第15話 マナスライムだし?



「にーちゃんのネーミングセンスは壊滅的だなぁ。」


色々な店を教えてもらいながら街を歩いていると唐突にレギさんにディスられた。


「そうですか?なんかおかしいですかね?」


「マナスライムだからマナスって......略しただけじゃねぇか。」


「ま、まぁそうとも言えますけど......。」


「それにスライムは変異するからずっとマナスライムとは限らねぇぞ?」


「そうなんですか?」


「よく知らねぇけど、突然別の種類のスライム変わることがあるらしいぜ?まぁ詳しく知りたかったらデリータに聞いてくれや。」


「面白い生き物ですね......。」


肩に乗っているスライム君、マナスの事を見るとアピールしているのかぷるぷると震えだす。

これからどんな風に成長していくのだろうか......また一つ楽しみが増えたなぁ。


「デリータのやつと気が合うようで何よりだ。さてと、行っておいたほうがいい所は大体回ったな。後何か見ておきたい店とかはあるか?」


レギさんから希望を聞かれるものの......。

教えてもらったのは冒険者御用達といった感じの店で、武器、防具、薬、生活雑貨、細工、宝飾店等々、店主さんも皆レギさんの顔見知りで皆が皆好意的に接してくれた。

レギさんの顔を潰さない為にもうかつな行動は絶対に取れない。


「他に知っておいたほうがいい所はありますか?」


「今はこんなところだな。逆に行くべきでないのは街の北東方面だ、極力東門も使うのは避けろ。」


「東には何かあるんですか?」


「あっちはちょっと治安が悪くてな。にーちゃんにはまだ危険すぎるな。」


スラムって感じかな?

大きい街になるとそういうものが出来るのは必然らしいけど......怖すぎる、絶対に近づかないようにしよう。


「わかりました、近づかないようにします。」


「まぁ冒険者として仕事をしていくなら行くこともあるだろうがな。それまでには精々世間慣れするこったな!」


危ない場所には近づかない......ってわけにはいかないよね?

冒険者だもんね。


「が、がんばります。」


「おう、後は......冒険者の仕事についても説明していかないとな。」


「ありがとうございます、宜しくお願いします。」


「ちょうど飯時だ、そこの店に入って話そうぜ。」


そう言うとレギさんはニッと笑みを浮かべながら近くの店を親指で指さした。

男臭いポーズが凄い似合っています......。




「冒険者の仕事は大きく分けて3つ。依頼の受注、ダンジョンの踏破、遺跡の探索だ。」


上品にスプーンでスープを飲みながら冒険者について教えてくれるレギさん。


「依頼の受注、まぁ仕事としては一纏めにはしにくくはあるな。内容は多岐に渡る。ちょっとした手伝いや護衛、素材採取。まぁ簡単に言えば便利屋だな。ダンジョンの攻略は言うまでもねぇな。最後の遺跡の探索、これこそ冒険者の本分ってやつだ。」


端折られた二つを聞きたいな......。

依頼を受けてってのは分かる、小説やゲームでよくある依頼を受けて解決しますってやつだ。

ダンジョンと遺跡、ニュアンスは分かるけど何が違うんだ?

シャルは分かるかな?

膝の上にいるシャルに目線を向けるとすぐに返事が返ってきた。


『ダンジョンは分かりますが、遺跡、というのは初めて聞きました。』


ダンジョンはシャルも知っているのか......。

そっちはシャルにあとで教えてもらうとして遺跡についてレギさんに聞いておこう。


「遺跡というのはなんですか?」


「遺跡は知らなかったか。簡単に言うとだな、あれは昔の建物だ。」


そりゃ遺跡って言うくらいだからそうでしょうとも......。


「......複雑に言ってもらっていいですか?」


「......それなりに危険はあるがとんでもないお宝がごろごろしてる浪漫あふれる場所だな。」


答えてくれているようで全く答えになってないですよ、レギさん。


「......つまり、デリータさんに聞けと?」


「難しい言い方をすればそうなるな。」


内容は難しくなるのかもしれませんがレギさんの役割はものすごく簡単になってます......。

まぁでも遺跡っていうくらいだから昔の文明の建造物とかなんだろうな。

母さんから聞いたこともないし、シャルも知らないらしいから神域が出来た以降の文明......もしかしたら4000年前の戦争時のものかもしれない。

武器や魔道具なんかが色々ありそうだし、この危険の多い世界だ、遺物であっても利用方法があるのかもしれないし美術品的な意味かもしれない。

実際、母さんから譲ってもらった魔道具は4000年前の物とは思えないほど新品同然の状態だったし見た目も心躍る物が多かった。


「元々冒険者ってのはよ、遺跡を盗掘してるようなやつらの集まりだったのよ。中にはちゃんと土地の所有者や国に依頼されて探索してたやつもいたらしいがな。んでまぁ、遺跡の中には危険も多いし準備に金もかかる、その資金の為に護衛やら荷運びやらを手伝い始めたってわけだ。さらにそれを効率よく仲介するやつらが冒険者ギルドの始まりってわけだな。」


「なるほど......。そういえば、ギルドの登録証が身分証明になるってことはギルドは国境を超えて一つの組織として運営されているってことですか?」


「そうだな。大抵の国にはギルドはあるし、小さな町でもギルドがある所が多い。国の間を移動しないといけない依頼も少なくないからな、入国やらの手続きが簡単になるギルドの登録証は必須だ。」


「次はちゃんと登録できるようにしないとですね。」


「魔力操作は出来るようになったからとりあえずは問題ないが、体の動かし方や知識、後は魔道具の使い方なんかも覚えないと仕事はやっていけないぜ?」


「魔道具の使い方ですか?」


「おぅ。魔術師になれとは言わねぇが、魔道具を使うのは必須だぜ。下級冒険者でも2,3個は持ってる奴が多いな。魔術師と呼ばれる奴らなんかは10個以上使うのも珍しくない、デリータなんか指輪だけで10個もつけてるしな。まぁ魔道具に関してはあいつに聞いてくれ。」


「わかりました。」


魔道具か、神域から持ってきたやつは古いものだけど練習にはいいかもしれない。

今度森に行って色々試してみよう。

......楽しみだな。


「今度森にでも行って今の身体能力の把握とかしておいたほうがいいだろうな。」


「えぇ、僕も近いうちに行こうと思っていました。」


身体能力、魔法、魔道具......試してみたい事が多すぎるね!


「森に通じる街道から少しそれたところに広場になってる所があるからそこを使うといい。たいしてでかい森ってわけでもないが奥の方に行くと危険な獣もいるからな。まぁ、田舎暮らしだったなら街より安全かもな!」


「それは......確かに、そうかもしれませんね。」


慣れてるだろ?と笑いかけてくるレギさんに俺はシャルを見ながら曖昧に返事をする。


『大丈夫です。必ず私がケイ様をお守りいたします!』


感謝を込めてシャルを撫でると、気持ちよさそうに目を細める。


「昔、あの森に灰王って呼ばれる化け物グレーウルフがいたんだが、10年程前から姿を現さなくなったしな。当時、何回か討伐隊が組まれたんだが、結局討伐することは出来なかった。俺も一度だけ見たことあるが、王と呼ばれるに相応しい姿だった。」


「灰王ですか。どんなグレーウルフだったんですか?」


「見た目はとにかくでかい狼だったが。風格を感じる佇まいというかな、獣とは思えない理性というか知性が感じられる......ただ、これは後から思い返せばってやつだけどな。アレを見た時は恐怖で体は動かないし頭の中はもう死ぬってことしか考えられなかったからな。」


「それほどのものだったんですか......。良く生き延びることが出来ましたね......。」


「まぁその事実が知性を感じる要因なんだけどよ。あの時俺が参加した討伐隊はものの見事に蹴散らされたわけだが、死者はおろか重症を負った奴すら出なかったんだよ。全員、綺麗にのされて気がついたら森の外だ。」


「灰王が気絶したレギさん達を運んだってことですか?」


「おそらくはそうだろうな、誰も覚えちゃいなかったがあの場にいた全員がそう感じたんだ。無駄な殺生を嫌ったのか、俺たちを殺すことで次の討伐隊が組まれることを避けたのか......。」


「どちらにしてもただの獣が出来る判断じゃないってことですね。」


「頭のいい獣は怖いっていうが、あれはそんなレベルじゃなかったからな......当時は討伐するか放置するかで相当もめたらしいぜ。下っ端には関係なかったけど、次の討伐隊が組まれたとしても参加する気にはなれなかったがな。ま、上の方で揉めてる間に灰王は姿を消して、次の討伐隊は組まれることはなくなった。」


「なるほど、そんなに大きな森じゃないのでどこかに潜んでいる可能性も考えにくいってことですね。」


「そういうことだな。」


きっと灰王というのはグレーウルフの先々代族長のことだろう......。

もしかしたら食料の事とは別に人との争いを避けたって面もあったのかもしれないな。

一度会ってみたかったな......今度グルフに先々代さんの話を聞いてみよう。


「教えてもらった広場以外に当面は行かないようにしておきます。」


「慎重なのはいいことだ。街中でもそうあってほしいもんだがな?」


「ちゅ、注意します......。」


「頼むぜ?......さて、この後はどうするかな。街の北側を回ってみるとするか......。」


「あ、レギさん!食事中すみません、ちょっといいですか?」


レギさんと食後の予定を話していると皮の鎧を着た二人組がレギさんに話しかけてきた。


「お?すまねぇケイ少し待ってもらえるか?......どうした?」


レギさんは俺に一言謝ると二人組の方へ向きなおす。

俺は話きいてもいいのだろうか?

席を外すか?

そんなことを考えているとタイミングを逃してしまい、レギさん達は話を始めてしまった。


「すみません、少し手を貸していただきたいのですが。内容は......ちょっとここでは......。」


二人組は申し訳なさそうに俺とレギさんを見ている。


「なるほどな......だが今日はまだちょっとな......。」


ちらりと俺の方をみて困ったように頭をかくレギさん。

俺の案内の事を気にしてくれているのだろうけど、丁度いいからここは別行動させてもらおうかな。


「レギさん、もしよかったらそちらの方達の話を聞いてあげてください。僕は先程話していた森にいって軽く体動かそうかなと。」


「なるほどな......。」


「レギさんもさっき言っていたように森には慣れていますので、大丈夫ですよ。」


「まぁ街中うろつかれるよりは安心か......?」


少し引っかからないでもないがここはスルーだ。


「ですのでレギさんは自由になさってください。」


「そうか、約束していたのに悪いな。埋め合わせは必ずするからよ。こっちの用事はどのくらいかかるか分からないからあまり遅くならないうちに街に戻って来いよ?夜は街門が閉ざされるからな?」


そういうとレギさんは支払いを済ませると二人組と店を出ていった。

しまった、流れで払ってもらってしまった。

夜は俺が出させてもらおう。


「よし、じゃぁシャル森に行こうか!」


『はい!ケイ様!』


さぁ、森へ行って遂に魔法だ......!

あ、興奮しすぎて鼻血が出そう。


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