第230話 状況、問題点、解決策
「そうですか......領都ではそのようなことに......。」
俺達が領都の食糧事情を伝えるとため息交じりにセラン卿が呟く。
領都の雰囲気が暗くなってきていることをカザン君に伝えた所、今後について打ち合わせがしたいと言うことになったので俺とレギさんは再度センザのセラン卿の家に戻ってきていた。
因みにノーラちゃんには悪いと思ったがリィリさんとナレアさんは領都にて留守番をしてもらっている。
領都から完全に離れるのは得策ではないと思ったのだ。
「反乱に参加した地方軍の担当する地域の治安が悪化していることは知っていましたが......それほどまでに......。」
「往来を行き来する商人は情勢の機微に敏いですからね。儲けと安全を天秤にかけているのでしょう。」
セラン卿の呟きにレギさんが応じるが、セラン卿の表情は苦々しいままだ。
「そして危険が儲けを上回ったと言うことですね。しかし、治安の悪化は一地方だけの問題ではない、必ず影響は拡大していくだろう。」
「もはや一刻の猶予もないと思われます。一度悪化してしまった治安は相当な時間と金銭をかけなければ元の状態まで戻せません。」
セラン卿の懸念にエルファン卿が苦し気に言葉を続ける。
「......万全を期してから動きたかったのだがな。そうも言っていられないようだな。トールキン衛士長、地方軍に関して現時点で話が通っているのはどの程度だ?」
「反乱に加わった地方軍を除いて六割は越えました。残りの四割も面会の約束は取り付けているので早晩話は通せると思います。」
「時間が無い、とりあえず話は通したという形だけでも取っておくしかないだろうな。返事を待っている余裕はない。取り急ぎ話を進めてくれるか?」
「承知いたしました。」
セラン卿に命じられたトールキン衛士長が頭を下げる。
どうやら準備が完璧とは行かないみたいだけど、これ以上遅らせることが出来ないのは俺でも分かる。
まぁ、領民の事を考えないのであればもう少し遅れてもいいのかもしれないけど......事後が大変になるしな。
いや、領民の事を考えて早くやらなきゃいけない......やれると判断していると言うことは完ぺきではないけど算段はついているということだろう。
っていうかこの俺の思考はかなり人でなしなのではないかと思う......。
カザン君を見ていれば領民の事を想っているのは十二分に分かることなのにね......。
「カザン、完璧な場を整えてやることは出来なかったが......やれるな?」
言葉とは裏腹にセラン卿の目は気遣わし気な色を見せている。
しかしカザン君はそんなセラン卿の言葉に力強く頷いて応えた。
「お爺様やエルファン卿、コルキス卿のご尽力によりこれ以上ない程状況は整えられていると考えております。領民の為にもこれ以上準備に時間をかけるわけには行きません。」
「いい覚悟だ。ならば事を始めたいが......問題はアザル兵士長だな。トールキン衛士長、抑えられるか?」
「申し訳ありません。私共では彼を止めることは難しいと......。」
「あれを残したまま始めた場合、間違いなくカザン達が狙われるな。」
トールキン衛士長の返答にセラン卿が目を瞑り嘆息しながら言う。
横にいるエルファン卿、そしてカザン君も苦々しい表情を浮かべている。
唯一トールキン衛士長だけが無表情ではるけど......。
「お悩みの所失礼します。発言してもよろしいでしょうか?」
会話が止まって少しして、レギさんが発言の許可を求める。
まぁ......状況的に俺達から声を掛けるのを待っていたとは思うのだけど。
「えぇ、構いませんよ。レギ殿。」
「ありがとうございます。問題となっているアザル兵士長ですが、私共に任せて頂けないでしょうか?」
「......よろしいのでしょうか?アザル兵士長は相当な手練れ。しかも相手の狙いを考えると決して逃がしていい相手ではありませんが......出来ますか?」
「問題ありません。」
セラン卿の脅しともとれる念押しに事も無げに即答するレギさん。
......かっこいいなぁ。
俺だったら取り繕っていたとしても一瞬間が空きそうなものだけど......。
「本当に心強いお言葉ですな。」
「ですが、トールキン衛士長に一つご協力頂きたいのですが。」
アザル兵士長の事を引き受けたレギさんだったが助力を求めるようだ。
「何でしょうか?」
「アザル兵士長を捕らえるにあたって、同時にその部下も捕らえる必要があります。相手が一か所に固まっていてくれればそれも可能ですが......相手の所在がばらばらだった場合私達では手数が足りません。」
「なるほど......アザル兵士長の一味は残り六名でしたね。」
「帝都で情報収集をしている者もいるので、アザル兵士長を含め五人までは私達の方で処理をします。ですので、後一人を捕らえるのにお力添えいただけないかと。」
俺、レギさん、リィリさん、ナレアさん、それとファラか。
まぁ、マナスがいるから六人どころかもっといても問題なく捕らえられると思うけど......多分あえて手助けを頼んでいるのだろうな。
「承知いたしました。三名程お貸しするのでその者達をお使いください。」
「ありがとうございます。」
「いえ、本来であれば私がお手伝いするのが一番良いのですが......暫く領都の方に向かうのは難しいので。」
無表情ながらどこか悔し気な雰囲気のトールキン衛士長。
それを見たレギさんが少し表情を柔らかくしながら言葉を続ける。
「それは仕方ないことだと思います。トールキン衛士長が忙しいのは重々承知しておりますので。」
「ありがとうございます。部下についてですが、お二人の移動速度に着いて行くのは不可能ですので、既に領都に潜伏している部下をお使いください。後ほど連絡方法をお教えいたします。」
「承知いたしました......そうですね、ここから領都に戻るのに二日。トールキン衛士長の部下の方と襲撃の打ち合わせをしてさらに一日。襲撃は今日より三、四日といった所でしょうか。襲撃前には必ずカザン様に連絡をさせていただきます。相手の動向次第で少し遅くなるかもしれませんが、そこまで時間をかけるつもりはありません。」
「聞けば聞くほど恐ろしい程の手際ですな。普通四日では領都に辿り着くことすら難しいと言うのに......。」
セラン卿が若干呆れた様子で告げてくる。
トールキン衛士長はやはり無表情だがエルファン卿も眉がハノ字になっているな。
まぁ個人として最強の武力を持っているアザル兵士長を簡単に捕まえて見せると言い、さらに通常片道五日以上かかる距離を二日で移動するって言っているしね。
驚きを通り越して呆れられてもしかたないよね。
「まぁ速さは我々の取り柄のようなものですので。そうそう他の人達に後れを取るわけにはいきませんよ。」
「移動速度に情報の伝達速度、本当に常識外のお力だと思います......もし良ければ今回の件が終わった後もグラニダに留まってはもらえないでしょうか?」
「そのお言葉はありがたく思います。ですが、申し訳ありません。私達にはやらなければらないことがありますので......ですが、友人として、カザン様達がお困りの際には手助けをさせて頂ければと存じます。」
「そうですか、残念ではありますが......カザンは非常に心強い知己を得られましたな。カザン。レギ殿達のとご縁は大事にするのだぞ。」
断られるのは想定内だったのか、あっさりと引き下がったセラン卿がカザン君に言う。
「はい、勿論です、お爺様。レギ殿達の事は力量以上にそのお人柄を信頼しております。今後も妹共々仲良くさせて頂きたいと思っております。」
カザン君の返事に満足したのかセラン卿の目が柔らかい笑みの形になる。
それにしても、カザン君の信頼に応えるためにも恥ずかしい行動は取られないな。
「それでは、これよりグラニダを我らとそして民の手に取り戻す。初手はレギ殿達にお任せすることになるが......早ければ三日後だ。これより休むことは出来ぬぞ、心してことに当たれ。」
「「はい!」」
セラン卿の檄にカザン君達が応じる。
「レギ殿、申し訳ありませんがコルキス卿への手紙を届けて頂けますか?急ぎ動くことを伝える必要があるので。」
「それは構いませんが、どのようにお会いすれば良いでしょうか?」
セラン卿の依頼にレギさんが問いかけるが、すぐに後ろに控えていたトールキン衛士長が応じる。
「領都にいる私の部下にお渡し頂ければ即日にコルキス卿の元にお届けさせていただきます。」
「承知しました。それではお手紙を受け取り次第領都に向かいたいと思います。」
レギさんの言葉を皮切りに部屋にいる全員が動き始める。
......後三日か。
あの時の借りはしっかり返させてもらわないとね。
アザル兵士長を捕まえる役は是非とも譲ってもらわないとな。
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