第377話 おかえりなさい



『おかえりなさい。ケイ。それに皆さんも。』


「ただいま帰りました、母さん。」


「ほほ、また世話になるのじゃ、御母堂。」


母さんの神域に入ってすぐ、結界近くまで俺達を出迎えに来てくれていた母さんに挨拶をする。

母さんの白い毛並みは相変わらず汚れ一つない感じでとても綺麗だ。


『長旅で疲れているでしょうし、この近くに休めるところを用意してあります。話はそちらで聞かせてください。』


そう言った母さんが案内してくれた場所は少し開けていて、そこには木の椅子とテーブルが用意されていた。


「この椅子と机はどうしたのですか?」


そう言えば、この前来た時も人数分の椅子とかあったよね?

俺が以前ここで過ごしていた時はそんなもの作っては無かったと思うけど。


『ふふ、ケイが誰かを連れて来てもいいように暇をみて作っていたのですよ。まぁ、暇だらけなのでかなりの数作ってしまいましたが。』


「これは......削りだしたのですか?」


『えぇ、爪でね。流石に道具を使って作るのは......出来ないことはないのだけど、この方が早いので。』


「そうですか......わざわざありがとうございます。」


綺麗に作られた椅子は、削りだしたものと言うだけあって重厚な感じではあったが座り心地は良かった。


『仙狐にはすぐに会えたのですか?』


俺達が座ったのを見て、お茶を出してくれながら母さんが尋ねてくる。

当たり前のように尻尾を使ってスッとお茶を出してくれたけど......道具を使って日曜大工をする場合は尻尾を使うのだろうか......?

っと返事をしないと。


「はい。応龍様の神域からさらに東に行ったところに黒土の森と呼ばれる森がありまして、その森の地下に仙狐様の神域がありました。途中、寄り道をしていたので少し時間が掛かってしまいましたが、仙狐様には比較的すぐに会えたと思います。」


『それはよかった。ところであのクソきつ......仙狐が貴方達に無礼をしませんでしたか?』


今母さんの口から、とても母さん言葉とは思えない様なものが聞こえたような......いや、聞き間違いだな、うん。

ちょっとレギさん達もぎょっとした顔をしているけど、集団空耳だろう。


「はい。母さんや応龍様から聞いていた印象とは少し違う方でしたよ。とても良くしてくれたと思います。」


『そうですか。少し不安でしたが、何もなかったなら良かった。』


「あはは、とても良い方だと僕は思いましたよ。」


俺がそう言うと母さんは少し顔を顰めたがすぐにいつもの優しい目に戻る。


「それでですね、母さん。お土産と言っては何なのですが......母さんに見せたいものがありまして。」


『お土産ですか?ふふ、なんでしょう?』


嬉しそうに笑う母さんに俺は少し気合を入れて答える。


「現在の外の世界を母さんに見せてあげたいと思いまして......その、幻惑魔法でなのですが......いいでしょうか?」


ちょっと後半は尻すぼみになっちゃったけど、幻惑魔法のことまで怒ったりはしない......よね?


『ふふ、それは楽しみですね。是非お願いします。』


俺の心配は杞憂だったようで母さんは柔らかく笑いながら言ってくれる。


「はい!じゃぁ、行きますね。まずは応龍様のいる龍王国から......。」


そう言って俺は龍王国の王都の街並みのを幻で映し出す。

街並みやそこで出会った人のこと、食べた料理や起こった事件なんかをつぶさに紹介していく。

時に驚き、時に笑いながら母さんは本当に楽しそうに俺の話を聞いてくれた。

偶に魔法を使うのをナレアさんに変わってもらいながら俺は今まで遭遇したことを殆ど余すことなく母さんに伝える。

ダンジョンや遺跡の件は少し心配するような様子も見れたが、基本的には楽しそうにしてくれていた。

最後にリィリさんと目が合ったので、レギさんが英雄として有名になって各地でその功績を舞台として演じられているという話をした時、レギさんから物凄い睨まれた。

いや、母さんの手前、笑ってはいたのだけど......その背後に般若が見えた気がする。

いや、この世界に般若はいないと思うから俺の気のせいだと思うけど......。


『ふふ、本当に楽しそうな旅だったのですね。いえ、前回帰って来た時も色々と話を聞いていましたが、こうして目で見せてもらえるとまた一味違いますね。まさか幻惑魔法をこんな風につかうとは......向こうの世界にいたケイだからこそ思いついた使い方なのでしょうか?』


「ほほ。御母堂、それは大いにあると思うのじゃ。妾も幻惑魔法を使う時はケイから聞いた話を元にして色々と構築することが多いのじゃ。」


母さんの言葉をナレアさんが肯定する。

ナレアさんの幻惑魔法は俺とは比べ物にならないくらいのレベルだし、多分にお世辞が入っていると思うけど......まぁ、この件に関してはテレビとかカメラとかがあったから思いついたことかもしれないね。

ただまぁ、技術的にそれが成り立っているのか全く分からないけど......。

そもそも現代社会の根幹とも言える電気がよく分かっていないのだから仕方ない気もする......。


『ナレアさんは、幻惑魔法と随分相性が良いみたいですね。』


「う、うむ。どうやらそのようじゃ。」


『ふふ、そんなに警戒しなくて大丈夫ですよ。確かに私と......仙狐はあまり相性が良くありませんが、幻惑魔法自体に思う所はありませんし......その加護を持っているからと嫌ったりはしませんよ。』


そう微笑みながらいった母さんを見てナレアさんが頭を下げる。


『それに、ケイの周りに頼りになる方が多くいるのは安心できます。』


そう言ってナレアさんだけではなくレギさんやリィリさん、そして後ろに控えているシャル達を見渡す母さん。


『先程の話を聞いて心配もしましたが、それ以上に安心しました。ここに居る皆さんが一緒に居てくれるからこそ、こうしてケイが楽しそうに外の世界を巡っていられるのだと。前にも言いましたが何度でも言わせてください。本当に皆さん、ありがとうございます。』


以前帰って来た時と同じように、母さんが皆の顔を見ながら頭を下げる。

そんな母さんを皆が微笑みながら見ている。

......うーん、やはりこういうのは気恥ずかしいな。


『そういえば、レギさんは加護を貰わなかったのですね?リィリさんは仕方ないにしても、何か理由があるのですか?』


顔を上げた母さんがレギさんの方を見ながら少し首を傾げる。


「私ですか?」


『えぇ、私の加護もナレアさんには上げましたが、レギさんは加護を受けない理由があるのですか?』


「私はあまり魔力がないので。神獣様に加護を頂いても宝の持ち腐れになってしまいます。」


『なるほど、確かにレギさんの魔力は随分と少ないように感じますが......今の人達は魔力は少ないのでしょうか?』


「うむ。レギ殿が特別少ないという事はないのじゃ。人族の平均的な魔力量といったところじゃな。」


母さんの疑問に大体の魔力量を見ることが出来るナレアさんが答える。


『やはり、人の持つ魔力は減衰しているのですね。昔は魔法を使えるくらいの魔力を持っている人が普通でしたから。』


そう言えば、昔の話を聞いた時に多くの人が色々な神獣様の加護を貰っていたって言っていたっけ。


『魔力を増やす方法は失伝しているのでしょうか?』


「魔力を増やす方法のう。色々話はあるが......全部眉唾ものじゃのう。」


ナレアさんが苦笑しながら母さんの問いに応える。


『ふふ、それは面白そうですね。どんな話があるのですか?』


「そうじゃのぅ......妾が知っているのは、怪しげな薬を飲むだの怪しげな儀式をするだの怪しげな土地にいって祈るというのもあったかのう......?」


『ふふ、怪しげな物ばかりですね。』


母さんが楽し気に笑う。

そういう変な宗教とかおまじないとか迷信ってどこの世界にでもあるんだなぁ。


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