第376話 家族



森から姿を現したのは大きな狼の群れ。

大きいと言ってもシャルより少し小さいか同じくらいといったところだけど。

......いや、十分過ぎる程大きいな。

シャルは自分の体の大きさを頻繁に変えるからか、俺の中で大きさの基準がグルフになっている気がするな。

レギさん達は警戒を強め武器を構えるが、グルフがゆっくりと前に進み出ると巨大な狼の群れが身体を伏せた。


「......この魔物は、グレーウルフ......か?俺の知っているグレーウルフより明らかにでかいが。」


「えぇ。おそらくグルフが僕らと一緒に来る前にいた群れだと思います。」


「へぇ、グルフちゃんと同じか少し小さいかな?」


「以前ここに来た時には会わなかったのう。」


俺達の見る前でグルフに平伏しているように見える群れだけど......グルフって何か偉いんだっけ?

あぁ......確か元族長の子供だったっけ?

元族長は......シャルが......いや、まぁ襲って来ようとしたんだしそれは仕方ない......。

それにしても......。


「グルフちゃんすごいキリっとしてるね。」


「そうですね。」


授業参観......いや、友達の前で親と会った感じだろうか......?

......どっちが家族でどっちが友達かは......微妙かも知れない。

なんせ俺達の前ではデレデレだからな......普通は家族の前でだらけて友達の前でキリっとすると思う......。

そんなことを考えながらグルフを見ていると、小さなグレーウルフが二匹ほどグルフに駆け寄って体を擦り付ける。


「ん?あの子達は......?」


以前俺達を襲おうとした時にはいなかったと思うけど......見た所子供みたいだし、狩りにはつれていかないか。

しかし、随分とグルフに懐いているみたいだけどグルフの家族......兄妹とかかな。

グルフの周りをはしゃぐようにぐるぐると回るグレーウルフは尻尾を千切れんばかりに振り、物凄く喜んでいるのが一目で分かるといった感じだ。

......普段のグルフの動きにそっくりだ。


「なんかグルフちゃんの傍にいると、普通の大きさのグレーウルフがちっさく見えるね。」


「あ、普通の大きさのグレーウルフってあのくらいなのですね。」


グルフの周りにいるのは少し大きめな成犬って感じで......まぁ、俺が魔法を使えるようになる前に森であっていたらビビっていただろうけど、シャルやグルフで慣れてしまっているし、今ならちょっとびっくりするくらいでいけそうだ。


「普通のグレーウルフしか知らなければ、グルフの奴がとんでもない脅威だって分かるだろ?」


「あちらが標準的な大きさってことは......確かにグルフは規格外の大きさですね。」


今、森から姿を現したグレーウルフ達を見渡してもグルフより一回りか二回りは小さい感じだけど、普通のグレーウルフと言われている子達はさらに一回り以上小さく感じる。


「グルフちゃんはお澄まししてるけど、纏わりついてる子達は物凄くはしゃいでて可愛いねー。」


「そうですね。弟とか妹でしょうか?」


普通のグレーウルフの大きさってことはもう大人なのかもしれないけど、あのはしゃぎっぷりを見るとまだ幼い感じもする。


『あの者達はグルフの子供のようです。』


俺の疑問にシャルが答えてくれる。


「へぇ、グルフの子供か......。」


なるほど、兄妹じゃなくってグルフの子供か。

それならあのはしゃぎっぷりも......。


「「......子供!?」」


なんか皆の声が重なったけど、今それは問題じゃない。

子供って子供!?

グルフのお子さん!?


「グルフって子供がいたの!?」


『そのようです。』


シャルは特に何も感じていない様だけど......グルフが子持ち。

グルフがお父さん?

甘えん坊でお腹を見せながらきゅんきゅん鳴くグルフが......?

身体を洗っている最中にレギさんを見かけて大喜びで飛びついて怒られるグルフが......?

シャルの訓練に怯えて、丸見えなのにリィリさんの後ろに隠れるグルフが......?

ナレアさんが魔法で作り出したシャボン玉を追いかけて、夢中になり過ぎて木に激突するグルフが......お父さん?

グルフの甘えん坊な所や、お間抜けな所が走馬灯のように脳裏に去来するが......ま、まぁわんことかでも子供以上に甘えん坊ではしゃぐ親犬もいるしね?

それに今のグルフは、子供たちの前ですごくキリっとしているし......まぁそういうこともあるだろう。

しかし......グルフがお父さん。

なんか......なんだろう......物凄くショックを受けている俺がいる。

そんな中、グルフよりも小さいが、グルフにまとわりついている子達よりも一回り程大きなグレーウルフが、ゆっくりとグルフに近寄って体を少しだけ擦り付けた後、子供たちを伴って群れの中に戻っていく。

......あれって奥さんだろうか?

グルフは何をされてもお澄ましモードで、その心境は全く分からない。

いつもであれば尻尾が全力アピールしているのだけど、今はそれもない。

俺は群れと相対しているグルフに近づいて声を掛ける。


「グルフ、今日は群れの皆と過ごしてきていいんだよ?なんだったら、皆で母さんの神域にいる間は群れの子達と一緒に居ても......。」


俺がそう言うと、グルフがぎょっとしたようにこちらに顔を向けた。

その顔はどことなく寂しそうな感じで......グルフの尻尾を見ていると先程までピンと力が入っていた感じだったのに今は力なく垂れさがってしまっている。


「......うん、まぁ、グルフのしたいようにするのが一番かな?」


そう言って俺はグルフの横腹を軽く撫でる。

垂れていた尻尾に力が入ったような感じがした次の瞬間、グルフが一吠えした。

すると、目の前で伏していたグレーウルフ達が立ちあがり、ゆっくりと背を向けて森へと帰っていく。

その姿が完全に見えなくなるまで見送った後、俺はグルフに声を掛けた。


「グルフ、良かったの?かなり久しぶりの再会だったと思うのだけど。」


俺がそう問いかけると、グルフは俺の体に頭を擦り付けてくる。

その尻尾はブンブンと振られていて、無理をしてここに残ったわけでは無いと感じられた。

俺はグルフの頭を抱え込むようにしながら撫でる。


「グルフが良いならもう言わないけど、偶には家族と会ってあげないと駄目だからね?」


そう言って俺は両手でグルフの顔を抑えながら目を覗き込む。

グルフは若干迷うような素振りを見せたがやがてこくりと頷いた。


「うん、いい子だ。」


俺は再びグルフの事を両手で撫でる。

甘える様にぐいぐい頭を押し付けてくるグルフを撫でながらふと思いついたことがある。

レギさんやリィリさん、ナレアさんは家族に会ったりしなくていいのだろうか?

特にリィリさんは......。

そんなことを考えながら首を巡らせるとナレアさんと目が合った。

少しだけキョトンとしたナレアさんだったが......相変わらずすぐに俺の考えが分かったらしく少し微笑む。


「ほほ、そうじゃな。妾はこれから行く予定の魔道国に家族がおる。その時に挨拶に行くのじゃ。」


「え?ケイ君とご家族に挨拶に行くの?」


「......ちがっ、そういう意味ではないのじゃ!」


「え?そういう意味ってー?」


にやにやしながらナレアさんに絡んでいくリィリさん。

最近なんかこういう光景をよく見る気がするな......。

ちょっと申し訳なく思う気もするけど......と考えているとナレアさんと話していたリィリさんがくるんとこっちを向き直す。


「ところで、ケイ君。北回りと南回りどっちかな?」


笑顔で聞いてくるリィリさんに俺は冷や汗が止まらなかった。

そう言えば......そんな話の途中でしたっけ......。

ずっと後で気付いたけど、ここでレギさん達の出身地に寄るかどうか聞けばよかったよ。


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