第77話 龍王国に到着しました



龍王国最初の街は想像していたよりも小さめの街だった。


「都市国家みたいな大きな外壁がないんですね。」


俺がこの世界にきてから見た街は全て、見上げるような高い壁に覆われていたのだがこの街はそうではなかった。

壁がないわけじゃないけどそこまで高い物ではなく二メートル程だろうか?

民家の塀より少し高いくらいかな?


「まぁ、向こうは一応あれ一つが国だしな、防備はしっかりしているんだろうよ。多分龍王国も他の玄関口になっている街や重要な街は高い壁に覆われているんじゃないか?」


「あぁ、こっちの山越えルートはあまり一般的な玄関ってわけじゃないからですか。」


「多分な。」


街門に並んで審査を待っている人も都市国家のそれと比べるとかなり少ない。

向こうは下手したら某テーマパークのアトラクション並みに待ち時間があったりするけど、この街は精々混んでいる時間帯のスーパーのレジくらいのものだ。


「ここで入国審査を受けて滞在許可証が発行されるそうだ。それがあれば龍王国内はある程度自由に移動できるらしい。」


「それは発行してもらうのにお金要りますよね?」


「そりゃ当然な。冒険者だと三カ月で銀貨一枚だそうだ。一般人だと三カ月で銀貨五枚らしいぞ。」


「そんなに違うんですか?」


「あぁ、ギルドの方で補填してるってのもあるし、冒険者を呼び込みたいってのもあるだろうな。」


「へぇ......冒険者の呼び込みは何でですか?」


「一般人より金の消費が激しいってのもあるかもしれないが、基本的にはダンジョンだな。必ず攻略しないといけないものに加えて攻略後の旨みがな......。」


ダンジョンと魔晶石か......特に魔晶石は消耗品だしいくらでも稼げるんだろうな......この前の街も物凄い盛り上がりだったし。

あれ?そう言えば神域産の魔晶石って応龍様の所でも採れるんじゃないのかな?

だとしたら少しは流通してそうなものだけど......聖域と呼ばれるような場所だから採取するなんて恐れ多いってことかな......?


「もうすぐ私たちの番だね。中に入ってすぐのところで合流でいいよね?」


「あぁ、それで構わないが......お前が一番信用ならねぇ......ちゃんと待っとけよ?屋台だの飯処だのに吸い寄せられるなよ?」


「......大丈夫だよ?あ、次私だから先にいくね。」


レギさんのジト目にそそくさと審査に向かうリィリさん。

集合場所にいたとしても手に串ものでも持っているリィリさんの姿が目に浮かぶようだ。


「......ったく、あいつは。昔から食うのは好きだったが、再会してからはタガが外れたみたいだな......十年食えなかった反動か......?」


「いつも凄く楽しそうに食べてますからね。色々なことが嬉しいんだと思います。」


「......。」


「あ、僕の番ですね。ではお先に、また後で。」


「おう、妙な事するなよ?」


「あはは、気を付けます。」


レギさんと別れ門の横に設置されている詰所のような場所へと入る。

入国審査か、都市国家で結構経験あるから最初程緊張はしないけど......なんかこう言うのって別に悪いことしているわけじゃないのにドキドキするんだよね。




特に入国審査で引っかかることもなく龍王国に入ることが出来た。

やっぱりこういうのを通過しないと入国したって感じがしないな。

それはそうと、案の定リィリさんの姿は入ってすぐの広場にはない。

広場の端には屋台が出ているから、どれかに並んでいるんだろうな......。

レギさんが来るまでに満足......は無理かもしれないけど、戻ってきてくれるといいな。

しかしその思いも空しく、レギさんが門を抜けてくるのが見えた。


「案の定、いねぇじゃねぇか......。」


「まぁ、入り口って屋台出てること多いですからね......一人で待っていたら吸い寄せられてもしかたないですよ。」


「だから最後に入れって言ったのに、先に行くって聞かねぇ......。」


レギさんは呆れたような表情だが、怒っている様子はない。

なんだかんだ言ってレギさんは優しいというか甘いというか......。


「あ、二人とも遅かったね。やっぱりレギにぃは人相が悪いから時間がかかるのかな?」


「なんで徐に詰ってくるんだよ。それより入った所直ぐで待っとけって言っただろ?」


「まぁまぁ、良さそうな宿の情報とか色々仕入れて来たから許してよ。」


リィリさんが宿の情報をしっかり調べて来てくれたようだ。

......多分、御飯が美味しい宿だろうな。


「仕方ねぇな。とりあえず、その宿に向かうか。ケイもそれでいいか?」


「えぇ。宿にいって、その後食事ですかね?」


「お昼も何カ所かいい所紹介してもらったから、宿に荷物を置いたら近い所に行ってみたいと思うんだけど?」


「「......。」」


俺の入国審査はスムーズに行ったと思う。

レギさんも俺が終わってさほど間を置かずに出て来たってことは同じだろう。

にも拘らず既にそれだけの情報を......?


「お、俺はそれで構わないが......。」


「え、えぇ。僕もそのお店に是非。」


「うん!じゃぁ宿はこっちだよ!」


リィリさんは嬉しそうに頷くと宿まで先導するように前を歩く。

この情報収集能力はファラが聞いたら悔しがるかもしれないね......そう言えば、ファラとはこの街で合流できるかな?

先を行くリィリさんを追いかけながら勤勉で頼りになる子について思いを馳せているとシャルから声を掛けられた。


『ケイ様。ファラの配下がいました。申し訳ありませんが、話を聞いてくるので少しだけお側を離れてもいいでしょうか?』


どうやら噂をすればってやつのようだ。

いや考えただけだけどね?


「俺も行かなくていいの?」


『はい、私が一通り確認してきます。すぐに追いつきますので先に宿に行っておいてください。』


「場所は分かるの?」


『ケイ様のいらっしゃる位置は離れていても大体わかりますので。なるべく早く合流します。』


シャルが自信満々に答えてくれる。

どうやって把握できるのかが気になるけど......まぁそれはいいか。


「わかった。宜しく頼むよ。ファラがこの街にいるなら久しぶりに会いたいから連れてきてくれるかな?」


『承知いたしました。』


シャルは頷くと道の向こうへと消えていった。


「どうした?ケイ。珍しいな、シャルが離れたようだが......何か緊急事態か?」


シャルが離れていくことに気づいたレギさんが声を掛けてくる。


「いえ、大丈夫です。ファラの配下がいたので情報の確認に行ってもらいました。後で合流出来るらしいので先に宿に行っておきましょう。」


「なるほど、相変わらず頼りになるな。俺も後でギルドに行って情報収集するつもりだが、ファラの集める情報量には負けるな......。」


「情報は多角的に集めるほうがいいですから。それにファラの集める情報は街の中のものに特化しているので、街の外の情報も集められるギルドや他の冒険者の方の情報はとても大事ですよ。」


「まぁ、その通りだな。どうもファラの情報収集能力を見るとな......後、食事に関してだけそれ以上の情報収集能力を見せるやつもいるしな......。」


俺達は前をいくリィリさんの背中をみる。

どういう情報収集をしたらあんな短時間で色々と聞き出せるんだろうか......。

知り合いから聞くなら簡単だとは思うけど......初めて来る場所で一瞬で自分の知りたい情報を集めてくるってのは簡単じゃないと思うけど......少なくとも俺には無理だな。

リィリさんの後ろ姿は嬉しそうに弾んでいた。




シャルと合流して皆で食事に行った後、いつものように分かれて情報収集に向かうことになった。

夜全員の集めた情報を付け合わせて今後の方針を決めることになっている。

俺もまだファラの配下のネズミ君達の集めてくれた情報をシャルから聞いていないのだが、一つだけ教えてもらった。

残念ながらファラはこの街にいないようだった。

少し前までこの街で俺たちが来るのを待っていたらしいのだが、龍王国内で何か問題が起きているらしくその情報を集めるために旅立ってしまったらしい。

かれこれ二ヶ月くらいファラに会ってないような気がするけど......正直とても助かっているから強くは言えないし、心配しないほうがいいとは分かっているけど......大丈夫かなぁ。

そんなことを考えながら魔道具屋に向かって歩いていたのだが、視界の端に見覚えのある銀髪が見えたような......?


「ん?おぉ!どこかで見た顔だと思ったらケイではないか!」


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