第28話 馬車の旅......半日以下のね



宴会の翌朝、ギルドにレギさんと一緒に向かったところで俺は大問題に気づいた。

っていうかなんで気付かなかったし......。

馬車の御者なんて出来ませんよ......?

狼狽える俺に気づいたのかレギさんが御者台に上ると


「仕方ねぇなぁ。とりあえず横に座って見てろ。」


キュンとしました。

とりあえずどの様に馬車を動かしているのかを教えてもらう事になり、今はこうして御者台に座りレギさんの操車する馬車に揺られていた。


「田舎暮らしだったのなら馬車位扱えると思っていたんだがな。」


「あはは、すみません。山の方だったので馬車が通るような道がなかったんですよ。」


「あぁ、そっち方面の田舎だったか。まぁ覚えておいて損はないからな、しっかり学んでくれ。そういえば馬には乗れるのか?」


「......狼なら。」


「狼って......グルフは街道走らせたらダメだろ......。」


「一応街道は避けて街まで走ってもらいましたけど......。」


グルフじゃなくってシャルに乗せてもらったんですけどね。

そのシャルは今俺の膝の上でお座り状態なのでシャルに乗ったと言っても信じてもらえないよね。

とりあえずシャルを両手でわしゃわしゃしておく。


『ふわぁ!?ど、どうされました!?ケイ様!?』


シャルの頭を何でもないよという意味を込めてぽんぽんと軽く撫でておく。

シャルはこう、わしゃわしゃすると動揺するよね。

嫌がっているわけじゃないと思うけど......。


「そのくらいの分別があってよかったぜ......あんなのが接近しているのが分かったら街がひっくり返る騒ぎになっただろうな......。」


「流石にサイズがサイズなので驚くかなと思いまして。」


「驚くで済むかよ......。」


「見た目より大人しい子なんですけどねぇ。」


鬼ごっこ一番弱いしね。


「見た目が凶悪だからな。中身は関係ねぇ。」


「まぁそれはそうですね......ところでレギさんはどんな依頼を受けたんですか?」


「話題の変え方が強引すぎるだろ......まぁいいか、俺が受けたのは畑を荒らす魔物の駆除だな。」


「......魔物ですか?」


「あぁ、流石に魔物の相手は一般人じゃ無理だからな。にーちゃんは魔物相手に戦ったことあるか?」


「魔物ってスライムくらいしか知らないですね......。」


「グレイウルフは魔物だぞ。」


「あれ?そうなんですか?......魔物って何ですか?」


「......にーちゃん......。」


「いや......知ってます......よ?なんかあれですよね?ちょっとやばい感じな......?」


あれぇ?レギさん笑顔なのになんか怖いなー。


「......はぁ、まぁ魔物に関して特に話はしていなかったか。しかしグレイウルフと一緒にいるのに魔物を知らないってのはどうかと思うぞ?」


「......すみません。」


「いや、謝るこっちゃないが......まぁ丁度いい話しとくか。」


「いつもすみません、宜しくお願いします。」


「気にすんな......とは言え俺もちゃんと説明できるほど詳しいわけじゃないんだがな。魔物っつのはあれだ、ちょっとやばい感じの奴だ。」


「......なるほど。」


俺の理解は間違っていなかったようだ。


「......あー、もう少し詳しく言うとだな。魔物という生物は大きく分けて二種類に分けることが出来る。一つはその辺にいる、魔力を多く持った生物だ。基本的には普通の動物と同じような生態だが賢かったり強靭であったりしてな、危険な奴が多い。」


動物特有の基本スペックに加えて魔力による強化がされているってことかな。


「こいつらの毛皮や骨、牙や爪なんかは魔力が多く含まれていて素材として非常に重宝されるんだ。今回の討伐対象も追加報酬として素材は村と半々に分けることになっている。」


「なるほど、強めの獣って感じですか。」


「端的に言えばそうなるな。そしてもう一種類、ダンジョンに生息するやつらだ。こいつらは外の魔物とは全く違う。ダンジョンによって生み出されていると言っていい。外の魔物と同じ姿形をした魔物もいるんだが、まったくの別物。ダンジョンに生み出された魔物は死ぬと消えるんだ。」


「消えるって......どういうことですか?」


「そのままの意味だ。死体も何も残さずに消えちまうのさ。後には何も残らない。一説によると肉体も精神も、存在全てがダンジョン内の魔力によって作られているとされている。」


「肉体も精神も魔力で作られる......そんなことがあるのでしょうか?」


「精神は言い過ぎかもしれないが体の方は間違いないと思うぜ?血も残らず消えちまうんだ。」


ダンジョンについては既にシャルに話を聞いている。

母さんたちが神域に籠る前に起きた大戦。

その時の黒幕ともいえる存在、そいつの魔力が原因で各地に魔力だまりが発生、それがダンジョンと呼ばれるものになるという。

ダンジョンは洞窟に限ったことではなく、森や平原にも発生するという。

基本的に中心にいるボスを倒すことで魔力が霧散するらしい。

霧散した魔力はまた時間をかけ世界のどこかで魔力だまりとなり新しいダンジョンを作る。

いずれは復活してしまうダンジョンを攻略するのは意味が無いように思えるがダンジョンの攻略は必要なことだ。

あまりに長い間ダンジョンを攻略せずに放置すると周囲の魔力をどんどん取り込み辺り一帯が不毛の土地になってしまうのだ。

それをさせないためには定期的にダンジョン内の魔力を攪拌、中にいる魔物を倒すことで魔力を散らす必要がある。

しかしこれはあくまで対処療法であって根本的な解決には至らず、いずれは周囲の魔力を集め始めてしまうという。

そうなる前にボスを討伐しなくてはならない。

冒険者ギルドが国をまたいで活動出来るのもダンジョンの攻略を目的の一つとした組織であることも大きいと聞いたこともある。

またダンジョンでは魔晶石が採れるそうでそういった意味では重宝されているらしい。


「まぁ、兎に角。ダンジョンにいる魔物と野生の魔物は別物だが共通するのは普通の生物に比べて強いってことだな。」


「なるほど......それで今回は村に魔物が出たので退治の依頼を受けたと。」


「おぅ、丁度いいからにーちゃんも手伝ってくれるか?」


「いいんですか?」


「構わないぜ、魔物退治は経験しておいた方がいいと思うしな。報酬は折半でいいか?」


「いや、報酬はいらないですよ。経験を積ませてもらうだけでありがたいですし。」


「そういうわけにもいかねぇよ。報酬を受け取らないならこの話はなしだぜ?」


「......わかりました。でも半分は貰いすぎなので4分の1でいいです。手伝わせてください。」


「にーちゃんはもう少し欲を持った方がいいぞ?今はいいかもしれねぇがその内いいように使われかねねぇ。」


「気を付けます......でも今回は......いいですよね?」


「......手伝いの押し売りならともかく、無料の押し売りってのは聞いたことがねぇが、まぁにーちゃんらしいと言えばそれまでか......まぁ今回は研修ってことで納得しておくか。4分の1な。」


レギさんはため息をつくと参加を認めてくれた。

押し売りって言い得て妙だな。


「ありがとうございます!頑張ります!」


「手伝ってもらうのはこっちなんだがな......よろしく頼むぜ?」


「はい!えっと気を付けておくことってありますか?」


「まず一番大事なことは、魔物は基本的に危険だ。にーちゃんとこのグルフは特別だと思え。油断すると怪我じゃすまないからな?どんな魔物が現れたかは一応村から依頼を受けた時に話は聞いてはいるが、現地での確認は必須だ。現地で確認したら事前情報と全然違うってのは少なくない、まぁ素人が見た情報だからな。」


「なるほど、魔物......グルフは特別なんですね。それとやっぱり情報が大切なのはどの仕事でも一緒ですね。」


「当然だな。知っているか知らないか、それが生死の分かれ目なんてことはざらにある。何度も言うが情報収集は怠らず油断はするなよ?」


「わかりました。」


街の情報はファラが集めてくれている。

その収集力が半端なくて、もう街の事で分からないことないんじゃないかなって思う。

正直冒険者をやめて情報屋になったほうが儲かるのではないだろうかと考えたりもする。

まぁ冒険者になりたかった理由は身分証明出来るようになりたかったからだから下級冒険者になったらそっちに転職してもいいかもしれないけど......情報屋って危険が多そうだよね......冒険者とは違った意味で。

知らなくてもいいことを知って消される的な......情報は集められても情報屋としてのノウハウがないからな、一瞬で消されそう......うん、やめておこう。

そういえばファラってすごい賢いけど、魔物なのかな......?

まぁ人に迷惑かける子じゃないし大丈夫だと思うけど、一応帰ったら確認しておこう。


「今回の魔物は草食だな、家畜小屋は狙わずに畑の野菜を掘り返して食べられたらしい。」


「なるほど、肉食じゃないなら人に対して直接的な危険はないんですかね?」


「そうとも限らんぞ。草食の獣は体が大きくなりやすいからそれだけで危険だ。それに魔物は食欲だけが行動原理じゃないしな。油断はするなよ?」


「わかりました、気を付けます。」


「まぁにーちゃんの本来の仕事は薬草の配達だ。そっちもしっかりな。」


「そうですね。こっちも手は抜けません。」


シャルがいるからって警戒を疎かにしていいわけがない。

村までしっかりと運ばないとね!


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