第406話 あの日の答え
「あー、まぁ、嘘をついていたって言うのは確かに気まずいかもしれませんね。」
俺が思いついた様にして言うと、ナレアさんがかぶりを振りながら答える。
「いや、まぁ、それもそうじゃが......髭も散々言っておったが......相当な年齢じゃぞ?」
「えっと......そこは何も気になりませんが......。」
「む......そ、そうかの?」
「えぇ......僕が......僕が好きになったのは、今のナレアさんです。今のナレアさんは今まで生きて来た人生によって作られたわけですし、その過ごした年月を愛おしく思いこそすれ、忌避することは一つもないと思うのですが......。」
「......。」
若干恥ずかしさを覚えないでもないけど、それでも素直な思いをナレアさんに伝える。
ナレアさんは何も言わずに俯いてしまっているけど......。
「それに、年齢がどうであろうと......ナレアさんは凄く可愛いですし......いや、こういう言い方だと見た目の問題かって言われるかもしれませんが......でも、うん。可愛いから問題ないですね。」
「......ぅ......。」
「まぁ、嘘をついていたことに関しては......まぁ、そもそもナレアさんが十六歳とは思っていませんでしたし。」
「なんじゃそれは!?」
俯いていたナレアさんが顔を跳ね上げて食って掛かってくる。
ただ、その顔は真っ赤に染まっていたけど。
「いや......初めてお祭りで会った時は......もっと幼いのかと思っていましたし......その後一緒に居る様になってからは、貫禄というか立ち居振る舞いというか......そういうのがちょっと十六歳の女の子に出せるような感じでは無かったので。」
「......早熟なだけかもしれぬじゃろ。」
「いや、流石にそれは無理がありますよ......まぁ、偶に見た目相応ってこともありましたが。」
「それはどういう意味じゃ......?」
「......見た目通り中身も可愛いって話です。」
「......ケイ、誤魔化そうとしておらぬかの......?」
「本心です。」
でも誤魔化そうとしてないとは言いません。
そんな俺の考えに気付いたのか、ナレアさんが半眼になりながらこちらを見つめてくる。
俺は全力で他意はありませんという思いを込めて笑顔を浮かべる。
その想いが通じたのか分からないけど、ナレアさんは軽く嘆息すると俺から視線を逸らす。
「妾は三百年程生きておって五十年程前まで魔王の地位におった。魔王を退いてからは国政にはあまり関わる事はなく、精々相談役と言ったところじゃな。それよりも、自由気ままに遺跡の探索や魔術の研究なぞをして過ごしておった感じじゃ。」
なるほど......五十年も前の魔王なら寿命の長い魔族の方々ならともかく、他の国では殆ど気づかれない感じか。
あ、そう言えば龍王国であったオグレオさん......ナレアさんが顔を見せた時、物凄い反応だったのは先代魔王という事を知っていたからか。
「まぁ、考えておるとおりじゃ。まぁ、当時とは髪型も違うし魔道国内でもあまり気付かれないがの。なんせ退位して五十年じゃ、知り合いでもなければ気づかぬ。」
まぁ、映像記録とかがないこの世界じゃ大国の先代トップであっても普通の人達はわからないだろう。
それが五十年も前の話だしなぁ、確かに余程近しい人でも無かったら覚えてないだろうね。
そう言えば......オグレオさん以外にもナレアさんに明らかに丁寧な人達がいたな。
「龍王国の......ヘネイさんやワイアードさんは知っているのですね?」
「うむ。龍王国の王やヘネイ達上層部は妾の事を知っておる。まぁ、一個人としての付き合いと公言しておるがの。後は......カザン達も知っておる。」
「カザン君達が!?」
「まぁ、領主を名乗っておるとは言え、実質あそこは国であやつは王じゃ。流石に教えておかねば後々問題になる可能性が無いとも言い切れぬからのう。まぁ魔道国から何かしら要求したり、弱みに付け込んだりすることはないから安心せよとは言ってあるのじゃ。妾を出汁にそんなことをしたら、上層部全員叩き潰すと言っておるしの。」
何か頭の痛そうな顔をしているルーシエルさんや魔道国の上層部の人達が目に浮かぶようだ。
上層部の人達には会ったことが無いけど......まぁ、このままお会いせずにおきたい。
「まぁ、面倒な立場ではあるが、表向きは魔道国とは関係ない一般人として振舞っておる。」
......一般人として振舞って......いや、喋り方と偉い方々への対応以外は確かに一般人だな。
「......そ......それで、どうじゃろうか?妾は先代魔王であり、ケイよりも相当年上じゃ......それでも......その、あの......あの時の言葉は......。」
「変わりません。ナレアさんの年齢も立場も僕にはあまり関係ありませんし......いえ、立場は気にした方が良いのかもしれませんが......気にした方がいいですか?」
「いや......その......それには及ばぬ......というか、寧ろ気にしないでくれた方がよいのじゃが......。」
「では、何も問題は無いです。まぁ......気にした方が良いと言われても、あの時の言葉を撤回するつもりはないのですが。」
俺は真正面からナレアさんを見据えながらそう伝える。
「......う......く......。」
ナレアさんが顔を赤くしながら視線を逸らす。
......正直、勢いで突っ走っているのだが......そろそろ恥ずかしさが追い付いてきそうだ。
でもここで引くわけにはいかない......。
「ナレアさん。保留している件......答えを聞かせてくれませんか?」
「......。」
ナレアさんの顔が真っ赤になり目がぐるぐると回り出す。
......その姿を見ていると、倒れるのではないかと心配になってくる。
俺はそっとナレアさんの肩を掴み体を支えた。
「け、ケイ!?」
ナレアさんの体がびくりと跳ねる。
「ナレアさん。貴方と一緒にこの先の生を過ごしていきたい。僕の一番傍に居て欲しい。貴方が楽しい時は一緒に笑って、貴方が辛い時は僕が支えてあげたい......貴方に降りかかる全ての禍から貴方を守りたい。絶対に、貴方を一人にしません。」
ナレアさんの肩を掴みながら至近距離で想いを伝える。
先程まで泳ぎ回っていたナレアさんの目が、今は真正面からこちらを見ている。
「......ナレアさん、貴方の事を......愛しています。」
「......わ、妾は......妾も......ケイ、お主の事を愛おしく思っておる。」
ナレアさんがゆっくりと俺の腰に手を回してくる。
俺は肩に置いていた手をナレアさんの背中へと回して軽く抱きしめる。
......正直、心臓は破裂せんばかりに早鐘を打っているが......抱きしめたナレアさんも、緊張からか細かく震えているように感じる。
少しの時間......いや、結構長い時間、俺達は抱き合っていた。
ナレアさんは小柄なので俺の腕の中にすっぽりと納まっていたのだが、少し身じろぎをしたので俺はナレアさんを解放する。
しかしナレアさんは俺から離れずに俺の事を見上げてきて......ゆっくりと目を瞑る。
俺は吸い寄せられるように、目を閉じたナレアさんへと顔を寄せ......キスをした。
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