第159話 王都への帰還
「なんじゃ、遠慮することはないのじゃ。妾からの贈り物じゃ。それとも妾からの贈り物は受け取りたくないと言うのかの?」
胸の前に手を組んで上目遣いにこちらを見てくるナレアさん......。
一瞬受け取りそうになったが、いやあからさまにこれハニートラップだ!?
「......そんな風に言ってもダメです。流石にこれは厳しすぎます。」
「......一瞬ちょっと受け取ろうとした癖に、立て直しが早いのじゃ。」
そう言ってナレアさんはあざといポーズを止めて魔道具を懐にしまう。
まぁ今はナレアさんとリィリさんしかもっていないから大丈夫なのかな?
「まぁこの魔道具はついでじゃったのじゃ。話は別にあってのう、この後はどうするのじゃ?すぐ東に向かうか?」
「あぁ、今後の動きですか。少し......というかかなり遠回りになるのですが、一度母さんのところへ戻ろうと思います。応龍様から預かった届け物もありますしね。」
「ふむ......天狼様の所か。遠いのかの?」
「んーここからだと結構かかるかもしれません。都市国家の......ナレアさんと初めて会った場所とは違いますが、あの辺りですね。」
「なるほど......シャル達でも十日以上はかかるかもしれないのう。次の神獣のいる東とは真逆じゃな。」
「それがちょっと気になる所なのですよね。」
「まぁ、急ぐ旅では無いのじゃろ?のんびり物見遊山でもしながら行くとするのじゃ。東の地ではそんなのんびりとしたことは出来ぬじゃろうがのう。」
東の地か......仙狐様を探すのはかなり骨が折れそうだよな......ヒントは四千年前に黒土の森と呼ばれていた場所......まぁ応龍様の神域より北側ってことも分かっているか......応龍様の神域は南北に見ても中央っぽいから探す範囲は一気に半分だね。
森が残っていれば......まだ見つけやすいだろうか?
「仙狐様を探すのは本当に苦労しそうですね......。」
「そうじゃな......応龍が三日でどのくらい飛べるかが分かればかなり絞れるのじゃがな。」
「本人の感覚しか目安になるものがないですし、難しいですね......何か比較対象があればいいのですが。」
「厳しいのう。今は本人も神域内の極めて狭い範囲でしか移動が出来ないから調べることもできないのじゃ。」
「僕らが飛ぶよりも遥かに早いはずですから、僕らの速度で三日かかる距離を調べましょうか。そこよりも東を調べるってやり方をすればもう少し場所を絞れそうです。」
「ふむ、それが良さそうじゃな。三日でどのくらい飛べるかか......面白そうな実験じゃ。何なら競争でもするかの?」
「それも面白そうですね。」
「では負けたほうが一つ言うことを聞くということでどうじゃ?」
「なんか、久々に聞いた気がしますね、それ。そう言えばすっかり忘れていましたが二つほどお願い出来るのでしたっけ?」
「......藪蛇じゃったか。」
ナレアさんが眉を顰める。
「まぁ、今のところ特には思いつきませんし後日改めて、ですね。」
「こんな美少女相手になんでもお願いしていいというのに、無欲な奴じゃな。」
「迂闊なことをお願いしたら、今後ずっとからかい続けますよね?」
「なんじゃ......からかわれるようなことでも考えておったのかの?」
にやにやしながらナレアさんがこちらをのぞき込んでくる。
まずい、この会話自体が罠だ。
何か話題を変えなくては......。
「そう言えば龍王国に戻ったら今回の件はどんな感じに報告するのですか?」
「......ケイよ、話題を変えようとするのは構わぬが......それをここで話せと?」
そう言ってナレアさんは周りに視線を向ける。
すぐ傍には居ないとは言え、一緒に移動しているのは龍王国の騎士の方々だ。
実験する必要があった先ほど魔道具とは違い、態々外で話すような内容ではないな。
「すみません、龍王国に戻ってからのほうが良さそうですね。」
「それが良かろう。」
なんとなく会話が途絶える。
心地よい風が吹き、ガラガラと馬車の牽かれる音だけが辺りに響いている。
遺跡に行くまでは二日しかかからなかったが、馬車では山を迂回しなくてはならないため龍王国に戻るまで二週間ほどかかるそうだ。
二週間の馬車の旅......正直心も腰も折れそうだ。
「ほほ、そんなに馬車が嫌いかの?」
「いや、毎回思うのですけど......なんで考えていることが分かるのですか?」
「ふむ、そうじゃな......遠くを見て馬車を見て、背中をほぐす様に伸ばした後にため息をつく。ケイが外に出て歩いている理由も知っておるのじゃ、誰でも分かると思わぬか?」
......わかりやすっ!
俺分かりやす過ぎるよ!
「......まぁ、今考えていたのは今日の晩御飯の事ですけどね?」
「へネイや妾の前でケイに話しかける時のクレイドラゴン並みに挙動不審じゃな。二人とも腹芸は向いていないのじゃ。」
そう言って笑うナレアさんだが......邪悪と言っても差し支えないような笑みに見える。
いや、そんなことはないと思うのだけれど......残念ながら俺にはそう見えた。
結局、俺は王都までの道のりの殆どを馬車の外で過ごした。
俺が歩いていることにシャルは物凄く不満だったようだが......何とか宥めて我慢してもらった。
強化魔法がなければこの距離を歩くことは絶対無理だっただろうな......。
なんだかんだで一月以上ぶりとなる王都だったが......特に以前と変わったところはないな。
相変わらず通りには活気があるが整然とした雰囲気が漂っている。
「今日はどうしますか?」
「とりあえず宿だな。遺品は騎士団がそれぞれの組織に渡してくれるそうだ。」
「魔術師ギルドは遺品を家族に渡すのも大変そうですね。」
「そうだな......。」
魔術師ギルドは副ギルドマスターのヒヒロカさんを含めて三人しかいないみたいだし......遺品整理も大変だろう。
王都を去る前に一度は顔を出しておこう。
運んできた遺品の乗った馬車の方に目を向けると、王都まで同行してくれた部隊長と話をしていたナレアさんがこちらに向かってくるところだった。
「遺品は一度検分をしてから受け渡しをするそうじゃ。妾達はへネイの所に行って報告すれば今回の仕事は終わりじゃが、報告書を作成する必要があるので少し時間が欲しいのう、概要は既に纏めてあるのじゃが。まぁ、長旅で皆も疲れておるじゃろうし、報告が終わったら暫くこの街でゆっくりするかの?」
「そうだね。まだ王都のお勧めのお店は行きつくしてないから、もう暫くはここに居たいかな?」
「俺も異論はねぇ。まぁ滞在中は軽く仕事を受けるかもしれねぇが。」
......この二人は本当にブレないな。
それにしてもリィリさんの場合、お勧めされたお店で次のお店を聞いてくるから何時まで経っても終わりが来ないんじゃ......全てのお店を回る気だろうか......?
「僕もそれで構いません。」
「では宿に行くとするかの。どこか行きたい宿はあるかの?」
「前とは違う宿でご飯のおいしいところがいいなぁ。」
「まぁ、リィリはそうであろうな。二人はどうじゃ?何か希望はあるかの?」
「僕は特にないです。」
「俺も適当で構わねぇぜ。」
俺たちがそう言うとナレアさんは一度頷き、しばし考え込む。
「肉と魚でははどちらがいいかの?」
「肉。」
「魚。」
ナレアさんの問いにリィリさんとレギさんが条件反射のように即答する。
レギさんは注文はなかったんじゃなかったのかな?
「......うむ、どうしたものかのう。」
「おいおい、リィリ。今まで肉は散々と食っただろ?久しぶりに魚でもいいんじゃないか?」
「えぇ?王都は内陸だし、魚より肉のほうが新鮮で美味しいんだよ?ここは肉一択じゃない?」
「態々ナレアが肉か魚か選べって言ったんだぞ?それはうまい魚が食えるってことだろ?」
「......そ、それはそうかもしれないけど......。」
おぉ、レギさんが優勢だ。
「それに、肉料理がうまい店はこの街には多いが、お前の言うように魚はここじゃ珍しいから店自体が少ないだろ?ナレアのお勧めが外れとは思えないし貴重な機会だ。ここは魚でいいだろ?」
「う、く......分かった。ごめんね、ナレアちゃん。お魚料理の方を案内してもらっていいかな?」
「うむ、了解じゃ。二人を落胆させない自信はあるので期待しておいて欲しいのじゃ。」
そう言ってナレアさんが歩きだしリィリさんが横に並ぶ。
俺はどこか満足気なレギさんと並び二人についていった。
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