第14話 光るものを感じる
「スライムが宿まで来たって、どんな懐かれ方だよ。」
朝食を取りながらスライム君の事をレギさんに話すと面白いようなものを見るような目を向ける。
何故かスライム君ではなく俺に。
え?俺じゃなくない?面白いのはスライム君ですよね?
「懐いたりするものなんですか?」
「......スライムってのはよく分かんねぇ生き物だからなぁ。俺は聞いたことねぇが、デリータからなんか聞いてねぇのか?」
「デリータさんも不思議がっていましたね......。」
「ってことは相当珍しいってことだな、こいつは。」
レギさんがテーブルの上でぷるぷるしているスライム君をつつこうとすると、さっと避けるように俺の方に逃げてくる。
「そいつって目が見えたりしてんのかな......?」
「目がある様には見えませんが......何を感知してるんでしょうね?」
「まぁ、どうでもいいか。とりあえずそいつをつれてデリータの店にまず行くんだな?」
「えぇ、デリータさんも探していると思いますので。書置きなんてしていないでしょうし。」
仮にしていたら噴飯ものなのだけど......。
メッセージ残していたらどうしよう......。
テーブルから俺の肩に飛び乗ったスライム君の感情はよく分からない。
「おし、じゃぁ飯食ったらデリータの所に迷子を届けにいくか。」
一口サイズにパンをちぎりながら上品にパンを食べていくレギさんは男臭い笑みを浮かべる。
雰囲気と仕草はマッチしていますが、食べ方が非常に可憐ですレギさん。
そういえば昨日の夜も確か......ギャップ萌えですか?
店に着くとカウンターにデリータさんの姿がなかった。
奥の方で物音がしているのでちゃんといるんだろうけど、探し物かなぁ......。
左肩を見るとスライム君がこっちをみて......いるかどうか分からないけど......何となく目が合っているような気がする。
因みに右肩には子犬サイズのシャルがへばりつくように掴まっている。
不思議と二人とも重さは感じないが、落とさないように緊張して肩がこりそうだ…。
「デリータ!!届けもんだぞー!」
レギさんが店の奥に向かって声をかけるとデリータさんが困ったような表情をしながら出て来た。
「レギ?それとケイ?こんな時間にどうしたのかしら?」
「迷子を連れて来たぜ。」
「迷子?」
怪訝そうな顔をするデリータさんにどこか面白そうにしているレギさんはそれ以上言うつもりはなさそうだ。
「迷子といいますか、この子が昨日の夜......朝方かな?そのくらいに僕の泊まっている宿まで来たんですよ。」
そう言いながら左肩にいたスライム君をデリータさんに差し出す。
「あら、そのスライムは......よかった丁度探していた所だったのよ。」
あ、やっぱり今探していたのはこの子だったんだ。
「って、今あなたの部屋に行ったって言ったかしら?」
「えぇ、壁を登って窓から入ってきましたよ。」
正確には招き入れたんだけど、まぁその辺はいいよね。
「懐いている感じはあったけど、まさか脱走してまであなたの所に行くなんて......どうやってあなたのいる場所が分かったのかしら......?」
受け取ろうと手を伸ばしたデリータさんからすっと逃げるスライム君。
うん、これ見覚えある。
デリータさんの表情から色が抜け落ちる。
ちょっと怖いです......。
「......とても興味深いわ。一度ばらして色々調べてみようかしら......。」
そうデリータさんが呟くとスライム君がすごい勢いで俺の腕を登り背中にへばりつく。
「やっぱり僕たちの言葉をちゃんと理解しているんですね。」
「そのようね。昨日もあなたが帰った後に少し調べてみたけど......普通のスライムとはもう別の生き物と言っていいくらいね。比べ物にならない賢さだわ。」
「足し算も出来るみたいですしね。」
「......足し算ってどういうこと?」
ぎょっとしたような表情を浮かべこちらを見るデリータさん。
「試しに問題出してみたら弾んだ回数で回答してくれたので、簡単な計算ならできると思いますよ。」
「......とんでもないわね。」
ちょっとデリータさんの目が爛々と輝いている。
なんか本気でこの子の事ばらばらにしそうな......。
背中にへばりついてすごい震えてるし。
「すっごく、すっごく!調べたいけど......全力で嫌がられてるわねぇ。」
「協力、してくれそうにないですね......。」
肩越しにそっとデリータさんを覗き見ている?スライム君。
「そういう仕草も、とてもスライムがするものとは思えないわねぇ......。」
デリータさんの物欲しそうな視線に諦めたのかスライム君が俺の背中から出て肩に乗ってくる。
伸びたり縮んだりと今まで見たことのない動きをしていると思ったらスライム君が突然二つに分かれた。
千切れた?いや分裂......?
分かれた片方がデリータさんの方へ近づいていく。
「あなたが実験に付き合ってくれるってことかしら?」
デリータさんが問いかけるとスライム君が跳ねる。
「で、そっちの子はケイと一緒にいたいと?」
そう問いかけられた肩の上のスライム君が跳ねる。
なるほど......?
「ついてくるの?」
スライム君はどことなく嬉しそうに跳ねる。
「えっと......いいんですか?」
「懐いているしねぇ、可愛がってあげるといいわ。ご飯は......雑食だから何でも食べるけど、マナスライムが取り込んでいるのは魔力なの、だから魔力をあげれば大丈夫よ。」
そういえばマナスライムって種族?なんだっけ......。
ご飯は魔力っと。
「わかりました。じゃぁこれから宜しくね。」
「私はこっちの子と仲良くできるようにしないとね。宜しくお願いね。」
俺とデリータさんがそれぞれスライムに挨拶をすると2匹......?のスライムが跳ねる。
肩の上で跳ねられるとちょっと顔にぶつかりそうで怖いし、動いたら落としそうでそれも怖い。
......やめるように言っておこう。
「とりあえず話は纏まったみたいだしそろそろいくか?」
「あ、はい。お待たせしました。」
「あら?何か用事があったのかしら?」
「昨日言っただろ?ついでに街の案内してやるんだよ。」
「あぁ、そうだったわね。レギと一緒なら大丈夫だと思うけどぼーっとしないようにね。」
デリータさんが俺に注意してくる。
そこまでぼーっとしてるつもりはないけど、傍から見ると俺はぼーっとしているんだろうか......?
「気を付けます。」
「後、今日じゃなくていいから時間が出来たらまたここに来なさい。魔術についてもう少し知りたくないかしら?」
「それはとても興味がありますが......いいんですか?」
「別に秘匿するようなことでもないし、いいわよ。向き不向きもあるし教えたからと言って必ず使えるようになるってものでもないからね。」
「そういうものですか?勉強してみたかったので、ご迷惑でなければお言葉に甘えさせてもらいたいと思います。」
「えぇ、待っているわ。」
そういうとデリータさんは柔らかく微笑んだ。
「んじゃいくか。まずは交易所いってそのまま商業区回るか。」
「はい、お願いします!」
「くれぐれも気を付けるのよ。頭部の照り返しとかに。」
「何言ってんだ!?てめぇはよぉ!?」
「反応するのは自覚がある人だけよ。」
デリータさんのこれはレギさんに対する別れの挨拶のようなものなのだろうか......?
まぁ、とりあえずこうして俺たち(一般人、子犬、スライム、禿)は街へ繰り出すことにした。
「......なんかにーちゃんからも失礼な空気を感じるなぁ?」
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