諦めるっス。」


「世知辛い世の中ですね......とりあえずゆっくり休みたいです。」


「それは同感っス。」


「お前ら、一息つくのはいいけどまだ後二日警備はあるからな?終わった感じ出してるんじゃねぇぞ?」


やり切った感を出す俺とクルストさんにレギさんが釘をさす。

分かってます、分かってますけどなんか一仕事終えた感があるんですよ......。



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