第125話 帰還した騎士団



微妙にささくれた立った心を体のサイズを元に戻したシャルに抱き着いて癒す。

もふもふに包まれながら顔をぐりぐりとシャルに擦り付ける。


『......っ!......んっ!』


「あ、ごめんシャル。強くしすぎたかな?痛かった?」


『いえ!そんなことは!もっとしていただいて大丈夫です!』


「そう?ありがとう。じゃぁもう少しだけ......。」


『はい!喜んで!』


再びシャルに抱き着き顔を埋める。

ついでに両腕を使ってシャルの体をわしゃわしゃする。

色々と悩んだけど......うん、大丈夫だ。


『......んぅ......っ......くぅん......。』


「楽しんでいる所悪いが、そろそろヘネイが来る時間ではないか?」


「あ、もうそんな時間ですか。」


シャルのもふもふから顔を上げてナレアさんに返事をする。

同じくナレアさんの方を見ているシャルは......何かナレアさんと話をしているのだろうか?


「ほほ、シャルよ。そろそろ体を小さくした方がいいのではないかの?」


ナレアさんから顔を逸らしたシャルが体を小さくする。

小さくなったシャルを抱き上げて胸に抱える。


『け、ケイ様?』


「もう少しだけこうしていていいかな?」


『もちろんです!何時まででも!ケイ様の気の済むまで!』


「ありがとう。シャル。」


左手でシャルを抱えて右手で撫でる。

大きいシャルも素敵だけど小さいシャルにも癒されるなぁ。

無言でシャルを撫でているとどことなく不満そうなナレアさんが近づいてきた。

シャルもナレアさんの方を見ているから何か言っている気がする。

俺以外ともこうして会話をするようになったのはシャルにとってもいい事だと思う。


「失礼します。ナレア様、ケイ様。」


そんなことを考えていたらヘネイさんが神殿に入ってきた。


「お疲れ様です。いつもありがとうございます。」


「いえ、お二人に御負担をかけているのはこちらですので......ナレア様?どうかされましたか?」


「......ん?おぉ、ヘネイ来ておったのか。」


「はい、大丈夫ですか?」


俺が胸に抱いたシャルの方をじっと凝視しながらヘネイさんの来たことに気づかなければそんな心配をされるのも分かる。


「うむ、問題ないのじゃ。少し考え事をしておってな。」


「そうでしたか。お疲れでしたらいつでも言ってください。」


「うむ、今のところは大丈夫じゃ。そちらは何かあったようじゃな?」


「はい、ワイアード様より魔物を誘引しているものを発見したと。それを部隊が持ち帰ってきております。流石に王都内に持ち込むわけにはいかないので王都の側で待機しておりますが。」


待ちに待った情報だ。

これで事態が終息に向かえばいいのだけれど......。


「遂に来たか。魔道具じゃったか?」


「はい。」


「ならば急ごう。常時起動しているタイプじゃろうし、魔晶石の魔力が切れたら調べることも出来ぬ。」


「承知いたしました。ご案内いたします。」


急ぎ移動を始めようとしたナレアさんが立ち止まりこちらを振り返る。


「ケイはどうする?」


「ここを空にするわけにもいかないので僕は残ります。レギさん達と一緒に行ってください。」


「了解じゃ。ここは頼むのじゃ。」


「頑張ってください。」


ナレアさんとヘネイさんが連れ立って神殿から出て行く。

さて、ナレアさんがいない間しっかり仕事を全うしておくとしよう。




View of ナレア


今妾はヘネイとその護衛と一緒に馬車でハヌエラの部隊が設営した野営地に向かっている。

まぁ王都をでてすぐのところじゃが。

レギ殿達には連絡が別で行っているらしく現地での合流予定じゃ。


「そういえばハヌエラも戻ってきているのかの?」


「いえ、ワイアード様は戻られていないようです。」


「どうりでヘネイがついてくるわけじゃな。」


「......。」


ヘネイが妾から目を逸らす。


「気持ちは分かるが、少しは相手をしてやるのじゃ。」


「それは不可能です。」


したくないではなく不可能と来たのじゃ......まぁ、ハヌエラの弁護はしようがないがのう。


「......まぁ、ほどほどにのう。ところで持ってきたのは魔道具だけではなかろう?」


「はい、ワイアード様の部隊が確認した魔物の動きも纏められたものがあります。」


そう言ってヘネイが羊皮紙を取り出す。


「こちらはナレア様宛ですので確認して頂いて大丈夫です。」


「気が利くのう。」


やはりハヌエラは優秀じゃし覚悟も人一倍じゃな。

騎士が国の判断を待たずに妾に直接調べたことを伝えられるはずがない。

例え妾達が応龍から依頼を受けていたとしても、報告を受けた国から妾の所に情報が来るとしてもじゃ。

騎士が命令よりも私情を優先することは許されないのじゃが、ハヌエラの意思は国を守る事に全て向いておる。

いや、一部を除いてじゃな......。

国としては最も頭が痛い騎士であり、最も頼りになる騎士でもあると言えるじゃろうな。

まぁ失敗したら確実に首が飛ぶとは思うがのう。

奴の心にあるのは意思というか......あれはもう狂気じゃな。

ケイにはあまり見せたくない部分ではあるな、アレは極端すぎるのじゃ。

っと思いにふけっている場合ではないの、報告書を確認せねば。

羊皮紙を広げて内容に目を通す。


「ふむ......魔物は手を出さなければ一直線に誘引しているものに向かって進んでいるのじゃな。障害物を迂回しようとせず壊しながら進むか、建物の被害はこのせいじゃな。」


「流石に破壊できないものは迂回するようですが......それと範囲ですね。」


「うむ、馬車で二日程の距離から反応するか。結構広い範囲じゃな。」


「とは言えかなりの数がないとこれ程広範囲で魔物を誘引出来るとは思えません。相手組織の規模は如何程なのでしょうか?」


「皆目見当もつかぬのう。じゃが襲撃犯全員を失っても問題ないほどの組織であることは間違いないのう。」


「......龍王国は一体何に狙われているのでしょう?」


見えない相手というのは恐ろしいものじゃな......実際襲撃があった以上無視することも出来ぬ、厄介なことこの上ないのじゃ。


「面倒じゃのう......。」


ハヌエラの作った羊皮紙から顔を上げる。


「今ハヌエラは魔道具を探しておるのか?」


「はい、龍王国南方を回っているようです。恐らくいくつかの魔道具は発見していると思われます。北方でも何匹か魔物を捕獲したそうでそれらを使い急ぎ調べています。まだ魔道具であることは知らないと思いますが、北方でも確認できるのは時間の問題でしょう。」


「......ふむ。」


騎士団の被害について何も言わないようじゃが......恐らく少なくない被害が出ておるじゃろう......今でこそ魔物の動き方が情報として挙がってきているから捕獲はやりやすくなっておるが。


「目立った報告はこのくらいでしょうか?」


「そうじゃな。このまま何もなければ終息に向かいそうじゃ。相手の目的ははっきりとはせぬが。」


「......今後は今回の件を引き起こした相手について調査していくことになりますね。」


「うむ、そこは流石に妾達の手には余る。頑張って欲しいのじゃ。」


「はい。今回の件では色々と手伝っていただきありがとうございました。」


ヘネイが頭を下げてくる。


「ほほ、まだ終わっていないのじゃ。ハヌエラが見つけた魔道具の調査と騎士団が戻るまでの神殿の警備もせねばならぬしのう。」


「ありがとうございます。」


「なに、応龍から報酬はしっかり貰うから問題ないのじゃ。」


ケイ達への報酬とは別に妾は個人的に応龍から報酬を貰うつもりじゃ。

是非とも欲しい物が出来たのでな......貰えるかどうかは分からぬがのう。

まぁその為にも仕事には手を抜かぬのじゃ。

ハヌエラが見つけた魔道具はきっと......いや、必ず解決への糸口になるはずじゃ。


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