第137話 天地魔法



「遺跡にはそんなすぐに行かないですよね?」


魔術師ギルドからの帰り道、俺はナレアさんに問いかける。


「妾としてはすぐにでも行きたい......と普段なら言うところじゃが、今はそれ以上に興味のあることがあるのでな......そちらが優先じゃ。練習する時間も欲しいし......暫くは街に滞在したいと思っておるがどうじゃろうか?」


街中なので何がとは言わないが、まぁ明白だろう。


「僕としてもその方が助かります。練習もしたいですし、遺跡に行くなら準備はしっかりしておきたいです。」


「俺もそうだな。流石に未発見の遺跡だから情報はないだろうが、出来る限り準備はしておきたい。」


「そうだねー遺跡は楽しみだけど、ご飯は期待できないし、しっかり食べていかないとね。」


リィリさんだけちょっとおかしなことを言っている気がしたけど......概ね時間をかけて準備をすることに賛成のようで良かった。

流石に応龍様の魔法を全く練習せずに遺跡に突っ込むのは勿体ないしね。

それから俺たちは応龍様との約束の日までの数日をのんびり過ごした。

レギさんは仕事をしていたみたいだけど......。




『よく来てくれた、ケイよ。そしてその輩よ、私が応龍だ。』


「こんにちは、応龍様。今日は宜しくお願いします。」


『あぁ。楽しみにしていた。』


......何を楽しみにしているかは何となくわかっているけど......流石にナレアさんに怪我をさせるわけにはいかないので、事前に初めて魔法を使う時は魔力を極力抑えて使うように言ってある。


「こちらが以前加護ををお願いした、友人のナレアさんです。」


「御初御目にかかる。ケイの友人でナレアと申す。今回は不躾な願いを聞いてくれて感謝するのじゃ。」


敬ってはいてもナレアさんはナレアさんだな......その物怖じしない感じは凄いね。


『はっはっは!見事な心胆だな!ケイとはまた違った感じで面白いぞ!お前の話はケイや眷属より聞いていたが、想像以上であったな!』


......やっぱり娯楽に飢えているみたいだね......応龍様は。

いや、応龍様に限った事じゃなさそうだけど......。

気が遠くなるような年月、神域に閉じこもっているんだ。


「ほう?どんな紹介をしていたか気になる所だが......まぁ今それはよい。しかし、なるほど......妾の方も想像以上であったわ。」


『はっはっは、驚いてもらえたようで何よりだ。人間と会うのは数千年ぶりでな、年甲斐もなくはしゃいでしまったようだ。』


今回応龍様は雷と共に空から降りて来たからな......かなり演出過多だった気がする。

後、空から降りてくるのは応龍様の鉄板なんだろうか......俺の時もそうだったけど......人が来るって分かっているのに態々空飛んでいないだろうし......。


「お主とは面白い会話が出来そうじゃ。」


『そうだな。後で色々と話をしよう。とりあえずお前に加護を与えるとするか。近くに来てくれ。』


「うむ、楽しみじゃ。」


そう言ってナレアさんが応龍様の前に進み出る。

応龍様が側に来たナレアさんに手をかざす。

やはり俺の時と同じように特に外見的な変化は何もなく、ナレアさんも意外だったようで少しキョトンとした表情をしている。


『これで加護は与え終わった。しかし、加護を与える時は皆同じような表情になるな。今も昔も変わらん。』


ナレアさんの反応に満足がいったのか応龍様が機嫌良さそうに語る。


「ほほ、無理からぬことだと思ってもらいたいな。昔は分からぬが、少なくとも今の世では魔法とはおとぎ話の世界の物だ。どんな凄いことが起こるかと期待してもおかしくはなかろう?」


ナレアさんもニヤニヤしながら応龍様に答える。

何故かこの二人は相性がいいようだ......面白い事好き同士だろうか......?


『では、試す前に少し説明をしよう。私の加護によって使える魔法は天地魔法。天と地を操る魔法だ。農耕には非常に便利だ、土は簡単に耕せるし天気もそれなりに自在だ。まぁ広範囲に効果を及ぼすとなると相当な魔力量が必要になるがな。他の神獣の加護に比べると消費する魔力量は桁違いと言える。勿論少ない魔力量での運用も可能だ。』


「......なるほど。」


ナレアさんが神妙な顔をしている。


『雷や風、水を操ることも出来る。だが雷は扱いが難しいので慣れないうちは使わないほうが良いな。よく自分で生み出した雷に撃たれるものがいたぞ。』


はっはっはと気軽に笑っているが、それは結構シャレにならないよね......?


『後は地の中や空を自由に動くことも可能だ。』


「ほう......それは面白そうじゃ。」


『だが地の中は呼吸が出来ないからな。あまり行かないほうが良いと思うぞ。』


顔の周りに酸素......というか空気を生み出したりすればいけないかな?

いや土があるから無理か......口の中に生み出しても吐き出せないしな......。

よし、地の中に行ったとしても一瞬だな......。


『逆に空を飛ぶ場合は色々と自由に出来るぞ。まぁ風や気温、空気の対策はする必要があるがこれも全て魔法によって解決できるからな。日差しが強いから日焼けには気をつけよ。』


気を付けるのはそこですか......?

ってか応龍様も日焼けとかするのかな......?


「何事も試してみないと分からない危険があると言った所じゃな。」


『実践に勝る経験はないからな。存分に楽しんでみてくれ。そうそう、空を飛んでいるときに魔力が尽きると確実に死ぬからな。魔力の残量には注意するのだぞ?』


それは確かにそうだろうけど......日焼けより先に言うべきじゃないですかね?


『基本的なところはこんなものだな。後は色々と試してみると良い。では、加護に問題がないか一度魔法を使って確かめてみると良い。初めてだし......大地をへこませてみるとよかろう。』


やっぱり自爆落とし穴をやらせるつもりか......。


『頭の中で地面をへこませる、穴を開けるイメージをするのだ。明確にイメージすればするほど思い通りの効果を得ることが出来る。後はそのイメージに必要な魔力量を流すだけだ。必要な魔力量は感覚で分かるはずだ。』


「......なるほど、確かに今までにはなかった感覚があるな......これが加護によって得た力と言う訳か......。」


ナレアさんは目を瞑りながら発動させたい魔法のイメージを構築しているのだろう。


『慣れるまではイメージしやすいように体を動かすことも有効だ。地面に穴を開けるのなら手を地面につける、とかな。』


「うむ、了解したのじゃ。では今からやってみる。」


ナレアさんがしゃがんで地面に手を置く。

俺はナレアさんの横で万が一ナレアさんの身に何かが起こった場合に備えておく。

一応注意はしておいたが、何しろ初めての事だ。

いくらナレアさんでも完璧に使いこなせるとは行かないだろう。


「よし......それでは、行くのじゃ!」


次の瞬間、俺は突然宙に放り出されたような感覚に陥り目の前が真っ暗になる!


「おわぁぁぁ!?」


落下は一瞬で終わり俺は突然出現した穴の底に尻もちをつくような形で着地する。


「おぉ!出来たぞ!これが魔法か!」


『見事だ!ナレアよ!』


頭上から二人のいぇーい!と言った感じの声が聞こえてくる。

意気投合しているようで何よりですね......。

とりあえず立ち上がり穴の淵から二人の様子を伺う。


「これが大地を操る感覚か、今まで魔道具によって同じような効果を発動させていたが。規模も速度もけた違いだな......。」


『魔晶石に魔法を込めた物の事か?アレは複雑な制御には向いていないからな。加護も持たないものが擬似的に使う以上のものではない。』


「なるほど......しかし本当にこれは凄いな......。」


「ところでナレアさん......他に何か言うこととかありませんか?」


楽しそうにしているナレアさんに穴の中から声をかける......。


「ん?おぉ、ケイよ何処に行ったのかと思っておった所じゃ。」


『ふむ、ケイよ。突然地面に消えていったと思ったがどうしたのだ?』


何で俺の周りはこう......。

とりあえず穴の淵に手をかけて上に登るついでに......。


『おや?ナレアよ。お前の足元の土が消えたようだが?』


「ふむ......不思議な事もある物じゃな。神域ではこういうことがよくあるのじゃろうか?」


俺が穴から這い上がると、ナレアさんの足元にぽっかり開いた穴とその穴の上で浮いているナレアさんの姿があった。

既に俺よりも魔法を使いこなしていますねぇ!?


『ふむ......私の把握している範囲では起こった事はないな......今の世ではどうだ?穴はよく開くのか?』


「ついぞ聞いたことがないのう......。」


「......僕も聞いたことがないですねー、不思議ですねー。」


俺が発言すると応龍様とナレアさんが揃ってこちらを見る。

応龍様はワクワクした雰囲気で......ナレアさんは満面の笑みだ。

いや、先に俺を穴に落としたのはナレアさんじゃないですか......。

神域に冷たい風が吹いた。


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