第16話 これが......魔法!



レギさんに教えてもらった森の中にある広場にたどり着いた。

木々に阻まれ街道は見えないが想像していたよりも広場は広く地面も均されているいるように平らだった。

それはさておき、色々試しましょうかね!

シャルが少し離れたところで見守る中意識して全身に魔力を巡らせてみる。

今までは椅子に座って手の中でごにょごにょ魔力を動かしていただけなので魔力を使って体を動かすのは初めての経験だ、まずは軽く走ってみよう。

そう思って地面をけった次の瞬間、周りの景色が一変した。


『ケイ様!大丈夫ですか!?』


「......え?」


シャルが慌てて近寄ってくる。

どうやら自分が思った以上の速度に一歩目の踏ん張りが効かず、地面に向かってダイブしたようだ。

かなりの勢いで地面に突っ込んだのにかすり傷すらない......これが魔力か!

魔力の凄さを感じる部分が少しずれている気がしないでもないが地面を転がり傷一つないのは凄いな。


「あぁ、大丈夫だよシャル。でもびっくりした。今まで通り動こうとしたら転んじゃったよ。」


『そうでしたか。確かに今まで魔力を全く使わずに生活されていたので、身体能力の違いについていけないのも無理はありません。』


「そっか......普段から魔力を使った状態にして慣らさないといけないね。」


『そうですね、魔力は身体機能の一つにすぎません。特別な能力として扱うのではなく己に根差す機能として自然に使えるようにするのが第一歩ですね。』


「なるほど、特別なものとして考えすぎてたってことだね。魔法までの道のりは遠いかなぁ。」


『ケイ様は魔法の話になると、その、失礼ながら物凄く可愛いといいますか......幼子のようですね。』


シャルが生温かい目でこちらを見ている。

気恥ずかしさを感じたのでとりあえず両手でシャルをわしゃわしゃしておく。


『うぁぁぁぁ、ケイさまぁぁぁ、おやめくださいぃぃぃ。』


勢いよくやりすぎたか、シャルが悲鳴を上げる。


「おっと、ごめん。力入れすぎたかな?」


『いぇ......そういうわけではないのですが......。』


シャルはむず痒そうに身をよじりながら咳払いをする。

狼も咳払いするんだ......?


『先ほど仰られていた魔法の件なのですが、単純なものでしたら今でも十分使えると思います。』


「えっ!?ほんと!?」


あ、しまった、ものすごい食いついてしまった。

シャルの目がまた優しい感じになってる。


「こほん、えっと......シャル、教えてもらってもいいかな?」


『承知いたしました。では魔法を行使する前に魔力を使っている状態で垂直に跳んでもらえますか?』


「了解......せーのっと!」


力を込めてその場でジャンプしてみる。

おぉ!すごい跳んだ!

1メートル以上跳べた気がする......今なら憧れのダンクできそう......。

バスケが......したいです......。


『じゃぁ次は身体強化の魔法を使って跳んでもらいます。使うのは脚力強化、但し魔力はあまり込めないでください。魔法の使い方は天狼様からご指導を受けていると伺っていますが......。』


「うん、使うのは初めてだけど大丈夫だと思う。やってみるね。」


魔法の行使に必要なのは加護と魔力。

加護に意識を向けてどのような影響をどこに及ぼすかを指定、魔力を燃料にそれを実現する。

母さんは願いを具現化するって言っていたな。

与えられた加護によって影響を及ぼす範囲や出来ることに違いがある。

母さんの加護によって影響を与えることが出来るのは自分や他者の身体、その内容は強化、弱体、回復だ。

使い方は難しくはない、対象と効果をしっかりと意識しながら魔力を込めるだけ。

今回の場合は自分の脚力を強化、しっかりとイメージして効果を加護より引き出す。

じわりと足が熱を帯びたような気がする。


「出来た、かな?」


『はい、しっかりと発動しています。』


「じゃぁ、跳んでみるよ......せーのっ!」


地面を蹴った次の瞬間、俺の体は宙を舞っていた。


「お......?た、たかっ!」


3メートルくらいは跳んだんじゃないだろうか?

高っ!こわっ!落ちる!

跳んだら落ちる、当たり前だ。

15段くらいの階段の一番上から飛び降りるくらい?怖すぎるんですけど......。

これもっと魔力込めたらもっと高く飛べるんだよね......?

シャルに魔力をあまり込めないように言われていてよかった......。

1人でやっていたら思いっきり魔力を込めていたかも......死因は垂直跳び?冗談じゃない。

なんとか地面に着地すると安心したのか魔法を使えた喜びが湧き上がってくる。

地味な魔法ではあったけれど紛れもなく魔法だ......!


『お見事です、ケイ様。今はまだ体が魔力に慣れていないので少量の魔力での行使に留めておいてください。慣れてきたら徐々に魔力の使用量を増やしていきましょう。』


「ありがとう、シャル。これが魔法かぁ、もっと色んなことが出来るようにがんばらないとな!」


『微力ながらお手伝いさせていただきます!』


シャルがこちらを見上げながら尻尾を振っている。


「ありがとう、シャル。よろしくね。」


シャルの頭を撫でながらお礼を言っていると、シャルの耳がぴくんと立った。


『グルフが来たようです。』


シャルが森の奥の方へ顔を向ける。

俺もそちらを見てみるがまだグルフの姿は見えない。

視力強化とかしてみたら見えるかな?

試しにやってみたところ、暗がりは見通せないし、そもそも木々にさえぎられて見えない。

ただ意識すると50メートル先の葉脈すら見えてちょっと気持ち悪い。

魔法の効果を切ると同時にグルフが広場に姿を現した。


「やぁ、グルフ。荷物番ありがとうね。」


傍に来たグルフが頭を下げて来たので両手で撫でる。

グルフはシャルみたいに体の大きさを変えることが出来ないので非常に大きい。

そういえばシャンプーとブラッシングしたかったんだよな......道具売ってるかな?


「グルフには母さんの加護はないよね?」


『はい、ありませんが、何故でしょうか?』


「うん、グルフも体の大きさを変えられないかなと、後は念話出来たら便利だなと思ってね。」


グルーミングするなら体のサイズを小さくしてくれたほうがいいなぁと思ったんだけど......。


「グルフの体を綺麗にしたいのと、後はシャルみたいに小さくなれれば街に連れていけるからね。」


『なるほど......念話は魔法ではなく魔力を使った技術ですので彼も今勉強中です。もう少しお待ちいただければ使えるようになると思います。身体変化は......魔道具を使わせるというのはどうでしょうか?』


「魔道具か......なるほど。身体変化の魔法を付与した魔道具を作ってグルフに使ってもらえばいいんだね。」


『はい、それでしたら加護を受けていないグルフであっても魔法の効果を自らの魔力で引き出せます。魔道具の作り方は御存じですか?』


「うん、母さんから教えてもらってるから大丈夫だよ。ただ体の大きさを変化する魔法を使えるようにならないといけないから今日はまだ無理かな。でも近いうちに作ってあげるから一緒に街に行こう。」


グルフに話しかけながら頭を撫でているとごろんと横たわりお腹を見せたので、お腹を撫でてあげると気持ちよさそうに目を細めていく。

このまま寝そうだなぁと思いながら撫でていると急に目を見開いたグルフが跳ね起きる。

何か警戒することがあるのかと辺りを見渡したが特に異変は感じられなかった。


『ケイ様、今日はこのまま魔力に体を慣らすために運動をするというのはどうでしょうか?』


いつの間にかグルフの頭の上に乗っていたシャルが提案してくる。

ずっと肩にへばりついていたマナスも同意するように跳ねている。


「そうだね、自由に動けるようにならないと魔法を使う意味がないもんね。じゃぁどうしようかな......みんなで鬼ごっこでもしようか?」


『鬼ごっこですか?それはどういったものでしょうか?』


「一人が鬼、三人は逃げる役をやるんだ。鬼は逃げる役を捕まえたら勝ち、逃げる役は鬼から逃げきったら勝ちだよ。色んな遊び方はあるけど今回はシンプルに。俺が鬼をやるからみんなは俺に捕まらないように逃げてくれ、逃げる範囲はこの広場だけね。」


『承知しました。ケイ様に捕まらないように逃げればいいのですね。制限時間は設けますか?』


「うん、とりあえず10分にしよう。10分経ったら鬼を交代していこう。」


制限時間がないとね......正直シャルを捕まえる自信は一欠けらもない。

というかグルフも無理だろう、マナスだけは絶対に捕まえて見せる......!


「よし、じゃぁ10数えるから俺から離れてくれ、数え終わったら追いかけるからね!」


慣れてきたら身体強化の魔法も使うけど、一先ず強化無しの全力で動けるようになろう。


「......8......9......10!よし、いくよ!」


と、勢いよく言ってみたものの、慎重に足を踏み出す。

シャルとグルフは少し離れた位置で、一番近い位置にはマナスがいる。

歩くのは問題ない、次は小走り......少しぎこちないが動けないことはない、この状態でマナスを追いかけてみよう。

3メートルほど先をマナスが弾みながら逃げていく、少しづつこちらもスピードを上げていくが差は一向に縮まらない。

くっ!マナスに手加減されているぞ!これ。

ちなみに小走りではあるものの、魔力を使っていない状態の全力疾走に近い速度で動いている。

......思っていたよりマナスが機敏だ......。

シャルはこちらと慎重に距離をとりながら、グルフはぐるっと回り込むように移動をしている。

少しづつ体の動きと意識のずれが少なくなっていきぎこちなさが無くなっていく。

マナスを追いかけ始めて5分程経過した。

そろそろ動きを激しくしてもよさそうだ......。

マナスが跳ねた瞬間を狙って思いっきり地面を蹴ってグルフに向かって飛び出した!

すっかり観戦気分で油断していたグルフは急接近してきた俺に驚き慌てて横に跳んだ。

それを追いかけるように強引に方向転換を決めグルフに抱き着くように飛びつく。


「きゃん!」


思い切り飛びついた俺にグルフが悲鳴を上げるが、怪我はなさそうだ。


「あっはっは!ゲーム中に油断はダメだぞグルフ!」


力なく耳と尻尾を項垂れるグルフを尻目に次の狙いをマナスに定め飛びつくが横っ飛びに逃げられた。

グルフにしたようにマナスが空中にいる間に追撃を行うが、マナスは体の一部を伸ばして地面に接地すると移動する向きを変えた。

すぐに追いすがろうとするがマナスは動き方を変えてジグザグに弾みながら逃げていく。

マナスを甘く見ていたようだ、思った以上に機敏で動きが読めないから距離を詰めれてもすり抜けるように逃げられてしまう!

変則的な動きだからこちらも体を色々な方向に動かさなければいけず、とても訓練になる。

マナスもそれを意識してくれているのか俺から付かず離れずの位置をキープして動き回ってくれる。

こうして残りの5分間俺はマナスに翻弄された。


『時間です!』


「くっそー捕まえられなかったか!マナスは凄いなぁ。」


少し離れたところで跳ねているマナスに称賛を送る。


『マナスの動きは特殊ですのでいい訓練になったと思います。後半の動きは見事なものでした。』


「ありがとう、10分だけだったけど結構慣れて来たかな?この調子で馴染ませていこう。」


10分間動きっぱなしだったのに息が少しも上がっていない。

これも魔力のお蔭か......。


「よし、じゃぁ次の鬼は油断していて捕まったグルフだ。俺はシャルに近づくこともできなかったし、グルフがんばってね?」


グルフは体勢を低く構えていて気合十分のようだ。

じゃぁ2回戦を始めるとしようか!


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