第20話 信頼はコツコツ積み上げるもの



レギさんに登録が無事終了したことを伝えに行くと不思議な光景が広がっていた。

レギさんが斜め上に伸ばした腕の先にクルストさんがぶら下がっていたのだ。

というか、レギさんにアイアンクローで宙づりにされたクルストさんが力なく垂れさがっている。


「えっと、冒険者登録出来ました。レギさんのお蔭です、ありがとうございます。」


「おう、無事登録出来たようで何よりだ。仕事はどうするんだ?今日から始めるのか?」


どこにも力を入れてる雰囲気を出さずに返事を返してくるレギさん。

ピクリとも動かないクルストさん。

突っ込むべきが放置するべきか......。


「そうですね、初級向けはないかもしれないですけどボードを確認してからカウンターで聞いてみようと思っています。」


俺は放置することにした。


「なるほど、まぁどんな依頼が張り出されているか確認するのは悪くないな、軽く説明してやるぜ?」


「ありがとうございます、お願いします。」


おもむろにレギさんは掴んでいたクルストさんを放り捨てると依頼を張っているボードの方へと足を向ける。

流石に放置するのは忍びない......。


「......大丈夫ですか?」


「......ある?俺の頭ある......顔は......?」


「ありますよ、大丈夫です。まだ残ってます。少し変形してますけど。」


「......変形......してる......?」


「いえ、大丈夫です。もう治りました。」


「......あー死ぬかと思ったっス!頭弾けるかと思ったっス。えーっと、ケイでしたっけ。登録は終わったっスか?」


「えぇ、特にアクシデントもなく。」


「......ケイは意外と毒を吐いてくるっスね。えぐっていくタイプっス。」


「あはは、すみません。もう大丈夫そうなので僕は行きますね。」


クルストさんも復活したし、レギさんの所に行こう。

待たせちゃってるしな。

そう思い立ち上がった所でクルストさんに声を掛けられる。


「ケイは何をしてるっスか?登録はもう済んだっスよね?」


「えぇ、これからレギさんに依頼について教えてもらおうと。」


「あぁ、あの、は......レギさんっスか。あ、こっち睨んでるっス、待たせるのは良くないっス。早くいくっス!」


いや、睨まれてるのはまた口を滑らそうとしたからだと思いますが......。

それはさておき、ボードの方へ移動すると何故かクルストさんもついてくる。


「なんでクルストも来てやがんだ?」


「まぁまぁ、いいじゃないっスか。俺にも話を聞かせてくださいっス。」


「ちっ......金取るぞ。」


渋々といった感じでレギさんがクルストさんを受け入れる。


「今ここに貼ってあるのは、殆ど下級冒険者用の仕事だな。受注条件は必ず書いてあるから絶対確認するようにしろ。内容と条件をチェックしたら、カウンターに行って詳細を確認だ。あ、依頼書は剥がすなよ?他の冒険者も見るからな。剥がしたり汚したりすると罰金が発生するから気を付けろ。受注希望を申し込んだら後は締切日に確認に来るんだ。申し込んだ奴らの中から一番条件に合うやつをギルドが選んで契約に進む。ここまでが基本的な受注までの流れなわけだが......。」


「マジっスか、罰金とか聞いてないっス。ボードから依頼受けなくてよかったっス。」


「......お前には前説明したはずだけどなぁ。」


レギさんの涼し......さわやかな頭に青筋が浮かび、クルストさんを睨む。

後、何故か俺も睨まれた。


「依頼書は大切に扱えって言ってたのは覚えてるっス。罰金の事は覚えてなかったとしても慎重に扱うつもりだったっス。」


「......まぁいいか、続けるぞ。初級冒険者向けの依頼はボードにはほとんどないからカウンターで確認するほうがいいな。初級冒険者向けの仕事は比較的誰でもできるような薬草の採取や狩りが多い、逆に殆どないのは護衛や荷物の輸送とかだな。理由は分かるか?」


「危険が多いからっスか?」


「信用が足りないからじゃないでしょうか?」


クルストさんと俺がそれぞれ答える。


「どちらも正解だ。危険が多く予想されるなら当然上位の冒険者に仕事は回る、だが基本俺たちは自己責任だからな。だから依頼のランク付けはある意味俺たちの為じゃなく依頼人の為にあるんだ。つまりはケイの言うように信用だな。依頼達成できなかった時は違約金が発生するが、依頼主からしたらそんなものより達成してくれないと困るわけで、金で解決できる問題じゃないことは多い。」


「お金を稼ぐという意味でも自分に見合った内容とレベルの依頼を受ける必要があるし、そもそも早い者勝ちじゃなく応募者の中から最適な人に割り当てられるという時点で依頼を完遂出来ると判断されているという事ですね。」


冒険者の為のシステムというよりも依頼人の為のシステムっていう側面が強いみたいだな。

依頼が達成されなければお金にならないんだから組織である以上それは当然の帰結とも言える。

まぁ、危険度なんかは人材を失わないために設けているのだろうし1から10までがそうとは言わないだろうけど。


「まぁ、そうだな。だからと言って安全が保障されているわけでも無ければ、仕事中にイレギュラーが起こることなんてざらにある。受注できたからって油断はするなよ?」


「「はい(っス)!」」


油断は絶対にしない、魔力初心者の俺にはまだまだ危険がいっぱいだ。

やらないといけないこともあるし、神域から出ていきなり死んでは何度も助けてくれた母さんに申し訳なさすぎる。


「さて、案の定ボードに初級冒険者向けの仕事はないな......クルストは今まで何回依頼受けたんだ?」


「昨日4つ目の依頼を終えたところっス。」


「今まで受けた依頼を聞いてもいいか?」


「いいっスよ。森での薬草の採取2回、下水掃除、西門の先の村に薬の配達っスね。」


やはり初級冒険者にはお使いやお手伝いって感じの内容が多いみたいだな。

こういうのを通して信頼を重ねていけってことだな。

よく物語なんかで最初の依頼がおおごとになって解決したら一気にランクアップ!みたいなのはあるけど、実力はともかく人柄が分からないし信用が大事な仕事は任せにくいよね......。

モンスター退治みたいな仕事だけだとしても受けるだけ受けて仕事放り出されたらたまったもんじゃないし、信頼と実績による査定は大事だよね。


「ちゃんと色んな種類の依頼受けてるじゃねぇか。」


「ういっす。下水掃除は結構きつかったっス。戦闘もあったし、一番危険を感じたっス。病気も怖かったっスね。」


「あぁ、下水掃除はそうだな......。だがまぁここに住んでいるなら一度は経験しとくべきだな。大切な仕事だ。稼働時間に対する報酬も割が良かっただろ?」


「まぁ、確かに報酬は良かったっス。」


下水掃除か......聞くだけでも大変そうな仕事だな......。

そういえばデリータさんが下水にはスライムがいるって言ってたけど、それと戦ったわけじゃないよね?


「よし、じゃぁカウンターでなんか依頼がないか聞いてみるか。」


そう言うとレギさんはカウンターに向かう。


「いい仕事があるといいっスねー。」


「そうですね。僕は初めての仕事になるのでいい経験になりそうなのがいいです。」


「俺はやっぱり割のいい奴がいいっス。」


そう言いながら親指と人差し指で輪っかを作る。

あぁそのジェスチャーこっちでもあるんだ......。


「僕はまだ報酬がどんなものなのかすらわかってないですよ。」


そんなことを話しているとレギさんが受付のおねーさんに話しかけられていた。


「あ、レギさん受注ですか?」


「......なんかさっきも聞かれたな。もしかして面倒な依頼でも来てるのか?」


「あはは、すみません......実は......。」


「あれ?もう話始めてるっスね、早くカウンターに行くっスよ。」


受付で話を始めたレギさんに気づくとクルストさんが急かし始めた。

俺たちの為に教えてくれているんだから早くいかないとな。


「にーちゃん、クルスト、ちょっと依頼を受けようと思ってな。悪りぃがちょっと待ってもらえるか?」


そう言うとレギさんは受付のおねーさんと話を続ける。


「なんか厄介ごとっスかね?」


「どうでしょう?厄介な依頼って多いんですか?」


「どうっスかねー?所詮俺も冒険者になって一カ月程度のぺーぺーっスから、あんまり詳しくないんスよ。頼りなくて申し訳ないっス。」


「いえいえ、僕は新人どころかこの街に着いてまだ3日程度ですので。知らないことばかりですよ。」


「おや、お上りさんだったっスか。じゃぁ街にもまだ慣れてない感じっスね。」


「一応レギさんに昨日街を案内してもらったので不便はしないくらいって所ですね。」


「なるほど、やっぱりレギさんは面倒見がいいっスね。」


「クルストさんもレギさんにレクチャー受けたんですか?」


「そっスよ。まぁ今ギルドに所属してる冒険者の殆どの奴がレギさんに何かしら世話になってると思うっス。」


殆どの冒険者が世話になってるって、レギさんは思ってた以上に凄い人だったのかな?


「レギさんは実はかなり凄い人だったりします?」


「おや?知らなかったっスか?このギルドではトップクラスの有名人っスよ。二つ名も......一応あるっスね。」


二つ名とかあるんだ......というかレギさん結構な大物なんじゃ......?

あれ?でも下級冒険者だよな......?

中級になるのってそんなに難しいのかな......?


「おぅ、待たせたな。」


おねーさんとの会話を終えてレギさんが俺たちの所に戻ってきた。


「おかえりなさい。依頼を受けて来たんですか?」


「ちょっと面倒で、割もよくない仕事なんだけどな。」


そう言うとレギさんは頭を掻いた。


「これは強制じゃないから断ってくれても構わねぇんだが、よかったら俺が受けた依頼を3人でやらねぇか?」


その言葉を聞いて俺とクルストさんは顔を見合わせる。


「僕は構いませんが、依頼の内容を聞かせてもらってもいいですか?」


「俺は内容次第っスけど、興味はあるっスねー。」


クルストさんは近くの椅子に座りながらそう答える。


「じゃぁ仕事内容を説明させてもらうが、もう一度言うが報酬と内容は見合ってないぜ?」


椅子に座りながらレギさんがニヤっと笑う。

報酬は今の所そんなに気にしないから、一人で仕事を受けるよりレギさんが一緒なら安心できるし助かるな。

いや、まぁちゃんと一人でやれないといけないんだろうけどね?

いきなりは不安じゃん?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る