4章 遺跡
第135話 何があったか魔術師ギルド
悪夢のような理不尽な一日が終わった。
俺の何が悪かったのだろうか......?
未だにその答えは出ていない。
いや、半分は分かっている。
レギさんを生贄に差し出そうとしたのは確かに俺が悪かったと思う。
しかしそれ以外に関しては何を言われても俺の落ち度とは思えなかった......。
とはいえ過ぎたことを言っても仕方がない。
昨日の事はさて置き、現在俺たちは魔術師ギルドの件を詳しく聞くために俺たちはヘネイさんの家を訪ねていた。
「皆さま、重ね重ね厄介事ばかり押し付けてしまって申し訳ありません。」
開口一番ヘネイさんが頭を下げる。
ヘネイさんと会うたびに謝られている気がするのは......気のせいじゃないな。
そしてそんなことを考えたのは俺だけではなかったようで......。
「ほほ、最近ヘネイは謝ってばかりじゃな。気にする必要はないのじゃ。今回謝るべきはそこではなく、妾の事を信じずに遺跡の件を黙っていたことじゃ......。」
「......。」
早速脅しつけているナレアさんに沈痛な表情を見せるヘネイさん。
まぁナレアさんの普段の行いのせいだとは思うけど、話題を逸らしたことをチクチク言われるヘネイさんも自業自得なところはあるからなぁ。
しかし、今回俺は貝になると決めている。
余計なことを言うと......余計じゃないことを言ったとしても藪蛇なのだ。
何だったら表情を隠すために仮面とか着けてたかったくらいだが......怪しすぎるのでそれはやめた。
「......その件については大変失礼をいたしました。」
「全くじゃ。妾のように広い心をもって受け止められる者はそうおらぬ。注意するのじゃぞ?」
「......寛大なお心に感謝いたします。」
ヘネイさんの返答に微妙な間があるのは......心の中で歯を食いしばっているのだろうな......気の毒だとは思います......。
「まぁ、狭量な友人が困っているの見放すことは寛大な妾にはとても出来ぬのでな、勿論手を貸してやるのじゃ。それでなんじゃったかのう?魔術師ギルドの人手不足の原因が遺跡にあるとかないとか?」
「......。」
ヘネイさんがぷるぷる震えている。
今にも爆発してしまいそうだ......。
「ふぅ、冗談はこれまでにしておこう。ヘネイよ、詳しく聞かせてもらえるか?」
ヘネイさんが爆発する直前だろうか?
今までの様子とは打って変わって真面目な表情になったナレアさんがヘネイさんに先を促す。
一瞬肩透かしを食らったようにたじろいだヘネイさんだったが、一度深呼吸をして話を始める。
その様子を見たナレアさんがニヤっとしたような気はするが......今は非常にまじめな顔をしているのできっと見間違いだろう。
「......はい。半年ほど前になりますが王都より北東の位置に遺跡が発見されました。長雨の影響か地滑りが発生したらしく、被害調査に出ていた騎士団がその現場にて発見しました。」
「ふむ、山の中から見つかった遺跡か......となると何かの研究施設か保養施設といったところかのう?」
「詳細についてはまだわかっておりませんが、国の研究者たちもそのように予想しておりました。それで早速調査団を派遣するという話になったのですが、魔術師ギルドが調査団として名乗りを上げまして......。」
「......何故じゃ?何故そこで魔術師ギルドが名乗りを上げるのじゃ?」
「本人たちは魔道具の研究の為と言っていましたが......。」
「それは分からぬでもないが......魔術師ギルドはそう言った組織ではあるまい。庶民向けに細々とした生活用魔道具を生産したり修理するのが主な仕事じゃろう?遺跡から出土する魔道具は確かに便利なものもあるが、それを解析したりする技術はギルドにはなかろう。」
なるほど......魔術師ギルドって響きからナレアさんやデリータさんみたいに凄い魔道具を色々開発したりする人たちが集まっている場所なのかと思ったらイメージ的には家電量販店とカスタマーサポートって感じなのかな?
「えぇ......それは国の方も理解していたのですが......本人たちの強い希望があったようで......国の研究者達もそこまで言うなら第一陣として探索してみればいいと......。」
「......まぁ国の研究者からすれば、自分達より数段劣る技術の者達が何かを発見したりできるわけがないと。そしてギルドからすれば同じ魔術師の癖に研究者たちばかり遺跡の恩恵を受けて成果を上げているのが鼻持ちならない。そんな感じじゃな?」
「......はい。おそらくはそういった確執があったのだと......。」
「それで、その第一陣は戻ってこなかったのじゃな?」
「はい。第一陣として向かった魔術師ギルドの幹部や構成員数名と国の研究者五名。それに護衛の騎士が十六名。誰一人として戻りませんでした。」
「......ふむ。」
「更に救出部隊として送り込まれた第二陣も全滅したと考えられています。」
......遺跡ってそんなに危険な場所なの?
誰も戻れないって......二陣の人達は相当慎重に向かっているはずだ。
それが伝令の一人として戻ることが出来ないなんて事があるのだろうか?
レギさんの表情を見るが相当難しそうな顔をしている。
ヘネイさんも自国民に少なくない犠牲が出ているのだ、その心境は推して知るべしだろう......。
「ふむ......まぁ何かしらの研究施設と考えればさもありなん、と言った所じゃな。」
しかしそんな重苦しい雰囲気の中あっけらかんとした様子でナレアさんは言う。
「その遺跡遠征によってギルドの構成員の半数以上、特に幹部の大半を失った魔術師ギルドは通常の運営に支障をきたすようになり......残っていた方々も運営もままならない組織に残るはずもなく......現在は副ギルドマスターを含め三人が残っているだけとなっております。」
「......それはもう人手不足とかいう話ではないのじゃ。」
元々のメンバーが何人いたのか知らないけれど......三人で王都の生活用魔道具の製造、販売、修理なんて出来るわけがないよね......。
「はい、実質は解散と言ってもいい状態ですね。ギルド本部も既に売りに出され、今は路地奥の小さな建物をギルドとして使っているようです。」
「なるほどのう。」
俺が行ったあそこか。
こじんまりした所だとは思ったけど......そうか元々は違う場所だったのか。
「まぁギルドの事情は分かったのじゃ。とはいえそこに関してはしてやれることは何もないがのう。ヘネイの望みは遺跡の調査じゃな?」
「......はい。出来れば遺体を連れて帰ってきて頂けると嬉しいのですが。」
「いや......流石に数カ月も経った遺体を持って帰ってきてやるのは無理じゃ。見つかったら遺品くらいは持って帰ってきてやる。後は安全確保が出来たらそちらで何とかしてやってくれ。」
「かなりの危険があると思いますが......。」
「危険のない遺跡の方が珍しいのじゃ。まぁそれは問題ではない......。」
そう言ってナレアさんは俺達の方を見る。
「聞いての通り相当な危険が予想される遺跡なのじゃが妾は行こうと思う。手を貸してもらえるじゃろうか......?」
少し自信がなさそうに俺達に確認してくるナレアさん。
まぁ何十人も亡くなった人達が出たような場所に付いて来て欲しいと言うのならそんな感じになるのもわかるけれど......俺は戦争が行われている場所に皆を誘ったからな......危険度はどっちが上なんだろう......?
「僕は構いませんよ。遺跡は初めてなのでどのくらい力になれるか分かりませんが。」
「そうだな......俺も遺跡は初めてだ。かなり慎重に挑む必要があると思うが、力にはなるぜ。」
「何事も経験だよ。楽しみだねー。」
「感謝するのじゃ。妾にとっても仲間と一緒に遺跡に潜るのは初めての経験じゃ、楽しみじゃな。」
リィリさんとナレアさんがきゃっきゃしだした。
実に楽しそうだけど......物凄い危険な場所に行く話ですよね?
その姿を見ているヘネイさんは少し青ざめているようだ。
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