第19話 恥辱にまみれようとも
森でレギさんに身体慣らしに付き合ってもらったのは昨日の事。
今日は再度冒険者ギルドに来ていた。
「よぉ!」
「あ、レギさん。おはようございます。今日は受注ですか?」
レギさんが受付のおねーさんに声をかけている。
一昨日対応してくれた人だ。
「いや、今日はツレをギルドに登録したくてな。」
「お知り合いの方の......?あれ、あなたは確かこの前の......。」
「先日はお世話になりました。改めて冒険者ギルドに登録したいのですが。」
そういってカウンターの前に進み出るとおねーさんは困ったような表情を浮かべる。
「えっと、ですが、その......。」
ちらっとレギさんに受付のおねーさんが視線を向ける。
あぁ、すみません......言いたいことはわかります......。
「魔力なら問題ねぇ。あの後デリータの所に相談に行ったらあっさり使えるようになりやがったよ。」
レギさんがニカッと笑いながら説明してカウンターから離れる。
「そうなのですか!?それはおめでとうございます!」
魔力が使えるようになったことを祝福してくれるおねーさんは凄く嬉しそうだ。
魔力を持たない人の事をデリータさんから聞いたため、あの時何故痛ましい物を見るような雰囲気だったのか、何故こんなにも祝福してくれるのかが分かる。
この人もまたとてもいい人なのだ。
「ありがとうございます!おかげ様で魔力操作が出来るようになりました。ですのでもう一度登録をお願いしたいのですが。」
「承知いたしました。では、申し訳ないのですけどもう一度こちらに記入をお願いします。それと身分証明書の提示もお願いします。」
「こちらこそ、お手数おかけします。えっと、証明書はこれですけど大丈夫ですか?」」
門で発行された魔力が使えないことの証である仮の仮の証明書を提示する。
この前は名前を書いた後に身分証明書を出してダメだったからな......。
まぁおかげでレギさんと知り合いになれて色々助かったわけだから良いか悪いで言えばとても良いって感じだけど。
「えぇ、魔力が使えるのであれば大丈夫ですよ。最後にギルドの登録証に魔力を込めてもらう必要があるのでそちらが出来れば問題ありません。」
手続き的にはそういうものか、レギさんは実務として魔力が使えないと話にならないって言っていたけど。
「わかりました。記入はこれで大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。では次に......あっ。」
「ん?」
おねーさんが何かに気づいたように声を上げる。
何か記入おかしい所があったかな?
「おいおい、お前みたいな奴が冒険者になれると思ってんのか!?」
......えー?
目の前にいるおねーさんはあちゃーみたいな顔をしている。
「聞いてんのか、コラ?」
カウンターから離れていたレギさんの方を見るとものすごいにやにやしていた。
......楽しそうですね。
「こっちみろや!コラァ!?」
そろそろ振り返らないといけないかな......いけないのかなぁ......?
これは俺どういう顔して相手したらいいの......?
はぁ......とりあえず振り返ろう。
「えっと、何か御用でしょうか?」
ぶふぉ!っと誰かが噴き出したような音が聞こえる。
いや、まぁ、誰か確認するまでもないんだけど。
「御用でしょうかじゃねぇんだよ?舐めてんのかてめぇ!?」
ダメだめんどくさいを通り過ぎて、この人が何言っても面白い感じがする......。
申し訳なさもあるんだけど、なんかもそれも面白い。
「すみま......ぶふぅ!」
しまった、思わず噴き出しちゃった。
「てめっ!きったねぇな!ふざけんなよ!?」
いや、これは本当に申し訳ないです。
「すみません。真面目にお仕事をされているところ申し訳ないのですが、僕はこのギルドで登録をしようとするのが2回目でして......まさか2度も同じパターンで絡まれるとは思わず、うっかり笑ってしまいました。」
頭を下げて謝る。
あれ?この人ちょっと足震えてるような......?
「......え?」
「ちなみに二日前のことでしたが、その時絡んできたのはあそこでにやにやしながら見物している人でして......。」
目の前で俺に絡んでいた冒険者の方は顔を赤くしながらレギさんのほうを向く。
あ、レギさんがまた噴出してとどめさしてるし。
「うぁ......。」
もはや彼の顔は真っ赤だ。
物凄くいたたまれなくなってくる。
「クルストさん、すみません。言う暇がなかったのですが、今回は......その、それはいいです。」
......崩れ落ち、蹲ってしまった。
なんか3人がかりで虐めている様だ......でも今俺が何言ってもダメだよね......?
最初にぶち込んだの俺だし......せめて足が震えてたのに先に気づいてたら他に言いようがあったかもしれない。
「............っ。」
声かけられないなぁ......。
ある意味これも不測の事態に対応するテストになってるよね......?
「えっと......お仕事をされていただけですので、気にされることはないと思いますよ?」
「......仕事......。」
「そうですよ、あなたが恥じる所はどこにもなかったと思います。僕が二度目だったというイレギュラーだっただけで、普段であれば問題なかったわけですから。」
「......問題なかった......?」
ついでにあそこでニヤニヤしてる人も巻き込んでやろう。
「それに元々の原因である1回目に盛大にやらかしたのはあそこで見ている人ですし。あの時は登録がそもそも出来なかったのに絡んできて、完全に勇み足だったわけですし。」
ニヤニヤしていたレギさんの顔が少し歪む。
「......あの禿のせい......?」
「誰が禿だ!クルストてめぇ!引き抜くぞ!」
頭部の話題に対するヘイトが高すぎます、レギさん。
「ひぃ!すんませんっス!」
レギさんが脅したおかげでうずくまっていたクルストさん?が飛び起きた。
「ふぅ......恥ずかしかったっス。もうこれやめたほうがいいと思うっス。あんたも気を使わせて悪かったっスね。あまりの恥ずかしさに悶死する所だったっス。」
「落ち着いたようで何よりです。今日、冒険者登録したケイ=セレウスです。ケイと呼んでください。」
「俺はクルストっス。まだ初級冒険者っスけど、何か困ったことがあったら相談に乗るっスよ。」
「ありがとうございます、宜しくお願いします。」
クルストさんは初級冒険者か。
そういえばどうやってランクは上がっていくんだろう?
別にばりばり上げていくつもりはないけど、今度レギさんにでも聞いてみるか。
「ケイさん、すみません。登録の続きいいですか?」
「あ、すみません。分かりました。」
カウンターに向きなおるとプレートのようなものが用意されていた。
これが登録証なのかな?
「これがさっき言ってた登録証ですか?」
「えぇ、左上にある魔晶石に魔力を流し込んでください。」
ランプみたいに割らないように気を付けて......滲みだすように......。
一瞬魔晶石が光った、これでいいのかな?
なんか遠くの方で、クルストちょっとこっちにこい、ちょっと口が滑っただけっス、頭が滑ってるだぁ、ひどい被害妄想っス、みたいな会話が聞こえてくる。
向こうも興味深い事件が勃発しているようだけど今の俺は手続き中だ。
「これで大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。今後はそれを提示すれば身分証明が可能となります。再発行は可能ですが次からは銀貨15枚がかかります。ですのでなくさないように気を付けてください。」
「わかりました。」
銀貨15枚か、結構高い気がする。
なくさないように気を付けよう。
「ケイさんは現在初級冒険者となります。ギルドにある初級冒険者用の依頼を10個こなせば下級冒険者に昇格します。下級冒険者に上がらずに半年が立ちますとギルドから登録が削除され、登録が削除されると同じギルドで再度登録は出来なくなるのでご注意ください。」
「他の街の冒険者ギルドだったら大丈夫なんですか?」
「えぇ、昇格できなかった場合であれば問題ありません。犯罪等を犯して登録削除された場合は流石に他所のギルドに行っても登録は出来ないので、悪いことはしないでくださいね?」
にこっと笑いながら冗談っぽくおねーさんは説明してくれた。
受付には綺麗所がいるのはどこの世界でも一緒なんですね。
「あはは、一応気を付けておきます。」
「知り合いの方がお縄に着くのは見たくないので注意してくださいね。後は何か聞いておきたいことはありますか?」
「依頼を受けるにはどうしたらいいんですか?」
「依頼はあちらのボードに張り出しているものから選んで受けてもらうことも出来ますが、全ての依頼が張り出されているわけではありません。特に初級冒険者用の依頼はほとんど張り出すことがないので、受付で確認してもらってから受注してもらう事になります。」
「わかりました、ありがとうございます。後はやっていくうちに何か出てくるかもしれません。」
「承知いたしました。それではケイさん、冒険者ギルドへようこそ。これから宜しくお願いしますね。」
「宜しくお願いします!」
ギルド証を懐に入れてカウンターを離れる。
これで当面の目標はクリアかな?
でもこのままじゃ半年で失効しちゃうからな、次の目標は下級冒険者になることだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます