第9話 魔力操作と魔道具



「でも......そうだ。いくつか貰えるかしら?それを使って魔力を感じられるようにできるかもしれないわ。」


「それは是非使ってください。お願いします。」


「ありがとう。」


デリータさんは紙......これは羊皮紙ってやつかな?

それとインクを取り出すと何か魔法陣のようなものを書き始めた。


「これは何を書いているんですか?」


「魔術の起動式よ。これが魔術の本体ね。魔術の効果、対象、範囲、使用する魔力量、他にも色々な条件や動作を書き込んでいくの。今から作るのはそんなに難しい内容じゃないからすぐに出来るわ。」


「魔法と魔術は違うんですね。」


母さんから魔術というのは聞いたことがない、新しい......かどうかは分からないけど魔法とは違う技術のようだ。


「魔法?あれは神話の類ね。先史文明の頃は使い手がいたとされているけれど、ちゃんとした記録がない時代のものだからね......強力な魔術式を行使する人の事を魔法使いって呼んでいたって説が有力ね。実際今の技術でも理解できない魔術式の埋め込まれた魔道具が遺跡から出土するのよ。後、魔法と言えば確か遺跡に刻まれた碑文があったわね......魔術の深淵、世界の理に通ずる、それ即ち魔の法なり......だったかしら?」


「神話......先史文明ですか。」


まぁ4000年以上前の話なんだから神話と呼ばれても仕方ないと思うけど、それにしても先史文明か......母さんが外の世界にいた頃の文明は既に滅んでいるっていうことか......。

母さんが神域に籠るきっかけとなった大きな戦争があったって話を聞いているけど、そこで多くの技術や文化が失われて大戦以前が先史文明と呼ばれることになった......?

俺が歴史に思いを馳せている間もデリータさんの話は続いている。


「魔術っていうのはこうやって確立した技術。魔法はおとぎ話といった所かしら。」


そういうとデリータさんはペンを置いた。


「これが魔術式。このまま使うこともできるのだけれど、発動に必要な魔力を込めると羊皮紙が耐えられずに燃え尽きちゃうのよ。だからこれを魔晶石に転写するの。その為の道具がこれ。」


カウンターに置いてあった顕微鏡のようなものをテーブルに置きながらデリータさんは笑った。

なんだかとても楽しそうだ。

今までの大人の女性といった雰囲気とは違い、無邪気さを感じさせる笑みだ。


「これ自体も魔道具でね。魔術師を名乗るのなら自分で式を作って魔晶石に転写できてこそだと思うのだけど、最近の魔術師を名乗る奴らときたら他人の作った魔術式を起動させるだけの能無しが多いのよ。大体魔術の起動だけなら誰にでも出来るのよ?少し人より魔力量が多くて規模の大きい魔術式を起動できるからって、魔術師を名乗るなんておこがましいを通り過ぎて恥ずかしいわ。」


デリータさんがヒートアップする。

急にエンジンがかかったな。

魔術の事が本当に好きなんだな。

色々魔術について話してくれているが内容はあまり理解できていないけれど、魔術師であることに誇りがあり、同胞を名乗る人たちに憤りを感じているのは分かる。

怒涛の口撃が続くがその間手も流れるように動いていて、どうやら転写の準備は出来たようだ。


「というわけで、これこそが大事なことなのよ。じゃぁ起動するわね。」


次の瞬間顕微鏡のステージ......だっけ?台の部分に置かれた羊皮紙が燃え上がり対物レンズの部分に光が吸い込まれていく。

接眼レンズの部分に置かれた魔晶石に吸い込まれていく感じだろうか......?

いや顕微鏡じゃないんだけど。

羊皮紙が完全に燃え尽きると先ほどまではなかった光が魔晶石の中に生まれていた。


「うん、成功したわ。もう少し待ってもらえるかしら?もう一つ対となるものが必要なのよ。」


そう言うと先ほどと同じように羊皮紙に起動式を書いて顕微鏡にセットする。

先ほどは怒涛の説明で気付かなかったが作業をするデリータさんは本当に楽しそうだ。

鼻歌でも歌いそうな雰囲気でもう一つの魔晶石を作っていく。


「さて、これで完成ね。この魔道具は魔力の吸収と供給をする効果があるわ。片方の魔晶石に魔力を込めると、対になる魔晶石から魔力が流れ込んでくるの。お互いを10cm程に近づけることで起動するようにしてあるわ。これを両手に持てば魔力が出ていく感覚、流れ込んでくる感覚がつかめるかもしれない。」


自分で動かす感覚が分からないなら強引に動かして感覚を掴むってことか。


「なるほど、最初の自分で魔道具の起動が出来ないのも条件を二つの石を近づけることにすることでクリアしているんですね。」


「えぇ、本来は式の起動に必要な魔力を流し込まなければいけないのだけど、その桁外れに魔力を内包している魔晶石ならお互いの魔力をキーに起動させられるように出来たのよ。」


色々なことが出来るんだな、魔術も面白そうだ。

っと今は魔道具を起動してみよう。


「すごいですね。魔力操作が出来るようになったら僕も魔術勉強してみたくなりました。......よし、早速起動してみます。」


両手に握った魔晶石を近づける。

次の瞬間、右手から何かがゆっくり引っ張られて出ていく感覚と左腕から何かが押し込まれていく感覚がする。


「おぉ、何か、体の中を動いてます!」


「成功ね!その動いている何かが魔力よ、感覚をしっかり意識して。感覚が掴めてきたら一回魔道具の使用を止めて、魔道具なしで動かせるか試してみて。」


魔道具をテーブルの上に置き、目を閉じて先ほどまでの感覚を思い出してみる。

......動かせている気がする。


「気のせいじゃなければ動かせている気がします。」


感覚に集中するために閉じていた目を開けるとシャルが膝の上からこちらを見上げていた。


『出来ています!魔力操作できるようになっていますよ!ケイ様!』


シャルが俺の膝の上でちぎれんばかりに尻尾を振っている。

お礼を込めてシャルの頭を撫でる。

シャルは可愛いなぁ......。


「あら、もう出来るようになったの?じゃぁ試してみましょう。もう一度このランプの魔道具を起動してみて。指先に魔力を集めた後押し出しながらつまみを回すの。」


指先に魔力を集める......うん、できている感じがする。

後はつまみを回しながら魔力を押し出す......。

次の瞬間、パンッと何かが弾けるような音がした。


「うわ!?なに!?」


慌てて辺りを見渡すが、間違いなく音は目の前のランプからしていたように思う。

そっとランプに目を戻すと電球の部分にあたる場所に設置されていた魔晶石が砕け散っていた。


「これは、一体?」


「......魔力の過剰供給?魔力を大量に流し混みすぎたのだと思うけど、魔晶石が弾けるところなんて初めてみたわ。」


どうやら力余って壊してしまったようだ。


「す、すみません!」


慌てて謝るがデリータさんはおかしそうに笑っている。


「いえ、いいのよ。とても興味深いわ。魔晶石が耐えきれないほどの魔力なんて聞いたことがない。」


興味深げに砕けた魔晶石を観察していたデリータさんはこちらに視線を向ける。


「少し魔力操作の感覚を反復しておいてもらえるかしら?今のままだと魔晶石をバンバン割ってしまいそうだし出力調整出来るようにならないといけないわね。私は魔力操作の訓練用の魔道具をもってくるわ。」


「わかりました、宜しくお願いします。」


出力調整は必須だな。

触れる傍から魔道具を破壊しまくっていては確実にお尋ね者になってしまう。

さっきは思いっきり指先に集中させる感じでやったからふわっと軽い感じで魔力を押し出す。いや、滲みださせる様な感じにしてみよう。


『先ほどよりも少量の魔力を出せていますよ!さすがですケイ様!』


さすがです言われてしまった。

でも何となく魔力操作はうまくいっている気がする。

もっといろいろやってみよう!

とりあえずシャルを撫でてからだ。



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