第378話 魔力を増やす為には



「他にもそうじゃな......魔晶石を削って粉にして飲むというのもあったかのう。」


ナレアさんが顎に手を当てながら胡散臭い魔力を増やす方法を話す。

身長が伸びる薬よりは信憑性があるのだろうか......?


「あれは普通に石じゃないですか?消化されずに出てくるだけじゃ......。」


「魔力だけが体の中で吸収されるという考えらしいのじゃ。」


「そういう物なのですか......?」


「だから眉唾と言ったじゃろ。他にも生き血を呑むとかじゃな......。」


うえぇ、想像しただけでも顔がゆがむな......。


『なるほど......では、レギさんで......じゃなくて、レギさんが試してみればいいのでは?』


突然母さんが鬼畜なことを言いだした。

そんな母さんをぎょっとした表情でレギさんが見たのと、リィリさんの目がキラと光ったのが印象的だ。

しかも今母さん、レギさんで試そうって言おうとしませんでしたか?

俺が半眼になりながら母さんをじっと見つめると、母さんが楽しそうに笑う。


『ふふ、ごめんなさい、レギさん。勿論冗談ですよ。でもそうですね......私の知識の中ではどれも魔力を上げるには少し問題がありますね。』


「ふむ、まぁ、そうであろうのう。しかし先程、御母堂は失伝と言われたのじゃ。つまり魔力を増やす方法は四千年前に確立されていたということじゃな?」


『えぇ、ナレアさんの言う通りです。私が知っている方法は二つですが、もしかした他にもあるかも知れませんね。ただ、どちらも魔力が増える原理は同じなので他の方法があったとしても似たようなものだと思いますが。』


「その方法、教えて頂いても?」


ナレアさんの目が輝いているけど......あれは魔力を増やしたいわけじゃなくって知らないことを知りたいっていう知識欲の方だな......。


『えぇ、一つ目ですが、方法は簡単です......まず死にます。』


......いきなり難易度が振り切っています、母さん。


『次に......。』


死んだ後に次が!?


『生き返ります。』


なるほど......それはもう救世主クラスの事をしないといけないってことですね。


「......何故死んで生き返れば魔力が増えるのじゃ?」


ナレアさんにとって、死んで生き返る部分はいいのか......。


『一度死んで生き返ることによって魂と器にずれが生じます。そのずれを埋めるべく魔力によって器が満たされる、それが魔力増加につながります。』


ゴムが緩んだから中身を詰めてきっちり合わせるってイメージだろうか......。

そう考えると中々力業に聞こえるな。


「なるほど......しかし、一つ問題があるのじゃ。生物はそうそう生き返らないのじゃ。」


『そうですねぇ。』


さも当然のことをナレアさんが言うと、母さんもあっさりと同意する。

因みにレギさんは何故かリィリさんから距離を取るように動いていた。

いや、いくら何でもこの流れで襲い掛かっては来ないと思いますよ?

俺が苦笑しながらリィリさんの事を見ると......何故かにんまりと笑われた。

......襲わないですよね?


『まぁ、ケイの魔力が膨大なのはこのせいですが。』


「え......?僕ですか?」


『えぇ、忘れましたか?』


......あ、この世界に来てすぐの話か!


「そう言えば以前ここで聞いたことがあったのう。確か二百回以上、ケイは死んだのだったかの?」


「え、えぇ。そうらしいですね。」


確かに俺はこの世界に来た直後、何度も死んで......その度に母さんが蘇生してくれたって聞いたけど。


『ケイがこの世界に来た時は魔力を全く保有していませんでした。ですが蘇生を繰り返せば魔力が増えると考え、ゆくゆくはその増大した魔力で生命を維持できればと考えていたのですが......。』


そこで何故か母さんが苦笑する。


『蘇生しても蘇生しても魔力量は増えるものの、何故か魔力による生命維持が行われず、何度も蘇生をする結果になってしまいました。』


意識があろうと無かろうと、俺には魔力を使うって感覚がなかったからな......身体機能として元々備わっていなかったものを取り付けられても動かせなかった......母さんの誤算はそこだったのだろう。


『流石に蘇生魔法に使う魔力量は膨大ですから......あの時程疲れた事は、私の長い生涯でも数える程しかありませんね。』


「蘇生魔法かぁ......。」


リィリさんのぽつりと呟いた言葉に、先程以上にレギさんが警戒を見せる。


『まぁ、この方法は狙ってやるようなものではありませんからね。ですが、死の淵からよみがえることで保有する魔力量は跳ね上がります。』


「昔の人は蘇生魔法が使えたのですか?」


『いえ、以前も言ったかと思いますが、私はあまり加護を人に与えていませんでしたからね。ですが戦乱の時代という事もあって、死の淵から立ち直った人の魔力が増えるという事は比較的知られていた話ではあったと思います。』


それだけ死にかける......いや、死者が多かったという事か。

何かのきっかけで息を吹き返したり、持ち直したり......みたいな感じかな?

回復魔法無しで持ち直すのはかなり難しいと思うけど......ん?


「そういえば、カザン君やノーラちゃんの魔力が多かったのって......。」


「うむ、偶然ではなく、もしかすると御母堂の言う死の淵からの蘇生......過去の事故から持ち直したことが原因かもしれぬのう。」


カザン君もノーラちゃんも魔力量が普通の人に比べてかなり多かった。

俺の作った魔法系の魔道具を難なく扱えるくらいに......その理由が分かった気がする。


「まぁ、事故や戦闘によるものなら仕方ないにしても、自ら死ぬような真似は出来ないしな......その方法で魔力を増やすのは無理だな。」


誰かに言い含める様にレギさんが言う。

誰に言い含めているかは......言うまでも無いけど。


「......事故かぁ。」


何やら、先程からずっとリィリさんが非常に物騒ともとれる呟きを発しているのが非常に気になる。

レギさんも微妙に椅子に座り直してリィリさんから距離を取っているように見えるな。


「ケイは蘇生魔法使えるのかの?」


「いや、試したことないですね......でもなんとなく無理だと思います。」


心臓マッサージ的なことなら多分出来るだろうけど......母さんみたいには出来ないだろう。


「ふむ、ケイは全体的に御母堂の加護と相性が良いじゃろうし......やってみれば出来るかもしれぬのう?」


「......練習は大事だね。」


「い、いや、どうですかね......?」


なんだろうか......普通の事を言っているのに、リィリさんが言うと何故か色々不穏に感じるのだけど......。


「......セレウス様、もう一つの方法と言うのはなんですか?」


レギさんが色々と......いや、リィリさんの事を明らかに警戒しながら、母さんへともう一つの方法を聞く。

もう一つが穏便な方法だといいけど......。


『もう一つは、もっと簡単ですよ。うーん、でもそれを教える前にレギさん生き血を呑んでみませんか?試しに。』


「呑みます!」


ふふっと笑いながら母さんがレギさんにとんでもない提案をする。

そして元気よく即答するリィリさん。


「いや、何でお前が答えるんだよ!そのセレウス様......勘弁してもらえませんかね?」


慌ててレギさんが母さんに許しを請う。


『ふふっ、残念です。感想を聞きたかったのですが......でも何故生き血なのでしょうね?』


「恐らくじゃが......魔晶石と同じような考えなのではないかのう?魔力を多く保有している者の生き血を呑むことで魔力を取り込むといった。」


『なるほど......確かに過去にも他の物の魔力を取り込むといったことを研究している者がいたように記憶しています。まぁ、その者達は根本的に間違っていますが。蘇生による器と魂のずれは、魂が一度消え、再び戻った時に器が大きくなった為です。魔力をどれだけ体に取り込もうとも器に収まり切れない量はあふれ出るだけですね。』


そう言って母さんは話すけど、それを聞いていたレギさんが腑に落ちないといった表情で母さんに話しかける。


「あの......セレウス様?それは、生き血を呑んでも意味がないのでは?」


『......。』


「セレウス様?」


『......生き血で器が大きくなる可能性は否定できませんよね?』


そう言ってレギさんに微笑む母さん。

レギさんはなんとも微妙な表情で生返事を返す。

以前神域に帰って来た時にリィリさんやナレアさんと三人で話をしてからだろうか?

どうも母さんに悪影響が......。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る