第123話 宙に舞う



「よし、出来たのじゃ。二人とも入り口まで行ってくれるか?それとヘネイ、これを持っておいてくれ。」


そう言ってナレアさんは俺に向かって既に起動している魔道具を投げてくる。

受け取った魔道具を後ろにいたヘネイさんに渡すと、憮然とした表情のヘネイさんが疑問を口にする。


「何故私に持っていろと言ったのにケイ様に向かって投げたのでしょうか?」


単純に俺の方が手前にいたからだと思うけど......ヘネイさんの表情をみて思い出したことがある。

ヘネイさんは運動神経があまりよろしくない。

魔力を使えるこの世界の人にしては物凄く珍しいタイプだと思う。

魔力量は普通の人よりも多いのに......。

ヘネイさんが神殿の警備に参加せず俺達だけに任せているのはそういう理由からだ。

本来であればヘネイさんの性格上、率先して神殿を守りたがるはずだろう。


「新品の魔道具をいきなり壊されたら切ないからのう。」


「そのくらい受け止められます。」


「じゃが、自分の方に魔道具が飛んできていないにもかかわらず、受け止めようと必死に腕を振り回しておったじゃろ?とてもではないが投げられぬわ。」


なるほど......。

俺は魔道具を受け取る時にヘネイさんに背を向けていたから気付かなかったけど、そう言えば後ろの方でぶんぶんと風切り音がしていた気がする。


「......。」


「まぁそんなことはどうでもいいのじゃ。ヘネイはその魔道具を持って入り口で待機じゃ。ケイはこちらに向かって歩いて来てくれ。」


ヘネイさんの不満をズバっと切って捨てたナレアさんがこちらに指示を出してくる。

何か言いたそうな様子のヘネイさんだった不満を飲み込みこちらに笑みを向けてくる。

微妙に青筋が立っている気がするけど......それを指摘する勇気はないしその程度のデリカシーはある。

それはそうと魔道具の実験だ。

今回は遂に何か起こりそうな予感がする......油断は出来ない。

慎重に足を進めて......。


「あっ!」


後ろで上がったヘネイさんの声に思わず振り返ってしまう......これがナレアさんの仕掛けた罠なのかどうかは分からないけれど......致命的な隙だったのは間違いないね。

俺は何かに吹っ飛ばされて宙を舞いながらそんなことを考えていた。




「ケイ様!?大丈夫ですか!?」


入り口近くまで吹っ飛ばされた俺はヘネイさんに助け起こされる。


「ナレア様!一体何を!?」


「うむ。魔道具の効果は狙い通りじゃな。ケイ、すまぬがさっきヘネイに渡した魔道具をこっちに持ってきてくれぬか?」


謝る部分がおかしくないですかね......?


「ヘネイさん、先ほどの魔道具を貰えますか?」


「だ、大丈夫なのですか?無理をなさっては......。」


「ありがとうございます。大丈夫です。衝撃は結構ありましたがダメージはありませんでしたから。」


そう言ってヘネイさんから魔道具を受け取って立ち上がる。


「ナレアさん、もう少し何が起こるか事前に教えてもらっておきたいのですが......。」


「うむ......すまぬな。まさかあのタイミングでケイがよそ見するとは思わなかったのじゃ......本当じゃよ?」


疑わし気な視線を向けるとナレアさんが念を押してくる。

でも......怪しすぎる。


「ヘネイさん。僕が吹き飛ばされる直前に何かいいましたよね?何があったのですか?」


「あ、すみません!私が声を上げたせいで!」


「いえ、ヘネイさんのせいではないですよ。何があったのかだけ教えてもらえますか?」


「はい......その、ケイ様が歩き出して少ししたら持っていた魔道具が光を強くして何か耳鳴りの様なものがしまして......。」


「なるほど......ありがとうございます。」


俺はヘネイさんにお礼を言うとナレアさんの方へ歩き出す。

恐らくこれは警報と迎撃を同時にする魔道具ってところかな。

侵入者があった場合、こちらの魔道具にそれを知らせると同時に侵入者を攻撃する仕組みだろう。

であれば、こっちの魔道具はセーフティというか、これを持っている人間に攻撃を仕掛けないような仕組みになっているはずだ。

......なっているはずだ!

覚悟を決めてナレアさんに近づく。

......先ほど俺が吹き飛ばされた地点は越えた、やはりこの魔道具を持っている相手には攻撃が飛ばないようだ。

問題なくナレアさんの所に辿り着く。


「ふむ、先ほどより警戒していなかったようじゃが。気付いていたのかの?」


「えぇ、予想でしたが。この魔道具を持っていれば攻撃されないのではないかと。」


「うむ、その通りじゃ。これでとりあえずは使えそうじゃな。」


ナレアさんは側にあった魔道具を停止させてヘネイさんを呼ぶ。

おっかなびっくりと言った様子でヘネイさんがこちらに近づいてくる。


「ヘネイ。魔道具の効果は切ってあるので心配せずとも大丈夫じゃ。」


そう言われても全力で警戒しながらこちらに向かって歩いてくるヘネイさん。

うん、ナレアさんを信じられない気持ちはよく分かります。

たっぷりと時間をかけてこちらに来たヘネイさんを見てナレアさんがため息をつく。


「大丈夫じゃといっておろうに......信用がないのう。」


「先程宙を舞ったケイ様を見ていれば誰でもこうなると思います。」


それはそうですね......まぁナレアさんも流石にアレをヘネイさんに仕掛けたりはしないと思いますけど......。


「心外じゃのう。」


「......寧ろアレだけの事をされて怒ることもなく、すぐに次の実験に付き合うケイ様はちょっとおかしいです。」


言われてみれば......自分のことながらちょっとおかしい気がする......。

いくらなんでも普通に怒ってもおかしくないはずだけど......。

考え込んだ俺を見てナレアさんが笑いかけてくる。


「ほほ、ケイはいい男なのじゃ。」


「それは......都合がいいとかそういった意味ですよね......?」


「そんなことはないのじゃ。妾はケイを信頼しておるからな、ケイ以外には頼めないのじゃ。」


胸の前で手を組みながら上目遣いでこちらを見てくるナレアさん......正直胡散臭さが振り切っている。

俺の胡乱げな視線を受けたナレアさんニコニコしながら言葉を続ける。


「ケイならきっと信じてくれるのじゃ......妾はケイを信じておる。」


「......。」


表情をかえてヘネイさんへと向き直るナレアさん。


「さて、ヘネイよ。この魔道具の効果は分かったじゃろ?」


「申し訳ありません、ケイ様が吹き飛んだことに驚いて良く状況が理解できませんでした。説明して頂いてもいいですか?」


「ほほ、あれは見事に飛んだからのう。無理もないのじゃ。」


そう言ってナレアさんは笑うが......こっちはちっとも面白くないですよ?


「この魔道具が見張りをしてくれるのじゃ。先ほどヘネイに渡した魔道具を持たぬものが近づくと攻撃を仕掛けると同時にそちらの魔道具が光り、持っている本人にしか聞こえぬ音を出すようになっているのじゃ。」


「それは凄いですね......。」


「残念ながら量産は出来ないがのう。」


そう言ってナレアさんは停止している魔道具を持ちあげる。

俺が渡した神域産の魔晶石を使った魔道具だ。


「この魔晶石は貴重じゃ。ヘネイを信じるからこそ神殿に設置するが......他言無用で頼む。」


「承知いたしました。応龍様に誓って、他言いたしません。」


「うむ、頼むのじゃ。それと、その魔道具を持っていれば攻撃されることはないが、忘れると吹っ飛ばされるからな。今後神殿に来るときは必ずそれを持っておくのじゃ。」


「畏まりました。」


これで俺達がいなくなってもある程度の防御はとれるだろうけど......ここに敵が来た時点でかなり厳しいことになるよな......。


「まぁ気絶させるくらいの威力はあるからな。その後は......うまく処理して欲しいのじゃ。」


なるほど......気絶させるくらいの威力......。


「それを僕にぶちかましたんですか......?」


「ケイがこの程度でどうにかなるわけがあるまい。実際怪我の一つもしていないじゃろ?」


頑丈だから何してもいいってものでもないのですけど......。


「まぁ、そんなケイの献身のお蔭でいい物が出来上がったのじゃ。」


「ありがとうございます。ケイ様。」


「えーっと......お役に立てて良かったです。」


ナレアさんはともかくヘネイさんにお礼を言われると文句が言いにくい......。

今後の事を考えてナレアさんはこの魔道具を作ったのだろう。

今回の件がひと段落すれば俺たちはここを離れるわけだしね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る