第12話 何歳ですか?



「冒険者ギルドには登録するつもりなのか。」


今俺はレギさんに紹介してもらった宿で夕飯を取りながら今後の事を話している。


「えぇ、活動資金も欲しいんですが、他の街でも通用する身分証明書が欲しいんですよね。」


「なるほどな、まぁでかい街なら大抵冒険者ギルドはあるから一番手軽ではあるな。ギルドがない場所でも通用するところも少なくはない。」


骨付きの鶏肉をかじりながらレギさんの話を聞く。

甘辛いソースが絡めてあってなかなかうまい。

調味料は充実してると考えていいのだろうか......とりあえずめしまずの世界じゃなくてよかった。

膝の上にいるシャルにはソースのかかっていない場所を分けてあげているが中々好評のようだ。

ちなみにレギさんはナイフとフォークを上手に使い綺麗に切り分けて食べている。


『このように調理されたものは初めて食べます。とても興味深いです。』


食べ終えても次の肉を催促するわけではないがテーブルの上の肉を凝視している姿を見ると次を上げたくなってしまう。

いかん、レギさんとの会話中だ......次の肉をシャルにあげてから会話に戻る。


「今持ってる身分証明書が三日しか有効じゃないそうなので出来れば早めに取りたいですね。」


「あぁ、門で発行されるやつか。ギルドには登録出来れば即日でギルドカードが発行されるから明後日登録すれば間に合うだろうが......。」


「何か問題があるんですか?」


「魔力操作が出来ないって問題は解決しているし登録自体は問題ないと思うが、今まで魔力が使えなかったわけだし戦闘は出来るのか?後は......知識と言ったらあれだが、街の事とか知らないだろ?悪いがその状態じゃ仕事は出来ないと思うぜ?」


レギさんの言うことはもっともである。

話を聞いたところ冒険者というのは大きく分けて3種類の仕事があるらしく、街の便利屋、ダンジョンの攻略、遺跡の探索だそうだ。

ダンジョンと遺跡はよく分からないが街の便利屋というのはギルドを介して街の人たちから色々な依頼を受ける。

依頼の解決には間違いなく様々な知識が問われることだろう。

たとえそれがただのお使いであったとしても今の俺では果たすことが出来なさそうだ。

戦闘に関していえばシャルがいるからある程度は何とかなると思うんだけど、と他力本願なことを考えていたりもするのだが......。


「確かにちょっと仕事をしていくのは厳しいかもしれないですね。」


「だろ?でな、俺は初心者冒険者の教育みたいなこともやっててよ、冒険者登録するっていうなら前倒しでそれをうけてもいいんじゃねぇか?」


どうせ受けるならば先に受ければいいとレギさんは言ってくれる。

教育をしているというのは本当の事なのだろうけど、ものすごい気を使わせているけど......。

あまり遠慮ばかりするのも悪いし、ここはお言葉に甘えさせてもらおう。


「そうですね、分かりました。お手数おかけしますがよろしくお願いします!」


「おう!任せとけ!明日は受けてる依頼もないしな。街を案内してやるよ、暫く街に腰を落ち着けるなら必要なものもあるだろ?」


「助かります、色々と足りないものがあるので。あ、最初に換金したいので交易所に行きたいです。」


「金貨か?田舎から出て来たばかりなのに羽振りがいいな。だがまぁ......あれだ、気をつけろよ?」


......またやってしまった。

そうですよね、不特定多数がいるような場所でお金持ってますアピールする馬鹿は長生きできないよね。


「すみません......。」


「まぁ一つ一つ慣れていくことだな。とりあえず、今日のところは呑め呑め!」


そういって並々ビール、のようなものが注がれたコップを差し出してくる。


「あ、えっと、僕未成年なので......。」


「お?そうなのか?ガキにはみえなかったけどな?」


「そうですか?まだ18なんですけど。」


正確には18+2歳だけど肉体的には18歳でストップしている。

この場合成人でいいのか?

言ってからなんだけど成人でいい気がしてきた。

不老になった結果、俺はこれから何歳を名乗ればいいんだろう?

年数でいい気はするけど、10年後は厳しいよな......?


「成人してんじゃねーか。」


おや?


「もしかしてこの辺は15とかで成人ですか?」


「にーちゃんのとこは違ったのか?普通田舎の方がはやくねぇか?俺は12でほっぽり出されたぞ。」


「ほっぽり......その頃から冒険者をやっているんですか?」


「そうだなぁ、登録したのは13,4だったかな?こことは別の街だがよぉ、もう15年も前の話だな......。」


すっとレギさんの目が遠くを見るように薄くなる。

そうか、15年......15年?

ってことはレギさんはまだ20代!?

思わずレギさんの素敵な頭を凝視してしまう。


「その目は知っているぞ。俺が年齢に関する話をすると必ず向けられるヤツだ。」


まずい!


「言いたいことがあるならはっきり言っていいんだぞ?」


そう言ってレギさんは綺麗に肉を落とされた骨をそっとつまみ、へし折る!

Oh、ぱわふる、さらにあんたっちゃぶる。


「いやぁ、冒険者って言うのは過酷な職業だなぁと思いまして。」


「......俺はにーちゃんを見縊っていたようだな......いい度胸だ。」


レギさんの綺麗な所に青筋が浮かぶ。

わぁ、青筋ってあんなに綺麗に浮かぶんだなぁ......。

ペキっと音が鳴ると二つに分かれていた骨が4つに増えていた。

あ、現実逃避してる場合じゃない。


「すみません、不躾な視線でした。」


「お、おぅ。そこで真面目に謝られると切なさが勝っちまうから勘弁してくれ......。」


レギさんが目に見えてしょんぼりしている。

いや、ごめんなさい......、空気読めないもんで......。


「......そういえば、レギさんは下級冒険者って言われていましたよね?冒険者はランク分けされているのですか?」


ちょっと強引だけど、話題を変えさせてもらおう......。

デリケートな問題は何も言えない......。


「おぅ、初級、下級、中級、上級って分けられててよ。ギルドから発行される依頼にも同じようにランク分けされてあって、自分以下のランクの依頼しか受けられないようになってるわけだ。直接指名される依頼は例外だけどな。」


「なるほど、やはり危険が多い仕事なんですね。」


「全部が全部危険度を示すってわけじゃないけどな。実績というか信頼が大事な仕事ってことで高ランクにされてる依頼ってのもある。」


簡単であっても重要な仕事ってのはあるよね、そういうのも高ランクになると......。


「仕事内容も多岐に渡るからなぁ。戦うだけが仕事じゃない。素材の採取とか手紙の配達とか街の清掃、護衛、討伐。珍しい所で言えば薬や魔術の実験台ってのもあったな。」


「実験台ですか......?」


「おぉ、高性能傷薬ってのを飲んだんだがよ......。いや、あれはヤバかったな。依頼を見かけてもやらないほうが賢明だぜ......?」


そこ濁さないでください......すごく不安になります。


「採取なんかはすぐそこの森で取れるものからちょっと遠出しなきゃいけないものまで色々だが、田舎に住んでたなら薬草とかには詳しかったりするか?」


「そうですね......いくつか知っている薬草はありますが、この辺にもあるかどうかはわからないですね。この辺ではどういった薬草を使っているんですか?」


「すまねぇ、俺は薬草とか食あたりに効く草とかそういった感じでしか分かんねぇわ。今度デリータに聞くのがいいな、あいつはそういうのも詳しいから頼るといいぜ?」


「お二人には足を向けて寝られませんね。」


「おう!精々敬い感謝し崇め奉るこった!」


豪快に笑いながら酒をあおるレギさん。

本当にこの世界に来てから恩を返さないといけない人が増える一方だね。




レギさんと別れて借りた自分の部屋に入った。

ベッドにサイドボード、小さ目のクローゼットと窓が一つ。シンプルだけど十分な部屋だ。

二年ぶりのまともな部屋か......。

肩につかまっていたシャルが床に飛び降りてこっちを見上げてくる。


『お疲れさまでした、ケイ様。今日はもうお休みになられますか?』


「そうだね、本当はお風呂に入りたいところだけど、この宿にはないらしいし今日は諦めて体を拭くだけにしておくよ。」


受付で用意してもらった濡れた布で体を拭くとちょっと肌寒いけど気持ちがいい。

あぁ、頭をシャンプーで洗いたい......。

そういうのってあるのか明日レギさんに聞いてみよう。

......いや、シャンプーの話はやめておいたほうがいいな。

急に背筋がぞくっとした気がする......体冷やしすぎた......ということにしておこう。


「明日はレギさんに街を案内してもらう予定だけど、一回森に行っておきたいね。」


『森に何か用事があるのですか?』


「森で荷物を見てもらっているグルフも気になるし、魔力操作が出来るようになったから色々試してみたいんだよね。」


魔法とか、魔法とか、魔法とか。

街中でおかしなことになったらまずいしね......周りに迷惑が掛からないところで試しておきたい。


『なるほど、確かにそれは必要ですね。おそらく今までとはかなり感覚が違っているはずです。』


「やっぱりそうだよね......。よし、朝から街を回ってくれるらしいから昼過ぎくらいに森に行かせてもらおう。」


楽しみだ、魔法、魔法ですよ......?

ワクワクして中々寝られないかもしれないなぁ。

部屋着に着替えてベッドに潜り込む。


「シャルもベッドの上においで。折角だから一緒に寝よう。」


『そんな恐れ多い!私は護衛がありますのでここで待機させて頂きます!』


「ここまで走りっぱなしでシャルも疲れてるだろ?今日はゆっくり休んだらどうかな?」


『いえ、まだ地形も街の情報も把握出来ておりませんので。今日こそ気を抜けません!』


確かに、レギさんに紹介してもらった宿とは言え絶対に安全とは言い切れない。

俺自身うかつな言動をしてしまっていることだし警戒しておくに越したことはないか......。

街に着いたことで気が抜けていたようだな、ここは安全な日本じゃないんだ。

この街の文化や情勢、勢力を把握していない以上何が起こるか分からない。


「そうだね、ごめん。危機感が抜け落ちていたみたいだ。」


『いえ、差し出がましいことを言いました。ケイ様はごゆっくりお休みください。護衛はしっかりと務めさせていただきます。』


「それはちょっと......。グルフもいないし、今日は半々でいいんじゃないかな?」


『......承知いたしました。では先にお休みください、4時間程で交代していただけますか?』


「うん、それでお願いするよ。じゃぁお休み。」


見張りに関しては旅の最初に散々話し合ったおかげですんなり......少しだけ間があったけど......決めることが出来た。

旅の初日は大変だったなぁ......寝ずの番を決める為に二人で夜明けまで話し合ったのだ。

意味ないよね......?


『お休みなさいませ。』


ベッドに横になると体が痺れるような心地よさに包まれる。

......久しぶりのベッドを堪能しよう......。


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