第157話 スケさんしかない



「それはないねー。」


「......うむ。次にそう呼ばれたらうっかり消し飛ばしてしまうかも知れぬ故、次の言葉は慎重に選ぶのじゃ。」


リィリさんの言葉でナレアさんが再起動した。

そして次に出て来た台詞が危険すぎる......スケルトンさん、迂闊なこと言わないでくださいね......?


「......。」


「......。」


暫くナレアさんと見つめ合っていたスケルトンさんだったが、スーっと視線を逸らして......俺と目が合う。

いや、相手に目玉はないけど......俺を見つめる強烈な視線を感じる。

嫌な予感......というよりも、確信がある。

次にスケルトンさんが言う台詞は間違いなく......。


「そういう訳で、名付けをお願いします。お父さん。」


......あ、これきっついなぁ。

予想していたものよりも遥かに破壊力があるな。

ナレアさんが思考停止したのも凄くよく分かる。

そのナレアさんは矛先が変わったからか腕を組んで頷いているけど......。

後、肩にいるシャルが今にも飛び出しそうな気配を醸し出していたので腕に抱え直す。

それはそうと......名前か。

うん、スケルトンと言えばやはり......。


「あ、スケさんとかはやめて欲しいですね。いえ、何となくですけど。」


いや、違う。

これは心を読まれたとかじゃないはずだ。

いくらなんでも初対面のスケルトンさんに心は読まれないはず。

気を取り直して名前を考えよう......スケルトン......スケルトン......。


「さっき聞き間違えた、アースケルトンなんてどうでしょうか?アース=ケルトンって家名みたいにすれば結構良くないですか?」


「なるほど、少し安直ではありますが、響きは悪くありませんな!うん、気に入りました!では私はこれよりアース=ケルトンを名乗りましょう!皆さまはアースとお気軽にお呼びください!素敵な名前をありがとうございます!お父さん!」


喜んではくれたのはいいが、その呼び方はやめてもらおう。




「なるほど!外はそのような感じなのですな!龍王国ですか!一度龍と言う生き物を見てみたいものですな!」


「まぁ、普通の人も龍は中々見ることは出来ないのじゃ。それは諦めた方がいいじゃろうな。」


スケルトン、もといアースさんとナレアさん達は遺跡の外の話に花を咲かせている。

レギさんも警戒を解いてリィリさんと共に会話に加わっているのだが、話し込んでいていいのだろうか?

とりあえず俺はマナスにお願いしてファラに戻ってきてもらうように伝えてもらったので、戻ってくるのを待っている所だ。

遺跡を管理......というか遺跡に住んでいたアースさんとも友誼を結ぶことが出来たし、態々危険を冒してまで探索をする必要はないだろう。

調べたければアースさんに頼めばいいのだから。

しかし、この遺跡とアースさんはこれからどうするのだろうか?

ここまで気さくな感じで会話のできるアースさんを倒す必要性は全く感じないけど、それは俺達だからってこともある。

アースさん自身も言っていたけど、いくら友好的に振舞っても一般の方々にアースさんは受け入れてはもらえないと思う。

しかしこのままここに放置というのもいただけない......。

たとえ調べつくした遺跡と言われても、残り物や新しい発見を求めてここを調べに来る人はいるだろう。

だがこの遺跡を出て暮らすのも難しい。

何処からどう見てもアンデッドだし......リィリさんのように誤魔化せば何とかなるってレベルではない。

だからと言って、じゃぁさようならと放り出してしまうというのも......人としてどうかと思う。


「なるほど、皆さんは冒険者ということですね。あー遺跡の探索や研究というのは心が惹かれますね。街での仕事は私には向いていないと思いますがね!はっはっは、いや、はっはっは。」


「お主は少し顔が一般受けしにくいからのう。街での仕事はやめておいたほうが良いじゃろうな。」


いや、一般受けとかいうレベルではないと思いますが。

っていうか冒険者ギルドに入った時点......いや、街に近づいた時点でアウトだな。


「いやぁ、骨の身ではなかなか世間に溶け込むのは難しそうですなぁ。何か誤魔化せるような魔道具でも作ってみますかな?」


「ほう?そのような魔道具があるのかの?」


「確か変装に使う魔道具がありましたな。まぁ私の美白がくすんだ茶色に変わるといった程度の代物ですが。研究すれば人の顔みたいに出来るかもしれませんな。」


肌の色を変更する感じの魔道具なのかな?

とりあえずいくら色を肌色に近づけても......寧ろ怖さが増す気がするな。


「ふむ、やはり外に出て生活するのじゃな。」


「そうですな。あー最終的には街で暮らすことを目標にしますかな!やはり目標があると気合が入りますからな!」


「それは分かるが......町で暮らせるようになるまではどうするのじゃ?この遺跡はもう暴かれてしまったからな......妾たち以外の人間もいずれはこの場所までたどり着く。と言うよりも上層の警備や罠の類は全て無力化しておるし、そう遠くない内に人がくるじゃろう。その時に妾たちと同じように話を聞いてもらえるとは思わぬほうがいいじゃろうな。」


「そうですよねぇ。研究にどのくらい時間が掛かるか分からないですしなぁ。あーこのゴーレムを使ってこの階への入り口を塞いでしまうというのも手ではありますが......。」


そう言ってコンコンと座っている地面、いや巨大ゴーレムを叩くアースさん。

まぁこのゴーレムが塞いでいたらそう簡単には通れないとは思うけど......。


「絶対に人が入ることが出来ないとは言いにくいのう。」


壁や床もかなり分厚く硬いとは言え、道具を使って破れないかと言われればそれは否だろう。


「困りましたなぁ。どこかの洞窟にでも引きこもりますかな......。」


「それがいいかもしれぬのう。幸い龍王国は山が多いから隠れる場所はいくらでもあるじゃろう。」


遺跡なら侵入者はいるだろうけど、ただの洞窟なら余程の物好きじゃない限り態々入って調べる人もいないか。

アースさんの安全の為にはそれが一番いいかもしれない。


「まぁ暫くは妾達がこの遺跡を調べるからのう。その間は付き合ってくれぬか?まだまだお主とは話したいことが多いのじゃ。」


「えぇ、勿論ですとも!それにこの遺跡を離れた後も是非連絡を取り合いたいですな!」


「ふむ?しかし、手紙でのやり取りはなかなか難しい物があるのう。」


「一応ファラの配下の子たちに頼めば何とかなるかもしれませんが......。」


「なるほど、それはありじゃな。妾達はこれからも旅を続けるからそう簡単に手紙のやり取りは出来ぬからのう。ファラの配下であれば妾達の事を追いかけることも可能じゃろう。」


ネズミネットワークがあれば移動を続ける俺達を追いかけられるし、山の洞窟であっても問題なく配達してくれるだろう。

鳥とか蛇とか......襲われる可能性はあるけど......。


「連絡でしたらいい魔道具がありますぞ。あー手元にはありませんが。遠方と会話のできる魔道具です。まぁ、使ったことはないのですがね!はっはっは、いや、はっはっは。」


相手が居なかったからね......。


「ほう!それは凄い魔道具を知っておるのう!是非見せてもらいたいのじゃ!」


「私も外の世界の魔道具を見せて頂きたいですな!」


「うむ、それは任せるのじゃ!」


二人が非常に盛り上がっている。

お互いの知らない知識を語り合えるからな......二人の会話は永遠に終わらないのではないだろうか?

次の話題に移った二人を見てそう思っているのは俺だけではないはずだ。

リィリさんは苦笑しながら二人を見ていて、レギさんは疲れたような表情をしているが笑顔ではある。


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