第136話 まじゅちゅしギルドへようこそ!



「ナレア様はちょっとアレなので仕方ないにしても、ケイ様はよろしいのでしょうか?以前応龍様以外の神獣様にも会いに行くとおっしゃられていたと記憶しておりますが。」


「えぇ、といっても急ぐ旅ではありませんから。寄り道は十分可能です。」


「......いえ、私が言っているのは危険なところに行くのはよろしくないのではないかと言うことで......。」


なるほど......確かに危険は極力避けるべきだ。

そう考えると遺跡なんてダンジョン以上に行くべきではないのかもしれないけど......遺跡には現代の魔術とは別の、魔法が込められた魔道具が発掘されることもあるらしいし、元の世界へと繋がる手掛かりの為にもいつかは行ってみたいと思っていたんだ。

遺跡専門の冒険者として名を馳せているナレアさんは、一緒に遺跡に行く人としてこれ以上はない選択肢だろう。


「そうですね......ですが、僕自身にも目標というか目的がありまして。遺跡に行くのはその目的から逸れてはいないのです。」


「然様でございますか。私が口を挟んでいい事ではなかったようですね、申し訳ありませんでした。」


「いえ、ヘネイさんが心配してくださったのは有難く思っています。」


ヘネイさんは俺の言葉を聞くと柔らかく微笑む。


「ところでヘネイよ。気になる事があるのじゃが......。」


「何でしょうかナレア様?」


「先ほどお主、妾の事をちょっとアレと言っておったが、アレとはどういう意味じゃ?」


「......そのような事言っておりませんが?」


スッと音が鳴る様な感じで笑顔が消え、無表情になるヘネイさん。

対照的に満面の笑みを浮かべながら問い詰めようとするナレアさん。

そう言えば......俺は今日ここに来た時に貝になるって考えていたな......俺が喋ったせいでこんなことに......。

いや、どう考えても俺のせいじゃないよね?




「ふむ、ここが魔術師ギルドじゃな。随分と慎ましい建物じゃな。」


そう言ってナレアさんは魔術師ギルドの前で腕を組む。

あの後......ナレアさんとヘネイさんの舌戦......というか最後は取っ組み合い......というか半泣きのヘネイさんがナレアさんに掴みかかった所でその場はお開きとなり、魔術師ギルドに話を聞きに行くことにした。

国の研究機関の方は特に情報は無いらしく、今回に限り妙に遺跡に興味を示した魔術師ギルドの方に話を聞いてみたほうが良いとなったのだ。


「ケイは確かここに来ておったじゃろ?中はどうであった?」


「僕が知っているのは受付の方だけですね......何と言うか必死でした......。」


「よくわからんのう......。」


分からないとは思いますが......それ以外に言いようがない感じだったんですよ......。


「お金に苦労しているんだなぁっていうのは感じました。」


「それはまぁそうじゃろうな。本部は売り払って仕事も三人で処理しきれるものではないからのう。収入は絶望的じゃろうし......。」


「まぁとりあえず中に入るしかないんじゃねぇか?」


「それもそうじゃな。」


そう言ってレギさんとナレアさんが魔術師ギルドの中に入っていく。

俺は何となくギルドの中には入らずにいた。


「なんでケイ君ギルドの中に入らないの?」


レギさん達に続いて扉をくぐろうとしていたリィリさんが疑問符を浮かべている。


「......多分ここにいても必死な感じが伝わってくると思うのですよね。」


「それってどういう......。」


リィリさんの疑問に答えようとしたが、それよりも早くギルドの中から声が聞こえてくる。


「!?まじゅちゅしギルドへようこそ!いらっしゃいませ!?」


「......なるほど、必死な感じだね。」


とりあえず受付のおねーさんは相変わらずなのを確認できたのでギルドの中に入るとしよう。




「ご入会ですか!?ご入会ですね!?今書類を用意するのでこちらへどうぞ!」


うん、ナレアさんとレギさんが受付さんに思いっきり掴まっている。

この可能性はちょっと......いや、結構高確率であると思っていたのだ。


「い、いや、妾達は違うの......。」


「そうでしたか!ではご依頼でしょうか!?何をいたしましょう!?魔道具の修理でしょうか!?」


「い、いや。ち、違うからとりあえず落ち着け。」


レギさんとナレアさんが押されまくっている。

これは中々珍しい光景だ、面白い。


「はい!承知いたしました!落ち着きました!それで如何なさいますか!?」


全く落ち着いてないですね。

言葉は通じているのに話が通じていませんね。


「お、おい!ケイなんとかせい!」


「そう言われましても。僕も別に親しい間柄というわけではないですし。」


「妾達とは親しい間柄じゃろうが!ニヤニヤしながら見ておらんで手助けしようとは思わんのか!」


なるほど......それはそうかもしれませんね......。

でも本当にどうやって沈めたらいいかはちょっと俺にも分からないのですが。


「あ!あなたは!覚えていますよ!以前魔術師用の魔道具を買って行かれた方ですよね!ご入会ですね!?」


しまった......覚えられていた上に飛び火した......!


「うむ!妾達はそやつのただの付き添いでな!話はそやつにじっくりしてやって欲しいのじゃ!」


更に生贄に捧げられた!


「あ、そちらの女性は非常に優秀な魔術師ですよ!」


咄嗟にナレアさんも巻き込むことにする。


「なんて醜い足の引っ張り合い......。」


「この世から戦争が無くならないわけだな......。」


そこで傍観者やっている二人もどうかと思いますけどね!?


「おのれケイ!往生際が悪いぞ!」


「最初に巻き込んだのはナレアさんじゃないですか!」


「いや......人をそんな風に災害か魔物襲来みたいな感じに扱うのやめてくれませんか......?」


突然冷静になった受付さんの声が空しく響いた。




「すみませんでした。めったに人が来ないもので興奮してしまいました。」


落ち着いた受付さんが頭を下げている。


「落ち着いたようで何よりじゃ。そして申し訳ないんじゃが、妾達は客でも入会希望者でもないのじゃ。」


「......そうですか......。」


落ち着いたを通り越して一気に落ち込んだ受付さんは絶望したような声を出す。


「まぁ、魔術師ギルドの窮状は聞いておるから気持ちは分からないでもないのじゃ。」


「......ありがとうございます。」


「それでじゃな?今の魔術師ギルドの窮状を招いた要因について話を聞きたいのじゃ。」


「......窮状を招いた要因といいますと。」


「うむ、半年ほど前に見つかった遺跡の事じゃ。」


ナレアさんの台詞を聞いた受付さんの顔が歪む。

やはり遺跡の話はまずかっただろうか......。


「話したくないというのも分かる。じゃが妾達も国から依頼を受けておってな。せめて遺品だけでも回収してもらえないかと。」


「......そういう事でしたか。分かりました。あまりお伝え出来ることはありませんが、協力させてください。」




受付の方に案内された俺たちはギルドの二階、執務室に通された。


「申し遅れました。私は当魔術師ギルドの副ギルドマスター、ヒヒロカと申します。現ギルドマスター代行でもありますが。」


......受付のおねーさんは副ギルドマスターでした。

こちらがそれぞれ名乗った後、ヒヒロカさんの自己紹介を聞いて俺たちは目を丸くする。

まぁ受付に座っていてあんな醜態......対応をしている人がギルドのお偉いさんだとは誰も思わないよね?


「ヒヒロカ殿は副ギルドマスターであったのか。では、当時の話については......。」


「はい、それなりに把握しております。」


執務室で落ち着いた様子を見せるヒヒロカさんは、若くはあるが確かに組織の責任者にふさわしい貫禄を見せている。

最初からこんな感じであれば、誰もあんな風に厄介者を押し付け合う様な対応はしないと思うな......。


「半年ほど前に王都の北東に位置する山でそれまで未発見だった遺跡が見つかりました。その時に魔術師ギルドに所属する数名が遺跡の探索に強い興味を示しまして......ギルドマスターもその内の一人です。」


「普段から遺跡にギルドは興味があったのかの?」


「全く興味がなかったと言えば嘘になりますが......それでも私たちはそこまで高度な魔道具等を作っているわけではありません。生活用魔道具を作る組織ですし、新しい魔術の開発というのにもそこまで力を入れているわけではありませんでした。」


「その魔術師ギルドが遺跡に強い興味を示したか......その理由は聞いておるのかの?」


「それが、ギルドの地位を向上するために研究に力を入れるとしか......。」


そう言って苦々しい表情をするヒヒロカさん。


「研究に力を入れるなら遺跡に行かずとも自分たちで色々とやれることはあるじゃろうに......。」


「恐らく新しい遺跡から発見された魔道具を国の研究機関に持っていかれたくなかったのだと思いますが......。」


「そもそも国の研究機関と魔術師ギルドでは役割が違うと思うのじゃがのう......。」


「そうですね......彼等も分かっていたはずなのですが......。」


「魔道国に留学という手段もあったはずじゃが......いや、すまぬ。事情を知らぬ妾に批判するような資格はないな。」


「いえ、あなたの言う通りだと思います。彼らは地道な努力を嫌い、遺跡と言う安易な希望に飛びついてしまったのだと思います。」


そう言って椅子の背もたれに身体を預けるヒヒロカさん。


「そういう訳でして、遺跡について彼等が何か知っていたということはないと思います。お力になれずに申し訳ありません。」


「ギルドからは何人が遺跡に向かったのじゃ?」


「十三人です。ギルドマスターを含む古参から若手まで、ギルドの中核を成す人材の殆どと言っても過言ではなかったですね。」


「そうか......分かった、遺品を見つけたら必ず持ち帰ろう。約束するのじゃ。」


「ありがとうございます。宜しくお願いします。」


ヒヒロカさんが頭を下げる。


「魔術師ギルドが無くなったとしても個人としての魔術師がいなくなるわけではないので、龍王国の人々は生活に困ることはないでしょう。皆の遺品が戻ってきたら......私も一人の魔術師としてこれからの事を考えていこうと思います。」


顔を上げてこれからの事を考えると言ったヒヒロカさんは寂しそうに笑った。


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