第99話 龍の巫女ヘネイ



ナレアさんがショックで前後不覚に陥ってしまった為昨夜は解散となった。

その後ファラを部屋の中に招き入れチーズをあげて苦労をねぎらった。

ファラは非常に喜んでくれたのだが、より一層励みますとめちゃくちゃ気合を入れてしまっていた。

休んで欲しかったんだけど、思いっきり逆効果だったかな......。

ファラに直前に判明したことを説明したが、ちゃんと窓の外で聞いていたようだった。

とりあえず聖域に関する内容は何とかなりそうだったので、ファラには魔物に関する調査を強化してもらう事にした。


「ナレアちゃん、巫女さんってどんな人なのかな?」


今、俺たちは宿に迎えに来た馬車に乗って龍の巫女さんの所に向かっていた。

聖域ではなく王城の近くに家があるらしい。


「ふむ、ヘネイは幼くして巫女となった者でのう。当時は色々と揉めたそうじゃな。今では立派に成人して勤めを果たしておるのじゃ。真面目でいて面白い女子じゃが特別何かに秀でておるということはないのう、ヘネイを巫女にしたのは多分応龍の趣味じゃ。一度問い詰めたことはあるが言葉を濁しおったのじゃ、多分応龍は小さい女子が好みじゃ。」


「......ヘネイさんより応龍様が気になる紹介ですね......。」


「ほほ、貴族の出じゃが、幼い頃に家を出たせいか気さくな奴じゃよ。事情を話せば間違いなく応龍の所に案内してくれるじゃろう。」


「それは嬉しい情報ですね。」


「応龍はヘネイに頭が上がらないところがあるのう。」


「......。」


応龍様って一体......。

巫女というか娘みたいな感じなのかな?

色々と気になる話を聞いていると馬車が停車した。

どうやら目的地に着いたようだね。




「御無沙汰しております、ナレア様。遠路遥々私共の為にありがとうございます。」


「うむ、久しいのう。相変わらず色々と苦労しておる様じゃな。」


応接室に案内された俺たちは龍の巫女ヘネイさんとナレアさんが挨拶している後ろで待機していた。

すぐにナレアさんが俺たちの事を紹介する。


「彼等が今回一緒に話を聞くことになった仲間じゃ。レギ殿にリィリ、ケイじゃ。三人とも冒険者で非常に腕が立つ、大抵の厄介事には対応できるじゃろう。皆、彼女が龍の巫女ヘネイじゃ。この国でもトップクラスの権力者じゃから言動には注意するのじゃ。特にケイ、彼女自身は寛容じゃが周りの者達に襲われたくなければ細心の注意を払うのじゃぞ。」


何で俺が名指しなんですかね......。

後ナレアさんは龍の巫女さん相手でも普段と変わらないので説得力に欠けますね?


「御初御目にかかります、ナレア様より紹介与りましたヘネイと申します。龍王国シンエセラにおいて龍の巫女を賜っております。私の事はヘネイとお呼びいただければ幸いです。この度は我らが主神、応龍様の要請にお答えいただきありがとうございます。」


ヘネイさんが丁寧に挨拶をしてくれる。

とても綺麗な動作だ。

これが貴族の礼儀作法ってやつなのだろうか?


「ご丁寧にありがとうございます。ナレア殿の友人で下級冒険者のレギと申します。」


「同じく、下級冒険者のリィリです。」


レギさん達が挨拶をしたので続けて俺も挨拶をしよう......。


「下級冒険者のケイと申します。ナレアさんに虐められることが多いのですがどうぞよろしくお願いします。」


「あら、ふふ。宜しくお願いしますね。」


俺の挨拶に上品に笑いながら椅子を勧めてくれるヘネイさん。


「ほれ、この通り本当に失礼な奴なのじゃ。ヘネイ気を付けるのじゃぞ、こやつは出会って早々、次に会った時は君を食べたいとか言い出す輩じゃからな。」


椅子に座りながら早速ナレアさんが反撃してくる。

しかし、初対面の人に放つには重すぎる一撃じゃないですかね?


「まぁ!」


「とんだ風評被害ですね......全くの事実無根ですので無視して頂ければ幸いです。」


「確かに言われたのじゃ!」


「ふふ、どちらを信じましょう?」


「ケイ君って綺麗な女の子を見ると妙に口が回る時あるよね?」


「まぁ、趣味はナンパか毛づくろいだからな。」


「んん!四面楚歌!」


「「「しめんそか?」」」


あ、しまった......。


「あー、周りが敵ばかりって感じです......というか初対面の方の前でいつものノリはやめてください。」


「あら、皆さんとても仲が良さそうで羨ましいですよ?」


ヘネイさんがとても楽しいそうに俺たちを見ている。


「そうでしょうか......。」


俺は胡乱げな視線で仲間を見渡す。


「えぇ。特にナレア様がその様に殿方と接するのを見るのは初めてですが、大変可愛らしいと思います。」


「小娘も言うようになったではないか......。」


「あら、ふふ。申し訳ありません。」


ヘネイさんがニコニコしながら謝る。


「ふん、お主なぞ初めて応龍に会った時、夜泣きするほど怯えておったくせに......。」


「な、ナレア様!それは絶対に秘密だと約束したではありませんか!」


「そうじゃったかのう、何分昔の事じゃからのう。」


「......これだから年寄りは......。」


......うん、ちょっと空気が危険な感じになったかなぁ?


「......すまんな、ヘネイ。今何と言ったのかの?良く聞こえなかったのじゃが?」


「まさか耳まで?とは申しませんよ?雰囲気からして良く聞こえていらっしゃるようですし。」


ふふふ、ほほほと笑い合う二人。

どうして人は傷つけ合い、憎しみ合うのだろう?

そんな使い古された言葉が脳内をよぎる。

とりあえず、今すぐ帰りたい。

グルフの所に行って、その後魔術師ギルドに行かなきゃなー。

現実を直視せずに明後日の方向を見ているといつの間にやら空気が弛緩していた。

先程とは違う類の笑みをナレアさんが浮かべている。

あれはいたずらを思いついたって感じだな......。


「まぁ不毛な言い争いはこの辺にするのじゃ。話を聞こうではないか。」


そう言って背もたれに身体を預けるナレアさんは非常にニヤニヤしている。

その様子を訝しげに見ていたヘネイさんだったが表情を改めて話を始めるようだった。


「見苦しい所をお見せしました。申し訳ありません。今回の応龍様の依頼についてお話しさせていただきたいと思います。」


ヘネイさんは姿勢を正すと一呼吸置く。

ドアの側に控えていた女の人......侍女ってやつかな?残念ながらメイド服ではない......が俺たちの前にお茶を置いていく。

とてもいい香りが室内に広がる。

女の人が部屋を出るのを確認した後ヘネイさんが話を始める。


「既に御存じかもしれませんが、現在龍王国の各地で魔物の群れが確認されています。一つ一つの群れを構成する魔物の数は決して多くはないのですが民にとっては脅威に違いありません。現在は方々に騎士団を派遣しているのですが......広範囲で発生する群れに対応しきれてはいません。」


「原因はまだ掴めておらぬのか?」


「......実は、魔物の体内からこのようなものが発見されております。」


そう言ってヘネイさんは懐から革袋を取り出し、中身をテーブルの上に広げる。


「これは......魔力を使い切った魔晶石かの?」


「はい、今の所魔力が残っている魔晶石は見つかっておりません。魔物の胃の中や胸の辺りに埋め込まれているものが発見されています。」


「ふむ......レギ殿、道中で倒した魔物を解体した時にこのようなものはあったじゃろうか?」


「いや、俺は見てないな。内臓の類は基本的に穴に埋めて処理をしていたからな......埋め込まれているものってのも見たことはない。」


「ふむ......。」


そういってナレアさんは考え込むように顎に手を当てる。


「私たちはこの魔晶石を使用回数を使い切った魔道具とみております。そしてこれこそが今回の原因であると......。」


「ふむ......他に怪しい点はないのかの?」


「これと言ったものは発見できておりません。」


「流石に魔力を完全に失ってしまった魔晶石ではどんな魔術式が書き込まれていたか分からぬのう......。」


「やはりナレア様でも無理なのですか......。」


「流石にのぅ......綺麗に洗われた皿の上に乗っていた料理を言い当てるような物じゃからのぅ......食事の直後であればいざ知らずじゃな。」


「......。」


「魔術師ギルドには確認しておらぬのか?」


「......実は今魔術師ギルドは非常に人員不足に陥っておりまして......まともに運営がされていないのです。」


魔術師ギルドか......確かにちょっと様子がおかしかったもんな......初見でも疑問に思う程度には。


「......龍王国は魔術師を軽視する傾向はあるが......何があったのじゃ?」


微妙にヘネイさんが言いにくそうにしている。

何か後ろめたい事があるのかな?


「今回の件とは関係ない事ですので......。」


「ふむ......?なんとなく気になるがのう......。」


「その件については今回の件が片付いてから別途相談させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」


「ふむ......まぁ話だけなら聞いてもいいじゃろう。」


その言葉を聞いたヘネイさんがほっと一息ついたようだった。


「それで、ナレア様にこの魔晶石について調べて頂きたいと考えているのですが......受けて頂けますか?」


「その魔道具と魔物の群れの関係性の調査じゃな......先ほどの料理の話ではないが、まだ生きている魔物自体と合わせて調べれば何かわかるかもしれぬしのう。腕の立つものを共にと言ったのもそれを考えていたからじゃな?」


「はい。おっしゃる通りです。」


「まぁいいじゃろう、魔道具の事は気になるしのう。この依頼正式に受けよう。」


「ありがとうございます。ナレア様。それと、レギ様、リィリ様、ケイ様。宜しくお願い致します。」


そう言ってヘネイさんが深々と頭を下げる。

魔物の調査か......一体何をしたらいいのか皆目見当もつかないけど......がんばってナレアさんのサポートをするとしよう。


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