3章 龍王国

第64話 龍王国に向けて



夜明け前、俺たちはグルフのいる森へやってきた。

今日は遂に旅立ちの日だ。

流石にレギさんはこの街に住んで長く、顔も広いので挨拶周りに時間がかかったようだが準備は万端とのことだ。

荷物はそう多くはない、食料と水、簡単な寝具と装備。

一番多いのは俺が神域から持ってきたもろもろだろうか......?

荷物はシャルとグルフがそれぞれ分けて持ってもらっているが、シャルの方が多めかな?


「俺とリィリがグルフに乗せてもらうってことでいいのか?」


「はい、僕はシャルに乗せてもらうので。」


重量的には俺とリィリさんがシャルに乗ってレギさんがグルフに、荷物は半々くらいの方がいいような気もするんだけど......何故かグルフが二人を乗せるアピールをしてきたんだよな。

レギさんとリィリさんに頭をこすりつけて、二人を乗せたいのか聞いたら凄い勢いで頷いたのだ。

あれは二人に甘えていたのだろうか?

グルフも念話が出来るようになればいいのだけれど......まだ難しいみたいなんだよね......。


「わかった。しかしあのシャルがこんな立派な体格をしているとはな......。」


「シャルちゃんは子犬の時は可愛かったけど、今は凄く凛々しくて綺麗だね。」


シャルは二人の言葉に特に反応はしていないが、どことなく得意げな雰囲気を醸し出している。


「シャル、鞍の様子はどうかな?動きにくかったりしない?」


『少し違和感はありますが、動くのに問題はありません。グルフの方も問題ないそうです。』


今回長旅になりそうなのでシャル達に鞍をつけることになった。

馬用のものでサイズもあってはいないのだが、レギさんが調整をしてなんとか二人に装着することが出来たのだ。


「走ってる最中に問題があったら言ってね。レギさんに調整してもらえるし、最悪なくても俺は平気だからね。」


『承知いたしました。走り心地は後で報告させていただきます。』


「うん、よろしくね。レギさん、暫くは東に向かう街道沿いでいいんですよね?」


「そうだな。馬車で半日程進めば小さな村がある、そこからは北東に向かう街道があるからそれ沿いに進めばいいだろう。村に着いた時間次第でもう少し進むか村で一泊するか決めるか。馬車よりは早くつけるんだろ?」


「そうですね、馬車よりはかなり速いと思いますよ。」


「なら、速度を計る意味でも東にある村を目指そう。」


「了解です。それじゃぁそろそろ出発しましょうか。」


「おう。グルフよろしく頼むな。」


「よろしくね、グルフちゃん。」


レギさんとリィリさんがグルフに声を掛けながら背中に登る。


「グルフ、早すぎたり疲れたりしたらシャルにちゃんと言うんだよ?前みたいに無理しなくていいんだからね?」


そう言いながらグルフの首筋を撫でる。

グルフは気持ちよさそうに目を細めた後でゆっくりと頷く。


「前何かあったのか?」


グルフの上からレギさんが声をかけてくる

見上げるほど大きなグルフのさらに上からだ。

グルフの側にいる俺としては真上を見上げるようなものだね。

まだ日が出てなくてよかった、眩しいもんね......いや、太陽がですよ?


「......。」


何故かレギさんが睨んでくるので心の中で言い訳をしておく。

早い所話題を変えよう、いや話してないけどさ。


「えっと......街に来た時にシャルのペースに合わせてグルフが必死について来てくれたんですけど、限界を迎えてひっくり返っちゃったんですよ。だからレギさん達もグルフの様子に気を付けておいてもらえますか?頑張りすぎないように。」


「おう、了解したぜ。しかしひっくり返るまで付いて行くとは、お前根性あるなぁ。」


「シャルちゃんはスパルタだねぇ。」


『......あの程度の速度、流すようなものです。』


シャルが少し拗ねたような感じがしたのでシャルに乗って背中を撫でる。


「大丈夫、あの時もペース緩めにしてくれていたのは知っているからね。それに今回は鬼ごっことかもしてグルフの能力も大体把握出来ているだろうしね。まぁ休み休み進んで行こう。」


『承知いたしました。』


「それじゃぁ、行きましょう!」


この世界に来て初めて訪れた街を後にして、龍王国に向けて駆け出した。

シャルと、グルフがだけど。




シャルの背中に乗って駆けること数十分、街道が辛うじて見える程度に離れて走っているので道はあまりよくないが、そんな場所をものともせず風の様な速さで走るシャルとグルフ。

鐙のお蔭で安定感が増した分前より楽かな?

後ろを見てみるがグルフも問題なくついてきているようだ。

ただ上に乗っているレギさんの顔色が少し悪い気がする。

一度休憩をいれたほうがいいかな?


「シャル、少し休憩しようか。レギさんの顔色が悪そうだ。」


『承知しました。』


シャルが徐々にスピードを緩めてグルフへと近づく。


「レギさん、大丈夫ですか?顔色が悪いですよ。」


「おぉ、大丈夫だ。すまねぇな、予想以上の速度だったんで驚いちまった。」


「あぁ、そうだったんですね。でも丁度いいので少し休憩しましょうか。」


「悪いな。」


そう言ってレギさんとリィリさんはグルフから降りる。


「馬車だと僕の方が疲労が激しかったですけど、今回は僕の方が余裕がありますね。」


「いや、あの速さで緊張しちまってな......ある程度素早いのは知っていたが、まさか俺たちを乗せた状態でこれほど早いとはな......。」


「衝撃的な早さだったわ。シャルちゃん達は速いねぇ。」


「馬車とは比べ物ならない速度ですね。揺れも少ない様に走ってくれていますから、慣れれば馬車よりも遥かに楽だと思いますよ。」


馬車は基本的に歩く速度より多少早いくらいの速度だ。

馬に乗るとしても似たようなものだろう。

競馬みたいに全力で走り続けられるわけないだろうし、馬で移動するにしても基本は歩かせての移動だろう。

まぁこの世界は魔力があるから馬ももっと長時間走ることが出来るかもしれないけれど......。

前みたいに五時間も走ったわけじゃないからかもしれないけれど、グルフもまだ疲れたような様子は見られない。

馬車で半日って前に行った村くらいの距離だよね......?

今どの辺まで来ているのだろう?


「レギさん、今どの辺なのか分かりますか?」


「そうだな。街道から離れてはいるが......もう半分以上は来ているんじゃないか?夜明け前に出発したとはいえ、朝食を村で取れそうな感じだが......朝のそんな時間によそ者が村に行くのは不自然すぎるな......。」


「まぁ元々どこかで適当に食事するつもりだったんだから、もっと先まで進んでいいんじゃないかな?もちろんシャルちゃん達が大丈夫ならだけど。」


『この速度であればグルフも問題ないでしょう。水などの補給が必要ないのであればその村は無視して先に進んでいいと思います。』


「なるほど......その先の村はどのくらいの距離になるんですか?」


「確か、馬車だと次の村から二日程の距離だったかな?そこから先は俺もわからねぇから村で聞く必要があるな。」


「シャル、今日中にそこまで行けるかな?」


『問題ありません、その程度の距離であれば昼頃には到着できると思います。』


「昼くらいにはつけるそうですよ。」


「早すぎんだろ......まぁそれだったら不自然な時間ってこともないだろうし、そこまで行っちまうか。」


『おおよその方角は北東とのことでしたが、街道沿いから逸れて進んでもいいでしょうか?東北東に走れば次の街道にぶつかると思いますが。』


「この辺から街道を逸れて東北東よりに向かっても大丈夫ですか?」


「そうだな......東北東よりならここからでも村を通り過ぎることはないだろうが途中川があるぜ?」


「川ですか......大きいんですか?」


「大して大きい川ではないな、場所を選べば歩いて渡れる程度だとは思うが......。」


「じゃぁ大丈夫かな?」


『多少の川幅であれば飛び越えます。その気になれば水面を走れますが......グルフは無理でしょうね。』


「え?シャル水の上走れるの?」


俺の驚きにリィリさん達が反応する。


「シャルちゃん凄い!」


「マジかよ!?グルフも走れんのか?」


レギさんの問いに凄い勢いでグルフが首を振る。


「グルフは無理なのか......。」


あ、レギさんの呟きにグルフがちょっと落ち込んでる。

グルフの頭を撫でてあげながら慰める。


「まぁまぁ、グルフは魔法を使えないんだし仕方ないよ。こんなに速く長時間走れるんだからそれだけで十分凄いよ。」


「すまん、グルフ。ここまで運んでもらっておいて随分な物言いだった。」


「ごめんね、グルフちゃん。レギにぃはデリカシーが欠落しているから、許す必要はないからその内頭でも齧るといいよ。」


「おい!グルフに齧られたら怪我じゃ済まねぇだろ!謝ってんじゃねぇか!」


「謝るだけで許されるのは相手に傷が残らない時だけよ。」


「うぐ......今度いい飯を用意させてもらう。」


グルフはレギさんに向かって頷くとリィリさんに甘えるように頭を擦り付ける。

レギさん達のパワーバランスを見切ったようだ......。

とりあえず順位付けも済んだことだし、休憩が終わったら次の村まで頑張って走ってもらうとしよう。


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