第8話 相談を始めました



「それじゃぁ話を聞かせてもらおうかしら?」


デリータさんは組んだ手に顎を載せてこちらを見つめてくる。

真正面から綺麗な人に見られると、なんか焦るよね?

とりあえずごまかすように肩につかまっているシャルを膝の上に乗せ両手でわしゃわしゃする。


『ケ、ケイ様?な、なんでしょうか?』


シャルから動揺したような声が発せられるが、ごめんシャルちょっともふもふを貸してください。

よし、落ち着いた。


「先ほども言いましたが、魔力操作が出来ないんです。ただ魔力はあると言う風には聞いているのですが......どうしても魔力という感覚が分からなくて。」


「なるほど、少し魔力を本当に持っているのか確認させてもらうわね。」


そういうとデリータさんは左手を自分の目の前で振る。

その瞬間小指の指輪が光ったような?


「ん~?あなた自身から魔力が感じられないわね......。」


「そうなんですか?」


「えぇ、誰しも自然と魔力は漏れているものなのだけれど、今のあなたからはそれが見えないわね。」


「魔力が見えない、ですか?」


「えぇ、今私は魔力感知の魔術を使ったのよ。簡単に言うと人や物から発せられる魔力が見えるようになる魔術ね。」


そんなことも出来るのか......。

それにしても魔力が感じられない、か。

でも母さんのお墨付きがあるからな。

契約した時も俺の中にある魔力を使って俺を助けるって言っていたしな......。


「うーん、魔力が感じられないのは何故かしら......?」


感じることが出来ないことに疑問を持っているってことは、魔力はあるって思っているんだよな?


「僕が魔力を持っていることは確定なんですか?」


「ごめんなさい、まだ確定というわけじゃないのだけど。魔力を持たない人って私も見たことが無くて。」


「魔力を持たないってのはそんなに珍しいことなんですか?」


「......500人に1人って言われているわね。」


「結構多いように聞こえますが。」


「......そうね。」


「そういえば、僕が魔力操作が出来ないって分かった時、大体の人が悲しそうな目で僕のことを見ていましたけど、あれは一体?」


「......普通魔力操作って言うのは誰でも本能的に出来るの。誰に教わるでもなくね。でも中には魔力を持たずに生まれてくる子達がいるのよ。当然その子達は魔力操作なんてできないわ。」


それはそうだろう。

尻尾を持たない人間に尻尾を動かせと言ったところで、まず尻尾寄こせよって話になるだけだ。


「そしてこれがあなたの疑問の答えになると思うのだけれど、魔力を持たない子達は短命なのよ。ほとんどの子は赤子の頃に、長く生きても5年が最長と言われているわ。」


......なるほど、それで悲しい感じで俺を見るのか......。


「なるほど、それであんな感じに......。」


門兵さんや受付さんは死の淵に立つ人を見るような感じだったな......。

レギさんは最初こそすごい勢いで謝っていたけど、その後は普通だった。


「とは言え、見たところあなたは成人しているようだし、もし魔力を持たないのならそれは奇跡と言えるわね。私としては魔力が無いと考えるよりも魔力操作が出来ないだけってほうが現実味があるってことね。」


「確かにそう考えるほうが現実的ですね。」


「えぇ、じゃぁ色々試して明らかにしていきましょう。」


「わかりました。宜しくお願いします。」


「では最初にこのランプの魔道具を起動してもらいましょう。」


そういうとデリータさんはランプをテーブルの上に置いた。

カンテラとかいったっけ?

キャンプで使ったことのある手提げランプに似ている。


「どうすればいいんですか?」


「この突起を右に回すと灯りがつくわ。」


見たまんまランプだったようだ。

回してみたところランプがつく様子はない。


「ふむ、やっぱり通常の魔道具を起動させることは無理ね。」


「残念です......この中にある宝石が光るのですか?」


やっぱり無理だよね......神域でも使えなかったし......。

燃える剣とか空飛ぶマントとか期待してたんだけど......。


「そうよ。ちなみにその中にある石は魔晶石って言って魔術式を埋め込むのに必須の石ね。それがあるから誰でも......魔力が使えるなら魔術を行使できるのよ。」


神域にあった魔道具とは少し違うみたいだ。

魔術式って言うのは母さんから聞いたことはない、まぁ4000年だ、色々な技術が生み出されているに決まっている。

っとその前に魔晶石と聞いて思い出したことがある。


「あ、すみません。先に報酬の件をお話ししないといけませんでした。」


「報酬?あぁ、別にいいわよ?私も興味があるもの。」


「うーん、受け取って頂けると僕がすっきりするので受け取ってもらえませんか?」


「そう?なら頂こうかしら。でもこういったことは前例がないから金額はつけにくいわね。」


「でしたら価値が分からなくて申し訳ないんですがこちらでどうでしょう?」


俺は持っていたカバンから手のひらに乗る程度の皮の袋を取り出す。

この中には神域から持ってきた魔晶石が入っている。

と言っても小粒なものばかりだし価値があるかも分からない。

母さんは下級魔法使いくらいの魔力が内包されているって言っていたけど、もちろんそれもどんなものなのかもよく分からない。


「ん?これは......?」


「先ほど話に出てきた魔晶石です。価値の程が分からないものをお礼とするのは失礼とは思いますが、もし見合わないようでしたら別途用意させてもらいます。」


「固いわねー、いいのよ?そんな気を使わなくても......でも魔晶石はありがたいわ内包している魔力量に応じて色々な使い道があるから。」


「それは良かった。じゃぁ一先ずこれだけあるので。」


そういって革袋の中身をテーブルの上に広げた。

この袋の中に入っているのは指先くらいの小さな石で数は20個程度だ。


「あら、すごい量ね?って、これ全部ましょう......。」


そこまでしゃべったデリータさんの動きが止まる。

目を見開いてテーブルに広げた魔晶石を凝視しているようだ。


「デリータさん?どうかしましたか?」


俺が声をかけると、弾かれたようにデリータさんが顔を上げる。

それから空になった革袋に急いで魔晶石を戻していく。

んん?なんだろう?すごく慌てているように見えるけど。


『急にどうしたのでしょう?ひどく慌てているようですが。』


「この魔晶石ってなんか危険物だったのかな?」


『いえ、魔力を蓄えた石でしかないはずですが......。』


シャルにも心当たりはなさそうだ。

そんな俺たちを尻目にデリータさんは店の入り口まで移動してドアを閉めていた。


「デリータさん、なんかこれまずい物でしたか?」


デリータさんの態度を見るにそうとしか思えない。

もしかして危険物を大量に街に持ち込んでしまったのだろうか?


「......まずい、というか......これはあなたのよね......?いえ、ごめんなさい。これは一体どこから?」


「えっと、母から譲ってもらったものです。魔力操作を教えてもらうにあたってとりあえずのお礼にしたらどうかと言われて。」


「......とりあえず......?これを......?」


「普通の魔晶石と聞いていたのですが、違うのですか?」


「魔晶石には違いないのだけれど......。少し確認なんだけど、これ魔晶石をここに来る前にどこかで誰かに見せたりしたかしら......?いえ、見せなかったとしても袋から取り出したりしたかしら?。」


うーん、そういった覚えはないけど、この雰囲気からして御禁制の品とかなのかな......?


「いえ、母からもらって以降この袋から取り出したのは今が初めてです。」


「そう、それは良かったわ。......レギがここにいてくれればもう少し安心できるのだけれど......。」


「すみません、これは良くないものなのでしょうか?」


「あ、ごめんなさい。そういう事ではないわ。魔晶石自体は問題ない物よ。ただあなたの魔晶石は純度が良すぎるのよ。」


純度が良すぎる......?

それは何か問題なのだろうか......?


「ここまで内包している魔力が多いものはめったに見つからないわ。いえ、めったにどころじゃないわね......先史文明遺跡で見た魔晶石でもここまでじゃなかった......。下手したら大国ですら保持しているかどうか......。それを10個以上......。下手に外でこんなもの見せびらかしたら良くて盗難、普通に考えれば攫われて拷問ね。」


血がさっと降りるような感覚がした。

そんな希少価値のあるものでしたか......?

母さんはちょっとした魔道具を作るときに使うものだって言っていたんだが......。

神獣の物差しってことだろうか......。

それにしても危なかった......知らずに冒険者ギルドとかで出したりしてたら命がなかったかもしれない......。


『大丈夫です。ケイ様に害が及ぶようなことには絶対にさせません。』


うん、ありがとう、シャル。

シャルがいなかったらとてもじゃないけど生きていられなかっただろうな......。

シャルを感謝の気持ちを込めて撫でる。


『~~~~~~。がんばります!』


シャルがやる気を出してくれている。

頭が上がらないなぁ。


「怖がらせてしまってごめんなさい。でも気を付けたほうがいいわ。あなたの持っているそれは冗談抜きで殺しが起きてもおかしくない代物だわ。」


......困った。

今持っている魔晶石はこの一袋だけだけど、グルフに預けてる荷物の中に握りこぶし大の魔晶石とかも入ってるんだよね......。

指先で殺してでも奪い取るレベルなら拳大は戦争不可避......?

お腹痛くなってきた......。


「これだとお礼として渡すにはデリータさんに迷惑がかかりそうですね。」


「私は平気だけど、これは少し所じゃないくらい貰いすぎになるわね。」


デリータさんは苦笑している。

もしハンカチを拾っただけで金の延べ棒をお礼に貰ったら引くよね。

しかもそれをくれる人は金の価値を全く知らないんだ。

罪悪感のほうが大きいね......。

でもお礼どうしたらいいんだろう......あ、神域から持ってきた魔道具とかどうかな?

グルフに預けてるから今度持ってきてみよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る