第29話 絶望を感じる



レギさんの操車する馬車に揺られて10時間程、途中で何度か休憩は入れたものの結構疲れた。

村に着くまで特に問題はなくのどかな道程だったと言える。

ただ、腰とお尻が超痛い。

道は轍ででこぼこだし木製の車輪は振動というか衝撃をもろに伝えてくる。

荷物がない時の移動はシャルにお願いしようと心に決めた。


「帰りの操車は任せるからな。横で見てはやるが。」


帰りもありましたネー。

この世界に来て一番心折られそうな事実だった。


「......ガンバリマス。」


「......なんか片言だな?まぁいいか、馬車はどこに回せばいいんだ?」


「あ、すみません。えっと薬草は薬師さんの所ですね、報告は村長さんですが。納品後で大丈夫だそうです。」


「了解、じゃぁ薬師の家に移動させるぜ。」


「ご存じなんですか?」


「まぁ俺も何度か運んだことがあるからな。村長の所には俺も行く必要があるし先に薬師の所で荷物を下ろしてから一緒に行けばいいだろう。」


そう言うとレギさんは馬車の進行方向を変えた。

うーん、俺に出来るかな......操車。




薬草の納品は特に問題なく終了して俺とレギさんは村長宅に来ていた。


「レギ殿、お久しぶりです。」


「お久しぶりです村長。今回は魔物の討伐との事だったので久しぶりに伺わせて頂きました。」


「いえいえ、こちらこそ。またお世話になります。ところでそちらの方は......?」


そういうと村長さんは俺に顔を向けてくる。

どうやら村長さんとレギさんは顔見知りみたいだ。

仕事関係みたいだけど、レギさんは本当に顔が広いな。


「すみません、挨拶が遅れました。初級冒険者のケイと申します。薬草配達の依頼を受けて伺いました。薬草は既に納品済みで薬師の方の検品まで終了しています。細かい内容に関しては薬師の方から一筆預かっておりますのでそちらで確認してもらえますか?問題ないようでしたらこちらの受領書の方にサインをお願いします。」


「それはそれは、ご苦労様です......なるほど、数も質も問題ないようですね。ありがとうございます。」


そう言うと村長さんは受領書にサインをして渡してくれた。


「ありがとうございます。」


お礼を言って受領書をしまう。

受付のおねーさんにも念押しされてるからね、失くしたりしたら大変だ。

俺が受領書をしまうのを確認したレギさんが村長さんに話しかける。


「ところで村長、今回私が受けた依頼の件ですが、彼に手伝ってもらおうと考えています。よろしいでしょうか?」


「私としては有り難いお話ですが依頼料の方は......。」


「いえ、それは問題ありません。報酬の件に関しては既に我々の方で話がついていますので。」


「そうですか......しかしレギ殿が手伝いを必要とするとは、もしやそこまで危険な魔物でしたか?」


「心配させるような真似をして申し訳ありません、特に危険が多いというわけではなく彼に経験を積ませたいという理由ですのでご心配には及びません。」


そう言ってレギさんが頭を下げたので俺も併せて頭を下げる。


「なるほど、そういった理由でしたか。しかし、冒険者の方にしては礼儀正しい方だとは思いましたが、レギ殿のお弟子さんでしたか?」


そう言って柔和な笑みを浮かべこちらを見る村長さん。


「はは、弟子ではありませんが、少し縁がありまして......冒険者の先輩として仕事を教えているといったところですね。彼はこう見えてかなり腕が立ちますので、今回はお試しとでも思っていただければ......。」


「レギ殿の太鼓判とは心強いですね。宜しくお願いしますケイさん。」


「はい、頑張らせていただきます!」


レギさんの顔を潰すわけには......ってこれ前も同じこと考えたような......。

まぁそれは別にいいか、しっかり気合入れていかないとな。


「では、村長。魔物について分かっていることをお伺いしても?」


「えぇ、二週間ほど前からでしょうか?夜間に畑を荒らされることがありまして。当初は獣でも近くに住み着いたかと思い罠を仕掛けていたのですが、あっさりと食い破られまして......見張りをしていたものからの報告ではビックボアのつがいではないかと......。」


「ビッグボアのつがいですか、早めに処理しないとまずいですね。奴らは際限なくでかくなりますしつがいとなると繁殖も......。」


ビッグボア......イノシシの魔物かな......?


「他に何か気付いたこと等ありますか?」


「......いえ、ビッグボアに関しては分かっているのはこのくらいですね。夜以外では姿を見てないので面倒をおかけしますが、夜に待ち構えてもらうことになるかと......。」


「えぇ、問題はありません。では夜まで時間もあまりないので早速準備を始めさせてもらいます。もし何かあったら宿の方までお願いします。」


「承知いたしました。レギ殿、ケイ殿、宜しくお願いします。」


「必ず排除いたしますのでご安心ください。それでは失礼します。」


「失礼します。」


こうして情報収集を終えた俺たちは村長宅を辞して宿へと向かい夜に備えることにした。



宿に戻り準備をしてから食事をとった所で日が暮れ始めていた。

俺たちは急ぎビッグボアが出現した畑へと赴き、今は身を潜めている。

レギさんは背中に大きな斧を背負っていた。

以前話を聞いたレギさんの得意武器だろう。

因みに俺は以前も使っていた魔道具でもあるナイフをもってきている。


「しかし、到着した時間が少し遅かったからあまり休めなかったし、正直眠いぜ。」


「そうですね、馬車に乗っていただけなのに結構疲れました。レギさんは操車してくれていたのでもっと疲れているんじゃ?」


「そうだなぁ。でもまぁ、ビッグボアがくるとしたら日が落ちて暫くたってからといったところだろ、田舎は人気がなくなるのも、朝起きだすのも早いからな。警戒心の高いイノシシなら夜更け頃ってとこじゃないか?その時間帯は二人で警戒、それ以外の時間は一人ずつ休むとするか。明日以降は昼休んでおけば夜は大丈夫だろ?」


「わかりました、明日以降は問題ないとして今日はそれでいいと思います。お疲れでしょうし先にレギさんが休んでください。」


「悪いな、じゃぁお言葉に甘えさせてもらうわ。」


「お構いなく、ゆっくり休んでください。」


すぐにレギさんの寝息が聞こえてくる。

正直俺も疲れているし出来れば今日は来ないで欲しいなぁ......いや、止めよう、そういうことを言うときっと来る。


『私が見張っているのでケイ様もお休みになられていいのですよ?』


「そういうわけにはいかないよ、シャル。俺が受けた仕事なんだからね。」


『そうですか......ですがお手伝いはさせて頂きます!』


相手は野生の獣......魔物か、倉庫警備の時の襲撃者とは警戒心も身体能力も桁違いだろう、シャルに任せきりにするのではなく寧ろシャルより早く発見出来るように張り合ってみたい。

そう思いシャルを見てみる。

俺には聞こえないレベルの音を拾っているのだろう、たまに耳がぴくぴくしている。

その後ろ姿を眺めていると振り向いたシャルが小首を傾げる。


『ケイ様?何か御用でしょうか?』


後ろから少しの間見ていただけで気付かれた......。

......当分は張り合えるところまでたどり着けなさそうだな。

決意した次の瞬間、差を見せつけられました。


「いや、シャルは凄いなぁと思ってね。」


そう言いながらシャルの頭を撫でる。

小首をかしげるシャルはとてもかわいい。

とても撫でまわしたいけど、それをやるとシャルが動揺するので今はやめておこう。


『今のやり取りのどこが凄かったのでしょうか?』


「やり取りじゃなくてね、シャルは後ろで見ていた俺の事に気づいたでしょ?」


『あぁ、そうですね。ケイ様の事は常に把握するようにしていますので!』


「そ、そっかー。いつも心配かけてごめんね?」


なんかちょっと気迫が......いや、シャルは真面目だからね。

全力で守ってくれているんだから怖がったりするのは......よくないよね。


『ケイ様は魔法によって身体能力をかなり強化出来るようになっていますが、探知や自身の気配を殺したりといったことは不得手としているようですね。』


「なるほど、確かにそういう練習は感覚強化の魔法くらいしかしてなかったね......うーん、今度みんなでかくれんぼでもしてみるかな?」


『かくれんぼ、ですか?』


「鬼役が目隠しをして数を数えている間に逃げる役はどこかに隠れるんだ。鬼は数を数え終わったら隠れた人を探す。制限時間内に全員見つけることが出来たら鬼の勝ち、見つけられなかったら隠れ切った人の勝ちって感じだね。」


『なるほど、気配を消したり察知したりする能力を伸ばすことが出来るのですね。今度是非やりましょう!』


「そうだね、次からはファラも誘って一緒にやろう。」


かくれんぼか......グルフが凄い不利な気もするけど......気配は消せてもデカいからな......。

まぁでも一番弱いのは俺だろうな。

これもいい練習になりそうだね。

レギさんが起きるまでの間、周囲の警戒を緩めないように気を付けながらシャルとそんな会話を続けるのだった。


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