第76話 恐らく見習い
翌朝、宿の食堂で魔術式を調べるような魔道具があるかレギさんに聞いてみた。
「いや、わからねぇな......そういう物があったとしても専門家じゃないと使わないだろうしな。」
「やはりそういうものですか......次の街に行ったらその手の店で相談してみるしかないですね。」
「それがいいだろうな。ただ、デリータみたいなのは期待するなよ?あいつの知識量や能力はそこら辺の魔術師とはレベルが違うからな。」
「なるほど、分かりました。後、街であまりいい情報が得られなかった時はデリータさんに連絡を取りたいのですが......何かいい方法ってありますか?」
「......それは難しいな。この距離だと手紙の返事が来るまで一月じゃ済まないかもしれないな......シャルに走ってもらった方がいいんじゃないか?」
『私一人で走るなら一日で往復できるとは思います。返事を受け取ることを考えれば二日程でしょうか......ですが......。』
一人なら一日で往復......まぁ確かにここに来るまで俺たちを乗せた状態で合計二十時間も走ってないからな......一人なら余裕なんだろうな。
まぁでも......。
「うん、ありがとう、シャル。大丈夫、分かってるよ。」
一日二日とは言え、シャルが俺から離れるようなことは望まないだろう。
少し不安そうな目をしていたシャルを撫でると安心したように強張っていた体の力が抜けるのを感じた。
「シャルと二人で戻ったとしても三、四日で戻って来れそうかな?」
『そうですね、そのくらいあれば十分かと。』
「往復四日って早すぎるだろ。って、そうか俺達も移動時間だけで考えればここまで二日もかかってないのか?」
「恐らく半日と少しってところですかね。移動している時間だけで言うなら。」
「走っている時は速度に目を白黒させていてちゃんと理解できていなかったが、振り返ってみるとかなり短い時間でここまできていたんだな。」
レギさんがしみじみと呟いている。
「馬車だとあの山越えは出来ないし、半月くらい掛けてもここにまで来られないかもね。」
リィリさんは馬車と比較して考えているようだ。
馬車移動でここまで......耐えられないかもしれないな......。
「山越えだけ歩きですればなんとか半月で来られるんじゃないですかね?確か前の街から歩きで三日ほどでこの村まで来られたはずですし。まぁ、計算上はですけど......。」
「そうだね......馬車移動だと長時間の移動はかなり疲れるし、もっとゆっくりになるかも......。」
肉体的より精神的にくるものがあるんだよな......馬車移動って。
「ファラの配下のネズミ君に手紙を運んでもらうって手もあるんですけど......。」
「ネズミにこの距離はどうなんだろうな?」
「今度聞いてみます。」
「たどり着いたはいいが、デリータに解剖されたりしてな。」
いくら何でもそんなことはしないと思うけど......肩に乗っているマナスが細かくぷるぷる震えている......解剖......しないですよね?
「手紙を届けてくれた相手を解剖って相当ヤバい感じですよ......。」
「デリータならやりかねないと思わせるだけの何かをあいつは持ってるな。」
嫌な信頼の仕方していますね......。
軽く辺りを見回したレギさんが言葉を続ける。
いくらデリータさんでもここにはいないと思いますよ?
「まぁそれはいいだろう。ところで、昨日の騎士様の話、どう思った?」
あぁ、デリータさんを警戒したわけじゃないのか......。
「何となくですけど、魔物について思うところがある様な気がしましたね。」
ワイアードさん達の話......というか雰囲気かな?
この村が襲われたことというよりも魔物自体に注意を向けている様な気がする。
もちろん、被害にあったこの村の為に色々としてくれてもいるのだけれど。
「魔物の種類や数を気にしているように感じたな......まぁこれからこの村を守りながら山の方に向かって開拓を進めていくらしいからそれは当然の事の様な気もするんだが......何となく気になってな。」
「なるほど......また何か気付いたことがあったら言いますね。」
「まぁ、自分から振っておいてなんだが、少し気になった程度だからな。そんなに気にしなくていいぞ?それはそうと、これからどうする?」
「そうですね......もう少し落ち着くまで村の人達の手伝いでもしようかと思っていましたけど......。」
「騎士団の人達がテキパキと作業してくれているからね。私達は必要ないかも?」
レギさんが今後について意見を求めて来たので俺の考えを話すと続きをリィリさんが拾っていく。
まぁみんな考えてることは一緒ってことだね。
「よし、じゃぁ村長に挨拶に行ってから出発するか。次の目的地は龍王国の街になるはずだ。そこに行けば龍王国内の情報も集められるだろう。」
「了解です。」
色々と気になる事もあったが俺達は早々に村を出ることにした。
「そうですか、レギ殿達は出立されるのですか。この度は本当にありがとうございました。」
村長さんに挨拶も終わり村を出ようとしたところ、入り口付近で他の騎士の方々に指示を出していたワイアードさんが声をかけてきた。
「昨日も言いましたが、当然のことをしたまでです。いつも力なき民の為に戦っておられる騎士様達のようには出来ませんので、こういう時位は役に立ちたかったのですよ。」
「そう言っていただけると、私達も気が引き締まる思いです。もし旅の途中で王都へと向かうことがあったら、是非我が家を訪ねて来てください。歓迎させていただきます。」
「ありがとうございます。機会がありましたら是非。」
「お待ちしております。お二方もお気をつけて、旅の安全を祈っております。」
「ありがとうございます。」
「ワイアード様もご健勝のことお祈りいたします。」
こうして俺たちは村を後にした。
一応この村も龍王国の領内ってことにはなっていたけど、俺達的には次の街から本格的な龍王国って感じだ。
龍王国......応龍様がいる国。
どうやって会えばいいのか、今の所皆目見当もつかないけれど......何かいい方法がみつかるといいなぁ
View of ワイアード
三人の冒険者が村を発った。
実際に戦うところを目にしたわけではないが中々腕の立つ者たちだったと思う。
スラッジリザードを九匹、見たところ目立った怪我をすることなく退治しているようだった。
リーダーであろうレギ殿。
こういっては何だが、見た目とは裏腹に物腰は丁寧で非常に理知的な人だった。
物腰は柔らかであったがその雰囲気から歴戦の戦士であることが伺えた。
とてもではないが下級冒険者と言われて納得できるものではない。
だが身分を偽る様なタイプでもなさそうだったので恐らく真実なのだろう。
そして横にいた女性、名前は確か......そう、リィリ殿だ。
見た目はまだあどけなさの残る少女といった感じであったがその所作には隙がなく、うちの団員では不意をついたとしても彼女に傷一つ負わせることは出来ないのではないだろうか?
そう思わせるだけの雰囲気を持った少女だった。
最後の一人、少年と青年の間といった年ごろだろうか。
あまり見慣れない顔立ちであったので定かではないが......ケイ殿だったか?
彼だけ防具を全く装備していなかったし武器も腰に差した短剣だけのようだった。
魔道具も身に着けていなかったところを見ると......彼は荷物持ちだろうか?
体も細くあまり鍛えているようには見えなかったが体幹はしっかりしているように見えた。
もしかすると見習いとして鍛えている最中なのかもしれないな。
あの二人に鍛えられているのならば彼もいずれは強くなるのかもしれない。
そう言えば彼について何か報告が上がっていたような......?
まぁ、それはともかく出来ればもう少し彼等との交流は深めておきたかった。
今現在、シンエセラ龍王国で発生している問題を考えれば優秀な冒険者との繋がりは喉から手が出るほどに欲しい。
騎士の中には冒険者を軽視する者達も少なくはない。
だが彼ら程幅広い知識を有し、臨機応変に立ち回れるものは騎士の中でも一握りだろう。
だからこそ彼らとは対等に縁を結ぶべきだと思う。
彼らは国に仕えているわけではない。
国の一大事であっても居を変えるだけだろう。
しかしそこに縁があれば話は別だ。
金銭と命を天秤にかけるという話がないとは言わない。
だが優秀な冒険者であれば、そこまでの危険を冒すことなく金銭を得る手段はいくらでもある。
だからこそ金ではなく縁をもって、共に戦ってくれるように働きかけるしかないのだ。
打算的と言われるだろう、己の為に冒険者を利用していると後ろ指をさされるだろう。
だが、たとえ私の名が地に落ちようとも私は国を、そこに暮らす人々を守りたいのだ。
その為ならば私はどのような誹りを受けても構わない。
全てはシンエセラ龍王国の為に......。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます