第98話 とんでもない代物



「応龍様......ですか?」


「うむ、驚くのも無理はないのじゃ。伝説に謳われている神獣で、この国の信仰の対象となっている応龍じゃが......実在するのじゃ。」


何とも言えない空気が立ち込める。

さっきまでどうやって会えばいいのか悩んでいたのに、あっさりと繋ぎが出来そうなのだ。

いや、それよりも俺的にはナレアさんが俺たちを信じ、重大な秘密を打ち明けてくれたことが心苦しい......俺がどう切り出そうか悩んでいたのにナレアさんはストレートに秘密を開示してくれたのだ......。


「信じられないのも無理はないとは思うが事実なのじゃ。」


黙り込んだ俺たちを見て、違う意味に捉えたであろうナレアさんが言葉を続ける。


「すみません。ナレアさん、僕たちは応龍様がいらっしゃることは信じています。ナレアさんが応龍様から依頼をされているということに驚いただけです。」


「そうじゃったのか?しかし、そんなにあっさり信じてもらえるとは思っておらなんだが......。」


ナレアさんがキョトンとした表情でこちらを見ている。

珍しい表情だ。


「うん、ナレアちゃんの話は信じているよ。」


「あぁ、なんとも驚いたものだがな......。」


そういってレギさんが俺の方を見る。

そうですね......この期に及んで隠しておく必要はないですよね。

シャルの方を見ると神妙な様子で頭を下げてくる。


「ナレアさん。お話の途中ですが、少し僕からも話をさせてもらってもいいでしょうか?」


「ん?もちろん構わぬのじゃ。」


俺は以前にレギさん達にした説明をナレアさんにする。

俺の事や母さんの事に魔法。

シャルにマナス、グルフや外で待機しているファラの事を。

全ての説明を終えた時ナレアさんはうつむいていた。


「......以上が僕の知っていることの全てです。」


「......。」


うつむいたままナレアさんは動かない。

そんなにショックを受けるような内容ではなかったと思うけど......。


「ナレアさん?大丈夫ですか?」


少しナレアさんが震えている気がする。


「......じゃ。」


「......?」


ナレアさんが何かを呟いたが声が小さすぎて聞き取れなかった。


「なんでじゃ!」


「なんで......というと......?」


「今日のこの話なら絶対に驚かせることが出来ると思っておったのに!なんで妾が色々やるといつもケイはそれを上回って妾を驚かせて来るのじゃ!酷いのじゃ!」


うがーっといった感じで俺の胸ぐらをつかみ、がくがく揺さぶってくるナレアさん。

過去最高に理不尽なことで詰め寄られている気がします......そうでもないか?


「おち、落ち着いて下さい!ナレアさん!たまたま!偶々です!」


「毎回やっておいて偶々はないのじゃ!」


「あはは、確かに。これはケイ君が悪いね。」


お酒をくぴりとやりながらリィリさんがナレアさんに味方する。


「ほれ見るのじゃ!リィリも言っておる!全部ケイが悪いのじゃ!」


「そ、そんな馬鹿な......!」


お酒を呑んでいる上に揺さぶられるのは危険じゃないですかね!?

生き返る!夕飯に食べて胃の中に消えて行った物達が現世に蘇っちゃう!


「や、やめ......!色々出そうです!」


そう言うとナレアさんは物凄く嫌そうな顔をして後ろに下がる。


「出したら部屋から叩きだすのじゃ。」


「出す前に叩きだしたほうが良くないか?」


「折角の料理がもったいないから、早めに出て行ってね?」


味方がいなさ過ぎて何かより先に涙が出てくる......。

状況に涙していたらベッドの上にいたマナスが俺の膝の上に飛び乗ってきた。

慰めてくれているようだ。

ありがとうマナス。

お礼を込めて膝の上のマナスを両手でムニムニしておく。


「しかし......お主らの強さにはそんな秘密があったんじゃな......。」


「あーナレアちゃん。ケイ君とレギにぃの身体能力は確かに魔法の力なんだけど、私はちょっと違うんだ。」


「む?どういうことじゃ?」


リィリさんは自分に起きた事、現在の体の事をナレアさんに説明する。

話が進むにつれてナレアさんの表情が神妙になっていく。

そしてリィリさんの話が終わった。


「......そのようなことが......。」


「あはは、まぁ私は今すごく楽しいから気にしてないけどね。すごく強くなったし、ご飯は美味しいし、みんなもいるしね。」


そう言ってリィリさんは実に晴れやかな笑みを浮かべる。


「......そうか。」


リィリさんのその笑顔を見てナレアさんの表情も緩む。


「もし、何か手を貸して欲しい事があったら何でも言って欲しいのじゃ。妾は何があってもリィリの手助けを、味方をするのじゃ。」


「うん、ありがとう!ナレアちゃん!」


「しかし......そうじゃな。妾もまだ少し秘密があったのでな......リィリ、耳を貸して欲しいのじゃ。」


ナレアさんがリィリさんの耳元に口を寄せていく。

仲が良くて何よりですね。

女の人の内緒話を聞く気はないので聴覚の強化は完全に切っておく。

切らなくても聞こえないとは思うけど念のためだ。


「......え......えぇ!?」


「ほほ、秘密じゃぞ?」


「う、うん。へぇ......そうなんだぁ。」


二人の仲が良くて何よりだけど、蚊帳の外に置かれた俺とレギさんは手持無沙汰だ。

コップに注がれた酒を呑む。

そう言えばこのお酒は依頼人から貰ったって言ってたっけ。


「ナレアさんこのお酒は応龍様から頂いたってことでしょうか?」


「ん?おぉ、そう言えば話の途中じゃったな。正確には応龍からではないのじゃ。その巫女ヘネイからじゃ。あやつは応龍と違って気が利くからのう。明日会うのもヘネイじゃ、その時に応龍との繋ぎを頼むのがいいじゃろうな。妾は応龍に会いに行くので同行と言う形でもいいはずじゃ。」


「ナレアさんは応龍様に直接お会いできるのですか?」


「うむ、以前遺跡関係で少し縁があってのう。それ以来ちょくちょく会っているのじゃが、向こうから頼みごとが来たのは初めてじゃ。」


「それだけ困っているってことですかね......。」


「じゃろうな......。」


「しかし相手が龍王国の神獣様だ、依頼内容は今あちこちで発生している魔物関係じゃないのか?」


「ここまでの道中で遭遇したあれじゃな......。」


「龍王国の各地で同じようなことが起こっているようです。」


「そうじゃったのか......しかし、それを妾に言われてもどうしてやることも出来ないと思うのじゃが......遺跡が関係しておるのかのう?」


俺が集めてもらった情報を話すとナレアさんが考え込むように呟く。


「どうなのでしょう?遺跡......もしくは魔道具が関係しているとか?」


「ふむ......まぁどちらかじゃろうな。まさか妾に龍王国内の魔物を虱潰しにしろとは言わないじゃろうが......言われたら面倒じゃな......明日会いに行くのやめた方がいいかもしれんのう。」


「それは我慢してもらえると僕としては有難いですね......。」


「まぁ......そうじゃな、ケイの為にも行くとしよう。ケイの為にも。」


わざわざ二回言うし......。


「......そんなに念を押さなくてもちゃんと最後まで手伝いますよ......。」


「......寧ろケイの為なのじゃから、ケイが主導でやるべきではないかの?」


「えぇ......?」


面倒だからってそれはないんじゃないですかね......?


「もしかしたら未発見の遺跡の話かもしれませんよ?」


「その場合は妾のものじゃ。」


「......。」


実にいい性格をしていらっしゃる。

まぁ内容については明日のお楽しみとして龍の巫女に繋がりが出来たのは非常に有難い。


「そう言えば、ケイは妾に相談すれば一瞬で解決する内容であったというのに随分と悩んでおったようじゃな。」


......これは良くない流れな気がする。


「そうですね......ナレアさんのお蔭です。本当にありがとうございます。」


「そうじゃな......じゃがのう、こんなに頼りになる妾を仲間外れにしようとした不届き者がおるのじゃよ。」


「......それは何とも見る目のない人がいたものですね。」


「そうじゃろう?妾はその者に信用されておらなんだのう......。」


「いえ......そう言うわけでは......ナレアさんの依頼が終わって落ち着いてから相談させてもらおうと思っていたのですが......すみません。」


「妾は悲しいのじゃ!」


そう言ってリィリさんの胸に飛び込むナレアさん。

リィリさんの豊かな胸部がナレアさんを優しく受け止める。


「そうだねーひどいねーケイ君は女の子の気持ちをもっとよく考えるべきだよねー。」


リィリさんがナレアさんを撫でながら言う。

あれ......?

そんな話だったかな?


「......。」


ナレアさんはリィリさんに抱き着いたまま固まっている。


「どうしたの?ナレアちゃん?」


よく見るとナレアさんが小刻みに震えている気がする。


「......?」


リィリさんも顔に疑問符を浮かべている。


「......こ......。」


「こ?」


ナレアさんがゆっくりとこちらを振り向く。


「これは......とんでもない代物じゃ......。」


リィリさんの胸部に手を添えながら戦慄した顔でナレアさんが告げてきた。


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