第100話 ふくしゅうするもの、されるもの



「さて、ヘネイ。今わかっている情報は纏めてあるのじゃろう?それをレギ殿に渡しておいてもらえるかの?」


「承知いたしました。後程お持ちいたします。」


「それとな、応龍に会っておきたいんじゃが。」


「はい、応龍様には本日ナレア様が訪問されることをお伝えしております。」


「うむ、助かるのじゃ。それでじゃな、実はこちらのケイも連れて行きたいのじゃが。」


「申し訳ありません、いくらナレア様のお言葉でもそれは許可出来ません。」


これまでの柔らかい雰囲気が一変して強い拒絶を示すヘネイさん。

まぁそれはそうだろうね。

いくら信頼している人の紹介だからといって、初見の相手を自らの信仰する神様に会わせろって言われて許可を出せるはずがない。

しかし拒否されたナレアさんはヘネイさんの空気もどこ吹く風と言った感じだ。

寧ろいやらしい感じにニヤニヤしている。


「ふむ......それは残念じゃのう。ケイ、すまぬのう。お主の希望を叶えてはやれん様じゃ。」


ナレアさんは嬉しくて仕方がないといった雰囲気で俺の方を見ている。

これは......俺に対してニヤニヤしているわけじゃないな......。

これ多分さっきの仕返しだな......。

俺が何かを言う前にナレアさんは言葉を続ける。


「しかしヘネイよ。お主、本当にそれでいいのかのう?」


「......?それはどういう意味でしょうか?」


怪訝そうにヘネイさんが問い返す。


「ん?......おぉ、そう言えば言い忘れておったな!ケイはな、神獣の関係者じゃ。」


「っ!?」


ヘネイさんが弾かれたようにこちらを見る。


「神獣が一柱、天狼からの使いじゃ。あまり無下にするべきではないと思うがのう。」


「......それは......どういう意味でしょうか?」


「言葉のままじゃ。こやつは天狼の使いで応龍に手紙を届けに来たそうじゃ。妾はその証拠として魔法を見せてもらっておる。」


「申し訳ございません!ケイ様!とんだご無礼を!」


そう叫んだヘネイさんが椅子から飛び出し床に平伏する。


「頭を上げてください!ヘネイ様、私もがきちんと挨拶しなかったのがいけないのです!こちらこそ申し訳ありませんでした!」


慌てて立ち上がり、ヘネイさんに頭を上げるようにお願いする。

そしてヘネイさんに向かって平伏する。

お互いが向き合って平伏し合っている様子は周りからみたらとても面白い光景だろう、残念ながら当事者だけど。


「うむ、ヘネイよ。ケイがちゃんと自己紹介しなかったのじゃから仕方あるまい。それにケイはこの程度の事で怒るような狭量な人物ではない。まぁ失態ではあるがの。」


機嫌が良さそうにほほほと笑うナレアさん。

顔を上げたヘネイさんが射殺さんばかりに睨んでますよ。




「申し訳ありません。ケイ様の事を応龍様に伝えて来ますので少々お待ちいただけますか?ナレア様だけであればこのままお通しできたのですが......。」


「えぇ、お手数おかけしますがよろしくお願いします。」


ヘネイさんは深々と頭を下げると急いで部屋から出て行った。

ナレアさんは実に嬉しそうにお茶を飲んでいる。


「流石に酷くないですか......?」


俺は半眼でナレアさんに言う。


「ほほ、人を年寄り呼ばわりするからじゃ。それさえなければ最初にちゃんと紹介しておったのじゃ。」


本当かなぁ......?


「そもそも、ケイが自分で言わなかったではないか......それが原因じゃろ?」


......確かに冒険者としてしか自己紹介しなかったけど......。


「余計な軽口は言っておったが肝心な事を言っておらんかったじゃろ?妾を責めるのはお門違いではないかのう?」


......ぐうの音も出ない。


「あのように慌ててしまって、可哀相なヘネイ。悪い男に弄ばれたのじゃ。」


「......うぅ。」


俺にも非があるので言い返すことが出来ない。

何か......何か反撃の手立ては......!?

部屋を見回すがこれといって何も見つからない。

レギさんは上品にお茶を飲んでいるし、リィリさんは......ダメだ今にもナレアさんの味方をしそうだ。

絶望に飲み込まれそうなその時、俺を助けるようにドアがノックされた。


「失礼いたします。巫女様がこちらの資料をお渡しするようにとのことでお持ちいたしました。」


そう言って先程の侍女さんが羊皮紙の束を運んできた。


「ありがとうございます。ヘネイ様が戻られるまで確認させていただきます。」


これ幸いと立ち上がり羊皮紙を受け取る。

かなりの量だ。

ぱっと見た感じ一覧になっているのではなく、一つ一つが報告書のような感じだ。

テーブルの上に羊皮紙の束を置き一番上の物を手に取る。

皆もそれぞれ手に取って確認しているようだ。

暫くの間、全員無言で報告書に目を通していく。


「多いな......。」


ある程度報告書に目を通したところでレギさんがぽつりとつぶやく。


「日付からここ二月程のようですね......。」


「報告が上がっていない、妾達が遭遇して退治したようなものも含めればもっと多いじゃろうな。」


「頻度がどんどん上がっていっているのかな?」


「いや、どうだろうな?問題に気づいて騎士団を派遣したからこそ報告も増えている可能性もあるぞ。」


確かに最近の日付の報告書の方が数は多いがレギさんの言うことももっともだ。


「魔物自体の数が異常発生で増加しているわけではないんですよね?」


「そうだな......広範囲であることから考えても魔物の数自体はあまり不自然ではないな。群れであることがおかしいんだ。」


「通常は群れにならない複数種類の魔物の群れ......。」


「しかも自分たちが不利になっても逃げるそぶりすら見せないんだよね......。」


「目の前を走る馬車を無視して村に向かって移動していったという報告もあるのう......とても通常の魔物とは思えない動きじゃ......。」


報告書を見る限り、通常の魔物の挙動とはかなり異なるようだ。

基本的に魔物は通常の獣と行動に大差はない。

お腹が空けば食事をする、肉食がいれば草食もいる。

同族で群れる習性がある物がいれば群れずに行動する物もいる。

襲い掛かるならより簡単な獲物を狙う。

これらの常識をすべて無視しているのが龍王国の各地で発生している魔物の群れだ。

間違いなく外的要因があり、そして恐らくそれは体内から発見されている魔道具と関係があるのだろう。


「準備を整えたら魔物の群れを探さぬといかんのう......しかしこういうのは大抵、探すと中々見つからないと相場が決まっておるからのじゃ。」


「そうだねぇ......。」


「向かうとしたら騎士団が行っていない場所で、村の近辺って感じか?」


「そう簡単には見つけられそうにないですよね......。」


「じゃがのぅ......騎士団の報告があってからそこに向かうなぞ無理じゃからのう......。」


向かっている間どころか連絡が来るまでに数日はかかるだろうし、とてもではないけれど現実的ではない。

狼煙台みたいなのがあったとしても向かうのに時間がかかる......シャル達に全速で運んでもらったとしても数時間はかかる、それだけあれば討伐は終わっているだろう。


「魔物の生け捕りとかはできないのでしょうか?」


「難しいな......小型の魔物ならいけるだろうが......。」


俺の問いにレギさんが答える。


「でも、体内から魔晶石......というか魔道具が見つかっているんだから、調査用に捕獲は試しているんじゃないかな?」


「それもそうだな......あとで巫女さんに確認しないとな。」


それから色々と意見を交わしたがこれと言った案が出ることはなかった。

そうこうしている内にヘネイさんが戻ってきて俺とナレアさんは聖域に案内してもらう事になりレギさん達はもう少し資料を確認するとヘネイさんのお屋敷に残った。

応龍様か......どんな方だろう?

名前からしてイメージ的には東洋龍なんだけどね。


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