第13話 夜の侵入者……



『......ケイ様、申し訳ありません。交代の時間になりました。』


頭の中にシャルの声が響いて、軽く体を揺さぶられている感覚がする。

目を開けると寝る前は小型犬の子犬だったシャルが中型犬の成犬姿に変わっていた。

......どれだけ寝ていたらこんなに成長するのかしら......。

いや小型犬は成長しても中型犬にならないか......。


『大丈夫ですか?お疲れのご様子ですしこのままお休みいただいていいのですが......。』


「いや、大丈夫だよ。ありがとう。」


寝ぼけていた頭を声を出すことではっきりさせる。

シャルは隙あらば俺の事をそのまま寝かせておこうとするのでしっかりしないといけない。


「よし!じゃぁシャル交代だ。寝てる間何かあったかな?」


『いえ、何もありませんでした。』


「そっか、了解。じゃぁ悪いけどシャル、体小さくしてから休んでもらっていいかな?」


『承知いたしました。それではケイ様休ませていただきます。』


小型犬サイズになるとベッドに飛び乗りシャルは丸くなった。


「うん、おやすみ。シャル。」


すぐにシャルから寝息が聞こえてくる。

さて夜明けまでは後4時間くらいかな?

あまり音を立てないように、魔力操作の練習でもしながら見張りをしよう。




「..................。」


今まで魔力操作が出来なかったのが嘘のように馴染んでいる気がする。

......魔法使ってみたい......。

いやダメだ......爆発とかするかもしれないし......朝が待ち遠しいなぁ。

うっかり集中して練習をしていた為後どのくらいで夜明けなのか分からないな。

寝ずの番としてはダメすぎるね......。

部屋の中はシャルの寝息が聞こえるくらいなものでとても静かだ。

日本の街中のように外の雑音が聞こえることもなく、街が眠りについているという表現にふさわしい静けさだ。

そんな詩的な気分になっていたところ、突然飛び起きたシャルが警告を飛ばしてきた。


『ケイ様!窓からお離れください!何かがここに近づいています!』


とっさに窓から離れるとシャルが俺の前に飛び出す。


「何かって!?襲撃!?」


『殺気は感じませんが......。この感じは......。』


「知ってる感じ......?」


『......はい、昼間のスライムだと思います。今壁を登ってきているようです。敵意は感じませんが......。』


スライムにも敵意とかってあるのかな......?

いや、問題はそこじゃない。

昼間のスライムってデリータさんのところのスライムだよな......なんでここに?


『どうされますか?』


「危険がなさそうなら中に入ってもらおうかな?デリータさんからの連絡かもしれないし。」


『なるほど、承知いたしました。では窓を少し開きますので少しお下がりください。』


そういうとシャルは窓枠に飛び乗り滑り出しの窓を押し開ける。

猫のような身のこなしだね......。

外を警戒しながら前足で窓を開けるシャルの後ろ姿にほっこりする......、いやちゃんと警戒してますよ?

少しだけ開いた窓からスライムが部屋に滑り込むように入ってくる。

入ってきたスライムが昼間のスライムと一緒なのか判断がつかない、そもそも昼に見た子しか知らないから見分けようがないしな......。


「シャルはなんでこの子が昼間の子だってわかったの?」


『ケイ様と同じ魔力を感じましたので。』


「そういうのも分かるのか......。」


シャルと話していると近づいてきたスライムが足元で跳ねだしたので手の上に載せてみる。


「君は何でここに来たのかな?」


掌の上でぽむぽむ跳ねているスライムに問いかけてみる。


「デリータさんに言われてきたのかな?」


跳ねていたスライムが掌の上でぷるぷる震えだす。

これは......否定?


「デリータさんに言われたわけじゃなくて君が用事があって来たのかな?」


そう問いかけると今度は跳ね始める。

これは......肯定かな?

こっちの言うことを理解しているってことだよね?


「......1たす1は?」


2回跳ねるスライム君。

うん、これは完全に理解してるね。

レギータさんは知能が低いというかほぼないみたいなこと言ってたけど、これはかなりすごいよね......?

......って今はスライム君の能力を調べてる場合じゃない。

とはいえ、いくらなんでもしゃべることは出来ないしな......。

どうしたものか......。


「シャル、この子が何をしに来たか聞き取れたりするかな?」


『やってみます。』


シャルの前にスライムを下ろすとなんとなくシャルと見つめあっているような気がする。

いや目の位置どころかどっち向いてるかも分からないんだけどね?

ぷるぷる震えて偶に跳ねるスライム君とそれを見ながら偶に首を傾げるシャル、真剣なのは分かっているのだけれどなんか和むなぁ。


『......ケイ様に会いたかったので店を抜け出して、特に何か用事があったからここに来たわけではないそうです。』


「そうなんだ......ありがとうシャル。助かったよ。」


シャルの頭を撫でると尻尾がゆらゆらと揺れる。

なんとなく尻尾を振るのを我慢しているような感じが......。


「そういえばシャル。寝てたはずなのに俺よりも早くスライム君に気づいてたね?」


『......偶々です。』


「......起きてたの?」


『......寝ていました。』


「本当に?」


すっとシャルの視線が逸らされる。


『寝ながら......警戒もしていました。』


「それはちゃんと休めてるのかな?」


『はい。我々はもともと眠りが浅いので寝ながら周囲の状況が把握できるので......。』


「なんか神域を出た直後にそんなことを聞いたことがあったような......。」


見張りを交代するやしないやでもめた時にそんなことを言っていた気がする......。

俺が見張りする意味ほんとになかったんだなぁ。

生物的なスペックが世界最弱である俺が神獣の眷属であるシャルに勝てないのは当然なんだけど、せめてゆっくりと休んでもらいたかったなぁ。

魔力操作が出来るようになったとはいえ、使い方もまだよく分からないし......この世界の人たちからすれば力こぶが作れるようになった程度の事だもんな......。

ってまた思考がずれていってる......。


「なんかごめんね?ずっと気を使わせてたんだね。」


『いえ、私の方こそ騙すような真似をして申し訳ございません。』


シャルに頼りっぱなしの身としては小さなことからでも恩を返していきたいところだけど、空回りして相手に気を使わせる様じゃダメすぎる。


「うん、これからは大人しくシャルに夜の警戒はお願いすることにします。でも、無理は絶対にしないでちゃんと休んでね?」


『承知いたしました。』


出来ないことを無理にするより出来ることを増やしていこう。

もしかしたら今できることでシャルの為に出来ることもあるかもしれないしね。

こちらを見上げてくるシャルを見ているとその横にいたスライム君がアピールするように飛び跳ね始める。

一応俺たちの会話が終わるのを待ってくれていたのかな?


「君はどうしよう......。まだ夜も明けてないしデリータさんのところに連れていくのはなぁ。」


『朝になってからあの男に相談してみてはどうですか?』


「それがいいね。街を回る前にデリータさんのお店に寄ってもらおう。......夜明けまではもう少しあるし、寝ようか。シャルも一緒にベッドで寝よう。スライム君は......。」


そういってスライム君に目を向けると、既にベッドの上に移動していた。

ベッドも分かるんだ......めっちゃ賢くない......?


『同じベッドで寝るなど......。』


「まぁまぁ、いいからいいから。夜明けまでそんなに時間はないだろうけど、ゆっくり休もうよ。」


『......承知いたしました......ケイ様は偶に強引ですよね。』


俺がベッドに入るとシャルは足元で丸くなる。

スライム君は枕元にいるけど存在感が希薄であまり気にならない、というかちょっとひんやりしてて気持ちがいい。

ゆっくり休めそうだね。

......スライムって寝るの......?


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