第96話 魔術師ギルド
「ここが魔術師ギルドか......もっと大きな建物を想像していたんだけど、意外と小さい......。」
シャルが全力ダッシュを始める前に何とか冷静さを取り戻させることに成功した俺は、改めてシャルの案内で魔術師ギルドに来ていた。
想像では聳え立つような建物でなんか無駄にキラキラしているイメージだったんだけど、目の前にある建物は非常に小ぢんまりとしていた。
多分今日泊まる宿屋の方が大きいんじゃないかな?
扉を開けると正面に受付カウンターに職員の人が一人......中はがらんとしているね。
役所みたいな作りだけど人気は全くない。
「!?まじゅちゅしギルドへようこそ!いらっしゃいませ!?」
受付にいた人が俺に声をかけてきたが......思いっきり噛んでるしてんぱっている。
俺の知っている魔術師の女性って、ナレアさんとデリータさんだけだけど......。
二人とも落ち着いた雰囲気で......ちょっと弱みを見せたら食い千切らんばかりに責めてくるけど......あの二人とは雰囲気が大分違うね。
ギルド職員だからって魔術師とは限らないか......。
「ご入会ですか!?ご入会ですね!?今書類を用意するのでこちらへどうぞ!」
思ったより強引だ。
「いえ、入会するわけではないのですが......。」
「すみません!ではご依頼ですか!?何をしましょう!?なんでもしますよ!」
人の話を聞いているのに会話をする気がないというか......。
俺がカウンターの前に辿り着いた時には既に依頼の発注書が用意されていた。
「はい、こちらに記載をお願いします!代筆が必要でしたら言ってください!」
「いえ、依頼をしに来たわけでもありません。実は紹介状を書いてもらっていまして、魔道具を購入したいのですが。」
「魔道具を御所望でしたか!畏まりました!すぐにお持ち致します!」
そう言って受付の女の人は奥にある階段に向かって駆け出した。
「......何の魔道具が必要なのかも聞かずに行っちゃったんだけど......。」
カウンターの上にはオグレオさんに書いてもらった紹介状が封も開けずにおかれている。
確かオグレオさん......魔術師ギルドは排他的で一見さんは門前払いされるって言っていたような......。
追い返されるどころかこのまま回れ右したら追いすがられそうな気がするんだけど......。
『随分と落ち着きがない人間ですね。』
「受付としては致命的だね......。」
誰もいなくなった受付に俺の呟きが消えていった。
「申し訳ありません!」
戻ってきた受付さんは開口一番謝罪をしてきた。
ちなみに戻ってくるまで三十分程かかっている。
「それで......その......どちらの魔道具を御所望でしょうか?」
かなりテンションの下がった受付さんがようやく俺の話を聞いてくれるようになった。
いや、最初から質問形式では聞いて来ていたけど......会話にはあまりなってなかったな。
「作成した魔道具の効果が正しく動作するかチェックする為の魔道具が必要なんですが。」
「作成した魔道具を......失礼ですがお客様は魔術師でいらっしゃるのですか?」
「魔術師と名乗るのは烏滸がましいですが、魔道具の作成は勉強中です。」
「おっしゃられている魔道具は一般向けには販売していないのですが......紹介状等お持ちでしょうか?」
「はい、こちらです。」
そう言って回収しておいた紹介状を渡す。
さっきの話はほとんど聞いてなかったことが判明したな。
「お預かりいたします......なるほど、オグレオさんの......畏まりました。こちらには作成した魔道具同士を比較するタイプを御所望とありますが、そちらで問題ありませんか?」
オグレオさんの紹介状を一読すると俺に内容を確認してくる。
さっきまでの人とは別人の様な対応だ。
実は裏で別人と入れ替わって来たんじゃ......?
「はい、お願いします。」
「畏まりました。代金は金貨二十枚になりますがすぐにお支払い可能ですか?」
金貨二十枚か、結構高いね。
金貨で買い物するのは初めてだけど......。
懐に入れていた革袋の中身を確かめてみるが......金貨は二枚しか入っていない。
金貨なんてめったに使わないからな......お守り程度にしか財布には入れていなかった。
グルフに預けてある荷物の中に金貨はあるから大丈夫だけど二度手間になったね。
迂闊だった、魔道具は高いってのすっかり忘れてたよ。
「すみません。今、手元にはないですね。」
「然様でございますか。紹介状もありますし、頭金を頂ければ魔道具を引き渡せますが如何いたしますか?」
「いえ、改めてお金を用意してきます。魔道具はその時に。」
早く魔道具を受け取りたい気もするけど、何かあって急いで王都を出ないといけなくならないとも限らないし一括で払っておくべきだろう。
オグレオさんに迷惑をかけるわけにはいかないからね。
「......畏まりました。」
少し受付さんが気落ちしたように答える。
これは......もしかして現金が欲しかったのだろうか......?
「今手元にはありませんがお金の準備はあるので遅くとも二、三日中には買いに来ようと思います。」
「承知いたしました!是非!お待ちしております!何卒!」
受付さんのテンションがギュンと上がった......。
なんかこちらの事を拝んできそうだな。
この人のテンションを上げるのは危険な気がする......普通の時は結構頼りがいのある受け応えだったんだけどな......。
「えぇ、またよろしくお願いします。それでは失礼しますね。」
「はい、ありがとうございました!」
魔術師ギルドの外に出ると日が沈み始めていた。
今から街の外に出てお金を用意して戻ってくるにはちょっと遅いかな。
夕飯の後はレギさん達と打合せがあるし、ファラにお礼をしないといけないしね。
魔道具は早く欲しいけど今日の所は大人しく宿に戻っておこう。
我ながらすっかり忘れていた癖に現金なものだと思う......。
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