第18話 納得してくれました?
魔力を体に慣らすためにみんなで鬼ごっこをしていました。
グルフが鬼になって少し経った頃レギさんがすごい勢いで走りこんできました。
レギさんは俺に逃げるように捲し立てました。
レギさんを落ち着かせてグルフの事を説明しました。
レギさんが叫びました、今ここ。
「えっと......変な事いいましたか?」
「変かどうかでいうならおかしなことしか言ってねぇぞ!?」
「そうですか......?」
ちゃんと説明したつもりだったけど、難しいな......。
いや違うか、レギさんからしたら過去に出会った灰王の再来なんだ。
恐怖や畏敬の念が先に立ってもおかしくはない。
とりあえず危険がないことが分かってもらえれば大丈夫だと思うんだけど......。
「とりあえず、危険はないですよ?......ほら。」
そう言いながらグルフに近づきレギさんに見せつけるように両手でわしゃわしゃする。
なすがままのグルフはそのまましなだれるように寝転がり、へそ天へ移行、そのまま俺はお腹を撫で続ける。
「犬か!」
「狼ですけど......まぁ、似たようなものです。ちょっと大きいだけで気のいい子ですよ。」
「ちょっと所じゃねぇだろ......。だが、まぁ、危険がないのは理解した。」
レギさんはぽりぽりと頭を掻き、自分に言い聞かせるようにしながら納得してくれたようだ。
「んで、さっきは何してたんだ?正直襲われてるようにしか見えなかったんだが。」
「あはは、まぁ確かに間違ってないかもしれないですが。魔力を慣らすのに付き合ってもらっていたんですよ、皆で鬼ごっこして。」
「鬼ごっこ?こいつ、ルールとか分かるのか?っていうか、皆?」
「はい、シャルとマナスとグルフと俺の四人です。」
「......なるほど。」
何か納得いってなさそうな雰囲気をレギさんが醸し出す。
なんだろう......?
「マナスは意外と機敏な上、動きが変則的でかなり手ごわいんですよ。シャルは正直格が違いすぎて追いつける気がしないです。グルフは結構単純なので一番与しやすいですね。」
「......なるほど。」
レギさんの全身から納得いってませんよオーラが立ち上っている気がする。
「ところで、レギさんがここに来たってことは先程の仕事はもう終わったんですか?」
「......おう。そうだな......いや、俺もにーちゃんの肩慣らしに手を貸そうと思ってな?にーちゃん剣は使えるか?練習用の剣持ってきたんだが。いくら何でもこいつらじゃ剣は使えないだろ?」
流石に無理だよね......グルフの方を見てみると横に首振ってるし。
「ありがとうございます。えっと、剣はあんまり得意ではないんですが、折角なので使わせてもらっていいですか?彼も剣は使えないみたいなので......。」
神域で母さんに少しだけ手ほどきしてもらったけど、あまり上手じゃないから剣は使わないほうがいいかもしれないですね、って優しく微笑まれたからなぁ。
まぁ、当時は魔力使えなかったから力も体力もなかったわけだし、今ならもう少しましかも?
「今普通に会話出来てたよな......?」
「どうかしましたか?」
「いや、まぁ、いい......。こいつを使ってくれ。」
何か言いたそうなレギさんから剣を一本受け取る。
少し気になるけどまぁ、いいか。
魔力のお蔭で重さはあまり感じない、神域で初めて持った時は以外と重くて1回振るたびに体が流れていたものだった。
2、3度振って感触を確かめてみる。
うん、やっぱり前よりも扱いやすい。
「思ったより、様になってるな。よし、やってみるか。」
腰に挿していた剣を軽く構えるレギさんは凄く様になっていて、かっこいい。
「お願いします!」
とりあえず、戦闘訓練というよりも体を動かすことが目的だ、思いっきり当たって砕けよう。
体勢を低くしながらレギさんとの間合いを詰める。
鬼ごっこのお蔭で違和感なく体を動かせる。
右手首を狙って軽く振った剣を弾かれる、そのまま逆らわずにレギさんの右側に回り込みながら次の攻撃を繋げる。
攻撃を払われ、再度打ち込み、間合いを外されたので追撃しながら間合いを詰める。
レギさんからの打ち込みが来たので逸らすように相手の武器を流しながら再度右手側に回り込むように動く。
一つ一つの動作を慎重に、流れを途切れさせないように先を考えながら動きを組み立てる。
......おぉ、俺戦えてる......びっくりだ。
体は動くし、思考もちゃんと回っている。
打ち込む速度を上げていく......体の熱が上がっていく気がする!
もっと体を動かせ!頭を回せ!
袈裟切り、薙ぎ、切り上げ、唐竹。
型なんて知らないし、繋がっているかどうかは問題じゃない、ただ動きたいように動いているだけだ。
「ぬ......ぐっ。」
レギさんが俺の打ち下ろしを受け止め、そのまま押しのけるように一歩踏み込んできた。
そこを狙って出足払い、完全には決まらなかったが体勢を崩すには十分。
「うぉ......!」
体勢を崩したレギさんに追撃を仕掛けるが切り上げられて剣を跳ね上げられる!
剣はもういい、そのまま手放してレギさんに肉薄する!
「なっ!?」
左肘で剣を持つ手首を狙い、同時に相手の喉を狙って掴むように右手を伸ばす。
狙いは外されたが至近距離を嫌ってレギさんが後ろに下がろうとしたところを小内刈りで足を掬う。
「しまっ......!?」
上手く重心を崩せたので、そのままの勢いでレギさんを押し倒してマウントに移行。
レギさんの顔めがけて拳を振り下ろし、寸前で止める。
「ぷはっ!」
集中しすぎて呼吸するの忘れてた。
「......にーちゃん、どいてもらっていいか?」
「あ!すみません!」
慌ててレギさんの上から退く。
しまった、なんか変なスイッチ入ってたみたいだ、そういえばなんか途中から剣捨ててたような......。
「にーちゃんは戦い方がえげつないなぁ。」
鞘に剣を戻しながらレギさんが話しかけてくる。
あ、借り物の剣放り出したままだ!
慌てて辺りを見渡すと、グルフが剣を回収して持ってきてくれているところだった。
「剣は得意じゃないって言ってたけど小さめ得物が得意なのか?」
「うーん、よく分からないです。武器を使った訓練って今までしてこなかったので。」
「なるほどな......まとわりつくような動きで死角に移動していく感じはナイフとかがあってる気がするな。」
「なるほど......。」
「魔力もすっかり馴染んでいるようだったし、途中から一気にヒートアップしたかと思ったら別人みたいだったぞ。なんつーか獣でも相手にしてるような感じだったな。圧倒されちまったよ。」
「あはは、すみません。途中からちょっとわけわかんなくなってました。」
なんだろう?
今までやったこともない動きが自然と出来たし、なんか頭もすごい勢いで働いていた。
なんか無意識のうちに魔法つかってたのかな......?
「ちょっと面喰っちまったが、次はしっかり対応してやるぜ?......でもそっちの武器がねぇなぁ。にーちゃんなんか持ってないか?」
「練習用の武器はちょっとないですね......。とりあえず体動かすことが目的なんで、素手でいきたいんですけどいいですか?」
「そうだな、じゃぁ俺がそっちの練習用の剣使わせてもらうか。こっちも素手だとちょっと相手出来なさそうでな、当てない様には気を付けるが、魔力が切れそうだったら言えよ?切れた時に当たると骨くらい軽く折れるからな。」
グルフから渡された剣をレギさんに返す。
結局途中で剣捨てちゃったし、やっぱり母さんに言われたように剣は向いてないのかなぁ。
まぁ積極的に戦うつもりはないし別にいいけどね。
あくまで護身ですよ、いきなりやられなければ後はシャルに乗って逃げられると思うし。
それさえ無理な状況なら考える暇もなく死んでるだろうしね。
とにかく俺は剣より魔法派でいく......身体強化系魔法だけど......。
知性より肉体を感じるな......。
「わかりました。切れそうになったら早めに言います。じゃぁもう一回お願いします!」
魔力を使えるようになっただけで別人のように体が動く。
これはすごいなぁ、魔法も使うようになったらどんなことが出来るようになるのか......。
使ってみたい気もするけど、まだ早いかな......軽く使っただけであのジャンプ力になったんだ。
もっとじっくり体を慣らして、練習してからにしよう。
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