第231話 作戦開始
センザの街で決起が行われたセラン卿達との会議から三日が経過した。
領都に戻った俺達はすぐにトールキン衛士長の部下の方達に連絡を取り、コルキス卿への手紙を渡し、さらにアザル兵士長の部下を捕らえてもらう算段を付けた。
センザでの打ち合わせの通り、アザル兵士長を含めた五人は俺達が、残りの一人をトールキン衛士長の部下の方達に確保してもらう手はずになった。
本日は作戦決行日当日。
夜も更けて辺りは暗く、今この場には俺とシャル、そしてマナスの三人しかいない。
『ケイ様......今回の相手、私達は......。』
シャルがとても言いにくそうに声を掛けてくる。
さらにマナスもその横でプルプルとアピールをしている。
「うーん......確かに、シャルやマナスも思う所はあるよね......。」
アザル兵士長のことに気付いた時、シャルもマナスも部屋を飛び出してアザル兵士長の元に行こうとしていたからね。
「うん、そうだね。俺一人でやるのは良くないかな......二人にも手伝ってもらうよ、ファラとグルフの分もね。」
俺がそう言った瞬間シャルとマナスから喜びの感情が伝わってくる。
うん、物凄く喜んでくれているけど......人をぶっ飛ばしていいよって話だからな......流石に可愛いなぁとは言い難いね。
『ありがとうございます!ケイ様!全力で屠らせて頂きます!』
「うん、手加減して、絶対に殺さないようにね?」
迸るシャルのやる気がアザル兵士長を焼き尽くさない様に注意しないとな......。
マナスは......多分冷静に対応してくれると思うけど......うん、この前の事もあるし気を付けておくか。
『......すみません、留意します。』
まぁ、二人ともこうやって事前に言っておけば大丈夫だろう。
内心不服かもしれないけど以前話した、捕まえてから背後関係をはっきりさせないといけないって話もきっと覚えて......くれているはず。
シャルが屠るって言ったのは......まぁ言葉の綾というか物の弾みというか、そんな感じだよね。
「うん、じゃぁシャル、マナスそろそろ行こうか。」
『はい!』
シャルが俺の右肩に、マナスが左肩に乗る。
これから俺達はアザル兵士長の所へと向かう。
既にレギさん達はアザル兵士長の部下を捕獲するために移動を開始している。
いつも通り合図はマナスを通じて行うのだが、今回は俺達の他にトールキン衛士長の部下の方達もいる。
彼らにはナレアさんが魔道具を渡していて、それを介して合図を送ることになっている。
二つ一組の魔道具で、片方に魔力を籠めるともう片方が軽く光るだけの魔道具だが合図として使うには十分だ。
俺は路地から身を出し遠くに見える領主館に視線を向ける。
ファラの部下が見張ってくれているので、アザル兵士長がいつもと変わらずに領主館にいる事は分かっている。
そこは問題ない。
問題は......カザン君のお父さんの書斎で戦うわけにはいかないってことだ。
大事な本や書類があるかも知れないし......カザン君のお父さんの使っていた部屋をあまり散らかしたくない。
殆ど書斎に閉じこもっている相手なので移動したところを狙うって言うのは結構面倒だ。
トイレや食事で移動することもあるけど......それを待つよりもいい手があるのでそちらを採用する予定だ。
アザル兵士長はトールキン兵士長の部下が内偵をしているとかなり距離があっても必ず気づき、そして自ら密偵を捕まえて排除すると聞いている。
だったら領主館の庭にでもおびき出せば部屋への被害は気にしなくてもいいだろう。
まぁ他の人に気付かれる可能性が高いからそんな場所で戦ったりはしないけど。
出来れば街の外におびき出したいところだけど......そこまでついてくるかな?
人目のない所におびき出せればそれでいいのだけど......路地裏とかかな?
領主館内は夜であっても警備とかの人達がいるから、時間をかけて戦闘をする暇はないだろうしね。
シャルとマナス、それから俺もぶん殴っておきたいことを考えれば多少時間がかかるだろうし、声を上げられたりすると面倒だ。
それとも奇襲して気絶させてから、人気のないところに運び込んでからやっちゃうか?
......犯罪臭が凄いな。
とは言え、悪くないプランな気もする。
人目につかない様に袋にでも詰めて街の外まで運んでしまえば、後は好きに出来る......。
......いや、ほんと危険な考えだな。
よし、とりあえずおびき出し作戦でどこまでついてくるか試そう。
もし相手が諦めそうだったら袋詰め作戦に移行すればいい。
じゃぁ遠目から監視しますかね。
とりあえず領主館の外から監視すれば外に出てくるだろうか?
俺がアザル兵士長を捕らえたらマナスが他の皆にも連絡入れてくれる。
アザル兵士長が最優先目標だから、こちらの動きがバレる前に確保しようという算段なので、作戦の火ぶたを切るのはアザル兵士長を担当する俺の役目と言う訳だ。
とは言え、皆をあまり待たせるのは良くない。
よし、まずは視覚強化をかけて監視してみよう。
十分ほど見つめ続けてみたが全く気付かれる様子はない。
遠すぎるのかな?
俺は領主館から五百メートル程離れた建物の屋上に身を潜めていた。
ここで監視していることに気付いてもらえれば出て来てくれるかと思ったんだけどな。
トールキン衛士長の部下の人達はどのくらいの距離からアザル兵士長を監視していたのだろうか?
とりあえずここでは気づかれない様なので、領主館の敷地内に移動するか。
執務室に面している庭の端から体を隠しつつ監視してみよう。
「シャル、もう少し部屋に近づいてみよう。ここじゃ気付かれないみたいだ。」
『承知いたしました。話では人間の監視にはすぐに気づくと言うことでしたが......意外と感知範囲が狭いのですね。』
まぁ、シャルに比べたら大抵の生物は感知範囲が狭いかもしれないけどね......。
下に誰もいないことを確認してから飛び降りる。
地面に降りた俺は急ぎ領主館に近づく。
もしかしたら敷地内に入ったら気づかれるかもしれないな。
なんかこう......漫画とかでよくいるよね......自分のいる敷地内に誰かが入った瞬間に気付く凄腕の人とか。
人気のない街並みを駆け抜けて一気に領主館の塀に近寄る。
『ケイ様、警備の者も付近には居ないようです。今なら一気に敷地内に入れます。』
「了解!」
そのまま速度を緩めることなく一気に塀を飛び越えて庭に飛び込む。
中々派手な動きだったと思うけど......警備の人が気付かないのはいいのだろうか?
まぁこちらとしては好都合だから別にいいのだけどね。
それよりアザル兵士長は達人的な感じでこちらのことに気付いただろうか?
俺は庭に植えられている木の陰から書斎の窓に目を向ける。
アザル兵士長は......椅子を傾けながら机に脚を乗せて本を読んでいる。
こちらに気付いた様子はなく......超リラックス体勢だな。
気付いて......いないよね?
もう少し近づいた方がいいのだろうか?
物凄く隙だらけに見えるけど......もしかして、あれはわざと隙を見せて俺を誘い出そうとしている......のか?
そうであるのなら完全に術中に嵌ってしまっている気がする。
現に今ももう少し近づいた方がいいのかどうかで悩んでいるし......困ったな......レギさん達がいれば適切な距離を教えてくれるだろうし、ファラであればアザル兵士長相手にはどのくらい近づけばいいかを教えてくれるはずだけど。
「シャル、あれは......気づいていないよね?」
『はい、間違いなくこちらに気付いてはいません。』
「......もう少し近づかないと駄目かな?」
『そうですね。ケイ様は誘い出そうとされているのですよね?』
「うん。」
『でしたら相手が気付いたら私が知らせるようにいたします。』
「それは助かるよ。よろしくね、シャル。」
シャルがいてくれて良かった......俺一人だと手ぐすね引いていただろうなぁ。
まぁ、とりあえずもう少し近づこう。
トールキン衛士長の部下はことごとく見つかったって言っていたけど......どのくらいの距離で監視していたのだろうか?
別に今俺はそこまで気配を殺そうとはしていない......よね?
いや、警備の人達に見つからない様に息は殺しているし、気配を殺しているのかな?
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