第158話 帰路



遺跡の奥でアースさんとの邂逅を果たしてから数週間が経過した。

その間ナレアさんは遺跡を隅々まで調べ、その傍らアースさんとの会話を楽しんでいた。

その間に俺達は先遣隊の全ての遺品を地上に運び出した。

ファラたちに調べてもらっていたもう一つの扉の向こうは地下に作られた庭のような感じになっていて、先遣隊の方々はそこに埋葬されている。

先遣隊の方々は戦闘によって命を落としたわけでは無い為、運び出された遺品に壊れた部分はなくアースさんが清めてくれていたので綺麗なものだった。

しかし、流石に量が多いので騎士団の人達が王都まで運ぶのを手伝ってくれているのだが......馬車移動だ。

そう、俺は今馬車に揺られているのだ。

出来れば乗りたくなかったのだが......本当に乗りたくなかったのだが、流石に俺だけ別行動を取るわけにもいかない。


「相変わらず、馬車が苦手みてぇだな。」


しんどそうな顔をしているだろう俺にレギさんが声をかけてくる。


「いや、この振動ホントきついですよ......。」


「なんじゃ、ケイは馬車が苦手なのかの?」


「腰というか、背中というか......首というか。とにかくどこもかしこも痛いです。」


硬い椅子は地面のでこぼこを直に伝えてくる。

その衝撃を吸収するのは俺の腰や背中しかない......サスペンションとかクッションとか欲しいです。


「そんなにしんどいなら、外を歩いたほうがいいんじゃない?」


「その方がいいかもしれませんね......うん、そうします。外を歩いてきますね。」


身体強化のおかげで外を歩くのに苦はない。

というよりも馬車に揺られるよりも歩くほうがかなり楽だろう。

乗りたくはなかったが、意外と慣れている可能性も考えて乗ってみたが......やはり駄目だったね。

俺は馬車から飛び降りると体をほぐす様に伸ばしながら馬車の横を歩き始める。

空を仰ぎ見ると雲一つない青空で少し冷えた空気が身体に心地よい。

首を鳴らしながら歩いていると馬車からナレアさんが降りてきた。


「あれ?ナレアさんも外を歩くのですか?」


「うむ、いい天気じゃしな。たまにはこういうのもよかろう。」


そう言ってナレアさんは俺の横に並び歩き始める。


「......気持ちのいい風じゃな。」


「そうですね。最近ずっと地下に潜りっぱなしでしたし。開放感があります。」


「ほほ、地下遺跡というのも興味深い代物じゃったがのう。」


「でもやはり外の方が空気はおいしく感じます......アースさんはいい住処見つかりましたかねぇ?」


「昨日の夜はまだいい物件を探しているところとか言っておったな。」


快適な洞窟を扱っている不動産さんがあったら紹介するとしよう......。

アースさんがあの遺跡を離れたのは、俺たちが遺跡を出発する数日前だ。

周辺の地図はファラが作ってくれたものを渡してあるが、流石に洞窟の快適さまでは網羅していない。

地図の中にいくつか洞窟はあったので今はそこを渡り歩いているといった所だろう。


「毎日連絡はしているのですね。」


「うむ。あやつの知識は失うのは惜しいからのぅ。無事に隠れ住むことが出来たかは確認しておきたいのじゃ。」


「......まぁそうですね。」


何かちょっと引っかかるものがある気がするが......まぁ、気のせいだな。

彼が無事でいることに問題は何もない。


「あやつのおかげで色々と新しい魔術式を学ぶことが出来たしのう。そして完成したのが、これじゃ。」


そう言ってナレアさんは懐から魔道具を取り出す。

あぁ......馬車から出てきた本題はこれですね。


「問題なく動くはずじゃ。使ってみてくれるかのう?」


「分かりました......爆発とかしないですよね?」


「それは失敗してということかの?」


ナレアさんが訝しげにこちらを見る。


「あー、そこは心配していません。そうではなく悪戯とかで......。」


「......ほほ、それは使ってからのお楽しみじゃな。」


一度キョトンとした表情を見せたナレアさんだったがすぐに悪戯っぽく笑みを浮かべる。


「......まぁ、分かりました。あれ?これ常に起動している感じですか?」


「うむ、魔力効率はあまり良くないが......まぁそこはケイに譲ってもらった魔晶石を使って何とか力技で解決しておる感じじゃな。次はその辺が課題じゃな。」


『聞こえるー?』


ナレアさんが次の構想を考え始めようとした時、第三者の声が聞こえてきた。


「この声は......リィリさんですか?ってことは遠距離で会話のできる魔道具が完成したのですね?」


俺は声を潜めてナレアさんに話しかける。

ナレアさんは一瞬驚いたようだったがすぐに満面の笑みを浮かべた。


「うむ......流石じゃなケイ。その理解の早さは驚嘆に値するのじゃ。」


「あはは、散々失敗してきましたからね。」


大仰に騒いで注目を集めるわけにはいかない。

遺跡の技術を用いた魔道具だ。

俺達しかいなかった遺跡内ならともかく今は周りに騎士の人達もいるしね。


『うんうん、屋台で金貨を使おうとしていたケイ君はもういないんだねぇ。』


っと......リィリさんに返事をしないと。


「あーリィリさん。こちらケイです。その失敗はもう忘れてください。」


銅貨一枚の買い物に金貨を使ったらほぼ二百枚のお釣りが来るからな......いや、屋台のおっちゃんに拒否されたけど。


「それを聞くと不安になるのう。」


さっきは感心してくれていたナレアさんだったが今度は完全に呆れた声で言ってくる。


「ま、まぁそれはかなり前の話ですから......。」


商品を受け取った後に小銭がないことに気づいたのですよ......。


『龍王国に来てからの話じゃなかったっけ?』


「不安になるのう......。」


「......気を付けます。それはそうと、ナレアさんおめでとうございます。すごい成果だと思います。」


「うむ。発表する気はないがのう。ケイからもらった魔晶石ありきではとてもではないが実用にも耐えられないのじゃ。まぁ理論上可能、みたいな研究成果として出すのもありじゃが......それももう少し先の話じゃな。とりあえず、全員分作ったので妾達はいつでも会話可能じゃぞ?」


『便利だねー。』


「うむ、念話にも対応できるようにいずれはしたいと思っておるがのう。」


「それはとても助かりますね。」


「まぁ、念話の仕組みを調べるのが先かのう。」


やりたいことは山積みのようだ。

完成はまだまだ遠そうだ......それに俺も一つ問題を発見したし......。


「まぁとりあえず、街についたら各々の好みに合わせて装身具にでもするのじゃ。今のままでは味気ないからのう。」


『そうだねー。でも石が大きいから指輪は無理だね。』


「それは仕方ないのう......耳飾りにしたら耳が千切れそうじゃな。」


ナレアさんたちが楽しそうに話をしている。

女性がアクセサリーの類を好きなのはどんな世界でも共通なのだろうか?


「あーナレアさん。その前に一つ思ったことがあるのですが......。」


「む?なんじゃ?」


「この魔道具、常時起動型ですよね?つまりこれを持っていると常に相手に声が筒抜けってことですよね?」


「そうじゃな。」


「一人で寛いでいる時とか......用を足している時とか......全部ですよね?」


「......。」


『......。』


二人の沈黙が痛い......二つ目は言わないほうがよかったか......?


「すまぬ。リィリ。この魔道具は一度回収するのじゃ。このままでは使い物にならぬ。」


表情に色を無くしたナレアさんがリィリさんに話しかける。

まぁ気持ちは分かりますが......。


「あ、ケイはそのまま持っておっていいのじゃ。肌身離さず持っておくがよい。」


「遠慮します!」


どんな羞恥プレイですかね!?


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