第27話 最後の依頼......かな?



初仕事である倉庫警備から二ヶ月ほどが経過した。

現在の依頼達成数は九、次の依頼で初級冒険者を卒業して下級冒険者になるということだ。

これまでの仕事で一番印象に残っているのは下水掃除。

いつものように依頼を受けた後すぐに仕事に向かおうとした時の事だった、シャルから当日は仕事に向かわずに翌日の朝からにするべきだと進言されたのだ。

特に急がなければならない仕事でもなかった為、その日は臭いや汚れ対策の準備をするだけにしてシャルの言うように翌日の朝下水道に向かった。

掃除対象となる区画にたどり着いた時、俺は目の前に広がる光景に絶句した。

その区画は非常に綺麗だった。

そこにたどり着くまで道は汚れ、水の流れは淀み腐臭が絶えず、お世辞にも衛生的とは言えないというか下水に触れれば病気になるのは避けられないと感じた。

まぁ神子になった時に病気になりにくくなったと聞いてはいるけど遠慮したい。

対象区画に来るまではそんな感じだったのだ、しかしその場所は違った。

もしかして掃除の依頼は常にこの区画だけなのだろうか......いやそんな馬鹿な......。

そんな混乱している俺に話しかけてきたのはシャルだった。

内容は倉庫警備をしていた時にシャルから提案された情報収集に関する件だ。

シャルが言うには、情報収集のために街にいたネズミと下水に放たれていたスライムを配下に治めたとの事。

ネズミはシャルの下に置かれたネズミのリーダーが、スライムはマナスが統率しているのだという。

そして下水の清掃を司るスライムに銘じてこの区画を徹底的に清掃させたのだそうだ。

なるほど、それは有り難い。

しかしびしっと線を引いたように俺が受注した区画だけが綺麗になっているのは少しいやらしい感じを受けた。

因みにネズミのリーダーはファットラットという種類のネズミで名前はファラとつけた。




仕事とは異なる話ではあるがデリータさんの所で魔術に関する勉強もさせてもらっていた。

しかしこちらはあまり芳しくなかった。

術式を書くのが難しすぎる......初めて会った時にデリータさんがささっと書いていたので簡単そうに見えたが、あれは熟練の技だった。

起動したら光るだけの魔術式を書くだけで十日程時間をかけてしまった。

まぁ一日中やっていたわけではないけど......書き損じると最初からやり直しなのでかなりの数の羊皮紙を削りきってしまった。

模写を続けて文字の意味と作用を確認しながら勉強を進めていくのがいいそうなので練習用の魔術式をいくつか譲ってもらい暇をみて練習をしている、優先度はそこまで高くしていないけど。

魔法の練習の気分転換に魔術と言った感じだろうか?

因みにデリータさんの所にいた分裂したマナスだが今は本体?の方に戻っている。

デリータさんが魔力を与えていたそうなのだが、体が日に日に小さくなり消滅してしまいそうになったので本体に回収されたのだ。

デリータさんの魔力では体を維持することが出来ずに自前の魔力のみで体を維持していたが補給ができずに徐々に体を維持できなくなっていったらしい。

流石にデリータさんも消滅させてまで研究は出来ないとのことで完全にこちらで引き取ることになったのだ。

ただ偶に調べさせてほしいと言われている。

その時点で分かっていたことは、マナスは既にマナスライムではなくなっていたそうだ、新種のスライムに進化していたらしい。

それを聞いた時のレギさんのニヤニヤ顔が非常にウザかった。




魔法の練習は仕事の合間に続けている。

森での鬼ごっこを含め必要のない時でも使っているのでかなり扱いに慣れてきていると思う。

鬼ごっこと言えば、先日の倉庫警備の後約束通りシャルとマナスにそれぞれ鬼役をやってもらった。

マナスはともかく、シャルが鬼役になった時は酷いものだった。

シャルが10数えた次の瞬間全員掴まっていた。

正確には、グルフは転がって木に激突して伸び、マナスははるか上空に打ち上げられた後地面に落ち、俺の背中にはシャルがへばりついていた。

その後三人揃って軽いお説教、いやグルフに関しては結構ガチ目に怒られていたような気がする。

会話は聞こえなかったけどグルフが物凄い縮こまっていたのだ。

マナスが鬼役をした時は非常にいい練習となった。

変則的な動きに対応しようとこちらも魔法を動きながら使用する必要があった。

それにマナスは手加減をしてくれていたようで制限時間ぎりぎりまで避け続けることが出来た。

まぁ最終的に掴まったんだけどね。

マナス相手にも一瞬で掴まったグルフはシャルに説教されたのかどんどんへこんでいった。

可哀相だったので丁度準備が出来ていた道具を使いグルフをしっかり洗い毛並みを整えた。

非常に気持ちよさそうだったのでこちらとしても喜ばしい限りだった。




そんな感じで簡単な依頼をこなしながら日々を過ごし、そして今初級冒険者として最後になるであろう仕事を受けていた。

まぁ達成できなかったら最後にならないんだけどね。


「今回の依頼の内容はこんな感じになります。何かご質問等ありますか?」


初級最後の依頼は薬草の配達だ。

買い付けた村全体で使う薬草を運ぶので結構な量になる。

初級の仕事にしては運ぶものの金額が高めではあるが、初級最後の仕事にはこういったものが選ばれるそうだ。


「今回は初めて別の村に行く依頼ですけど、村の場所なんかはどのあたりになるんですか?」


「あ、それでしたら私よりもレギさんに相談されるのがいいと思いますよ。」


「レギさんにですか?何か関係がある村なのですか?」


「そういうわけじゃないんですけど......。」


「俺も依頼でその村に行くんだよ。」


後ろから声をかけられて振り向くとそこにはレギさんが立っていた。


「同じ村で二つも依頼が同時に出てるんですか?」


「にーちゃんが受けたのは定期の依頼で俺が受けたのは突発的な依頼だからな、たまたま重なったのよ。」


「なるほど......。」


「ってわけで村については俺が教えてやるよ。」


「すみません、宜しくお願いします。......薬草は明日の朝ギルドに取りにくればいいんですか?」


「はい、量が多いのでこちらで馬車も用意しておきます。受領書にサインをもらいそれをギルドに提出すれば依頼達成です。受領書を失くさないように気を付けてくださいね。」


「わかりました、じゃぁ明日の朝来るので宜しくお願いします。」


「はい、受付に来てくれれば話が通るようになっていますので受付までお越しください。」


「了解しました......レギさんお待たせしました、どこかで食事でもとりながらでいいですか?」


「おう!今日は煮込みの気分だな......酒も欲しい。」


「まだ昼ですけど......。」


「なんか予定でもあるのか?」


「いえ、特にないですけど......明日準備しておいた方がいい物ってありますか?」


「いや、明日の朝に出て日が落ちる前には村に着けるからな、軽い旅装で大丈夫だ。馬車もあるしな。」


「そうですか、じゃぁこの後は特にすることもないので大丈夫です。」


「なら行こうぜ、初級卒業の前祝に奢ってやるよ!」


「ありがとうございます、御馳走になります!」


「ごちになるっス!」


なんか自然に、するっとクルストさんが混ざってきた気がする。


「お前どこから湧いて出た?」


「言い方!依頼のボード確認していたら二人が見えたんで来たんスよ。」


「そうか、じゃぁ仕事がんばれよ。」


レギさんがすげなくあしらう。

クルストさんが追いすがる。

コントみたいだな。


「俺も祝って欲しいっス!ほら、ケイよりも少し先に下級冒険者になったんスよ!」


そう言うとクルストさんが懐からギルド登録証を取り出す。

登録証には下級冒険者を示すマークが刻まれていた。


「おめでとうございます。クルストさん。下級冒険者になっていたんですね。」


「ありがとうっス!つい先日昇格したっス!」


「おぉ、それは祝わねぇわけにはいかねぇな。よしクルストいくぞ!」


「あざーっス!」


こうして三人で昼から宴会を始めることになった俺たちはレギさんおすすめの店に繰り出すのだった。


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