第17話 レギが出会った青年
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昨日、不思議な奴に出会った。
仕事までギルドで時間を潰している時だった。
なんとも頼りない感じのにーちゃんが冒険者登録をしようとしていた。
脅し役を他にやりそうなやつもいなかったので俺が仕方なくやったのだが......まぁそれはいい。
話してみると馬鹿丁寧ではあるものの中々気のいいにーちゃんなのだが、街に慣れていないようなので詫びも含めて案内を買って出た。
人を疑わないというか優しいというか、田舎出身の素朴な感じというか、兎に角面倒を見てやらないとって気にさせる不思議な奴だった。
今日は朝から商業区を回って色々となじみの店を紹介していたのだが知り合いの要請で少し仕事を手伝うことになり、その間にーちゃんは昨日覚えた魔力操作を確かめると森へ向かった。
幸い仕事は早めに済んだのでまだ日も高い。
今から森へ行けばにーちゃんに少し付き合うくらいは出来るだろう。
にーちゃんは武器を持っていなかったようなので、練習用の刃を潰した剣を宿に取りに行きそのまま森に向かうとしよう。
「おや?レギ、連れの若いのはどうした?」
宿に戻るとカウンターの奥から宿の親父が声をかけてくる。
「すこし別行動中でな、今から迎えに行くところだ。」
「そうか、まぁ分かってると思うがあんまり目を離すなよ?あの若いのは見てるとなんか不安になる。」
ほとんど話たこともない親父にこう言われるって、にーちゃんもう少しシャキッとしたほうがいいんじゃねぇか?
「あぁ、それは俺も同感だ。」
親父に手を振って自分の部屋に向かう。
練習用の剣は1本あればいいだろう、飾り気の何もない武骨な片手剣といくつかの傷薬、後はちょっとした装備を整える。
とりあえずはこんなものか、後は軽く食える飯でも買って森へ向かうとするか。
にーちゃんは冒険者になりたいと言っている。
それ自体は珍しくはない、田舎から冒険者になりに都会へ出てくる奴などそれこそ星の数ほどいる。
だがそういうやつらに比べて、明らかににーちゃんはハンデを背負っていた。
この世界で生きていく上で魔力は必須だ。
ただ生きていくだけで必須なのだ、それが使えない。
とてもじゃないが危険の多い冒険者なんかできるわけがない。
そう思いもしたが、一縷の望みをかけてデリータの所へ連れていくとあっさりと魔力が使えるようになったのだ。
とは言え、まだ使えるようになっただけで慣れるには時間がかかるだろう、魔力切れは体験したことがあるが、体が自分のものじゃないくらいに重く、武器もまともに振るう事すら出来なくなった。
にーちゃんはその逆で突然身体能力が跳ねあがったのだ、もしかした走ることもままならないかもしれない。
暫くは体を慣らすことに専念しなくてはならないだろう......。
頼りない感じはするが、にーちゃんには何か目的がある様な気がする。
まだ出会って1日だ、人となりの全てを知っているわけではないのだが、放っておけないというか何か手助けをしてやりたくなるんだよな。
あの好奇心、知らないことへ向ける興味と不安は懐かしさを覚える、俺の仲間たちが見せていたそれと同じように......。
俺にも目的、いや、必ず成し遂げなくてはいけない約束がある。
それに付き合わせるつもりはないが、不思議な雰囲気のにーちゃんは停滞してしまっている現状を打破するきっかけをくれるかもしれない。
そんな何の根拠もないことを考えながら歩いていると森の入り口までたどり着いた。
ここから広場まではそう遠くはないが、浅い部分とは言え危険が全くないわけではない。
気持ちを切り替えて森へ入る。
「なんだ......?森の雰囲気がいつもと違う......?」
嫌な感じは不思議としないが、それでも何かが起きてることは間違いない。
早めににーちゃんと合流して一度森から離れたほうがいいかもしれないな。
俺は足早に街道をそれて広場を目指す。
木々の間をすり抜けるように進み広場へ抜けた瞬間、俺の目に飛び込んできた光景に一瞬思考が停止してしまった。
バカでかい狼ににーちゃんが襲われている!
しかもにーちゃんは笑っているように見える......正気か!?
俺は荷物を捨て、腰の剣を抜くとにーちゃんと狼の間に割り込むために走り出す。
アレは灰王か!?10年近く誰にも目撃されなかったって言うのに何故こんな森の浅い場所で......!
「にーちゃん!逃げろっ!!」
にーちゃんは驚いたようにこちらを向き動きを止める。
馬鹿!動きを止めるんじゃねぇ!しかもなんだその緊張感のない面は!?
そこでなんとか灰王とにーちゃんの間に割り込めた、にーちゃんは動きを止めたままだが幸い灰王の方も動きを止めていた。
「にーちゃん!早く逃げろ!ギルド、いやデリータにこのことを伝えてくれ!時間は俺が稼ぐ!頼む!行ってくれ!」
デリータならうまく処理をしてくれる、いきなりにーちゃんがギルドに行くよりも確実なはずだ。
以前は見逃してもらえたが今回も同じとは限らない。
くそっ!ちゃんとした武器を持ってこなかったのが悔やまれる。
「あ、あの、レギさん。」
「何をしている!早く行け!いくら何でも長くは持たせられないぞ!」
混乱しているのかにーちゃんの動きが鈍い。
蹴り飛ばしてでもにーちゃんを動かしたいが下手な動きは出来ない、それどころか目線を逸らすことさえ命とりだ。
「頼む!行ってくれ!俺の事は心配するな!時間を稼いだらすぐに逃げる!」
「レギさん!待ってください!」
にーちゃんが制止してくるが、止められるはずがない。
二人で逃げるなんて出来ない、片方が足止めするしかなく、それが出来るのは俺しかいない。
......こちらから動いて位置を変えるか?
森の奥へ向けて体をずらそうとした瞬間、後ろで気配が動く。
「レギさん、大丈夫です!危険はありません!グルフ下がって!」
にーちゃんが叫びながら俺の前に出ようとする。
「ば、馬鹿!何しているんだ!」
灰王から目を逸らさずにーちゃんを押さえる、それと同時に灰王は後ろに大きく飛びのいた。
「レギさん、聞いてください!彼はうちの子です!」
「うちの子?何を言ってるんだ!?」
「グルフ、お座り!」
にーちゃんが命じると灰王が飼い犬のごとくお座りをする。
「......はぁ!?」
「見てのとおりです。僕の田舎から一緒に来たグルフです。」
見ての通り!?
「え!?灰王ペット!?」
「あ、いえ、ペットというわけでは......後、灰王でもありませんよ。」
灰王じゃない......のか?
巨大な狼はにーちゃんに命じられたままお座り状態で尻尾をぶんぶん振っている。
その姿に威厳は感じられず、愛嬌さえ感じる気もする......。
......いや、それは気のせいだな。
殺気は一切感じられない、それでもその圧倒的な存在感に押しつぶされそうな重圧を感じる。
「す、すまねぇ。にーちゃんが何を言っているのかわからねぇんだが......。」
混乱している俺はにーちゃんに説明を求める。
「僕の仲間のグレーウルフのグルフです。田舎の森に棲んでいたグレーウルフで、僕の旅についてきてくれることになったのですが、さすがに街の中に連れていくわけにはいかなかったので森で待っていてもらったんです。」
「......なるほど......。」
落ち着け俺。
1個ずつ分解して考えるんだ。
街中に連れてこられないから森で待っていてもらった、分かる、このサイズは連れ込んだら大騒ぎ所じゃない。
森に棲んでいたグレーウルフが旅についてきてくれた、理解しがたいが分かる、野生の狼に懐かれるってのは余り考えにくいから昔からの顔なじみってことだろう。
グレーウルフのグルフ、分かる、にーちゃんのネーミングセンスが爆発してる。
なるほど、分かるなこれ、完全に理解した。
そう思い顔を上げた俺の視界に3メートルを超える巨大な狼が映る。
「わかんねぇ!」
森の中に俺の叫びが響き渡った。
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