第381話 星空の下で
「それは勿論、僕の目的以外で、ってことですよね?」
ナレアさんに求める物がないのか聞かれたのでナレアさんと同じように質問を返す。
質問に質問を返すなって......何かのネタだっけ?
まぁ、それはともかく確認は大事だ。
「うむ。」
ナレアさんも混ぜ返すことはなくそうだと言ってくる。
「......実は、一つ......新しい望みが出来ました。」
「ふむ?」
「でも......あまりいい望みじゃないと思うのですよね。いや、自分勝手で軽蔑されても仕方ないような望みだと思います。」
「望みとは得てして自分勝手な物じゃと思うが......軽蔑されても、とわざわざ言うということは......他人を巻き込む類の物ということかの?」
ナレアさんは普段と変わりない様子で問いかけてくる。
......う、ちょっと視線が心苦しい。
「......そうですね。確実に......といいますか......他の人にやってもらった上で......はぁ......。」
自己嫌悪からため息が出る。
この話はナレアさんにもするべきじゃなかったな。
......いや、多分俺はナレアさんに甘えているのだと思う。
ナレアさんだったら軽蔑せずに笑い飛ばしてくれる......受け入れてくれるかもしれないとさえ思っている。
「......はぁ。」
余計自己嫌悪に陥って来た。
「だ、大丈夫かの?」
ナレアさんが少し慌てた様子で心配してくれる。
なんというか......心配してもらって少し喜んでいる自分にさらに嫌悪が......駄目だかなりの負のスパイラルに陥っている。
「いえ......自分の身勝手さにほとほとあきれ返っているだけです。大丈夫です。」
「身勝手さかの?」
「えぇ......。」
「......ほほ。」
俺の顔を見ながら一瞬考えるような素振りを見せた後、ナレアさんが微笑む。
「まぁ、話してみるのじゃ。ここまで言っておいて飲み込む必要は無いじゃろ?自己嫌悪は建設的ではないと杓子定規な事を言うが......結構他人に話してみると何でもない事じゃったりするものじゃ。」
「......そうでしょうか?」
「うむ。特にケイはそうやって気分が沈んだ時は良くない方に考える事が多いのじゃ。それにじゃな?ケイが何を求めておるかは分からぬが......他人を巻き込むというのであれば、その相手は恐らく妾達じゃろ?ケイが見ず知らずの人間を不幸にするようなことを望むとも思えぬしのう。それとも世界を滅ぼしたかったかの?」
流石に世界をどうこうしたいみたいな望みではないですよ。
ナレアさんが冗談めかしながら笑ったのでまた少し気持ちが軽くなる。
......俺は本当に単純だな。
「流石に世界はいらないですけど......でも確かにナレアさんの言う様に、巻き込むのはナレアさん達ですね。」
「ほほ、聞かせてくれるかの?」
「......改まって聞かれると非常に情けない感じなのですが......以前龍王国で皆さんとずっと一緒に居たいって話をしたのを覚えていますか?」
「む......う、うむ。覚えておるのじゃ。」
一瞬ナレアさんが言葉に詰まったが俺はそのまま話を続ける。
「あれとほぼ同じですが、決定的に違うと言いますか......。」
「......随分と煮え切らぬが......なんとなく分かった気がするのじゃ。」
ナレアさんが俺の態度を見て察してしまったようだ。
でもこれは俺の口から言わなければならない事だろう。
「......母さんの話......眷属となった人がどうなるのかを聞いた時、もし皆が眷属になってくれたら......本当にずっと一緒に居られるのではないかと......。」
「......。」
ナレアさんは少し難しい顔になる。
「子供みたいなことを言っているのは十分理解しているのですが......ナレアさんもレギさんも眷属になるのは断っていましたし......まぁ、僕自身、神子になって寿命がなくなるのはちょっとって思ったにも拘らず......勝手な事ばっかり考えているなぁと。」
「いや......それは......。」
「神子とは違って寿命が無くなると言う訳ではありませんが......それでも応龍様や仙狐様、母さんの眷属を見る限り、物凄い寿命の長さになると思います。シャルに言わせれば眷属としては下級のクレイドラゴンさんですら、龍王国の歴史より長生きですから......。」
正直人にとってはとんでもない長さだと思う。
母さん達ですら性格が変わるくらいだ、人の精神で耐えられる寿命ではないと思う。
いくら何でもそこに巻き込むなんて......人として、友人として最低だと思う。
「なるほどのう......確かに、眷属になることは軽々には決められぬことじゃ。しかしの、ケイ。妾達は眷属になることは拒否したが......眷属になること自体が嫌と言う訳ではないのじゃ。ただ、妾には仙狐の眷属にならなかった理由があるのじゃ。」
ナレアさんは少し気まずそうに言う。
「先程の繰り言になるのじゃが......レギ殿が断った理由を聞いたわけではないが予想は出来るのじゃ。じゃが、それを妾の口から言うわけにはいかぬ。しかし、レギ殿は眷属になること自体を嫌がっておるわけでは無いじゃろう、リィリの事もあるからの。」
「......。」
「妾の理由は......うむ......そうじゃな。ケイを悩ませてまで黙っておく必要はない物じゃ。まぁ......なんというか、希望と言うか......願望というか......その程度の物じゃからな。」
そう言ってナレアさんは苦笑する。
その様子を見て、なんとなくナレアさんの口からその理由を聞くのは良くない気がした。
「ナレアさん。ありがとうございます。でも今理由を聞くのはフェア......公平じゃない気がします。いや、これだけ情けない所を見せておいて何を今更って感じもしますが......。」
「いや......そんなことはないと思うが......良いのかの?」
「はい。何故か思考が良くない方向に沈んでいたみたいです。恥ずかしい所を見せました......。」
少し気分が落ち着いてきたからか......先程までの痴態を思い出して恥ずかしさが込み上げてくる。
「ほほ。ケイの孤独......というとシャル達に怒られそうじゃが......その気持ちは妾には分からないでもないのじゃ。」
少し寂しそうにナレアさんが笑う。
親しい人たちがいなくなってしまう、その孤独感や喪失感をナレアさんは分かると言う。
誰にでも別れがあるのは当然だ。
しかし、その別れが常において行かれる側だとすれば......それは耐え難い不安と恐怖になりうる。
ナレアさんは魔族で......かなりの長寿と聞く。
もしかしたらナレアさんは......。
「ケイよ。何度も言っている気がするが......その先を考えることはお勧めしないのじゃ。」
先程までと変わらないとても優しい顔でナレアさんが笑っているが......明らかに先程までと空気が違う。
当然俺は先程までの思考を捨てる。
俺だって命は惜しい。
いや、ついさっきまで長すぎる寿命だ不老だなんだと言っていた気もするけど......やはり命は惜しい。
俺は空を見上げる。
「星が綺麗ですね。」
「話題の替え方が下手くそすぎるのじゃ。」
「......ありがとうございます。とりあえず、落ち着きました。」
半眼になって突っ込みを入れてから、ナレアさんが再び微笑む。
「レギさんには折を見て話してみようと思います。」
「うむ、それがいいじゃろうな。まぁ、多分笑われると思うがの。」
ナレアさんは少し意地悪そうに笑う。
「......いや、流石にナレアさんに見せたような態度では話しませんよ?」
「ほほ。なんじゃ、妾に甘えておったのかの?」
うぐ......改めて言われるとまた羞恥が込み上げてくる......。
......何か......仕返しは......やはり......。
俺は空からナレアさんへと視線を戻す。
「そう言えば僕が元居た所の話なのですが......。」
「ん?なんじゃ藪から棒に。」
「とある有名な外国語の教師がですね?貴方の事を愛していますという言葉を、月が綺麗ですねと訳すといいと言ったっていう話がありまして。」
「ふむ?中々面白い表現じゃが......それはその元となった話を知らなければ伝わらんじゃろ?そもそも何故そのような訳し方を?」
「まぁ、本当にそんなことを言ったかどうか諸説あるのですが......僕達の国ではそういう風に直接的な言葉で伝えるよりも、奥ゆかしい表現で伝えるものだってことらしいですけど。」
「なるほどのう、面白い表現じゃが......曲解が大いに生まれそうじゃな。ところで、それがどうしたのじゃ?」
俺は再び空を見上げる。
「星が綺麗ですね。」
「......ふぇ!?」
俺はナレアさんの慌てる声を聞きながら空を仰ぐように坂に寝転んだ。
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